閉店で損が膨らむのは、決断が遅いからではありません。順序を間違えたときです。同じ店を閉めても、順序次第で持ち出しは大きく変わります。

分からないことは、たいてい3つに集約されます。解約予告期間と違約金、原状回復の費用、そして手続き。この3つは、いずれも契約書と法令に書いてあります。

いちばん効くのは契約書を今日出すことです。解約予告が6か月前なら、告げる日が1か月遅れるだけで賃料1か月分が増えます。

この記事でわかること

  • 閉店を決めたその日に、契約書のどの条項を、どの順番で読むか。解約予告期間・予告に代わる金銭・違約金の3点をどう確認するか
  • 閉店日と明け渡し日を分けて決める方法と、その間に何か月分の賃料が発生するかを自分で計算する手順
  • 原状回復の範囲を着工前に貸主と書面で合意するための質問文と、記録に残しておく資料の一覧
  • 造作・什器・厨房機器を売るか捨てるかで分ける基準と、事業系一般廃棄物と産業廃棄物の区分・マニフェストの扱い
  • リース・レンタル・サブスク・通信・決済など止め忘れると課金が続く契約の洗い出し方
  • 従業員への通知(労働基準法第20条の30日前予告)、行政の廃業手続き(所得税法第229条、会社法第926条ほか)を期限つきの一覧で確認できる
告知を先にしてから契約書を読んだ場合は472万円、契約書を先に読んで逆算した場合は357万円、リース満了を待って明け渡し日を設定した場合は317万円、造作譲渡が成立して原状回復が不要になった場合は157万円と譲渡代金。
同じ店を閉めるのに、順序だけで300万円以上変わる|分かれ目は契約書をいつ読むかです。告知を先にすると、解約予告期間もリースの残りも動かせなくなります。

閉店で損が膨らむのは「順序を間違えたとき」

費用のうち、順序で金額が変わるものと変わらないものがあります。変わるものから先に手を付けるのが、いちばん効きます。

閉店で発生する費用と、順序で金額が変わるかどうか
費目 順序で金額が変わるか いま自分で確かめること
原状回復工事の費用 あまり変わらない。ただし範囲を書面で確定させたかどうかで、追加請求の有無は変わる 契約書の原状回復条項を読み、「スケルトン」「入居時の状態」など範囲を示す語がどう書かれているかを書き写す
営業をやめてから明け渡すまでの賃料・共益費 大きく変わる。告知を先にすると、売上のない期間がそのまま伸びる 賃料+共益費の月額に、解約予告期間の月数を掛けた金額を紙に書く。それが最低ラインの固定費
中途解約の違約金・解約金 変わることがある。定期建物賃貸借か普通借家か、残存期間が何か月かで扱いが変わる 契約の種類(普通借家か定期借家か)と契約満了日を確認し、違約金条項の計算式を読む
リース・レンタル・サブスクの残債と解約金 大きく変わる。洗い出しが遅れるほど、使っていない期間の料金が積み上がる 通帳とクレジットカードの明細を12か月分さかのぼり、毎月引き落とされている契約をすべて書き出す
什器・厨房機器の処分費 変わる。売る・引き継ぐ・捨てるの仕分けを早くするほど、買い手を探す時間が取れる 設備の一覧を作り、購入時期・型番・現況を1行ずつ書く。写真もこの段階で撮っておく
従業員の人件費・解雇予告手当 変わる。予告が遅いほど手当の負担が増え、早期の離職で最後の売上も落ちる 閉店予定日の30日前がいつになるかをカレンダーに書き込み、その日より前に伝えられるかを検討する

休廃業の規模を、調査で確かめる

公的調査と民間調査に、休廃業と解散の件数が出ています。閉店は珍しいことではありません。数字を、自分の判断材料に翻訳する形で表にしました。

調査の数字を、自分の閉店の判断材料に翻訳する
調査で分かること 自分の判断にどう効くか 自店で確かめる方法
2024年の休廃業・解散は約7万件(中小企業白書) 事業をやめる判断は毎年数万件規模で行われている。特別な失敗ではなく、経営判断の一つとして扱われている 同業の廃業がどれくらい起きているかを、地元の組合や商工会議所の事務局に電話で聞いてみる
休廃業・解散企業に占める小規模事業者は9割超(同) 小規模であるほど、続けるか閉めるかの判断が経営者ひとりに集中する。相談相手を意識して作る必要がある 顧問税理士、取引金融機関、商工会議所のうち、どこにいつ相談するかを紙に書き出して日付を入れる
直前期が黒字の割合は51.1%(白書)/52.8%(東京商工リサーチ)/49.1%(帝国データバンク) 赤字だから閉めるとは限らない。黒字でも、将来の見通し・体力・後継者の不在で閉める判断は成り立つ 直近12か月の月次損益を並べ、黒字の月と赤字の月を数える。判断の材料を「感覚」から「回数」に変える
代表者の平均年齢は74.9歳(東京商工リサーチ)/71.5歳(帝国データバンク) 多くは高齢を理由とする退出。若い世代の閉店は件数として少なく、参考になる事例が身近にない可能性が高い 年齢を理由としない閉店であることを前提に、事業譲渡・造作譲渡・移転という選択肢も並べて比較する
愛知県の休廃業・解散は3,946件で全国4位(帝国データバンク) 名古屋を含む愛知県は件数の多い地域。原状回復や什器買取を扱う業者の選択肢は比較的多い 原状回復の見積もりを1社ではなく3社に依頼する前提で、依頼先の候補を先にリストにしておく

段取り1〜3|契約・日程・原状回復の範囲

契約書で読むのは4か所です。解約予告期間、予告に代わる金銭、違約金、原状回復の範囲。ここを読めば、退去にいくらかかるかの骨格が出ます。

明け渡し日から逆算して、4つの日付を決めます。そして原状回復の範囲は、着工前に書面で確定させてください。口頭のままだと、引き渡し時にもめます。

契約書で最初に読む4か所と、読み取る内容
条項 何が書かれているか 読んだあとに紙に書くこと
解約(中途解約)条項 解約の申入れから契約終了までの予告期間。予告期間に代えて賃料相当額を支払う方法の有無。書面での通知が必要かどうか 予告期間の月数と、「今日通知したら契約が終わるのは何年何月何日か」という具体的な日付
違約金・解約金条項 契約期間内に解約した場合の金銭の定め。残存期間に応じた計算式が置かれていることもある 契約満了日と、今日時点の残存月数、そして計算式に当てはめた違約金の概算額
原状回復条項 返還時にどの状態まで戻すか。スケルトンか、入居時の状態か、貸主の指定業者を使う定めがあるか 範囲を示している語句をそのまま書き写す。指定業者の定めがあれば、その会社名または連絡先
敷金・保証金条項 返還の時期と条件。償却(敷引き)の有無と割合。原状回復費を敷金から差し引く旨の定め 差し入れている金額、償却される割合、差引後に戻る見込み額。ゼロと書くべきならゼロと書く
明け渡し日から逆算して決める4つの日付
決める日付 何を基準に決めるか 決めたあとにやること
明け渡し日(鍵を返す日) 契約満了日、または解約予告期間が満了する日。管理会社の立会が可能な曜日と時間帯も条件になる 管理会社に「この日に立会をお願いしたい」と口頭で打診し、可能な日をいくつか押さえておく
工事完了日(立会検査の前日) 明け渡し日から予備日を3〜5日引いた日。指摘が出たときの手直し期間を必ず確保する 見積もりを依頼する業者に「この日までに完了」と伝え、工程表を出してもらう条件にする
着工日 工事完了日から工事期間を引いた日。厨房設備・給排水・電気の復旧があるほど期間は長くなる 着工日の前日までに、什器・在庫・私物をすべて搬出できるかを確認し、無理なら閉店日を前倒しする
閉店日(営業最終日) 着工日から搬出・処分に必要な1週間程度を引いた日。ここで初めて営業の最終日が決まる この日付を紙に書いて、公表しないまま段取り3〜6を進める。外に出すのは段取り7になってから
着工前に貸主・管理会社と書面で確定させる項目
確認する項目 確定しないまま進めると起きること 書面に書いてもらう質問文
撤去の範囲 立会検査で「これも撤去してください」と言われ、追加工事の期間だけ明け渡しが遅れて賃料が伸びる 「添付の平面図で色分けした範囲で原状回復を行います。この範囲でお間違いないかご確認ください」
残置してよいもの 撤去しなくてよかった設備まで壊してしまい、次のテナントが使えたはずの価値を失う 「空調・給排気ダクト・グリストラップ・分電盤・厨房の給排水は残置でよいか、撤去が必要かをご教示ください」
床・壁・天井の仕上げ 「クロスは全面張り替え」「床はモルタル金鏝仕上げまで」といった仕様が後から出て、見積もりが跳ね上がる 「床・壁・天井は、どの仕上げの状態まで戻す必要があるかを具体的にご指定ください」
施工業者の指定 自分で選んだ業者で着工してから「指定業者でなければ受け入れられない」と言われ、工事がやり直しになる 「原状回復工事の施工業者に指定はありますか。ない場合、当方で選定した業者で進めてよいでしょうか」
立会検査の日時と方法 検査の予定が取れず、工事は終わっているのに鍵を返せない日が続き、その分の賃料が発生する 「明け渡しの立会は何年何月何日の何時に可能でしょうか。ご担当者のお名前もご教示ください」
敷金からの相殺の有無 工事代金を一度全額立て替えたうえで敷金の返還を待つことになり、閉店直後の資金繰りが苦しくなる 「原状回復費を敷金から差し引く精算になりますか。差引後の返還時期の目安もご教示ください」

段取り4〜5|モノの処分と、契約の解約

店内のものは売る・引き継ぐ・捨てるに仕分けます。捨てるのがいちばん高くつくので、最後に回します。

止め忘れやすい契約があります。リース、保守、通信、サブスクリプション。解約に予告期間があるものは、先に手を付けてください。

店内のものを「売る・引き継ぐ・捨てる」に仕分ける基準
区分 どういうものが当てはまるか 仕分けたあとにやること
引き継ぐ(造作譲渡) 厨房、給排気、空調、内装、カウンターなど、建物に固定されていて次のテナントがそのまま使えるもの 貸主に「造作を残して次のテナントに引き継ぐ形が可能か」を書面で照会する。譲渡先探しはその回答が来てから
売る(中古買取) 製造から比較的新しく、動作に問題がない厨房機器・冷蔵設備・レジ・家具・食器類 設備一覧と写真を作り、買取業者3社に同じ資料を送って概算を比べる。搬出費が自己負担かどうかも確認する
捨てる(廃棄物として処理) 製造年が古く買取がつかないもの、破損しているもの、店名が入っていて他店では使えないもの 事業系一般廃棄物と産業廃棄物に区分し、それぞれ委託できる許可業者を確認する。費用の見積もりを取る
持ち帰る 個人の私物、帳簿・契約書・領収書などの保存が必要な書類、次に使う可能性がある小型の道具 着工日の前日までに搬出できる量かを確認する。書類は保存年限があるため、段ボールに年度を書いて保管する
閉店時に止め忘れやすい契約と、確認する順番
契約の種類 止め忘れると起きること 確認する方法
機器のリース(厨房・冷蔵・券売機・複合機) 中途解約で残リース料相当額を一括請求される。放置すれば毎月のリース料が引き落とされ続ける リース契約書の残回数と中途解約条項を確認し、リース会社に「◯月末で解約した場合の精算額」を書面で照会する
レンタル・定期納入(おしぼり・マット・観葉植物・ユニフォーム) 店が閉まっていても配送と請求が続く。契約書がなく、口頭の取引になっていることも多い 直近12か月の明細から相手先を特定し、担当者に電話して「解約に何日前の連絡が必要か」を確認する
通信(インターネット回線・固定電話・モバイル端末) 回線の撤去工事が必要な場合がある。撤去しないまま明け渡すと原状回復の指摘対象になることがある 回線事業者に「撤去工事が必要か、費用と所要日数はどれくらいか」を聞き、明け渡し日から逆算して予約する
決済・POS・予約システム(月額のクラウド利用料) 解約手続きがウェブ上のみで、管理画面にログインできなくなると解約自体ができなくなる 各サービスの管理画面にログインし、解約方法と最終請求日を確認する。IDとパスワードを一覧にして保管する
保険(火災保険・賠償責任保険・店舗休業保険) 解約返戻金があるのに手続きをせず、受け取れるはずのお金を取り逃がす 保険証券を集め、代理店に「◯月◯日で解約した場合の返戻金額」を試算してもらう
有料掲載・広告(グルメサイト・地図広告・年払いプラン) 年払い分が残ったまま閉店し、掲載が残って「営業中」と誤認したお客様が来店する 年払いの契約を明細から特定し、更新月と解約の締切日を控える。掲載停止の依頼は段取り7と同時に行う

段取り6〜8|人・お客様・行政

従業員がいる場合、労務の手続きには期限があります。解雇予告は30日前。ここは動かせません。

お客様への告知は、相手ごとに時期を分けます。早すぎると売上が落ち、遅すぎると不義理になります。

行政の届出は、個人事業と法人でまったく違います。法人の解散・清算は数か月かかります。

従業員がいる場合に発生する労務の手続きと期限
手続き 期限と提出先 先に準備しておくこと
解雇の予告(労働基準法第20条) 閉店日の30日前まで。予告しない日数分は平均賃金の支払いが必要 閉店予定日の30日前がいつかをカレンダーに記入し、その日より前に伝えられる日程を組む
雇用保険適用事業所廃止届 廃止した日の翌日から起算して10日以内。事業所の所在地を管轄するハローワーク 労働者名簿、出勤簿など廃止の事実が確認できる書類をまとめる。法人は登記事項証明書も準備
雇用保険被保険者資格喪失届・離職証明書 被保険者でなくなった日の翌日から起算して10日以内。同じくハローワーク 離職票を希望するかどうかを従業員ごとに確認する。59歳以上の方は希望の有無にかかわらず必要
健康保険・厚生年金保険 適用事業所全喪届 事実発生から5日以内。事務センターまたは管轄の年金事務所 解散登記の記入がある登記簿謄本の写し、または雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)の写しを用意する
労働保険の確定保険料申告 保険関係が消滅した日から50日以内(労働保険徴収法第19条) 賃金台帳を年度ごとに整理し、申告に必要な賃金総額を集計できる状態にしておく
退職時の証明書の交付(労働基準法第22条) 請求があった場合は遅滞なく交付。請求されていない事項は記入しない 使用期間・業務の種類・地位・賃金の記録を従業員ごとに整理し、すぐ書ける状態にしておく
告知の相手ごとに、伝える内容と時期を決める
相手 伝える内容と時期 事前に準備しておくこと
従業員 閉店日、最終出勤日、給与と手当の扱い。閉店日の30日以上前。ほかの誰よりも先に伝える 就業規則を確認し、有給休暇の残日数、退職金の有無、離職票の希望を人ごとに整理しておく
仕入先・取引先 最終発注日、最終納品日、買掛金の支払日、貸与品の引き取り希望日。従業員への通知の直後 買掛金の残高一覧と、貸与を受けている備品の一覧(写真つき)を作る。引き取り日を着工日前に設定する
お客様(店頭・SNS・ウェブサイト) 閉店日、回数券やポイントの扱い、最終営業日の営業時間。閉店日の3〜4週間前が目安 回数券・前払い・ポイント残高の総額を集計し、使い切ってもらうか返金するかを決めてから告知する
予約が入っているお客様 閉店日以降の予約は個別に連絡。振替か返金かを提示する。告知と同時か、それより先に 予約台帳から閉店日以降の予約をすべて抽出し、連絡先の有無を確認する。連絡がつかない場合の対応も決める
地図サービス・グルメサイト・予約サイト 閉店日を過ぎたら「閉業」に変更。掲載の停止と契約の解約を同時に進める 各サービスのアカウントとログイン情報を一覧にする。委託先がある場合は依頼の窓口を確認する
金融機関 借入がある場合の返済計画と、口座の扱い。閉店の意思が固まった早い段階で相談する 直近の試算表と資金繰り表を用意し、閉店にかかる費用の見積もりを添えて相談の日程を取る
個人事業を廃業するときの主な届出(国税庁の案内による)
届出書 提出時期と根拠 自分で確かめること
個人事業の開業・廃業等届出書 事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで(所得税法第229条)。納税地を所轄する税務署長へ 自分の納税地を所轄する税務署がどこかを国税庁のサイトで確認し、提出方法(e-Tax・郵送・窓口)を決める
所得税の青色申告の取りやめ届出書 青色申告を取りやめようとする年分の所得税の確定申告期限まで(所得税法第151条) 廃業する年の申告を青色で行うのか白色に切り替えるのかを、税理士に確認してから提出時期を決める
事業廃止届出書(消費税) 事由が生じた場合、速やかに(消費税法第57条第1項第3号)。日数の定めはない 自分が課税事業者かどうかを確認する。免税事業者ならこの届出は不要
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 廃止の事実があった日から1か月以内(所得税法第230条)。給与支払事務所等の所在地の所轄税務署へ 従業員やアルバイトに給与を払っていたかを確認する。払っていた場合、この届出だけは日数の期限がある
食品営業の廃業届(飲食店の場合) 営業を廃止したときに届け出る。名古屋市の場合、提出先は営業所所在地の管轄保健センター 営業許可書の原本を探す。名古屋市では許可営業の場合、廃業する営業の営業許可書を持参するよう案内されている
法人が解散・清算するときの主な手続き(会社法・法人税法による)
手続き 期限と根拠 準備しておくこと
解散の登記 解散したときから2週間以内に、本店の所在地において(会社法第926条) 株主総会の特別決議の日程を先に決める。法務局の申請書様式は法務局サイトで確認できる
清算人の登記 解散の日から2週間以内(会社法第928条第1項)。解散登記と同時に申請する様式がある 誰が清算人になるかを決めておく。代表清算人の氏名と住所も登記事項になる
債権者に対する官報公告と各別の催告 清算開始後、遅滞なく。申出期間は2か月を下ることができない(会社法第499条第1項) 買掛金・借入金・未払費用の相手先をすべて洗い出し、「知れている債権者」の一覧を作る
解散事業年度・清算事業年度の申告 各事業年度終了の日の翌日から2か月以内(法人税法第74条第1項)。解散の日で事業年度が区切られる(同法第14条第1項第1号) 解散日を先に税理士に伝え、決算の作業量と申告の回数がどれだけ増えるかを確認する
残余財産確定事業年度の申告 残余財産の確定の日の翌日から1か月以内(1か月以内に最後の分配等が行われる場合はその前日まで)(法人税法第74条第2項) 残余財産の分配の予定日を決め、申告の期限が前倒しになる可能性を税理士と共有する
清算結了の登記 決算報告の承認の日から2週間以内(会社法第929条第1号) 公告期間の満了日をカレンダーに記入し、そこから逆算して株主総会の日程を押さえる
税務署への異動届出書 異動等後速やかに(法人税法第15条、第20条ほか)。日数の定めはない 解散と清算結了のどちらでも提出が必要になる。異動前の納税地の所轄税務署を確認する
法人市民税の事務所・事業所廃止の申告(名古屋市の場合) 新設または廃止することとなった日から30日以内。栄市税事務所法人課税課へ 登記事項証明書の写しを準備する。法人県民税・事業税の届出は県税事務所へ別途必要

逆算の日程|6か月前から明け渡し当日まで

やることは多いですが、時期は決まっています。当日に持っていくものと、その場で確認することも表にしました。鍵を返したあとでは、何も確認できません。

明け渡し当日に持っていくもの・その場で確認すること
項目 なぜ必要か 当日にやること
合意した原状回復の範囲の書面 指摘が出たときに、合意の範囲内かどうかをその場で判断する根拠になる 印刷して持参し、指摘があった箇所を書面と照らし合わせながら確認する
入居時と着工前の写真 もともとあった傷や、自分が付けたのではない汚損を切り分けるために使う スマートフォンですぐ出せるようにフォルダを整理しておき、必要な場面で提示する
鍵の全数(スペアを含む) 1本でも欠けると明け渡しが完了せず、その分の賃料が発生する可能性がある 契約書に記載された本数と実際の本数を数え、渡した本数を受領書に書いてもらう
産業廃棄物管理票(マニフェスト)の写し 適正に処理したことを示す記録。交付した日から5年間の保存義務がある 元請業者が扱う分と自店が委託した分を分けて確認し、写しを受け取って保管する
敷金の精算に関する確認 返還額と時期を口頭で聞くと、あとで食い違う。書面で残す必要がある 「精算額と返還予定日を書面でご連絡ください」と伝え、担当者名と連絡先を控える
明け渡し完了の確認書 いつ明け渡しが完了したかが、賃料の発生の終期を決める 明け渡し日を明記した書面に双方が署名する。もらえない場合はメールで日付を確認する
6か月前から明け渡し当日までの手順
  1. 閉店を考え始めた日。賃貸借契約書を出し、解約条項・違約金条項・原状回復条項・敷金条項の4か所に付箋を貼る。予告期間の月数と契約満了日を紙に書く。(段取り1)
  2. 同じ週のうちに。通帳とクレジットカードの明細を12か月分さかのぼり、毎月・毎年出ていく契約をすべて書き出す。リース契約書を探し、残回数を確認する。(段取り5の準備)
  3. 同じ週のうちに。店内の設備一覧を作る。品名・メーカー・型番・購入年・購入価格・現況の6列。あわせて写真を撮る。(段取り4の準備)
  4. 解約通知の6か月前〜5か月前。顧問税理士と取引金融機関に相談する。借入がある場合は返済の見通しを共有する。閉店にかかる費用の概算を持って行く。
  5. 解約通知の5か月前。貸主・管理会社に、造作を残して次のテナントに引き継ぐ形が可能かを書面で照会する。回答期限を添える。(段取り4)
  6. 解約通知の4か月前。原状回復の範囲を確認する6つの質問をまとめて管理会社に送る。回答を待つあいだに、原状回復業者3社に見積もりを依頼する準備をする。(段取り3)
  7. 解約通知の3か月前。管理会社の回答をもとに平面図で範囲を色分けし、書面で合意する。この資料を3社に渡して見積もりを依頼する。(段取り3)
  8. 解約通知の2か月前。見積もりが揃った時点で工期を確定し、明け渡し日から逆算して着工日と閉店日を決める。この日付はまだ公表しない。(段取り2)
  9. 解約通知の1か月前。厨房機器と什器の買取業者3社に、設備一覧と写真を送って概算を取る。搬出費が自己負担かどうかも確認する。(段取り4)
  10. 解約通知日(明け渡し日の6か月前)。契約書に定められた方法で、書面で解約の通知を出す。控えを保管する。ここで日程がすべて確定する。(段取り1・2)
  11. 閉店日の2か月前。回数券・前払い・ポイント残高・予約・預かり品を洗い出し、それぞれの扱いを決める。返金するのか使い切ってもらうのかを文章にする。(段取り7の準備)
  12. 閉店日の45日前〜30日前。従業員に伝える。最終出勤日、給与と手当、離職票の希望、退職の証明書について説明する。労働基準法第20条の30日前予告を必ず内側に収める。(段取り6)
  13. 閉店日の30日前〜25日前。仕入先・取引先に連絡する。最終発注日、買掛金の支払日、貸与品の引き取り日を伝える。(段取り7)
  14. 閉店日の3〜4週間前。お客様への告知を出す。店頭の掲示、ウェブサイト、SNS。閉店日と、回数券などの扱いと、お礼の3点に絞る。予約が入っているお客様には個別に連絡する。(段取り7)
  15. 閉店日の3週間前。リース・レンタル・サブスク・通信・保険・有料掲載の解約通知を、期限のあるものから順に出す。一覧表の「解約の連絡日」欄を埋めていく。(段取り5)
  16. 閉店日の2週間前。在庫の発注を止め、消化の計画を立てる。買取が決まった機器の引き取り日を、着工日の前日までに設定する。(段取り4)
  17. 閉店日。営業の最終日。レジ締めのあと、売上・現金・釣銭の精算をして、決済端末の最終処理を行う。
  18. 閉店日の翌日〜着工日の前日。什器・在庫・私物の搬出。買取業者と廃棄物の収集運搬業者に来てもらう。産業廃棄物を委託した場合はマニフェストを受け取り、保管する。(段取り4)
  19. 着工日。原状回復工事の開始。着工前の状態を写真で記録しておく。工事中も現場に1度は足を運び、範囲どおりに進んでいるかを確認する。(段取り3)
  20. 工事期間中(並行)。行政の廃業手続きを進める。個人事業は税務署への届出、飲食店は保健センターへの廃業届。法人は解散登記と官報公告に着手する。(段取り8)
  21. 工事完了日。業者と自分で、範囲どおりに完了しているかを先に確認する。気になる箇所は立会検査の前に手直しを依頼する。
  22. 明け渡し日(立会検査)。貸主・管理会社と現地で確認し、鍵を返却する。指摘があればその場で内容と対応期限を書面にする。敷金の精算方法と返還時期を口頭ではなく書面で確認する。(段取り2・3)
  23. 明け渡し後。雇用保険・社会保険の届出、労働保険の確定保険料申告、税務の申告を期限内に進める。法人は公告期間の満了後に清算結了の登記へ進む。(段取り6・8)

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よくある質問

閉店を考えている方から実際によく出る質問を4つ挙げます。 いずれも「契約による」「場合による」で終わりがちな問いですが、 その「場合」を分ける基準と、根拠になる条文まで書きました。 契約書の条項、敷金の返還時期、従業員への通知の期限、行政の届出の期限。

この4つを押さえておけば、残りの判断はご自身で組み立てられます。 なお、労務と税務については、この記事の内容を出発点にしたうえで、 最終的な判断は社会保険労務士・税理士・所轄官庁の窓口にご確認ください。

解約予告は6か月前と契約書に書いてあります。もっと早く店を閉めることはできますか?

営業をやめること自体は、いつでもできます。 ただし賃貸借契約が終わるのは予告期間が満了した日であり、 それまでの賃料と共益費の支払い義務は残ります。 多くの店舗の契約では、予告期間に代えて同額の賃料相当額を支払えば直ちに解約できる旨の定めが置かれています。

この定めがあれば「6か月分をまとめて払って明け渡す」という選択ができ、営業を止めたあとの固定費を止められます。 定めがなければ、貸主との合意解約を交渉することになります。 判断する前に、契約書で三つを確認してください。

一つ目は予告期間が何か月か。 二つ目は予告に代わる金銭の定めがあるか。 三つ目は契約期間内に中途解約した場合の違約金条項があるか。

そして、営業をやめてから鍵を返すまでの原状回復工事の期間にも賃料は発生し続けます。 工事の期間を含めて合計で何か月分になるかを先に計算してから、閉店日を決めてください。

原状回復の費用は敷金でまかなえますか。敷金はいつ返ってきますか?

民法第622条の2第1項は、賃貸人が敷金を受け取っている場合において、 賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたときに、 受け取った敷金の額から賃借人の債務の額を控除した残額を返還しなければならないと定めています。 つまり返還の時期は明け渡しの後であり、鍵を返す前に戻ってくるものではありません。

閉店にかかる費用を敷金の返還金で払おうと考えていると、支払いの順序が合わなくなります。 また実務では、敷金や保証金から原状回復費を差し引いて精算する契約が一般的で、 工事費が敷金を上回れば差額を追加で支払うことになります。

店舗の契約では償却や敷引きとして一定割合が返らない定めが置かれていることもあります。 閉店の資金計画では、敷金を「戻る前提の現金」として数えず、 「いくら戻るかを契約書で確かめる項目」として扱ってください。

従業員には、いつ、どのように伝えればよいですか?

労働基準法第20条第1項は、使用者が労働者を解雇しようとする場合においては少なくとも30日前にその予告をしなければならず、 30日前に予告をしない使用者は30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと定めています。

同条第2項では、予告の日数は1日について平均賃金を支払った場合にその日数を短縮することができるとされています。 したがって法律上の最低ラインは閉店日の30日前ですが、実務ではもっと早く伝えるほうが結果として損失が小さくなります。

次の勤務先を探す時間があれば、閉店日まで残ってもらえる可能性が高まるからです。 逆に告知が遅いと、閉店の直前に人が抜けて営業できなくなり、最後の売上を失います。

また同法第22条は、労働者が退職の場合に使用期間・業務の種類・その事業における地位・賃金・退職の事由について証明書を請求したときは、 使用者は遅滞なくこれを交付しなければならないと定めています。 個別の事情に応じた進め方は社会保険労務士にご確認ください。

廃業の届出を出し忘れると、どうなりますか?

個人事業の場合、国税庁の手続案内では「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出時期は、 事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までとされています。 根拠は所得税法第229条です。

青色申告をやめるための「所得税の青色申告の取りやめ届出書」も、取りやめようとする年分の所得税の確定申告期限までです。 消費税の課税事業者が提出する「事業廃止届出書」は、事由が生じた場合に速やかに提出するものとされています。

届出を出さないままにすると、税務署からは事業が続いているものとして扱われ、申告の案内が届き続けます。 従業員に給与を払っていた場合の「給与支払事務所等の廃止届出書」は、 廃止の事実があった日から1か月以内という日数の定めがあるので注意してください。

法人の場合は、会社法第926条により解散の日から2週間以内に解散の登記をしなければならず、 法務局は登記すべき期間内に登記を怠ると代表者が過料に処される可能性があると案内しています。 最終的な判断は税理士と所轄官庁にご確認ください。

まとめ|閉店で踏む8つの段取り

閉店費用は「あと何か月営業すれば出るか」に翻訳できます。続けるか閉めるかの判断は、この数字が出てからです。

まず契約書を出してください。解約予告期間を知った日から、選べる日程が決まります。

閉店にかかる費用の内訳(15坪・賃料20万円の飲食店を想定した仮の例)
費目 金額(仮の例) この金額を自店で見積もる方法
原状回復工事 200万円 範囲を書面で確定させたうえで、3社に同じ条件で見積もりを依頼する。最安値ではなく数量と単価の根拠で選ぶ
閉店日から明け渡し日までの賃料・共益費(2か月分) 46万円 (賃料+共益費)×(搬出・工事・検査に必要な月数)。工程表が出るまでは2か月で置いておく
什器・在庫・厨房機器の処分費 25万円 設備一覧を作り、産業廃棄物と事業系一般廃棄物に分けて、それぞれ許可業者に概算を出してもらう
リースの中途解約金(残2年分の精算) 40万円 リース会社に「◯月末で解約した場合の精算額」を書面で照会する。満了まで待つ選択肢とも比べる
解雇予告手当・最終給与の上乗せ分 30万円 閉店日の30日前までに予告できるかを確認する。できない日数分の平均賃金を人数分で計算する
通信回線・看板・貸与品の撤去 10万円 回線事業者と看板業者に撤去の要否と費用を確認する。原状回復の見積もりに含まれているかも要確認
廃業の届出・専門家報酬 6万円 個人事業か法人かで大きく変わる。法人は官報公告費と登記費用、司法書士報酬が加わる
合計 357万円 この合計から、造作譲渡料や什器の売却額を差し引いたものが実際の持ち出しになる
同じ店でも、順序によって持ち出しがどう変わるか(仮の例)
進め方 閉店にかかる総額と粗利換算 分かれ目になった行動
契約書を先に読み、明け渡し日から逆算した 357万円/月粗利30万円で約11.9か月分 解約通知を出す前に予告期間を確認し、営業を続けながら予告期間を消化した
告知を先にしてから契約書を読んだ 472万円/約15.7か月分 営業しない期間が5か月伸び、賃料と共益費の115万円が丸ごと持ち出しになった
造作譲渡が成立し、原状回復が不要になった 157万円+譲渡料の受取/約5.2か月分(譲渡料を含めればさらに減る) 譲渡先を探す前に、貸主へ「造作を残す形が可能か」を書面で照会した
リース満了を待って明け渡し日を設定した 317万円/約10.6か月分(中途解約金40万円が不要になった場合) リース契約の残期間を先に調べ、明け渡し日をリース満了後に設定できるか検討した

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