賃料は毎月出ていき、契約したあとは下げられません。内装費は一度きりですが、賃料は10年払い続けます。

「立地がいいから取り返せる」かどうかは、契約前に数字で決められます。感覚で決める話ではありません。

計算することは6つ。賃料そのものではなく「場所にかかる月額」を出して、想定の月商と比べます。

この記事でわかること

  • 公的統計で見た、業種別の売上高に対する地代家賃の割合(中小企業庁・総務省統計局)
  • その数字を自店に当てはめるときの4つの注意点
  • 賃料のほかに毎月出ていくものと、契約時に一度だけ出ていくものの一覧
  • 想定の月商を、席数・回転数・客単価から自分で組み立てる手順
  • 内装費の回収分まで足した「場所にかかる月額」の出し方
  • 賃料が高い物件を選んでよい場合と、その条件
売上高に占める地代家賃の割合。宿泊業8.05%、洗濯・理容・美容・浴場業5.91%、飲食店5.70%、織物・衣服・身の回り品小売業5.45%、持ち帰り・配達飲食サービス業2.76%、娯楽業2.71%、その他の小売業2.02%、飲食料品小売業1.44%。いずれも法人企業の拡大推計値から算出。出典は中小企業庁 令和7年中小企業実態基本調査(令和6年度決算実績)確報。
業種によって、家賃の重さがまったく違います|同じ賃料でも、飲食店と食品小売では売上に占める割合が4倍近く違う。自店の業種の水準を先に知ってから、物件の賃料を見てください。

物件を見に行くときの確認項目は店舗物件の選び方、契約書の条項は店舗の賃貸借契約書で確認する9つの条項で扱っています。この記事は賃料の金額そのものを判断することに絞ります。

賃料は、契約した瞬間に固定される

内装費は削れますが、賃料は削れません。物件を決めた時点で、10年分の固定費が確定します。

公的統計で見る、業種別の地代家賃の割合

法人企業統計と個人企業経済調査に、売上高に対する地代家賃の割合が業種別に出ています。自分の計算がどのあたりに来るかの目盛りになります。

業種別の売上高と地代家賃(法人企業・拡大推計値)
産業中分類売上高/地代家賃(百万円)売上高に占める地代家賃の割合
宿泊業3,739,522/301,0698.05%
洗濯・理容・美容・浴場業3,816,732/225,7635.91%
飲食店7,734,420/441,1445.70%
織物・衣服・身の回り品小売業4,040,147/220,1245.45%
持ち帰り・配達飲食サービス業1,405,123/38,7792.76%
娯楽業14,165,514/383,2282.71%
その他の小売業29,747,000/600,5672.02%
飲食料品小売業18,915,180/272,7371.44%

出典:中小企業庁「令和7年 中小企業実態基本調査(令和6年度決算実績)確報」(2026年6月29日公表)の統計表「3.売上高及び営業費用 産業中分類別表(法人企業)」より、売上高と地代家賃(売上原価内・販売費及び一般管理費内の合計)を編集部が集計。地代家賃は「動産・不動産賃借料」の内数です。割合は編集部が計算した派生値で、公表資料に直接記載されているものではありません。

個人企業の売上高と地代家賃(1企業当たり・総務省統計局)
産業大分類売上高/うち地代家賃(千円)売上高に占める地代家賃の割合
生活関連サービス業,娯楽業5,295/4378.25%
宿泊業,飲食サービス業11,030/6435.83%
サービス業(他を除く)10,327/4324.18%
全産業13,989/4082.92%
製造業10,957/2452.24%
卸売業,小売業28,249/3721.32%
建設業14,735/950.64%

出典:総務省統計局「個人企業経済調査(2025年)」(2025年6月1日現在、2026年3月2日公表)の第1表「産業大分類別営業状況-全国」。売上高と地代家賃は1企業当たりの公表値です。割合は編集部が計算した派生値。この調査では地代家賃は産業大分類までしか公表されておらず、「飲食店」「美容業」単独の数値は取れません。

物件を決める前に計算する6つのこと

順番があります。出ていくものを足す → 月商を組み立てる → 割合を出す。この順でないと、比べる相手が決まりません。

6つの計算と、それぞれで出す数字
計算出す数字解説
1. 毎月出ていくものを足す毎月の不動産費(円/月)くわしく
2. 契約時の一時金を数える契約時の一時金(円)くわしく
3. 想定の月商を組み立てる想定月商(円/月)くわしく
4. 割合を出して統計と比べる不動産費÷想定月商(%)くわしく
5. 内装費の月割を足す場所にかかる月額(円/月)くわしく
6. 退去時の費用を見積もる退去時の想定支出(円)くわしく

計算1|賃料のほかに、毎月出ていくものを足す

共益費、看板使用料、駐車場、保証委託料。募集図面に載っていないものもあります。

毎月出ていくものと、契約前に確かめること
費目どういうものか契約前に確かめること
賃料建物・区画の使用料消費税が内税か外税か。改定の条件が契約書のどこにあるか
共益費・管理費共用部の清掃・警備・照明などの負担何が含まれるか。値上げの手続きが書かれているか
看板使用料ファサード・袖看板・館内サインの掲出料1枚あたりか一括か。将来増やすときの単価
売上歩合賃料売上の一定率を上乗せする方式売上の定義(税込か税抜か、通販を含むか)。上限があるか
販促負担金商業施設の共同販促の費用参加が任意か強制か。年間いくらか
駐車場・駐輪場お客様用と従業員用台数と単価。近隣で別途借りる必要があるか
共用部の水道光熱専有部と別に按分される場合がある按分の方法。実費か定額か
町会費・組合費商店街・管理組合の会費金額と支払いの頻度。加入が条件になっていないか

計算2|契約時に一度だけ出ていくものを数える

保証金、礼金、仲介手数料、前家賃、火災保険。賃料25万円の物件で、契約時に数百万円が動きます。

契約時に出ていくものの一覧(賃料25万円の物件での例)
  1. 保証金(敷金)。10か月なら250万円。償却の率を契約書で確認する
  2. 礼金。2か月なら50万円。返ってきません
  3. 仲介手数料。1か月+消費税なら27.5万円
  4. 前家賃。1か月分25万円。共益費も同時に発生します
  5. 保証会社の保証料。賃料の0.5〜1か月分が初回に発生する契約が多い
  6. 火災保険料。2年一括の契約が通常。借家人賠償の額を確認する
  7. 鍵の交換費用。実費。シリンダーの種類で変わります
  8. 合計。この例ではおよそ360万円。内装工事費と別に必要です

計算3|想定の月商を、自分で組み立てる

席数×回転数×客単価×営業日数。業種によって組み立て方が違います。

業種別の月商の組み立て方
業種掛け算の形いちばん外しやすい数字
飲食店(席あり)席数×回転数×客単価×営業日数回転数。ピークだけを見て平均に使ってしまう
カフェ席数×回転数×客単価×営業日数滞在時間。長居される前提だと回転数は下がります
持ち帰り・配達1時間あたりの提供数×営業時間×客単価×営業日数提供能力。厨房が捌ける上限を超えた想定になりやすい
美容室セット面×1日の施術数×単価×営業日数1人あたりの施術時間。カラーとパーマで大きく変わります
物販店1日の来店数×買上率×客単価×営業日数買上率。通行量から来店数を出す段階でも外れます
クリニック1日の患者様数×診療単価×診療日数1日の患者様数。立ち上がりに時間がかかります
パーソナルジム会員数×月会費+都度利用退会率。会員数は積み上げではなく差し引きで動きます

計算4|割合を出して、統計と比べる

大きく外れているなら、理由を説明できるかを考えます。説明できないなら、月商か物件のどちらかが甘い。

計算5|内装費の月割を足して、「場所にかかる月額」を出す

工事費を契約月数で割って賃料に足すと、居抜きとスケルトンを同じ土俵で比べられます。

試算例|居抜きとスケルトンを「場所にかかる月額」で比べる
項目居抜き物件スケルトン物件
賃料+共益費(月)28万円22万円
内装工事費600万円1,400万円
内装費の月割(60か月)10.0万円23.3万円
場所にかかる月額38.0万円45.3万円
5年間の合計2,280万円2,720万円
賃料だけで比べた場合の結論高い(不利に見える)安い(有利に見える)
合計で比べた場合の結論安い高い

金額はすべて仮の例です。実際には居抜きの設備がどこまで使えるかで内装費が大きく変わります。判断の材料はスケルトンと居抜きの違い、設備の流用可否は居抜き物件の設備は流用できるかで扱っています。

計算6|退去するときに出ていくものを、先に見積もる

原状回復、解約予告期間の賃料、償却されて戻らない保証金。入る前に、出るときの金額を知っておきます。

退去時に出ていくものと、契約前に確かめること
費目どういうものか契約前に確かめること
原状回復工事入居時の状態に戻す工事「入居時」がスケルトンか居抜きか。契約書の別紙で範囲を確認する
解約予告期間の賃料予告してから明け渡すまでの賃料何か月前予告か。工事期間中も賃料が発生するか
保証金の償却返還されない部分償却の率と、退去時期による違い
工事期間中の二重賃料次の物件と重なる期間の賃料移転する場合のみ。オフィス移転の内装工事で扱っています
指定業者の工事貸主が施工会社を指定している場合指定があるか。相見積もりが取れるか
残置物の処分什器・厨房機器の撤去と廃棄造作譲渡で回収できないか。店舗の造作譲渡で扱っています

坪数が契約面積か施工面積か、賃料に共益費が含まれるか。同じ表記でも意味が違うことがあります。

募集図面の項目と、確かめること
項目読み間違えやすい点確かめること
面積(坪・㎡)契約面積には、柱やパイプスペースが含まれることがある「什器を置ける有効面積は何坪ですか」。実測図をもらう
賃料税抜表示だと、実際は10%増える「表示は税込ですか税抜ですか」
坪単価共益費を含む場合と含まない場合がある共益費込みの坪単価に直して、他物件と比べる
保証金「賃料の◯か月」の賃料が、共益費込みか別か金額そのもので確認する。償却の率も同時に聞く
引渡し状態「居抜き」でも設備が使える保証はない残置物の一覧をもらう。所有権が誰にあるかを確認する
現況「即入居可」でも、原状回復が終わっていないことがある実際に見て、いつ工事を始められるかを確かめる
契約種別定期借家は更新がない。再契約は貸主の判断普通借家か定期借家か。定期なら期間と再契約の条件
募集開始時期図面には書かれていない「いつから募集していますか」。交渉の余地を測る材料になる
内覧のときに、その場で聞いておくこと
  1. 前のテナントは何をしていて、なぜ退去したか。立地の弱点が分かることがあります
  2. 空室になってから何か月経っているか。条件が動くかどうかの目安になります
  3. 賃料の改定は過去にあったか。今後の見通しの材料になります
  4. 共益費に何が含まれるか。共用部の空調・清掃・警備の範囲
  5. 営業時間の制限があるか。建物の開錠時間、深夜営業の可否
  6. 看板を出せる場所と枚数。使用料と、追加するときの単価
  7. 設備の所有権。残っている厨房機器や空調は、誰のものか
  8. 退去時の原状回復の範囲。契約書の別紙を、契約前に見せてもらう
  9. 工事の制約。音の出る工事ができる時間帯、搬入経路、エレベーターの使用
  10. 近隣の状況。上下階と隣は何が入っているか。音とにおいの相手になります
賃料の条件で交渉できる項目
  1. フリーレント。工事期間中の賃料を免除してもらう。最も通りやすい
  2. 賃料の減額。周辺の相場と、空室期間の長さが材料になります
  3. 保証金の減額。月数を減らす。開業資金への影響が大きい
  4. 償却率の引き下げ。退去時に返る金額が変わります
  5. 礼金の減額。戻らない金額なので、優先度は高い
  6. 原状回復の範囲。スケルトン返しを、現状のままの返却に変えられないか
  7. 解約予告期間。6か月を3か月にできないか。撤退時の損失が半分になります
  8. 造作の残置。次の借主に譲渡できる契約にしておく

賃料が高い物件を、選んでよい場合

高い賃料が成り立つ条件はあります。通行量、視認性、競合の不在。確かめる方法を表にしました。

高い賃料が成り立つ条件と、確かめる方法
条件成り立つ理由確かめる方法
坪あたりの売上が高い面積が小さくても売上が立つ。賃料の総額を抑えられる想定月商÷坪数を出す。同業の複数店舗で比べる
居抜きで内装費が小さい場所にかかる月額の合計が下がる計算5の表で、賃料の安い物件と合計を比べる
通行量が多く広告が要らない集客費が賃料に置き換わっている平日と休日の通行量を、時間帯ごとに実際に数える
歩合賃料に上限がある売上が伸びても賃料が青天井にならない契約書で上限の有無と率を確認する
賃料の改定条件が限定的数年後の値上げ幅が読める改定の条項を読む。据置期間があるか
短期の契約が可能合わなければ抜けられる。損失の上限が決まる定期借家か普通借家か。中途解約の条項を確認する

融資を受けるなら、この計算がそのまま資料になる

6つの計算は、事業計画書の欄にそのまま入ります。作り直す必要はありません。

6つの計算が、事業計画書のどこに入るか
この記事の計算計画書のどの欄になるか説明を求められること
計算1|毎月の不動産費損益計画の固定費(地代家賃)共益費や歩合賃料を含めた金額になっているか
計算2|契約時の一時金必要な資金(設備資金)保証金・礼金・仲介手数料の内訳。契約書の写しを求められます
計算3|想定の月商損益計画の売上高掛け算の根拠。席数・回転数・客単価・営業日数のそれぞれ
計算4|売上に占める割合直接の記入欄はない固定費が売上に対して過大でないかの判断材料になります
計算5|内装費の月割減価償却費耐用年数の根拠。減価償却と耐用年数で扱っています
計算6|退去時の支出直接の記入欄はない撤退したときに何が残るか。自分のための数字です

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よくある質問

「家賃は売上の10%以内」という目安をよく見ますが、根拠はありますか?

公的な統計でその数字を確認することはできませんでした。今回調べた中小企業実態基本調査では、法人の飲食店で5.70%、洗濯・理容・美容・浴場業で5.91%です。

ただしこれは自社所有の企業も含んだ平均なので、賃借している店舗の実態はこれより高くなります。10%という数字が間違いだとも言えません。根拠のたどれる数字として使えるのは、統計の側だけです。

賃料が高くても、売上を上げれば割合は下がります。それではだめですか?

考え方としては正しいのですが、順番が逆です。賃料は確定していて、売上は仮定です。

確定した支出を、仮定の収入で正当化することになります。判断するなら「今の想定で成り立つか」で見て、上振れは余裕として扱ってください。

共益費が高い物件は、避けたほうがよいですか?

金額そのものより、何が含まれるかで判断してください。共用部の空調・清掃・警備が含まれていれば、その分は自分で払わずに済んでいます。

確かめるのは、値上げの手続きが契約書に書かれているかです。貸主の裁量で改定できる書き方になっていると、将来の負担が読めません。

保証金は経費になりますか?

返還される部分は資産として計上し、経費にはなりません。償却される部分は、契約時に費用として処理するのが原則です。

金額や契約内容によって扱いが変わるため、税理士に確認してください。当ガイドは税務の専門家ではありません。内装工事費の扱いは店舗内装工事の減価償却と耐用年数で整理しています。

まとめ|賃料は、契約前にしか決められない

月3万円の差も、「1日何人分の粗利か」に翻訳すれば判断できます。10年なら360万円です。

内装は削れますが、賃料は削れません。先に決めるべきは、こちらです。

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