創業計画書で手が止まるのは「事業の見通し(月平均)」の欄です。止まる理由は書き方を知らないからではなく、数字の作り方を知らないからです。
売上高の欄は、思いつきの金額を書く場所ではありません。席数、回転数、客単価、営業日数を掛け合わせて出すものです。日本政策金融公庫自身が計算方法を公表しています。
根拠のない数字で出すと、面談でその場が分かります。「この売上はどう出しましたか」と聞かれて答えられないと、計画全体の信用がなくなります。
この記事でわかること
- 創業計画書の「事業の見通し」欄を、思いつきではなく計算で埋めるための2通りの売上予測と、その2つを突き合わせて自分の前提が強気すぎないかを判定する手順
- 原価率・人件費率・家賃比率を、公的な業種別データと突き合わせて決める方法と、そのデータをそのまま使ってはいけない理由
- 内装工事費・保証金・厨房機器が設備資金と運転資金のどちらに入るかと、運転資金をいくら積むかの考え方
- 「毎月◯万円の返済」を「1日あたり◯円の粗利」「1日◯人のご来店」に翻訳して、返済できる計画かどうかを現場の感覚で判断する方法
- 損益分岐点売上高の計算式と、実際に数字を入れて解いた例。さらに「返済まで賄える売上高」を出して、赤字になる前に現金が減り始める線を知る方法
- 数字が合わないときに、どこから順に見直せば副作用が小さいかの順序と、坪数・席数・価格を変えたときに何が連動して動くか
物件そのものの見極め(設備容量・原状回復条件・スケルトンか居抜きか)は店舗物件の選び方|内装工事の視点で内覧時に確認する10のポイントで扱っています。 この項目では、その物件を「事業計画書の数字にどう落とすか」だけを扱っています。
数字の根拠がないまま提出すると、どうなるか
困るのは融資の段階だけではありません。根拠のない売上で内装の予算を決めると、開業後に返済が回らなくなります。段階ごとに何が起きるかを表にしました。
| 段階 | 根拠がないまま進むと起きること | この段階までにやっておくこと |
|---|---|---|
| 計画書の記入 | 売上高の欄で手が止まり、そのまま数週間放置される。物件の申し込みだけが先に進む | 席数・坪数・客単価・営業日数の4つを先に紙に書き出す。この4つが決まれば売上の欄は計算で埋まる |
| 内装の見積もり依頼 | いくらまでかけてよいかが決まっていないため、出てきた見積もりの高い安いを判断できない | 売上予測から逆算した「内装工事費の上限額」を先に決め、その金額を内装会社に伝えたうえで見積もりを取る |
| 面談 | 「この回転数の根拠は」と聞かれて答えられない。追加資料を求められ、回答までに1〜2週間が追加でかかる | 計算根拠の欄を一文ずつ埋め、参照した資料(近隣店の価格表、内装の見積書、求人サイトの時給)を手元に揃えておく |
| 金額の決定 | 運転資金の必要額を説明できず、設備資金だけが認められる。開業直後の赤字を自己資金で埋めることになる | 開業後6か月分の資金繰りを月ごとに並べ、現金が最も減る月の金額を運転資金として計上する |
| 開業〜3か月 | 売上が予想を下回っても、どの数字が想定とずれたのかが分からず対策を取れない | 計画書の各行を「実績を書き込む列」付きの表にしておき、月末に売上・原価・人件費の3つだけでも埋める |
| 開業〜1年 | 返済が始まってから現金が足りないことに気づく。追加の借入を申し込むが、実績が計画を下回っているため通りにくい | 返済原資(税引後利益+減価償却費)と月々の返済額を並べた1行を作り、計画段階で余裕率を確認しておく |
数字の根拠を作る8つの記入項目
売上は席数×回転数×客単価×営業日数で出します。席数は内装会社の平面図から数えられます。回転数と客単価は、自分の業態と近隣の店から置きます。
原価率と人件費率には、業種別の平均があります。日本政策金融公庫の経営指標調査です。平均から大きく外れる数字を書くなら、理由が要ります。
固定費は見落としが出やすい欄です。家賃と人件費だけでなく、水道光熱費、通信費、リース料、保険、そして返済。全部足してから、返済原資が残るかを検算します。
| 書く要素 | なぜこの欄があるのか | 計画書に書く前に自分で確かめる方法 |
|---|---|---|
| 主力商品3つと価格 | 売上原価率が商品ごとに違うため、構成が分からないと原価率が置けない。価格帯からお客様像も逆算される | 実際に出すメニューを紙に書き、一品ずつ材料費を積み上げる。10品でよいので原価率を出し、注文構成で加重平均する |
| 売上シェア(%) | どの商品で稼ぐ計画かを示す。シェアの高い商品の原価率が、店全体の原価率をほぼ決める | 勤務経験のある方は前職の売上構成を思い出す。経験がなければ、競合店で注文されている品を席から観察して数える |
| 客単価 | 売上予測の3つの掛け算のうちの1つ。ここが100円ずれると月商が数万円ずれる | 近隣の競合店に実際に入り、自分が想定する使い方で注文して会計する。レシートの金額を控える。1店3回、3店で9回が目安 |
| 営業時間・定休日・営業日数 | 月商は日商×営業日数で決まる。定休日を1日増やすと月商は約4%落ちる | 物件の周辺で、平日と土日それぞれ何時に人が動くかを実地で確認する。ビル管理規約で営業時間に制限がないかも確認する |
| 許認可・資格 | 営業許可が下りなければ計画は成立しない。内装の仕様にも直結する | 保健所の事前相談に、内装の平面図を持って行く。着工前に確認する事項は関連記事にまとめている |
| 調べる対象 | 何が分かるか | 計画書に書く前に自分で確かめる方法 |
|---|---|---|
| 店の前の通行量 | 回転数の上限が現実的かどうか。1日に前を通る人が300人の場所で1日60人のご来店を見込むのは無理がある | 平日と土曜の2日、朝・昼・夜の3時間帯、それぞれ15分ずつ立って通行人を数える。合計6回、90分で終わる。数えた紙は面談に持参する |
| 通行人の内訳 | ターゲットが実際に歩いているか。会社員向けの店を狙う場所に会社員が歩いていなければ計画は崩れる | 通行量を数えるときに、単純に「男女」「一人か複数か」「20〜40代らしいか」の3項目だけを分けて記録する |
| 競合店の客単価 | その地域で受け入れられている価格の上限。自分の想定客単価が浮いていないか | 候補となる競合3店に実際に入り、注文して会計する。レシートを保管し、単価と注文点数を一覧にする |
| 競合店の席稼働 | その立地で実現している回転数の実態。自分の回転数の前提が妥当か | ピークと想定される時間帯に競合店の前を通り、外から見える範囲で埋まっている席を数える。3日分あれば傾向は見える |
| その区画の履歴 | その場所で過去に何が成立しなかったか。短期間で入れ替わっている区画には理由がある | 不動産会社に「前のテナントの業種と、退去した理由」を聞く。近隣の店主にも同じことを聞くと別の答えが出ることがある |
| 近くの開発計画 | 数年後の人の流れ。増える材料と減る材料の両方を見る | 市区町村の都市計画の窓口やサイトで、周辺の大型開発と道路計画を確認する。近隣の再開発は追い風にも向かい風にもなる |
| 業種のタイプ | 算式と、公庫が示している計算例 | この式を使うために自分で確かめること |
|---|---|---|
| 飲食店・理容業・美容業などのサービス業 | 客単価×設備単位数(席数)×回転数。理髪店の例では「3,950円×2台×4.5回転×25日=88万円」 | 席数は図面から数える。回転数は競合店の席稼働を数えて根拠にする。客単価は実際に食べて(施術を受けて)確認する |
| 店舗売りの比重が大きい販売業 | 1坪(または1平方メートル)当たりの売上高×売場面積。コンビニの例では「16万円×100平方メートル=1,600万円」 | 坪あたり売上高は「小企業の経営指標」で業種平均を確認する。売場面積は、厨房やバックヤードを除いた実面積を図面から拾う |
| 設備が直接売上に結びつく業種 | 設備の生産能力×設備数。部品製造業の例では「50円×500個×2台×25日=125万円」 | 導入予定の機械のカタログで、1時間あたりの処理能力と実稼働率を確認する。稼働率は100%では置かない |
| 労働集約的な業種 | 従業者1人当たり売上高×従業者数。自動車小売業の例では「256万円×3人=768万円」 | 1人当たり売上高は「小企業の経営指標」で業種平均を確認する。開業当初は平均を下回る前提で置く |
| 業種(調査対象数) | 原価率(100-売上高総利益率) | 人件費対売上高比率 | 自分の計画とどう突き合わせるか |
|---|---|---|---|
| 飲食店,宿泊業 全体(850) | 30.9% | 32.4% | 宿泊業を含む大分類。飲食店だけを見るなら下の行を使う |
| 一般飲食店(464) | 35.0% | 32.9% | もっとも標準的な比較対象。自分の原価率がこれを5ポイント以上上回るなら、メニュー構成か仕入先を先に見直す |
| 食堂,レストラン(347) | 35.2% | 33.0% | 定食・洋食業態はここ。原価率を下げにくい業態なので、人件費で吸収する設計になっているか確認する |
| 喫茶店(35) | 28.1% | 29.8% | 原価率は低いが客単価も低い。回転数と席数の前提が甘くないかを重点的に見る。調査対象数が35社と少ない点に注意 |
| すし店(37) | 41.1% | 30.2% | 原価率が高い代表格。原価率40%超でも成立するのは客単価が高いから。自分の客単価とセットで見る |
| 酒場,ビヤホール(212) | 32.2% | 32.2% | ドリンク比率が原価率を左右する。ドリンクと料理の売上シェアを先に決めてから原価率を置く |
| 中華料理店(109) | 35.0% | 33.6% | 人件費率が飲食店のなかでも高め。調理に人手がかかる業態は人件費から先に置くほうが現実的 |
| 確認すること | 見落とすとどうなるか | 計画書に書く前に自分で確かめる方法 |
|---|---|---|
| 原価率を率ではなく品目から積み上げたか | 業界平均を借りただけの数字になり、面談で「あなたのお店の原価率は」と聞かれて答えられない | 主力10品の材料費を実際の仕入価格で計算し、想定注文構成で加重平均する。表計算1枚で終わる作業 |
| 仕入価格を実際に確認したか | 前職の仕入価格をそのまま使うと、取引量が違うため単価が上がり、原価率が計画より数ポイント高くなる | 候補となる業務用食材の卸に、想定発注量を伝えて見積もりを取る。1社では判断できないので2社以上 |
| 人件費を金額で積み上げたか | 率で置くと、売上が下がったときに人件費も自動で下がる計算になる。実際には社員の給与は下がらない | 1週間分のシフト表を作り、時間帯ごとに何人必要かを書き出す。それを月に換算して金額にする |
| 時給を地域の実勢で置いたか | 最低賃金で置くと、実際には人が集まらず、開業直後に時給を上げることになる | 求人サイトで、同じエリア・同じ業種・同じ時間帯の募集時給を10件調べ、その中央値を使う |
| 事業主本人の生活費を別に確保したか | 個人営業では事業主分は人件費に入らないため、計画上の利益から生活費を出すことになる。この確認を飛ばすと家計が回らない | 月々の家計支出を書き出し、その金額が「利益-税金-返済元金」を下回っているかを確認する |
| 法定福利費と賄い費を計上したか | 社会保険料の事業主負担分が抜け、人件費が実際より1割前後低く出る | 社員を雇う予定があるなら、給与額の15%前後を法定福利費として別行で計上する。賄いは原価か福利厚生かを先に決める |
| 費目 | 見落とされやすい理由 | 計画書に書く前に自分で確かめる方法 |
|---|---|---|
| 共益費・管理費 | 家賃と別建てで請求されるため、家賃だけを見て計画に入れてしまう | 賃貸借契約書の案文を取り寄せ、家賃・共益費・看板使用料・その他の名目をすべて書き出して合計する |
| 水道光熱費 | 飲食店は業種のなかでも消費量が多い。住宅の感覚で置くと大幅に不足する | 物件の受電容量とガス容量を確認したうえで、同規模の同業店に「月いくらか」を聞く。夏と冬で差が出る点も聞く |
| リース料・保守料 | 厨房機器やPOSレジをリースにすると設備資金は減るが、毎月の固定費が増える | 購入とリースの両方で見積もりを取り、5年間の総支払額と、毎月の固定費への影響を並べて比較する |
| 広告宣伝費 | 開業月だけの費用と考えてしまい、継続的な費用として計上されない | グルメサイトや予約システムの月額掲載料を実際に確認する。開業後6か月分を固定費として計上する |
| 減価償却費 | 現金が出ていかないため意識されないが、損益計算上は毎月の費用として計上される | 内装工事費・厨房機器・什器を区分し、それぞれの耐用年数で割って月額を出す。詳細は関連記事で扱っている |
| 支払利息 | 返済元金と混同されやすい。利息は経費だが、元金は経費にならない | 公庫の資料にある「借入金残高×金利(年利)÷12か月」で計算する。元金は経費欄には書かない |
| 費目 | 設備資金か運転資金か | 計画書に書く前に自分で確かめる方法 |
|---|---|---|
| 店舗の内外装工事費 | 設備資金。金額がもっとも大きくなる費目で、返済期間も長く設定できることが多い | 内装会社から費目別に分かれた見積書をもらう。「一式」だけの見積書は資金の内訳が書けないので分解を依頼する |
| 保証金・敷金 | 設備資金。契約時に一括で出ていくため、資金計画から漏れると開業前に現金が足りなくなる | 賃貸借契約書の案文で、保証金・礼金・仲介手数料・前家賃の4つをそれぞれ確認して合計する |
| 厨房機器・什器・備品 | 設備資金。中古やリースを選ぶと金額は下がるが、耐用年数や毎月の固定費が変わる | 新品・中古・リースの3通りで見積もりを取り、初期費用と5年間の総額を並べて比較する |
| 開業前の家賃(フリーレント外の分) | 運転資金。工事期間中の家賃は売上がないまま出ていく | 引き渡し日と開店予定日の差を日数で確認し、その期間の家賃を運転資金に計上する |
| 開業時の仕入 | 運転資金。掛取引なら支払は翌月以降だが、初回は現金取引になることも多い | 仕入先ごとに「締め日」と「支払日」を確認し、最初の3か月の支払時期を日付で並べる |
| 開業後6か月の赤字補てん | 運転資金。公庫のセルフチェックリストが明示的に確認を求めている項目 | 売上が計画の70%で推移した場合の6か月分の損益を作り、不足額の合計を運転資金として計上する |
| 確認する数字 | この数字が示すこと | 自分の計画でどう確かめるか |
|---|---|---|
| 返済額÷返済原資 | 返済の重さ。この比率が高いほど、売上が少し落ちただけで返済が滞る | 「月々の返済元金 ÷(税引後利益+減価償却費)」を計算する。5割を超えていたら、借入額か返済期間を見直す |
| 減価償却費と返済元金の大小 | 減価償却費が返済元金を上回っていれば、損益が黒字なら現金も増える。下回っていれば、黒字でも現金は減る | 月あたりの減価償却費と、月あたりの返済元金を並べて書く。後者が大きい場合は、その差額を毎月の現金流出として別に見ておく |
| 利益から生活費を引いた残り | 個人営業の場合、事業主の生活費は利益から出る。ここを見ずに返済比率だけ見ても意味がない | 「利益-税金-返済元金-生活費」を計算し、この数字がマイナスなら計画は成立していない。家計の支出額を先に書き出す |
| 見直す順番と対象 | 何を変えるか/連動して動くもの | 副作用と、実行前に確かめる方法 |
|---|---|---|
| 1|価格と商品構成 | 客単価を上げる。50円の値上げでも、1日30人×25日なら月3.75万円。セット化や単品追加でも同じ効果 | 価格が地域の相場から浮くと客数が落ちる。競合3店の価格表を並べ、自分の価格が上から何番目かを確認してから決める |
| 2|原価率 | 原価率を1ポイント下げると、月商240万円なら月2.4万円の改善。仕入先の変更、歩留まりの改善、原価の高い品の構成比の見直し | 品質を落とすと再来店が減る。落とすのは「お客様が価値を感じていない部分」に限る。まず品目別の原価率一覧を作る |
| 3|人件費 | ピーク以外の時間帯のシフトを薄くする。営業時間を短縮する。ランチ営業を予約制に切り替える | 人手を減らすと提供が遅れ、回転数が落ちる。時間帯別の売上構成を先に作り、削る時間帯の売上比率を確認する |
| 4|その他の固定費 | 広告宣伝費、リース料、通信費など。1件あたりは小さいが、合計で月3〜5万円動くことがある | 集客に効いている費目まで削ると売上が落ちる。削ってよいのは「効果を測っていない支出」から。金額順に並べて上から検討する |
| 5|家賃と坪数 | 坪数を2割落とすと、家賃・内装工事費・保証金の3つが同時に下がる。固定費と設備資金の両方に効く | 席数が減るので売上の上限も下がる。「坪数×坪あたり売上高」で新しい売上上限を出し、それでも成立するかを確認する |
| 6|投資額(内装・設備) | 内装のグレードを下げる、造作を既製品に置き換える、中古厨房機器を使う、居抜き物件に切り替える | 削りすぎると集客力そのものが落ちる。売上に直結する部分(ファサード・照明・席の居心地)と、そうでない部分を分けてから削る |
| 7|借入額と返済期間 | 返済期間を延ばせば月々の返済元金は下がる。借入額そのものを減らす手もある | 期間を延ばすと支払利息の総額は増える。借入額を減らすと運転資金が薄くなり、開業直後の資金繰りが厳しくなる。両方の影響を並べて比較する |
書く前に、自分の足で確かめる
机の上で作った数字は、面談で崩れます。候補地の前に立って、時間帯ごとに人の数を数えてください。近隣の同業の客単価も、実際に入れば分かります。
この作業をしておくと、「なぜこの数字か」に答えられます。答えられること自体が、計画の質になります。
| 確かめる対象 | やり方と所要時間 | 記録の残し方と、計画書のどの欄に効くか |
|---|---|---|
| 通行量 | 物件の前に立ち、15分間に通る人を数える。平日と土曜、朝・昼・夜の計6回。合計90分 | 日付・曜日・時刻・人数・天気を1行ずつ書いた表にする。「販売ターゲット・販売戦略」欄と、回転数の根拠に使う |
| 競合店の客単価 | 候補となる競合3店に、想定する使い方で実際に入る。1店あたり1時間として3時間 | レシートを保管し、注文点数と合計金額を一覧にする。「客単価」欄の根拠になる。面談でレシートを見せられると強い |
| 競合店の席稼働 | ピーク時間帯に競合店の前を通り、外から見える範囲で埋まっている席を数える。3日×15分 | 「20席中12席」のように分数で記録する。回転数の前提が現実的かを判定できる。「競合・市場など」欄に効く |
| 仕入価格 | 業務用食材の卸2社以上に、想定発注量を伝えて見積もりを依頼する。連絡と受領で2〜3日 | 主力食材20品目の単価表を作る。「売上原価」欄と、原価率の計算根拠になる |
| アルバイトの時給相場 | 求人サイトで、同エリア・同業種・同時間帯の募集を10件調べる。30分 | 10件の時給を並べて中央値を出す。「人件費」欄の根拠になる。最低賃金ではなく実勢で置ける |
| 内装工事費 | 内装会社に図面の条件を揃えて見積もりを依頼する。依頼から受領まで2〜3週間 | 費目別に分かれた見積書をもらい、そのまま「必要な資金」欄に転記する。「一式」の見積書は分解を依頼する |
| 物件の固定費 | 賃貸借契約書の案文を不動産会社から取り寄せ、家賃以外の名目をすべて拾う。1時間 | 家賃・共益費・看板使用料・更新料・原状回復条件を1枚にまとめる。「家賃」欄と、退去時の想定に効く |
| 前テナントの履歴 | 不動産会社と、可能なら近隣の店主に、前のテナントの業種と退去理由を聞く。30分 | 聞いた内容を日付付きでメモする。数字にはならないが、この立地で成立しなかった業態を知ることができる |
半日で書き上げるための手順
- 席数と坪数を確定する。内装会社の平面図から客席数を数え、客席部分の面積を坪で出す。厨房とバックヤードは含めない
- 客単価と営業日数を置く。競合店のレシートから客単価を決め、定休日を決めて月の営業日数を出す。昼夜で分かれるなら2行にする
- 方法Aで売上を出す。客単価×席数×回転数×営業日数。回転数は競合店の席稼働の観察から置く
- 方法Bで売上を出す。客席の坪数×坪あたり売上高。坪あたり売上高は「小企業の経営指標」の中央値を使う
- 2つを突き合わせて着地させる。方法Aが方法Bを大きく上回るなら、回転数か客単価を下げる。差を「1日◯人分」に翻訳して、その差が説明できるかを自分に問う
- 原価と人件費を金額で置く。原価は品目別の積み上げ、人件費は1週間分のシフト表から。率は答え合わせに使う
- 固定費を上から拾う。家賃・共益費・水道光熱費・広告宣伝費・リース料・減価償却費・支払利息。抜けを防ぐため費目名を先に全部書いてから金額を入れる
- 必要な資金を設備・運転に分ける。見積書と契約書案から転記する。運転資金には開業後6か月の赤字補てん分を入れる
- 調達方法を書き、左右を一致させる。自己資金・親族からの借入・公庫からの借入。親族からの借入は返済方法まで書く
- 返済原資を検算する。税引後利益+減価償却費を出し、月々の返済元金と並べる。返済額が返済原資の5割を超えていたら計画を作り直す
- 損益分岐点売上高を計算する。固定費÷(1-変動費率)。予測月商との差を「1日◯人分」に翻訳して余裕度を確認する
- 計算根拠の欄をすべて埋める。各行について「何をもとに、どう計算したか」を一文ずつ書く。ここが本体だと考えて時間を使う
- セルフチェックリストで点検する。前章のリストを上から順に確認し、空欄と不一致をつぶす
- 添付資料を揃える。内装の見積書、賃貸借契約書の案文、通行量のメモ、競合店のレシート、求人サイトの時給一覧
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よくある質問
事業計画書の数字について、相談の場で繰り返し出てくる質問をまとめました。 いずれも「どう書けば通るか」ではなく「どう作れば自分が判断できるか」という観点でお答えしています。 書き方のテクニックを探している方には物足りないかもしれませんが、 数字を作る作業に近道はありません。
逆に言えば、ここに時間を使った方は、面談でどの行を指されても答えられる状態になります。 なお、税務と融資条件の最終的な判断は、税理士および金融機関の担当者にご確認ください。
創業計画書の書式は、日本政策金融公庫のものを使わないといけませんか。手書きでもよいですか。
公庫の創業計画書には、この書類に代えて申込人自身が作成した計画書を提出しても差し支えない旨が冒頭に明記されています。つまり、自分で作った計画書でも受け付けてもらえます。ただし、はじめて計画書を書く方には公庫の書式をおすすめします。
理由は、あの1枚が「聞かれること」の一覧そのものだからです。創業の動機、経営者の略歴、取扱商品・サービス、取引先、従業員、お借入の状況、必要な資金と調達方法、事業の見通しという並びは、面談で確認される順番とほぼ同じです。
手書きでも構いませんが、公庫のサイトからはPDFのほかにエクセル版もダウンロードできるため、数字の入る欄は表計算で作ったほうが検算しやすくなります。書式よりも重要なのは、売上高と売上原価と経費の計算根拠を書く欄を空欄にしないことです。
売上予測は、多めに書いたほうが融資は通りやすいのでしょうか。
多めに書いても通りやすくはなりません。数字を見る側は、売上高の絶対額ではなく、その数字がどう組み立てられているかと、そこから返済ができるかを見ています。根拠のない大きな数字は、面談で「この回転数はどこから出た数字ですか」と聞かれた時点で答えられなくなり、計画全体の信頼を落とします。
むしろ怖いのは、通ったあとです。日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査では、予想月商達成率が100%未満だった開業者が41.3%を占めています。実際の売上が予想の半分に満たなかった開業者も10.5%います。
返済額は予想月商ではなく実際の売上から払うため、背伸びした計画は開業後の自分を苦しめます。低めに置いた売上でも返済が成り立つ形に作り替えるほうが、結果として通りやすく、開業後も楽になります。
開業前で実績がないのに、原価率や人件費率はどう決めればよいですか。
決め方は3つあります。1つ目は、自分が勤めていた店の実績を使う方法です。公庫の創業計画書の記入例でも、原価率の根拠として「勤務時の経験から」と書かれています。
2つ目は、公的な業界平均を使う方法です。日本政策金融公庫総合研究所の小企業の経営指標調査には、業種ごとの売上高総利益率と人件費対売上高比率が載っており、そこから原価率と人件費率の水準を確認できます。3つ目は、実際に作るメニューの一品ごとに材料費を積み上げて、想定する注文構成で加重平均する方法です。
もっとも説得力があるのは3つ目で、平均値はその答え合わせに使うのが本来の順番です。どの方法をとっても、計画書には「何をもとに何%と置いたか」を一行で書き添えてください。数字そのものより、その一行のほうが読まれます。
数字が合わず、どうしても返済できる計画にならないときはどうすればよいですか。
売上を書き増して合わせるのだけは避けてください。合わないという結果は失敗ではなく、この物件とこの規模では成り立たないという情報を、お金を使う前に手に入れたということです。見直す順番は、価格と商品構成、原価率、人件費、その他の経費、家賃と坪数、投資額、借入額と返済期間の順です。
効果が大きく副作用が小さいものから順に手を入れると、無理のない形に落ち着きやすくなります。それでも合わないときは、物件そのものを変える判断が必要です。坪数を2割落とせば、家賃も内装工事費も保証金も同時に下がり、損益分岐点売上高がまとめて下がります。
金額の大きい順に手を入れるのが原則で、店舗では家賃と内装工事費がその二大項目です。最終的な判断は、税理士や金融機関の担当者と一緒に確認してください。
まとめ|数字の根拠を作る8つの記入項目
事業計画書は、通すために作る書類ではありません。自分が続けられるかを確かめるための書類です。数字が合わないなら、合わない理由がその場で分かります。
合わないときに最初に見直すのは、売上ではなく固定費です。売上を上げて帳尻を合わせた計画は、開業後に必ず崩れます。