居抜きとスケルトン、どちらが得か。比べるべき数字が手元にそろっていないから、判断が止まります。造作譲渡料は、内装工事費とは別に払うお金です。
しかも造作譲渡料は貸主でもない相手に払います。前のテナントか、その仲介者です。だから、対象と金額を書面で確定させないと、あとで揉めます。
判断材料は7つ。初期費用の総額、工期、設備の残存価値、法令、前の店の記憶、退去時の負担、そして間取りの縛り。
この記事でわかること
- 居抜きとスケルトンの総額を6つの費目で積み上げて並べる手順と、そのうちどれが契約前に確定でき、どれが確定できないか
- 工事の期間差を「賃料が発生し始める日」から逆算して金額に直す方法と、フリーレントの有無で何が変わるか
- 残っている設備があと何年使えるかを数えるための目盛りとして、国税庁の法定耐用年数をどう使い、どこから先は使えないか
- 居抜きでも用途変更・消防・保健所の確認が必要になるのはどういうときかと、契約前に誰へ相談するか
- 契約書が「スケルトン返し」か「現状有姿」かで、退去時の負担が誰の造作の分まで及ぶか
- 自分の業態が既存の間取りにどれだけ縛られるかを、図面と内覧の写真から判定する見方
- 居抜きが高くつく5つの条件と、そのうち内覧の場で判定できるものはどれか
まず用語を揃える|居抜き・造作譲渡・現状有姿
物件資料の言葉は、そのままでは信用できません。「居抜き」と書いてあっても、何が残るかは別の話です。信用してはいけない箇所を表にしました。
| 言葉 | 指しているもの | 内覧・申込みの前に自分で確かめること |
|---|---|---|
| スケルトン | 躯体がむき出しで、床・壁・天井の仕上げと設備がない状態。物件の状態を指す | 「スケルトン」と書かれた物件でも、どこまで撤去済みかを写真で確認する。天井の下地、床のモルタル、配管の残りがあるかを一枚ずつ撮る |
| 居抜き | 前のテナントの内装・設備・什器が残っている状態。同じく物件の状態を指す | 「残っている」と「使える」と「もらえる」は別だと考え、残っているものの一覧を書面でもらう |
| 造作譲渡 | 残された造作・設備を前のテナントから買い取る取引。賃貸借契約とは別の売買契約で、相手は貸主ではない | 賃貸借契約書とは別に、譲渡契約書の案文があるかを聞く。ない場合は誰が作るのかを確認する |
| 造作譲渡料 | その買い取りの代金。内装工事費とも賃料・保証金とも別の第三の支出 | 金額の前に、何が対象で何が対象外かの一覧を求める。一覧が出てこない金額は比較の材料にならない |
| 残置物 | 前のテナントが置いていったもののうち、譲渡の対象に含まれないもの | 対象外のものを一覧に明記してもらい、処分費を誰が負担するかを申込みの前に文書で決める |
| 現状有姿 | いまある状態のまま引き渡す、または返還するという意味。貸主が修繕せずに渡すという文脈でも、借主が造作を残して返せるという文脈でも使われる | どちらの意味で使われているかを聞き返す。返還の話であれば、契約書のどの条文にそう書いてあるかを指してもらう |
| セットアップ・原状回復済み | 貸主の側が内装を整えて貸し出す形。造作の所有者は貸主になる | 造作譲渡料は不要でも、賃料に上乗せされていないかを、近隣の同条件の物件の賃料と並べて確認する |
| 資料の表現 | 実際には幅があること | 自分で確かめる方法 |
|---|---|---|
| スケルトン渡し | 天井の下地や床の仕上げが残っている場合と、躯体だけの場合がある。残置物が置かれたままのこともある | 内覧時に天井を見上げて写真を撮り、床を踏んで段差と不陸を確かめる。撮った写真を内装会社に送り、この状態からの見積かを確認する |
| 居抜き・そのまま使えます | 「使える」の判断主体が誰かが書かれていない。前の業態で使えたという意味にすぎないことがある | 自分の業態のメニューまたはサービス内容を紙に書き、その一つひとつが既存設備で提供できるかを内装会社と一緒に照合する |
| 厨房一式付き | リース契約が残っている機器が混ざっていることがある。所有権が前のテナントにない機器は譲渡できない | 機器ごとに銘板の写真を撮り、リース契約の有無を書面で確認する。リース中の機器は一覧から外して総額を計算し直す |
| 造作譲渡料 応相談 | 金額が決まっていないのではなく、譲渡対象の範囲が決まっていないことがある | 「対象範囲が決まったら金額を出してください」と伝え、範囲の一覧を先に作ってもらう |
| 内装工事は指定業者 | スケルトンでも居抜きでも、工事会社を選べない場合がある。相見積もりが取れないと金額の妥当性を検証できない | 申込みの前に、指定業者の有無と、どの工事区分までが指定かを不動産会社に文書で確認する |
公的統計で確かめられること、確かめられないこと
居抜きの割合や造作譲渡の相場を示す統計はありません。言えないことは言えないと書き、自分で埋める方法を示しました。
| 知りたいこと | 統計で確認できたか | 自分で埋める方法 |
|---|---|---|
| 開業費用の全体像 | 確認できた。平均975万円・中央値600万円(日本政策金融公庫総合研究所、2025年度調査、回収2,165社) | 自分の総額を積み上げて、この分布のどこに入るかを見る。中央値を大きく超えるなら、超える理由を一行で説明できるようにする |
| 居抜きとスケルトンの費用差 | 確認できなかった。開業費用の調査に物件形態の区分がない | 2件それぞれについて6費目を積み上げ、自分の数字で差を出す。判断材料1と試算の章の表をそのまま使う |
| 造作譲渡料の相場 | 確認できなかった。公表された相場統計が見つからない | その造作を使わずに作った場合の見積を取り、譲渡料を足した総額と比べる。金額ではなく総額で判断する |
| 工期の平均 | 確認できなかった。物件形態別の工期を集計した公的統計が見つからない | 候補物件の図面と現況写真を内装会社2社に渡し、着工から引き渡しまでの週数を書面でもらう |
| 改修工事の市場規模 | 確認できた。令和7年度計の非住宅は11兆5,071億円、うち飲食店1,824億円・物販店舗9,262億円(国土交通省) | 自分の業態の用途区分が増えているか減っているかを見て、工事会社の繁忙期を推測し、見積の依頼時期を早める |
| 用途変更が必要になる頻度 | 部分的に確認できた。令和7年度第4四半期の非住宅で目的に用途変更を挙げた受注が9,569件(複数回答)。割合は算出できない | 自分の計画について、契約前に特定行政庁または指定確認検査機関へ相談する。件数で判断しない |
判断材料1〜2|初期費用の総額と、工期
比べるのは工事費だけではありません。内装費+造作譲渡料+保証金の合計です。造作譲渡の一覧に書いてもらう項目を表にしました。
工期の差も金額です。賃料が発生し始める日から逆算すれば、居抜きの短さがいくらの価値なのかが出ます。
| 費目 | 誰に払うか・どう決まるか | 申込みの前に自分ですること |
|---|---|---|
| 内装工事費 | 内装会社に払う。物件の現況と自分の計画の差分で決まるため、同じ坪数でも物件ごとに変わる | 2件それぞれの現況写真と図面を、同じ内装会社2社に渡し、同じ条件で見積を出してもらう。見積の前提条件を書面で受け取る |
| 造作譲渡料 | 前のテナントに払う。賃貸借契約とは別の売買契約。金額に決まった算定基準はない | 譲渡対象の一覧(型番・製造年・数量)を先に出してもらう。一覧のない金額は保留にする |
| 残置物の処分費 | 処分を請け負う業者に払う。譲渡対象外のものが多いほど増える | 対象外のものを写真で数え、処分費の負担者を申込書または覚書に明記してもらう |
| 保証金・敷金 | 貸主に預ける。退去時に返るが、償却の定めがあればその分は戻らない | 金額と、償却(敷引き)の有無・割合を確認する。戻らない部分だけを別行に分けて書く |
| 礼金・仲介手数料 | 貸主および仲介会社に払う。戻らない | 2件で条件が違うことがあるため、賃料の何か月分かを数字でそろえて比べる |
| 工事期間中の賃料・共益費 | 貸主に払う。賃料の発生日と引き渡し日の間隔で決まる | 賃料の発生日がいつからかを契約書の条文で確認し、工期の週数を掛けて金額に直す(判断材料2) |
| 什器・備品・開業前の運転資金 | 各仕入先に払う。内装工事費に含まれないことが多い | 見積書に含まれる範囲と含まれない範囲を、内装会社に一覧で示してもらう |
| 退去時の原状回復費 | 退去時に工事会社へ払う。範囲は契約書の原状回復条項で今日決まる | 返還時の状態を定めた条文を、申込みの前に読ませてもらう(判断材料6) |
| 確認する項目 | 確認しないとどうなるか | 自分から出す依頼の言い方 |
|---|---|---|
| 対象物の一覧と数量 | 入居後に「それは含まれていない」と言われ、買い直しか撤去になる | 「譲渡いただくものを、数量まで入れた一覧でいただけますか」 |
| 機器の型番と製造年 | 残存年数が読めず、開業直後の故障リスクを見積もれない | 「機器は銘板の写真か、型番と製造年の一覧をお願いできますか」 |
| 対象外のもの(残置物) | 処分費が自分の負担として後から発生する | 「一覧に載っていないもので、室内に残るものはありますか。処分はどちらの負担になりますか」 |
| リース契約の有無 | 所有権が前のテナントにないため譲渡できず、入居後に引き上げられる | 「リース契約が残っている機器はありますか。あれば型番を教えてください」 |
| 貸主の承諾 | 造作の引き継ぎに承諾が要る契約で、承諾が下りずに話が白紙になる | 「造作をそのまま引き継ぐことについて、貸主さんの承諾は取れていますか」 |
| 賃貸借が成立しなかった場合の扱い | 先に払った手付が戻らない、または宙に浮く | 「賃貸借契約が成立しなかった場合、譲渡代金の扱いはどうなりますか」 |
| 引き渡し時の状態の記録 | 退去時に「入居時の状態」を証明できず、貸主側の主張が通りやすくなる | 「引き渡しの立ち会いで、室内全体の写真を撮らせてください」 |
| 確認する条件 | 金額にどう効くか | 不動産会社に出す質問文 |
|---|---|---|
| 賃料の発生日 | 契約日起算か引き渡し日起算かで、工事前の空白期間の賃料負担が変わる | 「賃料はいつから発生しますか。契約書の第何条に書かれていますか」 |
| フリーレントの有無と期間 | 免除期間が工期を覆えば、工期の差が総額に出にくくなる | 「フリーレントはありますか。何か月分で、共益費も対象ですか」 |
| フリーレントに付く条件 | 短期解約時に免除分を返還する特約が付いていることがある | 「フリーレントの分を後から返す条件は付いていますか」 |
| 工事可能な曜日と時間帯 | 夜間・休日に工事できない建物では、同じ工事量でも工期が延びる | 「工事ができる曜日と時間帯を教えてください。搬入経路の使用制限もありますか」 |
| 工事の承諾に要する日数 | 図面の提出から承諾まで時間がかかる建物では、着工日が後ろにずれる | 「内装工事の図面を提出してから承諾までは、通常どのくらいかかりますか」 |
| 指定業者の有無 | 指定業者しか使えない場合、相見積もりが取れず工期も金額も比べられない | 「指定の工事会社はありますか。どの工事区分までが指定になりますか」 |
判断材料3〜4|設備の残存価値と、法令上の制約
残っている設備があと何年もつか。国税庁の耐用年数表が目安になります。内覧時に、設置年を銘板で確かめてください。
「居抜きだから安心」とは限りません。業種が変われば、保健所も消防も改めて確認が必要です。
| 区分・細目(表の表記) | 法定耐用年数 | 内覧時に自分で確認すること |
|---|---|---|
| 建物附属設備/電気設備(照明設備を含む)のうちその他のもの | 15年 | 分電盤の扉を開けて銘板の製造年を撮る。ブレーカーの空き数も一緒に写す |
| 建物附属設備/電気設備のうち蓄電池電源設備 | 6年 | 非常用照明や誘導灯の内蔵電池が対象。点検記録が残っているかを管理会社に聞く |
| 建物附属設備/給排水・衛生設備、ガス設備 | 15年 | 給湯器とガスメーターの銘板を撮る。排水口の臭いと流れを実際に水を流して確かめる |
| 建物附属設備/店用簡易装備 | 3年 | 陳列棚や簡易な間仕切りなど、取り外しの利く装備がここに入る。傷みが表に出やすいので写真で残す |
| 建物附属設備/アーケード・日よけ設備(主として金属製のもの) | 15年 | テントや庇の骨組みの錆と、固定部のぐらつきを下から確認する |
| 建物附属設備/アーケード・日よけ設備(その他のもの) | 8年 | 幕面の変色と破れを撮る。屋外広告物の許可が要る場合があるため管理会社に確認する |
| 器具・備品/冷房用・暖房用機器 | 6年 | 室外機の銘板の製造年を撮り、実際に運転させて風量と異音を確かめる |
| 器具・備品/電気冷蔵庫、電気洗濯機その他これらに類する電気・ガス機器 | 6年 | 冷蔵庫・冷凍庫・製氷機の製造年を控える。庫内温度が下がるまでの時間を測る |
| 器具・備品/看板、ネオンサイン、気球 | 3年 | 前の店名が入った看板は使えないため、枠だけ流用できるかを内装会社に見てもらう |
| 器具・備品/じゅうたんその他の床用敷物(小売業用・接客業用・放送用・レコード吹込用・劇場用のもの) | 3年 | 汚れと臭いは写真に写らないため、現地で必ず自分の鼻で確かめる |
| 機械・装置/飲食店業用設備 | 8年 | 厨房機器一式の年齢の中央値を出す。8年を超えているものが半分以上なら、更新の予算を別に積む |
| 機械・装置/洗濯業・理容業・美容業・浴場業用設備 | 13年 | シャンプー台の給湯と排水、椅子の昇降を実際に動かして確認する |
| 機械・装置/その他の小売業用設備(主として金属製のもの/その他のもの) | 17年/8年 | 什器の構造が金属か木部かを見て、どちらの年数で考えるかを決める |
| 法令・制度 | 居抜きでも安心できない理由 | 申込みの前に自分ですること |
|---|---|---|
| 建築基準法(用途変更) | 前の用途と自分の用途が違えば、居抜きでも用途は変わる。床面積や類似の用途の範囲で要否が決まる | 平面計画と登記・図面を持って、特定行政庁または指定確認検査機関に相談する。詳細は用途変更の確認申請が必要になる7つの場面|200㎡超・検査済証・既存不適格で確認する |
| 消防法(消防用設備等) | 間仕切りの追加や収容人員の増加で、必要な設備の種類と数が変わることがある | 所轄の消防本部の予防担当へ、計画中の平面図を持って事前相談に行く。相談日と担当者名を記録する |
| 食品衛生法(営業許可の施設基準) | 前のテナントの許可は引き継がれない。提供する品目が変われば必要な設備も変わる | 保健所に、提供予定の品目と厨房の平面図を持って相談する。手洗いとシンクの数を図面上で数える |
| 建築基準法(内装制限) | 既存の仕上げ材が現行の基準に適合しているとは限らず、業態が変われば制限のかかり方も変わる | 残す予定の仕上げ材について、防火材料の認定番号が分かる資料が残っているかを聞く |
| 屋外広告物の条例 | 前の店の看板がそのまま出ていても、許可の内容が自分の看板に及ぶわけではない | 看板の位置・寸法・面積を控え、自治体の屋外広告物の窓口と建物の管理規則の両方で確認する |
| 検査済証の有無 | 検査済証がない建物では、手続きの前に現況の調査が必要になり、時間と費用がかかる | 申込みの前に「検査済証はありますか」と一言聞く。ないと言われたら、その場で判断せず専門家に相談する |
判断材料5〜7|前の店の記憶、退去時、間取りの縛り
前の店が近所で知られていると、新しい店として認識されるまでに時間がかかります。確かめる方法もあります。
退去時の負担は、入居時の状態と契約書の返還条件の組み合わせで決まります。居抜きで入って「スケルトン返し」だと、負担は最大になります。
そして間取りです。既存の壁を残すほど安いが、そのぶん営業は縛られます。
| 起きること | なぜ起きるか | 契約前に自分で確かめる方法 |
|---|---|---|
| 前の店名で呼ばれ続ける | 外観の意匠と店の位置が記憶と結びついている。看板だけ替えても結びつきは切れない | 物件の前に10分立ち、通行する方が建物をどう見ているかを観察する。振り返る人の数を数える |
| 地図アプリに前の店の情報が残る | 口コミや写真が過去の店のまま蓄積されている | その住所を地図アプリで検索し、掲載されている店名・写真・口コミの件数を確認する |
| 業態を読み違えられる | ファサードの形(開口の大きさ、庇の形、扉の種類)が前の業態のまま残っている | 正面の写真を撮り、店名を隠して家族や友人に見せ、何の店に見えるかを聞く |
| 閉店の理由が自分にもかかる | 立地・商圏・建物の条件が原因だった場合、借主が替わっても条件は変わらない | 「前のお店が退去された理由を伺えますか」と不動産会社に聞く。答えを記録する |
| 同じ場所で短期間に入れ替わっている | その区画に構造的な問題(人通り、視認性、階数、入口の分かりにくさ)がある可能性 | 過去に何のお店が入っていたかを不動産会社に聞き、入れ替わりの回数と間隔を確認する |
| 外観を直す費用が後から乗る | ファサードの変更は工事範囲が屋外に及び、建物の管理規則や条例もかかる | ファサードを変える場合の費用を、内装工事の見積とは別行で出してもらう |
| 入居時の状態と返還条件 | 退去時に撤去する範囲 | 契約前に自分ですること |
|---|---|---|
| 居抜きで入居/現状有姿での返還可 | 自分が加えた部分のみ、または撤去なしで返せる可能性がある。次のテナントへ造作を譲る道も残る | 「現状有姿」が返還の文脈で使われていることを条文で確認し、その条文番号を控える |
| 居抜きで入居/賃貸借開始時の状態に復して | 入居時の状態、すなわち前のテナントの造作が残った状態まで戻す。自分が加えた分の撤去が中心 | 引き渡しの立ち会いで室内全体を写真と図面で記録する。記録がなければ「開始時の状態」を証明できない |
| 居抜きで入居/スケルトン状態に復して | 前のテナントが残した造作まで含めて撤去し、躯体に戻す。もっとも負担が重くなる組み合わせ | この条件なら、撤去範囲を図面上で塗り分けてもらい、概算の解体費を契約前に見積もる |
| スケルトンで入居/スケルトン状態に復して | 自分が作ったものだけを撤去する。範囲が自分の工事と一致するため、金額の見通しが立てやすい | 入居工事の段階で、外すことを前提にした納まりを選べないかを内装会社に相談する |
| いずれも/工事会社の指定あり | 撤去の範囲が同じでも、相見積もりが取れず金額の検証ができない | 原状回復工事の施工者指定があるかを条文で確認し、あれば概算を先に取っておく |
| いずれも/明け渡し期限に賃料がかかる | 工事が期限内に終わらないと、明け渡しが済むまで賃料相当額が発生する | 契約終了日から逆算して、解約通知・見積・着工・完了・立ち会いの日付を先に紙に書く |
| 間取りの要素 | 変えにくさと、変えた場合に効くもの | 図面と内覧の写真で確かめる方法 |
|---|---|---|
| 排水の位置と勾配 | もっとも変えにくい。床下の高さが足りなければ動かせず、厨房と手洗いの位置がそこで固定される | 既存の排水口の位置を平面図に落とし、自分の計画のシンクの位置と重ねる。ずれの距離をメートルで測る |
| 排気ダクトのルート | 変えにくい。屋外への出口が確保できなければ、火を使う位置が固定される | 既存のダクトが建物のどこを通って外に出ているかを、天井裏と外壁の両方から写真に撮る |
| 電気の主幹容量と動力の有無 | 増やせる場合もあるが、建物全体の容量に上限がある。上限に達していると業態そのものが成立しない | 分電盤の主幹の数字を撮り、自分の計画の機器の消費電力を合計して比べる |
| 柱・梁・段差の位置 | 変えられない。席の並びと通路幅がここで決まる | 柱の位置を平面図に落とし、自分の席の配置を重ねる。通路幅が確保できるかをミリメートルで確認する |
| トイレの数と位置 | 動かすと給排水の工事が伴い、費用が跳ねる。客席との距離が使い勝手を左右する | 客席からトイレまでの経路を線で引き、厨房や通路を横切らないかを確認する |
| 入口とレジ・受付の位置 | 比較的変えやすいが、入口は建物側の制約を受ける | 入口から入って最初に目に入るものを、内覧時にその位置に立って写真に撮る |
| バックヤード・更衣・在庫の場所 | 変えやすいが、面積を取れば客席が減る。前の業態と自分の業態で必要量が違う | いま自分が持っている在庫と備品の量を実際に測り、必要な棚の長さをメートルで出す |
居抜きが高くつく5つの条件
業態が違う、設備が古い、造作譲渡料が高い、法令の確認が要る、そして退去時にスケルトン返し。内覧で判定できるものと、書面で判定するものに分けました。
| 条件 | 判定に使うもの | 当てはまったときに自分ですること |
|---|---|---|
| 1|業態が違う | 内覧時の写真と平面図。排水・排気・電気容量・柱の位置の4項目 | 使えない造作の撤去費と、作り直しの費用を見積に出してもらい、造作譲渡料に足す |
| 2|設備が古い | 機器の銘板(製造年)と、前のテナントの営業年数 | 残り2年を切る機器を抜き出し、更新費用を別行で積む。開業後の修繕積立を月額で決める |
| 3|残置物が多い | 譲渡対象の一覧と、室内の実際の状態の差 | 処分費の負担者を申込書または覚書に明記してもらう。口頭の合意で進めない |
| 4|前の店の印象が強い | ファサードの写真と、地図アプリに残る情報 | 外観を変える場合の費用を別行で出してもらい、居抜きの総額に足して比べる |
| 5|スケルトン返しの契約 | 賃貸借契約書の原状回復条項の条文 | 撤去範囲を図面に塗り分けてもらい、概算の解体費を契約期間の月数で割って月額に直す |
居抜きが高くつく5つの条件
- 業態が違う。 前が居酒屋で自分がカフェ、前が物販店で自分が飲食店といったケースです。 厨房の位置、席のレイアウト、排気の能力が自分の業態に合わず、結局作り直すことになります。 使えるのは箱と一部の配管だけ、という結果になりがちです。 さらに、判断材料4のとおり用途が変われば法令の確認が必要になり、時間も費用も上乗せされます。 内覧の段階で、判断材料7の表の上から4項目を照合すれば判定できます。
- 設備が古い。 空調、給湯器、冷蔵・冷凍機器、グリストラップには年齢があります。 判断材料3の表で確認したとおり、器具・備品の冷房用・暖房用機器の法定耐用年数は6年、 機械・装置の飲食店業用設備は8年です(国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」)。 前のテナントが何年営業していたかを聞き、そこから残り年数を数えてください。 残りが2年を切る機器の更新費用を造作譲渡料に足したうえで、スケルトンの見積と比べるのが正しい比較です。
- 残置物が多い。 譲渡の対象に含まれないものが室内に大量に残っていると、処分費が発生します。 誰が負担するかを契約前に文書で決めておかないと、そのまま自分の負担になります。 判定は簡単で、内覧時に室内を一周し、譲渡対象の一覧に載っていないものを写真に撮って数えるだけです。 数えた結果が多ければ、その場で「処分はどちらの負担になりますか」と聞いてください。
- 前の店の印象が強い。 判断材料5で扱ったとおり、看板を替えても「あそこは前の◯◯だった店」と認識され続けることがあります。 ファサードや外観に手を入れる必要が出れば、その費用が加わります。 しかもファサードの工事は屋外に及ぶため、建物の管理規則や屋外広告物の条例がかかり、内装だけの工事より段取りが増えます。 物件の前に10分立ち、通行する方の視線を観察すれば、内覧の日に判定できます。
- 契約がスケルトン返しになっている。 判断材料6のとおり、退去時に前のテナント分まで撤去することになります。 契約期間が長いほど先の話になりますが、いずれ必ず発生する費用です。 判定は、申込みの前に返還条件の条文を読ませてもらうだけで済みます。 「スケルトン状態に復して返還する」と書かれていたら、撤去範囲を図面上で塗り分けてもらい、概算の解体費を出しておいてください。
申込書に記入する前にやること
業態と必要な設備を紙に書く。提供する商品とサービスを並べ、それぞれに必要な設備を書き出す。その紙を持って内覧すれば、残っているものが使えるか判定できます。
申込書に記入する前にやる手順
- 業態と必要な設備を紙に書く。提供する商品またはサービスを列挙し、それぞれに必要な設備・容量・面積を書き出します。ここができていないと、以降のすべてが判定できません。
- 候補2件の資料と写真を集める。平面図、現況写真、物件概要書、そして居抜きなら譲渡対象の一覧を、書面でそろえます。
- 内装会社2社に、同じ資料を渡して見積を依頼する。2件それぞれについて、工事費と着工から引き渡しまでの週数を出してもらいます。前提条件を書面でもらってください。
- 内覧に内装会社に同行してもらう。排水・排気・電気容量・柱の位置の4項目を、その場で判定してもらいます。機器の銘板は自分でも撮っておきます。
- 法令の事前相談に行く。平面計画を持って、消防本部・保健所・特定行政庁または指定確認検査機関に相談します。相談日と担当者名を記録します。
- 賃貸借契約書の案文を読ませてもらう。賃料の発生日、原状回復の返還条件、工事の承諾と指定業者、償却の有無の4か所を、条文番号ごと控えます。
- この記事の試算表を2件分埋める。入居時と退去時を分けて合計し、戻る分と戻らない分も分けます。
- 差額を1日あたりのお客様の人数に直す。粗利率と客単価を自分の数字で置き換え、5年で取り戻せるかを判断します。
- 判断して、申込書に記入する。ここまで来て初めて、居抜きかスケルトンかは「決められる問い」になります。
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よくある質問
物件を比較している段階でよく寄せられる質問を4つ取り上げます。 いずれも、この記事の判断材料のどれかに対応しています。 回答には、確認できた条文と統計だけを使い、確認できなかった数値は書いていません。
数値が出てこない箇所は、その理由も添えてあります。 自分の状況に当てはめて読み替えながら、該当する判断材料の章に戻っていただくのが、いちばん確実です。
居抜き物件のほうが必ず安く済みますか?
必ず安くなるとは限りません。 そして「何%安い」という数値は、一次情報で確認できなかったため、この記事では示していません。
日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査(2025年12月5日発表、調査時点2025年8月、開業後1年以内の企業8,517社を対象、回収2,165社、回収率25.4%)は開業費用の平均値975万円・中央値600万円という分布を示していますが、 この調査に物件が居抜きかスケルトンかという区分はなく、どちらが安いかを統計から答えることはできません。
判断できるのは、自分の2件について総額を積み上げたときだけです。 積み上げる費目は、内装工事費、造作譲渡料、残置物の処分費、保証金・礼金・仲介手数料、工事期間中の賃料、そして退去時の原状回復費の6つです。
居抜きは内装工事費が下がる代わりに造作譲渡料と残置物の処分費が加わり、さらに契約がスケルトン返しであれば、自分が作っていない造作の撤去費まで退去時に負担します。 この6費目を両方の物件について書き出し、合計を比べてください。
造作譲渡料として150万円と言われました。妥当かどうかはどう判断すればよいですか?
造作譲渡料に公表された相場統計は見つかりませんでした。 したがって「150万円は高い・安い」を相場と照らして判断することはできません。 判断できるのは、次の3つを金額に置き換えたときです。
第一に、その造作を使わずスケルトンから作った場合に何円かかるかを内装会社に見積もってもらい、150万円を足した居抜きの総額と比べること。 第二に、譲渡対象の一覧を出してもらい、型番と製造年を控えて、それぞれがあと何年使える見込みかを確認すること。
国税庁の主な減価償却資産の耐用年数表では、建物附属設備の電気設備(照明設備を含む、蓄電池電源設備以外)と給排水・衛生設備、ガス設備がいずれも15年、店用簡易装備が3年、器具・備品の冷房用・暖房用機器が6年とされています。
これは税務上の年数で物理的な寿命ではありませんが、残りの年数を数えるための共通の目盛りにはなります。 第三に、リース契約が残っている機器は所有権が前のテナントにないため譲渡の対象にならないことを確認すること。 この3つを確かめずに金額だけを値切っても、判断材料は増えません。
居抜きで入居した場合、退去するときも居抜きのまま返せますか?
契約書の原状回復条項によります。
民法第621条は、賃借人は賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負うと定めていますが、この規定は当事者の合意で変えられる性質のものと解されています。
事業用の店舗では、契約書に「スケルトン状態に復して返還する」と書かれていることが珍しくありません。 その場合、居抜きで入居していても、前のテナントが残した造作まで含めて撤去し、躯体の状態に戻すことになります。
逆に「現状有姿での返還を認める」「賃貸借開始時の状態に復して」と書かれていれば、入居時が居抜きだった以上、その状態で返せる可能性があります。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は退去時の負担の考え方を示していますが、同省の説明ページに利用にあたっての前提として「このガイドラインは、賃料が市場家賃程度の民間賃貸住宅を想定しています」と明記されており、事業用の店舗はこの想定に含まれていません。
頼れるのは自分が署名する契約書です。 申込みの前に、返還時の状態を定めた条文をそのまま読ませてもらってください。
居抜きなら前の店と同じ用途なので、用途変更や消防の手続きは不要ですよね?
そう言い切ることはできません。 居抜きは「前のテナントの造作が残っている」という物件の状態を指す言葉であって、法令に適合していることの証明ではありません。
建築基準法第87条第1項は、建築物の用途を変更して第6条第1項第1号の特殊建築物のいずれかとする場合(当該用途の変更が政令で指定する類似の用途相互間におけるものである場合を除く)に、確認の申請などの規定を準用すると定めています。 前が物販店で自分が飲食店なら、居抜きであっても用途は変わります。
また、間仕切りを増やす、席数を増やす、厨房の位置を動かすといった変更で、消防用設備の設置基準や保健所の施設基準に触れることがあります。 前のテナントが営業できていたという事実は、その時点でその用途・その配置について問題がなかったことを示すにすぎず、あなたの計画にそのまま引き継がれるものではありません。
契約前に、自分の平面計画を持って所轄の消防本部と保健所、そして特定行政庁または指定確認検査機関に相談してください。
まとめ|居抜きとスケルトンを比べる7つの判断材料
総額を並べれば、答えは出ます。居抜きが安いとは限らず、スケルトンが高いとも限りません。試算例を置いたので、自分の数字に置き換えてください。
決め手は、残っているものが自分の営業に合っているかどうかです。合っていなければ、残っていること自体が負担になります。
| 費目 | 物件A(居抜き) | 物件B(スケルトン) | 自分の物件で入れる数字 |
|---|---|---|---|
| 内装工事費 | 350万円 | 750万円 | 内装会社2社の見積の平均 |
| 造作譲渡料 | 150万円 | 0円 | 譲渡対象の一覧が出たあとの提示額 |
| 残置物の処分費 | 20万円 | 0円 | 対象外のものの数と大きさから見積 |
| 保証金(賃料6か月分) | 180万円 | 180万円 | 契約書の金額。償却の有無も控える |
| 礼金・仲介手数料(各1か月分) | 60万円 | 60万円 | 契約書と重要事項説明書の金額 |
| 工事期間中の賃料(Aは1.5か月・Bは2.5か月) | 45万円 | 75万円 | 賃料の発生日と工期の週数から計算 |
| 入居時の小計 | 805万円 | 1,065万円 | — |
| 退去時の原状回復費(いずれもスケルトン返しの契約と仮定) | 180万円 | 150万円 | 撤去範囲を塗り分けた図面から概算 |
| 入居時+退去時の合計 | 985万円 | 1,215万円 | — |
| うち戻ってくる分(保証金・償却なしと仮定) | 180万円 | 180万円 | 償却がある場合はその分を差し引く |
| 戻らない支出の合計 | 805万円 | 1,035万円 | — |
| 判断材料 | この記事の結論 | 申込みの前に自分ですること |
|---|---|---|
| 1|初期費用の総額 | 費目が違うものを一つの数字で比べない。内装工事費・造作譲渡料・残置物の処分費・一時金・工事期間中の賃料・退去時の原状回復費の6つで積み上げる | 6費目の表を2件分作る。造作譲渡料は金額ではなく、代わりに作った場合の見積と比べる |
| 2|工期と賃料の逆算 | 工期の差は賃料と逸失粗利の2つの経路で総額に効く。賃料の発生日とフリーレントの有無で金額が変わる | 賃料の発生日を条文で確認し、工期の週数を掛ける。1か月遅れたときの損失を1日あたりの人数に直す |
| 3|設備の残存価値 | 居抜きの安さは設備の残り年数を前借りしている。国税庁の法定耐用年数は税務上の期間だが、残り年数を数える目盛りにはなる | 製造年を控え、法定耐用年数から経過年数を引く。残り2年未満の機器の更新費用を造作譲渡料に足す |
| 4|法令上の制約 | 居抜きは法令適合の証明ではない。業態が変われば用途が変わり、レイアウトを変えれば消防と保健所の条件が変わる | 平面計画を持って、消防本部・保健所・特定行政庁または指定確認検査機関に契約前に相談する |
| 5|前の店の記憶と印象 | 看板を替えても記憶は残る。前のテナントが閉じた理由が立地なら、同じ条件が自分にもかかる | 物件の前に10分立って通行の様子を観察し、地図アプリに残る情報を確認し、退去の理由を聞く |
| 6|退去時の原状回復の範囲 | 契約書が「スケルトン返し」か「現状有姿」かで、自分が作っていない造作の撤去費まで負うかが決まる | 返還条件の条文を申込みの前に読む。引き渡しの日に室内の状態を写真と図面で記録する |
| 7|既存の間取りへの縛られ方 | 排水・排気・電気容量・柱の4つは変えにくい。この4つが合う居抜きは、それだけで大きな価値がある | 自分の店の一日の動きを平面図に線で書き込み、交差と往復の回数を数える |