内装の見積が思ったより高い。いくらまで借りられるのか、どこに申し込むのか。この2つは、見積が出そろう前から準備できます。

日本政策金融公庫の調査では、資金調達額の平均は1,219万円、そのうち金融機関等からの借入が827万円でした。自己資金だけで開業する人のほうが少数です。

借入先は大きく3つ。公庫、制度融資、民間の金融機関。違いは金利より、保証料の有無と手続きの数です。

この記事でわかること

  • 開業資金の借入先3つの違いを、窓口・スピード・保証料・実績のない段階での扱いで比較して選べるようになる
  • 内装工事費が「設備資金」として審査される仕組みと、運転資金との分け方
  • 申し込みに必要なのは契約書ではなく見積書である理由と、契約前に申し込む正しい順序
  • 審査で見られる7つの項目と、それぞれで落ちる典型と、自分で先に用意できるもの
  • 売上計画を席数×回転数×客単価で説明する具体的な組み立て方(公庫の公表資料の算式に沿って)
  • 融資決定前に工事契約を結ぶ危険と、物件契約の期限との板挟みから逆算で抜け出す考え方
日本政策金融公庫は支店1か所で手続きが完結し保証料がかからない。自治体の制度融資は金融機関と信用保証協会の二段階の審査で信用保証料がかかる。民間金融機関のプロパー融資は保証協会を通さず速いが実績が求められる。
違いは、間に入る機関の数です|制度融資は二段階の審査になるぶん時間がかかりますが、自治体の利子補給や保証料の補助がある場合があります。物件の契約期限と板挟みになる前に、相談だけ先に始めてください。

開業までの全工程と時期の組み立ては店舗開業までの内装スケジュール|相談から引き渡しまでの6つの工程と、戻れなくなる日、 開業費用の全体像は店舗開業にかかる費用の全体像|内装費のほかに必要な8つの費目、 内装費そのものの内訳は店舗内装の見積書で確認する7つの費目|諸経費・現場管理費・載らない費用、 返さなくてよいお金の探し方は店舗の内装工事に補助金は使えるのか|申請前に確認する6つのポイントで扱っています。 この記事は「借入先の選び方と審査」だけに絞ります。

開業資金の借入先は、大きく3つ

それぞれ、申込みから入金までの日数も違います。制度融資は自治体と保証協会が挟まるぶん、時間がかかります。着工日から逆算して選んでください。

開業資金の借入先3つの比較
借入先 窓口・手続きの数・費用の構造 まず自分で確認すること
日本政策金融公庫
(新規開業・スタートアップ支援資金)
窓口は公庫の支店1か所。相談・申込・面談・決定・契約・送金という一本の流れで、間に入る機関がない。保証料はかからず、費用は利息と印紙代など。融資限度額7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内) 公庫のサイトで最寄りの支店を調べ、事業資金相談ダイヤルか予約相談で「創業予定」と伝えて相談枠を取る。申込は24時間受付のインターネット申込が用意されている
自治体の制度融資
(信用保証協会の保証付き)
窓口は取扱金融機関または信用保証協会。金融機関の審査と保証協会の審査という二段階になるため、関わる機関が増える。利息のほかに信用保証料が必要。金利は自治体が定めた率で、公庫より低く設定されている制度もある 開業予定地の市区町村の産業振興・中小企業支援の担当課のページで、創業向けの資金の名称・限度額・利率・対象要件を確認する。取扱金融機関の一覧もそこに載っている
民間金融機関の
プロパー融資
窓口は銀行・信用金庫の支店。保証協会を通さないため保証料はかからず、決まれば手続きは速い。ただし金融機関が全額のリスクを負うため、決算実績のない創業段階では取り上げてもらいにくい すでに取引のある金融機関があるか、給与振込や住宅ローンで付き合いのある支店があるかを洗い出す。取引履歴があるかどうかで話の入り口が変わる

内装工事費は「設備資金」として審査される

設備資金と運転資金は、別枠で審査されます。設備資金には見積書が要り、実際の支払いも見積どおりであることが前提になります。

資金使途と実際の支払いがズレる典型もあります。追加工事が出たときが、その代表です。対応のしかたを表にしました。

設備資金と運転資金の分け方
区分 該当するもの 申し込みまでに用意すること
設備資金 内装工事費、外装・看板工事費、厨房機器、空調、什器・備品、レジやシステムなど、形が残り長く使うもの 発注先ごとに見積書をそろえる。1社ではなく複数社から取り、金額の妥当性を自分で説明できる状態にする
運転資金 仕入れ、広告宣伝費、人材募集費、当面の人件費、光熱費、開業後に売上が立ち上がるまでの赤字を埋める資金 月ごとの支出予定を書き出し、売上が計画を下回った場合に何か月分持ちこたえるかを決めておく
判断が分かれるもの 物件の保証金(敷金)、礼金、仲介手数料、前家賃。返還されるものと費用として消えるものが混在する 賃貸借契約書の条件書または重要事項説明書の写しを用意し、内訳を金額で示せるようにする
資金使途と実際の支払いがズレる典型と対応
ズレのパターン なぜ問題になるか 自分でできる対応
工事の追加変更で金額が増えた 設備資金の枠を超えた分を運転資金から流用すると、開業後の運転資金が不足する 変更のたびに変更見積書を受け取り、増減の累計を1枚の表で管理する。枠を超えそうな時点で融資先に相談する
工事を減らして金額が下がった 設備資金として借りた額と実際の支払額が食い違う。使わなかった資金の扱いを説明できないと信用を損なう 減額分をどう扱うか(繰上返済するか、運転資金に振り替える相談をするか)を融資先に自分から連絡する
見積書と違う会社に発注した 申し込み時の資金使途の根拠が失われる。金額が同じでも、根拠となる書類が別物になる 発注先を変えるなら、新しい見積書を提出して事前に相談する。決定後・実行前であれば対応できる場合がある
支払いを証明する書類がない 実際に設備を買ったことを示せない。領収書や振込記録の提出を求められた際に応じられない 工事費・機器代はすべて事業用の口座から振り込み、契約書・請求書・領収書を工事ごとにまとめて保管する

審査で見られる7つの項目

自己資金、経験、事業計画、返済原資、信用情報、担保・保証、そして資金使途の妥当性。

7つとも、申し込む前に自分で用意できます。特に自己資金は、通帳の履歴まで見られます。直前に入金したお金は、自己資金として評価されにくい。

審査で見られる7つの項目と、自分で用意できること
項目 何を見られるか 自分で用意できること
項目1
自己資金
いくらあるか、そしてどうやって貯めたか 通帳の履歴を6か月〜1年分そろえる。毎月の積み立てが分かる形にする
項目2
実務経験
その業種で働いた年数と、任されていた仕事の中身 勤務先ごとに役職・担当業務・実績を1行ずつ書き出す
項目3
売上根拠
予想売上高を席数・回転数・客単価で説明できるか 平日と休日、昼と夜に分けて計算し、1枚の計算式にまとめる
項目4
資金使途
必要な資金の内訳と、見積書の金額が一致しているか 見積書を発注先ごとにそろえ、計画書の金額と1円単位で合わせる
項目5
返済原資
毎月の返済額を、見込む利益で払えるか 月々の返済額を計算し、収支計画の利益と並べて比べる
項目6
信用情報
個人の借入・返済の履歴と、税金の納付状況 信用情報機関に自分の情報を開示請求する。納税証明書を取得する
項目7
物件と保証
物件が特定されているか、担保・保証をどう扱うか 物件の資料(図面・条件書)をそろえ、契約の期限を確認しておく

申込みから入金までの日程と、発注してよいタイミング

融資の決定前に工事を発注するのは危険です。けれども物件の引き渡し日は待ってくれません。

この板挟みになったときの選択肢を4つ用意しました。どれを選ぶにしても、先に工事会社へ事情を伝えてください。

物件と融資の板挟みになったときの選択肢
状況 起きるリスク 検討できる対応
貸主が今週中の契約を求めている 融資が否決・減額になっても家賃の支払いが始まる。フリーレント期間が短いと、開店前に数か月分の家賃が消える 仲介会社を通じ、融資の申し込み中であることを伝えて契約日を待ってもらえないか打診する。同時に、融資が不成立の場合の解約条件を書面で確認する
先に契約しないと物件を押さえられない 他の申し込みに取られる。エリアと業態によっては、次の候補が数か月出ないこともある 申込金(預り金)を入れて仮に押さえる方法があるか、返還条件はどうなるかを仲介会社に確認する。金額と返還条件は必ず書面で受け取る
内装会社が着工日を確定したい 請負契約を先に結ぶと、融資が不成立でも設計費・手配済み資材代・違約金が発生する 「融資決定後に本契約」と最初に伝え、それまでは工程を仮押さえにしてもらう。仮押さえの期限がいつまでかを確認し、その日を工程表に書き込む
工期が読めず開店日がずれそう 開店が遅れるほど、家賃と人件費が売上ゼロのまま出ていく 工程表に、検査・手直し・予備日を数日入れた版を作ってもらう。開店日は工事完了日の翌日ではなく、数日空けて設定する
着工日から逆算して申し込み時期を決める手順
  1. 開店希望日を決める。季節性のある業態なら、繁忙期の入り口に合わせるか、閑散期に開けて慣らすかをここで決めます
  2. 開店日から準備期間を引いて、工事の完了日を決める。什器の搬入、備品の設置、メニューの試作、スタッフの研修、保健所などの検査に必要な日数を確保します
  3. 工事完了日から工期を引いて、着工日を決める。工期は内装会社に見積書と一緒に工程表を出してもらいます。ビルの規則で作業できる曜日・時間が限られる物件では、工期が伸びます
  4. 着工日から、契約手続きと送金にかかる期間を引いて、融資決定の目標日を決める。融資は決定してすぐ入金されるわけではなく、契約手続きを経て送金されます
  5. 融資決定の目標日から審査期間を引いて、申し込み日を決める。この審査期間だけは自分で決められません。申込先の支店・金融機関に確認します
  6. 申し込み日から逆算して、書類の準備を始める日を決める。見積書は複数社から取るため、内装会社への声かけはさらにその前になります
  7. ここまで並べたうえで、物件の契約をどこに置けるかを判断する。物件が待てないなら、待てない理由と期限を貸主・仲介会社に確認したうえで、次の表の対応を検討します

減額・否決になりやすいケース

申し込み前に直せることがあります。公共料金の引き落とし漏れ、借入の残高、そして見積書の内訳が「一式」だけであること。

減額・否決につながりやすい状態と、申し込み前に直せること
状態 なぜ評価が下がるか 申し込み前に自分で直せること
自己資金がほぼなく、直前に大きな入金がある 準備期間の長さと資金管理の習慣が示せない。一時的に借りた資金と判断されると、計画全体の信頼が落ちる 申し込み時期を後ろにずらし、毎月の積み立て履歴を作る。援助を受けた資金は自己資金にせず、借入として正直に計上する
売上計画に計算式がない 金額の妥当性を検証できない。目標であって計画ではないと受け取られる 席数・回転数・客単価・稼働日数の4つを確定させ、時間帯と曜日ごとに分けて計算した1枚を添える
見積書がない、または1社だけ 設備資金の金額に根拠がない。価格の妥当性を説明する材料がない 2社以上から同じ条件で見積もりを取り、選んだ理由を一言添えられる状態にする
返済額が利益を超えている 返済原資が計算上足りない。個人事業では家計費を引くとさらに不足する 借入額を下げる、返済期間を延ばす、据置期間を使う、設備の内容を見直すの4つで調整する
税金・公共料金の滞納や延滞がある 支払いの履歴が信用力の代わりになる段階で、その履歴に傷がある 納税証明書を取得して状態を確認し、未納があれば精算する。信用情報は各機関に開示請求して事前に把握する
物件が決まっていない 家賃も席数も想定するお客様の層も確定しないため、計画の前提が置けない 候補を1つに絞り、家賃・面積・席数・階数・周辺の状況を書き出す。図面と条件書を用意する
経験のない業種で、補う計画がない 斯業経験のある開業者が8割を占めるなかで、事業を回せる根拠が示せない 開業前に現場に入る期間を作る、経験者を採用する計画を具体化する、認定特定創業支援等事業などの創業支援を受ける

あわせて読みたい

よくある質問

相談の場で繰り返し聞かれる4つの質問をまとめました。 いずれも金額の多寡ではなく、進め方の判断にかかわる論点です。 自己資金がない状態で申し込めるのか、公庫と制度融資は両方使えるのか、 工事の契約はいつ結べばよいのか、そしてどれくらいの期間を見ておけばよいのか。

この4つに自分の答えを持っていれば、窓口での相談は具体的に進みます。 逆に、答えを持たずに相談に行くと、相手の説明をそのまま受け入れることになりがちです。

自己資金がゼロでも開業資金の融資は受けられますか?

日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」の案内には、 自己資金の額そのものを要件として示した記載はありません。

ただし同公庫が公表している「創業の手引+(飲食業編)」では、 金融機関から融資を受けるために押さえる点として勤務経験・自己資金・諸支払いの3つが挙げられ、 自己資金については「コツコツと貯めていますか」「蓄積過程は通帳などで確認できますか」という確認項目が示されています。

一方、自治体の制度融資では自己資金が明文の要件になっている場合があります。 名古屋市の新事業創出資金では、経営者保証を不要とする場合かつ税務申告を1期終えていない方について、 創業資金総額の10分の1以上の自己資金を有することが条件として示されています。

自己資金がまったくない状態は、金額の問題ではなく、 準備期間の長さと資金管理の履歴が示せない点で不利になります。

日本政策金融公庫と自治体の制度融資は、両方に申し込んでもよいのですか?

制度上、両方を利用すること自体は想定されています。 名古屋市の新事業創出資金の案内には 「株式会社日本政策金融公庫と協調した取り扱いができる協調推進枠もあります」と明記されており、 公庫と民間金融機関が分担して資金を出す形が用意されています。

ただし、必要な金額を超えて両方から借りられるという意味ではありません。 審査ではいずれも事業計画と返済原資を見るため、 同じ資金使途に対して重複して満額が出ることは想定しにくいと考えてください。

申し込む前に、どちらを主にするか、合計でいくら必要かを決め、 それぞれの窓口にもう一方へも相談していることを伝えておくほうが話が早く進みます。

内装工事の契約は、融資が決まる前に結んでも大丈夫ですか?

おすすめできません。 日本政策金融公庫の「創業の手引+(飲食業編)」には、よくあるケースとして 「これ以上の物件はもう出ない」と思い込み時期尚早に物件の賃貸借契約を結んでしまう例が挙げられ、 資金調達の準備、特に金融機関からの借入が決定していることが整ってから 本契約を結ぶことがすすめられています。

物件の契約についての記述ですが、金額の大きい内装工事はさらに当てはまります。 融資が減額または否決になっても工事の請負契約は残るため、手付金や違約金の負担が生じます。 申し込み時に必要なのは見積書であって契約書ではありません。

見積もりの段階で申し込み、決定を待ってから請負契約を結ぶ順序にしてください。

申し込みから入金まで、どのくらいの期間を見ておけばよいですか?

日本政策金融公庫も自治体も、標準的な所要日数を公表していません。 したがってこの記事では日数の目安を示しません。

確実なのは、手続きが相談、申し込み、面談、融資の決定、契約手続き、送金という順に進むこと、 面談では店舗や事業所の予定地を訪問すると公庫の案内に記載されていること、 制度融資の場合は金融機関の審査と信用保証協会の審査という二段階が入ることです。 段階が多いほど日程は読みにくくなります。

逆算の起点は入金日ではなく、工事の着工日です。 着工日から工期と契約手続きの期間をさかのぼって申し込み時期を決め、 実際の所要期間は申し込む支店や金融機関に直接確認してください。

まとめ|開業資金の借入で押さえること

借入先は公庫か制度融資が基本です。違いは金利ではなく、保証料の有無と手続きの数。日程から選んでください。

いちばん効くのは、見積書を費目ごとに分けてもらうことです。資金使途が具体的なほど、審査は進みます。

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