美容室の開業費用は、内外装工事だけで決まりません。ただしその半分近くを内外装工事が占めるという調査結果があります。
日本政策金融公庫が美容業117件を対象に調べた開業費用の内訳では、内外装工事が50.6%(476万円)を占めていました(日本政策金融公庫「新たに美容業を始めるみなさまへ」2015年8月版、2014年度新規開業実態調査より)。
この調査は2014年度時点のもので、その後の内装工事費の物価上昇は反映されていません。金額そのものより、比率の目安として使うのが安全です。
比率を土台に、席数や設備の条件で金額がどう変わるかを、7つに整理しました。
この記事でわかること
- 美容室の開業費用のうち、内外装工事が占める比率の目安
- 機械・什器、運転資金など残りの内訳と資金計画への反映のしかた
- 席数(セット面の数)から金額を組み立てる考え方
- シャンプー台・電気容量で金額が変わる理由
- 居抜きかスケルトンかで内外装費の配分がどう変わるか
- 美容業向けの資金調達の制度
美容室開業の手続き全般は美容室開業の準備と手続き、セット面・シャンプー台の寸法は美容室の内装で決める8つのこと、居抜き物件の設備確認は美容室の居抜き物件で確認する7つのことで扱っています。この記事は費用の内訳と資金計画に絞ります。
決め1|内外装工事費が、開業資金のどれだけを占めるかを知る
内外装工事が開業費用のおよそ半分を占める内訳は、上の図のとおりです。この比率を自店の総予算に当てはめれば、内外装工事にかけられるおおよその金額を逆算できます。
この調査より新しい、美容業に絞った公的な費用データは見つかりませんでした。同公庫の最新の「創業の手引+プラス」は、統計値ではなく仮名を使ったモデルケースの記入例に置き換わっています。
| 費目 | 比率 | 金額 |
|---|---|---|
| 内外装工事 | 50.6% | 476万円 |
| 機械・什器・備品等 | 21.0% | 197万円 |
| 運転資金 | 16.0% | 150万円 |
| テナント賃借費用 | 11.1% | 104万円 |
| 営業保証金・FC加盟金等 | 1.4% | 13万円 |
出典:日本政策金融公庫「新たに美容業を始めるみなさまへ 創業の手引+プラス」(2015年8月版、2014年度新規開業実態調査を美容業のみ抽出、有効回答117件)。2014年度時点のデータであり、その後の内装工事費の物価上昇は反映されていません。
決め2|内訳の残りを、資金計画に反映する
内外装工事以外にも、機械・什器・備品等が21.0%を占めます。セット面の椅子、シャンプー台の機器部分、パーマ機器、レジ・決済端末などがここに入ります。
見落とされがちなのが運転資金16.0%です。開業直後は客数が少なく、家賃・人件費の支払いが先行します。内外装工事費だけで資金計画を立てると、開業後数か月で運転資金が尽きます。資金計画全体は店舗開業にかかる費用の全体像で扱っています。
決め3|席数(セット面の数)を決めてから、金額を組み立てる
美容室の内装費は、席数(セット面の数)にほぼ比例して増えます。セット面が増えるほど、シャンプー台・電気容量・作業室の面積も比例して大きくする必要があるためです。
作業室の構造設備の基準は、美容師法にもとづき都道府県が条例で定めます(美容師法第13条第4号)。愛知県も「新たに理容所・美容所を開設される方へ」で、営業施設の基準の根拠として同法第13条、同法施行規則第26条・第27条とあわせて県条例第2条を挙げ、名古屋市・豊橋市・岡崎市・一宮市・豊田市が独自に保健所を持つとしています。席数を確定させる前に、所在地を管轄する保健所へ図面を持って相談してください。
決め4|シャンプー台の給排水・給湯能力で、金額が変わる
美容師法施行規則第27条第1号は、美容のための直接の作業を行う場合の作業面の照度を100ルクス以上と定めています。厚生労働省の理容所及び美容所における衛生管理要領は300ルクス以上が望ましいとしています。
シャンプー台は、洗い場としての流水設備と給湯設備が必須です(美容師法施行規則第26条)。台数が増えるほど、同時使用に耐える給湯能力(号数)と、排水トラップの系統が増え、設備工事費に直結します。
| 項目 | 基準・目安 | 確認すること |
|---|---|---|
| 作業面の照度 | 100ルクス以上(法令)/300ルクス以上が望ましい(衛生管理要領) | 照明計画とあわせて確認する |
| 洗い場の給湯・給排水 | 流水装置・給湯設備・排水トラップが必須 | 台数分の給湯能力(号数)を確認する |
| 作業室の構造設備基準 | 都道府県条例で規定(愛知県条例第2条) | 所在地の保健所へ図面を持って相談する |
出典:美容師法第13条・同法施行規則第26条・第27条、愛知県「新たに理容所・美容所を開設される方へ」。数値は都道府県・保健所設置市ごとに異なる場合があるため、必ず所在地の保健所で確認してください。
決め5|電気容量は、契約前に確認する
ドライヤー・パーマ機器・スチーマーなどを複数台同時に使うため、美容室は一般の物販店より電気容量を必要とします。ただし、美容室に特有の容量を法令で定めた基準は見当たりませんでした。
実務では、契約電力・動力の引き込み容量を、機器の入力から逆算して確認します。物件契約後に容量不足が分かると、電力会社への引き込み工事が追加で発生します。詳しい確認手順は店舗の電気容量が足りない物件を避けるにはにまとめています。
決め6|居抜きかスケルトンかで、内外装費の配分が変わる
美容室の居抜き物件では、シャンプー台の位置と給排水、給湯器の号数、電気容量、セット面の間隔が前のテナントの仕様のまま残ります。これらを流用できれば、内外装工事費のうち設備部分を抑えられます。
流用できるかどうかは、法定耐用年数・能力・法令適合・部品の供給状況で個別に判定します。判定の視点は美容室の居抜き物件で確認する7つのこと、居抜きとスケルトンの総額比較はスケルトンと居抜きの違いで扱っています。
決め7|美容業向けの資金調達の制度を確認する
日本政策金融公庫には、生活衛生関係の事業を対象にした生活衛生新企業育成資金があります。美容業・理容業はここに含まれます。
貸付限度額は、振興計画認定組合の組合員か否かで設備資金8,700万円〜7億3,500万円の幅があり、運転資金は組合員のみ対象です。女性の方、35歳未満または55歳以上の方などには特別利率もあります。実際に多く使われる一般貸付(生活衛生貸付)とあわせ、日本政策金融公庫の窓口で条件を確認してください。融資全体の選び方は店舗開業の融資はどこから借りる?で扱っています。
よくある質問
美容室の内装費用は、坪単価でいくらと考えればよいですか?
美容室の内装工事費について、坪単価を示す公的な統計は見つかりませんでした。業種別の坪単価の目安と、坪単価だけで判断すると読み違える理由は店舗内装の坪単価はいくらかで扱っています。この記事の比率(内外装工事が開業費用の50.6%)を、自店の総予算に当てはめて概算する方法をおすすめします。
2014年度の調査データを、そのまま使ってよいですか?
金額の絶対値(476万円など)は当時の物価水準のものです。その後の内装工事費の上昇を示す公的な指数は確認できていないため、この記事では新しい絶対額を書きません。内外装工事が開業費用のおよそ半分を占めるという比率の構造を、参考にしてください。
愛知県の作業室の面積基準は、具体的に何㎡ですか?
愛知県条例第2条が構造設備の基準を定めていますが、具体的な数値は保健所設置市(名古屋市・豊橋市・岡崎市・一宮市・豊田市)ごとに運用が異なる場合があります。席数を確定させる前に、所在地を管轄する保健所へ図面を持って相談してください。
居抜きなら、内外装費は必ず安くなりますか?
必ずではありません。シャンプー台や電気容量などの設備を流用できれば抑えられますが、法定耐用年数を超えていたり、現行基準に適合しなかったりする設備は、結局解体・更新が必要になります。個別の設備ごとに流用できるかを判定してください。
生活衛生新企業育成資金と、一般の創業融資はどちらを使うべきですか?
生活衛生新企業育成資金は美容業・理容業など生活衛生関係の事業を対象にした制度で、貸付限度額が大きい点が特徴です。ただし実務では一般貸付(生活衛生貸付)が使われる場面も多いため、日本政策金融公庫の窓口で自分の開業規模に合う制度を確認してください。
まとめ|比率を土台に、自店の見積もりで金額を確かめる
| 決めること | 要点 |
|---|---|
| 1. 内外装工事費の比率 | 開業費用の50.6%(2014年度調査、比率の目安) |
| 2. 残りの内訳 | 機械・什器21.0%、運転資金16.0%等も資金計画に反映 |
| 3. 席数から組み立てる | 作業室の構造設備基準は都道府県条例。保健所へ確認 |
| 4. シャンプー台の給排水 | 台数分の給湯能力・排水系統が費用に直結 |
| 5. 電気容量 | 法令の数値基準はなし。契約前に容量を逆算する |
| 6. 居抜きかスケルトンか | 設備を流用できれば内外装費を抑えられる |
| 7. 資金調達の制度 | 生活衛生新企業育成資金など美容業向けの制度を確認 |
美容室の内装費用は、2014年度の調査でも開業費用のおよそ半分を占めていました。金額の絶対値ではなく比率を土台に、自店の総予算に当てはめて概算してください。
そのうえで、席数・給排水・電気容量という具体的な条件を、内装会社と保健所の両方に確認しながら金額を固めていくと、着工後の追加費用を防げます。