居抜きの内装を剥がす。退去でスケルトンに戻す。どちらも、始める前に石綿の調査が要ります。規模の大小は関係ありません。

「うちは小さな改装だから」と思って見積書を見ると、「石綿事前調査」の行がないことがあります。調査をせずに着工すると、工事が止まります。

確認することは7つ。そのうち6つは着工前に終わります。残る1つは、実際に見つかったときの話です。

この記事でわかること

  • 調査が要る建物と要らない建物を分ける1つの日付と、その調べ方
  • 調査の結果を役所へ報告する義務が生じる「解体80㎡・改修100万円」の線
  • 2023年10月から必要になった資格を持つ人による調査
  • 石綿が見つかったとき、レベル1〜3で何が増えるか
  • 発注者であるあなたに課される費用の負担と、工期への配慮の義務
  • 名古屋市の補助(分析は上限15万円で全額、除去は上限120万円)の対象
石綿の規制は、平成7年4月に1%超の吹付け作業を原則禁止、平成16年10月に1%超の建材の製造を禁止、平成18年9月1日に0.1%超のすべてを禁止と進んだ。調査結果の報告義務は令和4年4月1日から、資格を持つ人による調査の義務は令和5年10月1日から。
見るのは築年数ではなく、着工した日です|平成18年(2006年)9月1日より前に着工した建物なら、居抜きの改装でも原状回復でも調査が要ります。まず図面の日付を確かめてください。

見積書に「石綿事前調査」の行がなかったら、まず聞く

調査をするのは工事会社ですが、義務を負うのは発注者であるあなたでもあります。行がないなら、抜けているか、他の費目に含んでいるかのどちらかです。

工事を止めないための7つの確認と、確認する時点
確認することいつ確認するか解説
1. 建物の着工日物件を契約する前くわしく
2. 工事の規模(報告の要否)見積を受け取ったときくわしく
3. 調査する人の資格調査を頼む前くわしく
4. 見つかったときに増える工事調査の結果が出たときくわしく
5. 発注者としての義務工事を契約する前くわしく
6. 記録の保存と掲示着工の直前くわしく
7. 補助の申請工事を契約する前くわしく

出典:厚生労働省「石綿総合情報ポータルサイト」、環境省「石綿事前調査結果の報告について」。7だけは契約したあとでは間に合いません。名古屋市の補助は事前申請が条件です。

確認1|建物の着工日を調べる。境目は2006年9月1日

それ以前に着工した建物には、石綿を含む建材が使われている可能性があります。着工時期は登記や検査済証で調べられます。

着工した時期と、想定される石綿含有建材
着工の時期想定されることやること
〜平成7年(1995年)3月吹付け石綿が残っている可能性がある。天井裏や機械室に多い調査は必須。天井裏を開けて見る前提で工期と費用を組む
平成7年4月〜平成16年(2004年)9月吹付けは原則禁止だが、床材・天井材・壁材などの成形板は使われている調査は必須。成形板が中心になるので、手ばらしの手間を見込む
平成16年10月〜平成18年8月1%を超える建材の製造は禁止されたが、在庫が流通した期間がある調査は必須。この期間がいちばん見落とされやすい
平成18年(2006年)9月1日以降0.1%を超える石綿を含む建材は使われていない着工日が書面で分かれば、現地の目視調査を省ける

出典:環境省「大気汚染防止法及び政省令の改正について」(令和2年11月)。規制は段階的に進んでおり、平成7年4月に1%を超える吹付け作業を原則禁止、平成16年10月に1%を超える建材の製造を禁止、平成18年9月1日に0.1%を超えるすべてを禁止という順です。増築や過去の改装があれば、その部分の着工日も別に見ます。

確認2|工事の規模が、報告の線を超えるか

調査だけでなく、結果の報告が要る規模があります。令和4年4月1日からの制度です。自分の工事が線を超えるかを確かめてください。

報告の義務が生じる工事の規模(令和4年4月1日から)
工事の種類報告が要る規模店舗の工事での見え方
建築物の解体解体する部分の床面積の合計が80平方メートル以上スケルトン戻しは、店の広さがそのまま解体面積になりやすい。24坪を超えたら対象
建築物の改造・補修請負代金の合計が100万円以上(消費税込み)内装工事の多くが該当する。事前調査の費用は、この金額に含めない
工作物の解体・改造・補修請負代金の合計が100万円以上(環境大臣が定める工作物)受変電設備、煙突、配管設備など。厨房の設備更新で当たることがある
鋼製の船舶総トン数20トン以上の解体・改修店舗の工事では通常あたらない

出典:環境省「石綿の事前調査結果報告の義務化について」(2022年3月1日)、厚生労働省「石綿事前調査結果報告システムについて」。根拠は大気汚染防止法第18条の15第6項、同法施行規則第16条の11です。報告にはGビズIDが要ります。報告の義務に違反すると30万円以下の罰金です(同法第35条第4号)。

確認3|調査するのは、資格を持つ人か

「うちで見ておきます」では要件を満たしません。調査できるのは資格を持つ人だけです。頼むときに聞くことを表にしました。

調査を頼むときに聞くこと
聞くこと確かめる中身聞き方
調査する人の資格建築物石綿含有建材調査者の講習を修了しているか。修了証の写しがあるか「調査される方のお名前と、資格の種類を教えてください」
分析を出す先目視で判断できない建材は分析に出す(石綿障害予防規則第3条第2項)。分析を行う者にも要件がある「分析はどちらへ出されますか。日数はどれくらいですか」
現地調査の範囲天井裏・床下・壁の内側まで見るか。開口して見る場合の費用「天井裏を開けて見る費用は、この見積に入っていますか」
報告の控え都道府県等と労働基準監督署への報告を、いつ、誰が出すか「報告の控えを、着工前にいただけますか」

出典:厚生労働省「石綿総合情報ポータルサイト」。石綿障害予防規則の側でも同じ義務がかかりますが、条番号は今回の調査で確かめられなかったため、確定した番号としては書きません。条番号が要る場合は、e-Gov法令検索で施行日を指定して確認してください。

確認4|見つかったとき、何が増えるか

増えるのは費用だけではありません。レベルによって、届出も工事の方法も変わります。日程に効いてくるのはこちらです。

レベル別に、増える届出と工事
レベル当てはまる建材増える届出と工事
レベル1吹付け石綿。天井裏、機械室、駐車場の天井などに残る作業開始の14日前までに発注者が届出(大気汚染防止法第18条の17第1項)。隔離・前室の設置・負圧化・集じん排気装置。作業計画の作成(石綿障害予防規則第4条)、労働基準監督署への作業届(同規則第5条)、石綿作業主任者の選任(同規則第19条)
レベル2断熱材、保温材、耐火被覆材。配管の巻き、鉄骨の被覆などレベル1と同じ届出と措置が要る
レベル3成形板。ビニル床タイル、けい酸カルシウム板、スレート板など届出は不要。ただし切断・破砕をせずそのまま取り外すのが原則で、難しい場合は湿らせて作業する。手ばらしになるぶん日数が増える

出典:環境省「大気汚染防止法及び政省令の改正について」、環境省「石綿飛散防止対策徹底マニュアル」。レベル1とレベル2が「届出対象特定工事」に当たります。届出の名義は元請業者ではなく発注者です。

確認5|発注者であるあなたにも義務がある

情報を提供すること、費用を負担すること、工期に配慮すること。「工事会社に任せてある」では済みません。

発注者に課される義務と、実際にやること
義務条文実際にやること
調査費用の負担と協力大気汚染防止法第18条の15第2項見積に「石綿事前調査費」を独立した費目で入れてもらう。値引きの対象にしない
工期・工事費への配慮同法第18条の16第1項開店日から逆算して工期を切らない。調査と分析と届出の日数を、工程表に別枠で置く
レベル1・2の届出同法第18条の17第1項作業開始の14日前までに、自分の名義で都道府県などへ出す
石綿の使用状況の通知石綿障害予防規則第8条前の借主から聞いた話や、管理会社からもらった書類を渡す
法令を守れなくする条件を付けない同規則第9条「この金額で収めて」「この日までに」を、調査や措置を省く理由にしない

条文の番号は施行日によって変わることがあります。番号を引用する場合は、e-Gov法令検索で施行日を指定して確かめてください。「知らなかった」は、発注者の側の理由にはなりません。

確認6|記録は3年、掲示はA3以上

記録は3年間の保存、掲示はA3以上。工事中は現場に貼るので、開店準備の写真にも写ります。

記録と掲示の決まり
項目決まっていること誰がやるか
調査記録の保存工事が終わった日から3年間(大気汚染防止法施行規則第16条の8)元請業者。発注者も写しをもらって同じ期間持つと、退去時の話が早い
発注者への説明書面調査結果を書面で説明する。その写しも3年間保存元請業者から受け取る。受け取っていなければ請求する
公衆向けの掲示A3判(42.0cm×29.7cm)以上の掲示板を、公衆の見やすい場所に設置(同法第18条の15第5項、同規則第16条の9・第16条の10)元請業者。設置する位置は、店の入口や近隣との関係を見て相談する
作業者向けの掲示調査を終えた年月日、方法、結果の概要を、作業する方が見やすい箇所に掲げる(石綿障害予防規則第3条第3項)元請業者

出典:環境省「大気汚染防止法及び政省令の改正について」。石綿障害予防規則の側の保存期間については、厚生労働省のパンフレットに長期の保存を求める記載がありますが、条番号を一次情報で特定できませんでした。この記事では、確かめられた3年だけを書きます。

確認7|名古屋市の補助を使えるか

吹付けアスベストの対策には、名古屋市の補助制度があります。対象と上限が決まっているので、着工前に確かめてください。

名古屋市 民間既存建築物吹付けアスベスト対策補助事業
項目内容注意
分析調査費全額補助、上限15万円石綿の含有率が0.1重量%を超えるかを調べる分析が対象
除去・封じ込め・囲い込み工事費費用の3分の2以内、上限120万円3つのうちどれを選ぶかで金額が変わる。設計者と相談する
対象になる建材吹付けアスベスト、吹付けロックウール(含有率0.1重量%超)床材や天井材などの成形板は対象外
対象外解体する予定の建築物スケルトンに戻す原状回復では、対象にならない場合がある。事前に相談する
申請の時期契約する前工事を契約したあとの申請は受け付けられない

出典:名古屋市「民間既存建築物吹付けアスベスト対策補助事業」(2026年7月27日更新)、厚生労働省「補助金制度」。国の住宅・建築物アスベスト改修事業は、地方公共団体に制度がある場合に使えるもので、対象は吹付けに限られます。成形板の除去に使える補助は、確認できませんでした。

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よくある質問

居抜きの内装を少し変えるだけです。それでも調査は要りますか?

要ります。事前調査の義務に規模の下限はありません(石綿障害予防規則第3条)。規模で変わるのは、結果を役所へ報告する義務のほうです。

ただし、2006年9月1日より後に着工したと書面で分かる建物なら、現地の目視調査を省ける場合があります(大気汚染防止法施行規則第16条の5)。まず確認済証か検査済証の日付を探してください。

調査の費用は、施主と工事会社のどちらが払いますか?

元請業者が行う調査に必要な費用は、発注者が適正に負担し、調査に協力します(大気汚染防止法第18条の15第2項)。

見積書に「石綿事前調査費」の行がないときは、含まれているのか別途になるのかを聞いてください。含めていない見積は、あとから必ず追加になります。この費目を値引きの対象にしないことも大切です。

石綿が見つかったら、工事はどれくらい延びますか?

日数の公的な目安は確認できませんでした。数字を作って書くことはしません。

分かっているのは、レベル1とレベル2に当たると、発注者が作業開始の14日前までに届出を出すことです(大気汚染防止法第18条の17第1項)。この14日は動かせません。分析に出す日数と合わせて、工程表に別枠で置いてください。

調査をしないまま工事を始めたら、どうなりますか?

報告の義務に違反すると30万円以下の罰金です(大気汚染防止法第35条第4号)。隔離などをせずに吹付け石綿を取り除いた場合は、3月以下の懲役または30万円以下の罰金(同法第34条第3号)。

作業基準に合わせる命令に従わなかったときは、6月以下の懲役または50万円以下の罰金です(同法第33条の2第1項第2号)。労働安全衛生法にもとづく側の罰則は、一次情報で条番号を確かめられなかったため、この記事では書きません。

まとめ|7つのうち、6つは着工前に終わる

自己負担が出た場合も、「何日分の粗利にあたるか」に置き換えれば判断できます。

見積書に調査の行がなければ、まずそこを聞いてください。着工してから止まるより、はるかに安く済みます。

工事を止めないための7つの確認(再掲)
確認することいつ確認するか動かせない数字
1. 建物の着工日物件を契約する前2006年9月1日
2. 工事の規模見積を受け取ったとき解体80平方メートル/改修100万円
3. 調査する人の資格調査を頼む前2023年10月1日から義務
4. レベルと届出調査の結果が出たときレベル1・2は14日前までに届出
5. 発注者としての義務工事を契約する前費用の負担、工期への配慮
6. 記録の保存と掲示着工の直前記録3年、掲示A3以上
7. 補助の申請工事を契約する前分析は上限15万円、除去は上限120万円
除去工事の自己負担を、何日分の粗利に置き換える(編集部の試算例・すべて仮の数値)
段階計算出る数字
除去工事の費用仮に180万円180万円
名古屋市の補助費用の3分の2以内、上限120万円120万円
自己負担180万円 − 120万円60万円
1日の粗利日商15万円、粗利率60%として9万円/日
何日分にあたるか60万円 ÷ 9万円約6.7日分の粗利
補助を使わなかった場合180万円 ÷ 9万円20日分の粗利

数値はすべて例です。この費用は売上を生む投資ではなく、開業資金から差し引かれるものです。だから見るのは回収の期間ではなく、営業の何日分に相当するか。契約前に申請するかどうかで、13日分の差が出る計算になります。

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