賃貸借契約書は、家賃と期間を決める書類ではありません。内装工事でどこまでやれるかを決める書類です。判を押したあとでは、書いてあることが前提条件になります。

金額でも効いてきます。賃料20万円の物件で敷金6か月なら120万円。そのうち償却2か月と書かれていれば、40万円は退去時に戻りません。原状回復がスケルトン戻しなら、その費用も開業時から確定しています。

住宅の賃貸借とは仕組みが違います。借地借家法の一部は事業用でも借主を守りますが、消費者契約法は事業者同士の契約には働きません。不利な条項でも、合意していれば有効です。

この記事でわかること

  • 届いた契約書が普通建物賃貸借か定期建物賃貸借かを条文の書きぶりから見分け、内装投資の回収期間をどちらの前提で計算すべきか判断できる
  • 敷金・保証金・償却・礼金の違いを整理し、「退去時にいくら戻るか」を金額で言える状態にする
  • 中途解約条項を読んで、閉店を決めてから明け渡しまでに何か月分の賃料が出ていくかを先に計算できる
  • 内装工事の承諾範囲と指定業者の条項から、どの工種で相見積もりが取れるかを書面で確認する質問文が手に入る
  • 原状回復条項の「スケルトン」「入居時の状態」という言葉が、自分の工事のどこまでを撤去対象にするかを読み分けられる
  • 設備の修繕負担区分を条文で確認し、空調が壊れたときに誰がいくら払うかを契約前に確定させられる
  • 不動産会社に出すそのまま使える質問文と、回答を書面で残す手順
解約予告6か月分の132万円は延べ733人分、初期費用のうち戻らない115万円は640人分、工事期間2か月の賃料44万円は244人分、礼金1か月分の20万円は111人分にあたる。
いちばん大きいのは、閉店を決めたあとに出ていくお金|礼金や工事期間中の賃料より、解約予告6か月分のほうが大きくなります。入るときの条件だけでなく、出るときの条項を判を押す前に読んでください。

物件そのものの見方は店舗物件の選び方|内装工事の視点で内覧時に確認する10のポイント、 スケルトンと居抜きのどちらを選ぶかはスケルトンと居抜きの違い|費用・工期・退去で変わる7つの判断材料、 電気容量や給排水といった設備条件は店舗の電気容量が足りない物件を避けるには|契約前に確認する7つの設備条件、 退去時の工事そのものは店舗の原状回復でトラブルを避ける7つの対策|スケルトン戻しの範囲と契約書の読み方と店舗を閉めるときの手順|解約予告から明け渡しまでの8つの段取りで扱っています。 この記事は物件の良し悪しではなく、契約書に書かれた条項が内装工事と退去時の出費にどう効くかだけに絞ります。

契約書が、内装工事の自由度を決めてしまう

指定業者、造作の所有権、原状回復の範囲、看板を出せる位置。これらは契約書に書いてあり、契約後に気づいても交渉の材料が残っていません。

契約書の条項が内装工事のどこに効くか(契約後に気づいた場合の影響)
契約書で決まること 契約後に気づくと何が起きるか 契約前に自分で確かめる方法
工事を頼める会社の範囲 指定業者の見積もりしか取れず、比較のしようがない。金額が想定を超えても、賃料が発生しているので待てない 契約書と館内規則の「工事」に関する条項を探し、「指定業者の対象になる工種を書面でいただけますか」と質問する
壊してよい範囲・触れない範囲 図面を引き直すことになり、設計料と工期が追加になる。天井を抜けない、壁を撤去できないといった制約が後から出る 「躯体・防火区画・共用設備のうち、手を加えられない部分はどこですか」と図面上で示してもらい、写真に記録する
退去時に撤去する範囲 造作をすべて撤去する前提で見積もりが出て、閉店・移転の判断そのものができなくなる 原状回復条項の文言をそのまま読み、「引き渡し時の状態」を写真と図面で特定して契約書に添付してもらう
工事にかけられる期間 賃料発生日から開店日までの日数が足りず、工程を圧縮するために仕様を落とすことになる 引き渡し日・賃料発生日・フリーレントの期間を条文から書き出し、内装会社の工期と並べて日付で照合する
投資を回収できる年数 契約期間が3年で更新の保証がなく、内装費を何年で償却する計画だったのかが崩れる 契約書の表題と期間の条項を見て、普通建物賃貸借か定期建物賃貸借かを先に確定させる

事業用の賃貸借は、住宅用と何が違うか

「重要事項説明で読み上げられたから大丈夫」とはなりません。事業用では、借主の側が自分で読んで判断することが前提になっています。

住宅の賃貸借と事業用(店舗)の賃貸借で、働く仕組みがどう違うか
仕組み 店舗の契約でどう働くか 読むときに自分がすること
借地借家法の更新・正当事由 建物の賃貸借であれば店舗にも適用される。第26条の法定更新、第28条の正当事由、第30条の強行規定が働く。ただし第38条の定期建物賃貸借を選んだ場合は更新がない旨を定められる 契約書の表題と期間の条項を見て、どちらの型かを最初に確定させる。「定期」の2文字と「更新がない」という文言を探す
消費者契約法の不当条項規制 働かない。同法第2条第1項により、事業のために契約の当事者となる個人は消費者から除かれる。個人事業主でも事業者として扱われる 「消費者契約法で無効になるのでは」という前提を捨て、条項の中身そのものを1つずつ読む姿勢に切り替える
原状回復のガイドライン 直接は適用されない。国土交通省の資料は民間賃貸住宅を対象としている。店舗では契約書の特約が実際の負担を決める ガイドラインの内容を根拠にせず、契約書の原状回復条項の文言と、引き渡し時の写真・図面で範囲を特定する
民法の賃貸借に関する規定 適用されるが、多くは任意規定と解されており、特約があれば特約が優先する。第621条の原状回復義務、第622条の2の敷金、第606条の修繕義務などが基本形になる 契約書の条項が民法の基本形とどこで違うかを探す。違っている箇所こそが、その物件固有の条件になる
2020年4月施行の民法改正 敷金の定義や返還時期、原状回復の範囲、一部滅失時の賃料減額などが条文化された。古い雛形は条文と表現が食い違うことがある 契約書の作成日と条項の表現を見て、「一部滅失の場合は減額を請求できる」など旧来の書きぶりが残っていないかを確認する

判を押す前に読む9つの条項

契約書のうち、内装とお金に効くのはこの9項目です。契約の種類、日付と費用、預けるお金、中途解約、用途と看板、工事の承諾と指定業者、原状回復、修繕の負担、更新と賃料改定。

条項ごとに、書きぶりの違いで何が変わるかを表にしました。賃料20万円の物件を例に、金額まで置いてあります。

契約の種類が内装投資の回収計画にどう効くか
契約の型 投資の回収期間をどう考えるか 契約前に自分で確かめる方法
普通建物賃貸借 更新を前提に計画できる。賃貸人からの更新拒絶には第28条の正当事由が必要なため、通常は継続を見込んでよい。内装の耐用年数に近い年数で回収計画を引ける 契約書の表題に「定期」の文字がないこと、更新に関する条項があること、別紙の説明書がないことを確認する
定期建物賃貸借(期間5年) 期間満了で終了する前提で計画する。内装費500万円なら60か月で割って月8.3万円。この金額を毎月の固定費に上乗せして採算が合うかを見る 「更新がなく期間の満了により終了する」旨を記載した書面を受け取ったか、その日付が契約日より前かを確認する
定期建物賃貸借(期間3年) 36か月で割ると内装費500万円は月13.9万円。賃料と同程度の負担になる場合があり、居抜きや原状回復不要の条件と組み合わせないと成立しにくい 再契約に関する条項があるか、再契約の条件(賃料改定の有無・手数料)が書かれているかを条文で探す
期間の定めがない契約 借地借家法第27条第1項により、賃貸人からの解約の申し入れの日から6か月の経過で終了する。ただし第28条の正当事由は必要 期間欄が空欄または1年未満になっていないかを確認する。1年未満は第29条第1項により期間の定めがないものとみなされる
日付と費用の条項で確認する項目(賃料20万円・共益費2万円の物件を例にした試算)
確認する項目 読み違えると何が起きるか 契約前に自分で確かめる方法
引き渡し日 鍵を受け取る日が着工可能日になる。ここが1週間ずれると、工期の後ろが1週間ずれて開店日が動く 「鍵の引き渡しは何月何日ですか。その日から工事に入れますか」と日付で確認し、電子メールで回答を残す
賃料発生日 引き渡し日と同じなら、工事期間中も賃料が出ていく。工期2か月なら賃料と共益費で44万円の持ち出しになる 契約書の賃料に関する条項で「〇年〇月〇日から発生する」という日付を探し、引き渡し日と並べて日数を数える
フリーレントの期間と対象 賃料は無料でも共益費は発生する契約が多い。3か月のフリーレントでも共益費6万円は出ていく 「フリーレントの対象は賃料だけですか、共益費も含みますか」と質問し、契約書の該当条項の文言を確認する
フリーレントの解除条件 2年以内の解約で免除分の返還が求められる条項があると、3か月分60万円が退去時に追加される フリーレント条項の後半に「返還」「遡って」という語がないかを探す。あれば何年以内が対象かを数字で確認する
共益費に含まれる範囲 空調の運転費や共用部の修繕が別途請求になり、月の固定費が想定より数万円高くなる 「共益費に含まれる項目と、別途請求になる項目を書面でいただけますか」と質問する
賃料の支払い方法と遅延損害金 前家賃か後家賃か、口座振替か振込かで資金繰りの山が変わる。遅延損害金の利率も条文にある 支払い期日が毎月何日かを確認し、開店月の資金繰り表に賃料の支払日を書き込む
契約時に払うお金の性質と、退去時に戻るかどうか(賃料20万円の物件を例にした試算)
名目 性質と、退去時に戻るかどうか 契約前に自分で確かめる方法
敷金(6か月=120万円) 民法第622条の2の定義に当たる担保金。賃貸借が終了し賃貸物の返還を受けたときに、賃借人の債務を控除した残額が返還される 「敷金は明け渡しから何日以内に返還されますか」と質問し、契約書の返還時期の条項と照合する
償却・敷引き(2か月=40万円) 特約により返還されない金額。契約書に「うち〇か月分は償却する」と書かれていれば、その分は戻らない前提で計画する 償却の対象が「敷金のうち何か月分」なのか「賃料の何%」なのかを条文で確認し、金額を計算して書き出す
礼金(1か月=20万円) 貸主に対する一時金で、返還されない。敷金とは性質が異なるため、返還される金額の計算には入れない 契約書と重要事項説明書で、礼金と敷金が別項目として記載されているかを確認する
保証会社の保証料 保証会社へ支払う費用で、返還されない。初回のほか年ごとの更新料が発生することが多い 初回の金額と、更新のたびに発生する金額と時期を、保証委託契約書で確認する
原状回復費の充当 退去時の原状回復工事費が敷金から控除される。工事費が敷金残額を超えれば追加で請求される 「原状回復費は敷金から控除されますか。超過分は請求されますか」と質問し、条文の該当箇所を示してもらう
返還時期 明け渡し完了後に精算されるため、次の物件の契約金には間に合わないことが多い 返還時期の条文を読み、移転の資金計画では敷金の返還を当てにしない前提で組む
中途解約条項の読み分け(賃料20万円・共益費2万円の物件を例にした試算)
条文の書き方 閉店を決めてから出ていく金額 契約前に自分で確かめる方法
解約予告6か月・違約金なし 賃料と共益費で132万円。予告後も営業を続けられれば、その間の売上で一部を賄える 「予告期間中も営業を続けてよいですか。原状回復工事はいつから入れますか」と質問し、回答を書面で残す
解約予告6か月・予告期間分の支払いで即時解約可 同じく132万円だが、明け渡しを早められる。移転先の賃料と二重払いになる期間を短縮できる 「予告期間に代えて相当額を支払う」旨の文言が条文にあるかを探し、支払いのタイミングを確認する
解約予告6か月・違約金として別に賃料6か月分 賃料と共益費で264万円。粗利率60%なら売上440万円分、客単価3,000円なら延べ1,466人分の売上に相当する 違約金の条項が解約予告の条項と別立てになっていないかを確認し、重複の有無を書面で質問する
定期建物賃貸借・中途解約の特約なし 残存期間分の賃料に相当する負担が問題になり得る。期間5年で2年目の解約なら3年分の重さになる 契約書に中途解約に関する条項があるかを探す。なければ「中途解約はできますか」と書面で質問する
開店前(工事中)の解約 予告期間分に加え、フリーレントの返還、着工済み工事の出来高精算、原状回復が重なる 「引き渡し後・開店前に解約した場合の負担を、項目別に教えてください」と質問する
用途・業種・看板の条項で確認する項目
確認する項目 確認しないと何が起きるか 契約前に自分で確かめる方法
用途欄の業種名 あとから業態を広げるときに承諾が必要になり、断られると計画そのものが止まる 「3年後にこういう営業を加えたい場合、この用途の記載で足りますか」と具体的に質問する
営業時間の制限 深夜営業ができず、想定していた売上の時間帯が丸ごと消える 契約書と館内規則の両方で営業時間・搬入時間・ごみ出し時間の定めを探す
同業種の出店制限 同じ建物に競合が入り、想定した集客が成り立たなくなる 「同業種の出店を制限する定めはありますか」と質問し、回答を電子メールで残す
看板の位置と大きさ 出したい位置に出せず、通行者から店の存在が分からない状態で開店することになる 内覧時に看板を出したい位置を写真に撮り、寸法を測って「ここにこの大きさで出せますか」と図面で確認する
看板の意匠の承諾 デザインが決まってから承諾が下りず、作り直しの費用と時間がかかる 承諾に必要な書類と審査にかかる日数を確認し、内装会社の工程表に組み込む
看板の撤去義務 退去時に撤去と壁面の補修が求められ、原状回復費が想定より膨らむ 原状回復条項に看板が含まれるかを確認し、含まれるなら撤去費を退去時の予算に入れておく
内装工事の承諾と指定業者の条項で確認する項目
確認する項目 曖昧なまま進めると何が起きるか 契約前に自分で確かめる方法
承諾が必要な工事の範囲 着工後に「これも承諾が必要だった」と止められ、工期が延びて賃料が余分に出ていく 「承諾が必要な工事の範囲を、工種ごとに書面でいただけますか」と質問し、回答を保存する
指定業者の対象工種 相見積もりが取れず、想定の3割高い見積もりをそのまま受けることになる 指定業者の対象と対象外を一覧でもらい、対象外の工種だけでも複数社に見積もりを依頼する
承諾申請に必要な図面 図面が足りず、作成のために設計料と日数が追加になる 必要書類の一覧をもらい、内装会社に渡して見積もりに含めてもらう
承諾までの日数 着工が遅れ、開店日が動く。告知済みなら仕様を削って工期を詰めることになる 「申請から承諾まで何日かかりますか」と日数で質問し、工程表に反映する
触れられない部分 設計をやり直すことになり、設計料と時間が二重にかかる 躯体・防火区画・共用配管・スプリンクラーの位置を図面で示してもらい、内装会社に共有する
工事中の共用部の使用 資材の搬入経路や作業時間に制限があり、工期が延びて工事費が上がる 搬入可能な時間帯、エレベーターの養生の要否、駐車場の有無を確認して見積もりの前提に入れる
原状回復条項の書きぶりごとの読み分け(20坪の飲食店を例にした場合)
条文の書きぶり 退去時に何を撤去することになるか 契約前に自分で確かめる方法
「賃貸借開始時の状態に復して」 引き渡し時の状態が基準になる。居抜きで受けたなら前の設備を残す。スケルトンで受けたなら躯体まで戻す 引き渡し日に区画全体を写真に撮り、設備一覧と平面図を作って契約書に添付してもらう
「スケルトン状態に復して」 引き渡し時の状態にかかわらず躯体まで戻す。居抜きで受けた設備の撤去費も自分が負担することになり得る 「引き渡し時に残っている設備の撤去費も自分の負担になりますか」と質問し、回答を書面で受け取る
造作買取請求権の放棄 借地借家法第33条の買取請求ができない。作った造作は費用をかけて撤去する対象になる 契約書全体を「造作」「買取」で検索し、放棄の文言があるかを確認する
工事業者の指定 原状回復工事も指定業者に限られると、退去時の見積もりを比較できない 「原状回復工事にも指定業者がありますか」と質問し、あれば概算の単価を聞いておく
明け渡し期限と賃料 工事が期限内に終わらないと、賃料相当の損害金が日割りで発生する条項が多い 明け渡し期限が解約日と同じかを確認し、工事日数を逆算して予告のタイミングを決める
造作を次の借主へ譲る道 原状回復せずに造作を譲渡できれば撤去費が不要になる。ただし貸主の承諾が要る 「造作を次の借主へ譲る形での明け渡しは可能ですか」と質問し、条件を確認する
設備ごとの修繕負担区分を確認する(金額は例として置いた目安)
設備 借主負担だった場合に何が起きるか 契約前に自分で確かめる方法
業務用空調 真夏に停止すると営業できない。修理で数万円から十数万円、入れ替えなら数十万円の突発的な支出になる 設置年と型番を内覧時に写真で記録し、「この空調は貸主負担ですか借主負担ですか」と質問する
給湯器 飲食店や美容室では給湯が止まると営業できない。交換には工事の日程調整も必要になる 給湯器の設置年を確認し、「故障時の交換費用の負担はどちらですか」と条文で示してもらう
排気ダクト・換気設備 清掃費用が定期的に発生する。ダクトの経路が共用部を通る場合は工事の承諾も必要になる 清掃の頻度と費用負担が契約書または館内規則に定められているかを確認する
給排水管・グリストラップ 詰まりや漏水の修理費が借主負担になる。階下への漏水は損害賠償の問題にもなる 「専有部と共用部の境目はどこですか」を図面上で示してもらい、写真に記録する
シャッター・自動ドア 防犯と出入りに直結する。故障すると営業を止めざるを得ない場合がある 負担区分と、緊急時の連絡先および対応時間帯を書面で受け取る
小修繕の金額の線引き 「1件あたり〇万円までは借主負担」という定めがあると、その金額までは毎回自分が払う 線引きの金額が条文にあるかを探し、なければ「小修繕の負担の基準はありますか」と質問する
更新・賃料改定・転貸と譲渡の条項で確認する項目(賃料20万円の物件を例にした試算)
確認する項目 確認しないと何が起きるか 契約前に自分で確かめる方法
更新料の有無と金額 2年ごとに賃料1か月分なら20万円。忘れていると資金繰りに穴が空く 更新に関する条項で金額と時期を確認し、開業から10年分の支出予定表に書き込む
更新手数料・保証委託の更新料 仲介会社や保証会社への更新費用が別に発生し、更新時の負担が想定の2倍になる 「更新時に発生する費用を、支払い先ごとに金額で教えてください」と質問する
賃料改定の条項 数年ごとに一定率で増額される定めがあると、内装投資の回収計画の前提が崩れる 改定の条件(時期・根拠・上限の有無)を条文で読み、増額された場合の月額を計算する
増額しない旨の特約 特約があれば借地借家法第32条第1項但し書きによりその定めに従う。有無で交渉の余地が変わる 「一定期間賃料を増額しない特約はありますか」と質問し、あれば期間を確認する
転貸・賃借権譲渡の可否 事業譲渡や造作譲渡による退去の道が閉ざされ、原状回復して明け渡すしかなくなる 民法第612条に対応する条項を読み、承諾が得られる条件と承諾料の有無を確認する
名義変更・経営主体の変更 個人から法人への切り替えが譲渡とみなされ、承諾料や再契約が必要になる 「法人成りする場合の手続きと費用を教えてください」と、契約前の段階で質問しておく
9つの条項の確認リスト
  • 条項1。表題と「更新」の有無を見る。定期建物賃貸借なら、内装費を契約期間の月数で割って1か月あたりの負担を計算する
  • 条項2。引き渡し日・賃料発生日・開店予定日を1本の線に並べる。フリーレントの解除条件を条文で確認する
  • 条項3。敷金・保証金・償却・礼金を分けて表に書き出し、「退去時に戻る金額」を1つの数字にする
  • 条項4。解約予告期間の起算日と、違約金が予告期間と重複するかを条文で確定させる
  • 条項5。用途欄の業種名と、実際にやりたい営業内容を突き合わせる。看板の位置・大きさ・費用負担を図面で確認する
  • 条項6。指定業者の対象工種を書面でもらう。承諾の申請から着工までに何日かかるかを日数で聞く
  • 条項7。「スケルトン」「入居時の状態」がどの範囲かを、引き渡し時の写真と図面で特定して契約書に添付する
  • 条項8。設備ごとに貸主負担か借主負担かを一覧にする。金額の線引き(何万円までは借主負担か)を数字で確認する
  • 条項9。更新料の有無と金額、賃料改定の条項、転貸と賃借権譲渡の可否を確認する。造作を売って退く可能性があるなら第6項と第9項をセットで読む

敷金・償却を「回収に何か月か」に翻訳する

120万円と言われても判断できませんが、「粗利で埋めるのに何か月」「お客様何人分」と言われれば判断できます。契約時の支出は、開業後の売上で回収する前借りです。

契約に伴う支出を売上とお客様の人数に翻訳する(賃料20万円・粗利率60%・客単価3,000円を例にした試算)
支出の項目 売上・人数への翻訳 この数字を見て自分がすること
償却2か月=40万円 粗利40万円に必要な売上は約67万円。客単価3,000円で延べ222人分。月25日営業なら9日弱の売上 「償却を1か月分にできませんか」と契約前に交渉する。動かなければ開業予算に組み込む
礼金1か月=20万円 売上約33万円分、延べ111人分。戻らないお金なので初期費用として計上する フリーレントとの交換条件にできないかを確認する。どちらか一方は動くことがある
工事期間2か月の賃料=44万円 売上約73万円分、延べ244人分。売上ゼロの期間に出ていく フリーレントの月数と工期を並べ、賃料が発生する月数を最小にする工程を内装会社と組む
解約予告6か月=132万円 売上220万円分、延べ733人分。閉店・移転を決めた時点で確定する 予告期間中も営業できるかを確認し、できるなら実質的な負担がいくら減るかを計算する
初期費用のうち戻らない分=115万円 売上192万円分、延べ640人分。月商150万円なら1.3か月分に相当する この金額を「開店前に消える固定費」として事業計画の初年度に計上する
原状回復費(見積もり前) 金額が確定しないため、敷金残額80万円で収まるかどうかが判断できない 契約前に概算単価を質問し、坪あたりの目安を聞いて敷金残額と比較する

契約前に、不動産会社へ出す質問文

口頭のやり取りは残りません。メールで聞いて、返信を保存してください。そのまま送れる文を用意しました。

返ってきた回答は、内装会社に渡す資料になります。どこに保存していつ使うかまで決めておくと、設計の段階で探さずに済みます。

質問した回答を、どこに保存し、いつ使うか
回答の内容 いつ使うことになるか 保存の仕方
契約の種類と期間 内装費の償却年数を決めるとき、金融機関に事業計画を提出するとき 契約書と説明書を1つのファイルにまとめ、表紙に契約日と期間満了日を書いておく
引き渡し日と賃料発生日 内装会社に工程表を依頼するとき、開店日を告知するとき 7つの日付を1枚の紙に書き出し、内装会社と共有する
指定業者の対象工種の一覧 見積もりを依頼するとき、追加工事が発生したとき 電子データで受け取り、内装会社に転送する。紙でしか出ない場合は撮影して残す
引き渡し時の写真と設備一覧 退去時に原状回復の範囲を確定させるとき 契約書に添付してもらい、同じデータを自分でも別の場所に保管する
修繕の負担区分 設備が故障したとき、予備費の額を決めるとき 設備ごとの負担区分を一覧にして、店舗の書類ファイルに綴じておく
更新料と改定の条件 更新の1年前、賃料改定の申し入れを受けたとき 更新月をカレンダーに登録し、1年前と6か月前に通知が来るようにしておく
不動産会社に送るメールの文例
  1. 1通目(契約書の案を受け取った当日に送る)。 「お世話になっております。〇〇の件でご案内いただいた契約書の案を拝見しました。内装会社に見積もりを依頼するにあたり、次の3点を確認させてください。(1)本契約は普通建物賃貸借と定期建物賃貸借のどちらでしょうか。定期建物賃貸借の場合、更新がない旨の説明書はいつ頂戴できますでしょうか。(2)鍵の引き渡し日と賃料の発生日は、それぞれ何月何日になりますでしょうか。(3)フリーレントの対象は賃料のみでしょうか、共益費も含まれますでしょうか。また一定期間内に解約した場合の返還条項の有無もあわせてお教えください。」
  2. 2通目(1通目の回答が来たら送る)。 「ご回答ありがとうございます。続けて、工事に関する条件を確認させてください。(1)内装工事について、賃貸人の承諾が必要な工事の範囲を、工種ごとに書面でいただけますでしょうか。(2)指定業者制度がある場合、指定業者の対象になる工種と、対象外で自由に発注できる工種を一覧でお示しいただけますでしょうか。(3)承諾の申請に必要な図面の種類と、申請から承諾までの標準的な日数をお教えください。(4)躯体・防火区画・共用配管など、手を加えられない部分を図面上でお示しいただけますでしょうか。」
  3. 3通目(2通目の回答が来たら送る)。 「重ねて恐れ入ります。退去時の条件についても確認させてください。(1)原状回復の範囲は『賃貸借開始時の状態』と『スケルトン状態』のどちらでしょうか。引き渡し時に残置される設備がある場合、その撤去費用の負担はどちらになりますでしょうか。(2)引き渡し当日に室内の写真を撮影し、設備一覧と平面図を作成のうえ、契約書または覚書に添付していただくことは可能でしょうか。(3)原状回復工事についても指定業者がありますでしょうか。(4)造作を次の借主へ譲渡する形での明け渡しをご承諾いただける余地はありますでしょうか。」
  4. 4通目(金額の条件を交渉する場合のみ送る)。 「ご丁寧にご回答いただきありがとうございます。いただいた条件を前提に事業計画を作成しましたところ、初期費用について1点ご相談がございます。敷金6か月のうち償却2か月とのことですが、償却を1か月分にご調整いただくことは可能でしょうか。差額の20万円を内装の設備に充てることで、より長く営業を続けられる計画にしたいと考えております。ご検討いただけますと幸いです。」
  5. 5通目(すべての回答が揃ったら送る)。 「これまでにご回答いただいた内容を、下記のとおり整理いたしました。認識に相違がございましたらご指摘ください。相違がなければ、この内容を前提に契約手続きを進めさせていただきます。(ここに1通目から4通目までの回答を箇条書きで整理する)」

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よくある質問

契約書の案を前にした方から実際によく出る質問を4つ挙げます。 いずれも「場合による」で終わりがちな問いですが、その「場合」を分ける基準まで書きました。 分かれ目になるのは、契約の種類、条文に書かれた範囲の広さ、対象が住宅か事業用か、 そして起算日がどこに置かれているかの4つです。

自分の契約書がどちらに当たるかが分かれば、答えは自分で出せます。 なお、以下は条文と公表資料に基づく一般的な整理であり、 個別の契約条項が有効かどうか、自店にどう適用されるかの最終的な判断は、 弁護士など専門家に確認してください。

定期建物賃貸借(定期借家)の物件は、避けたほうがいいのでしょうか?

一律に避けるべきものではありませんが、内装に大きな金額をかける場合は慎重な判断が必要です。 借地借家法第38条第1項の定期建物賃貸借は、 書面によって契約をするときに限り、契約の更新がないこととする旨を定めることができる契約です。

同条第3項では、賃貸人はあらかじめ賃借人に対し、 更新がなく期間の満了により終了する旨を記載した書面を交付して説明しなければならないと定められており、 同条第5項により、この説明をしなかったときは更新がないとする定めは無効になります。

判断の軸は、内装工事にかける金額を契約期間の月数で割ったときに、1か月あたりいくらの負担になるかです。 期間満了時に再契約できる保証は契約上ありませんから、期間内に投資を回収し切れる金額かどうかを先に計算してください。

なお、同条第7項の中途解約の権利は居住用で床面積200平方メートル未満のものに限られており、店舗には適用されません。

原状回復について、国土交通省のガイドラインを根拠に交渉できますか?

店舗の契約では、そのまま根拠にはできないと考えてください。 国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)は、 平成23年8月16日の報道発表で 「民間賃貸住宅の退去時における原状回復をめぐるトラブルの未然防止のため」のものと明記されており、対象は住宅です。

事業用の店舗やオフィスに直接適用されるものではありません。 民法第621条は、通常の使用および収益によって生じた損耗と経年変化を賃借人の原状回復義務から除いていますが、 この規定は任意規定と解されており、 店舗の契約では特約で「賃借人が入居時の状態に復して返還する」と定められているのが一般的です。

したがって交渉の材料はガイドラインではなく、 契約書の原状回復条項そのものの文言と、契約時に取り交わす引き渡し時の写真および図面になります。 個別の効力の判断は弁護士に相談してください。

内装工事に指定業者制度があると言われました。相見積もりは取れないのでしょうか?

指定業者制度そのものは、契約書や館内規則で定められていれば有効に働きます。 ただし「すべての工事が指定業者に限られる」のか、 「建物の躯体・防災設備・電気幹線・給排水の本管に触れる部分だけが指定業者で、それ以外は届出のうえ自由」なのかは、 建物ごとにまったく違います。

この線引きを口頭ではなく書面で確認するのが先です。 実務では、消防設備・防火区画・共用部の幹線・スプリンクラーの移設だけが指定業者で、 内装の造作や什器、照明器具の取り付けは自由という区分が少なくありません。

確認するときは 「指定業者の対象になる工事の範囲を、工種ごとに書面でいただけますか」 「指定業者以外に発注できる工種はどれですか」と質問してください。 範囲が書面で出てくれば、対象外の工種だけでも相見積もりが取れます。

解約予告6か月・違約金ありの契約です。開店前にやめたくなったら、いくらかかりますか?

契約書の中途解約条項の書き方によって金額が変わるため、条文を読まないと答えは出ません。 確認すべきは3点です。 1点目は、解約予告期間の起算日が「解約の申し入れをした日」なのか「賃料の発生日」なのか。

2点目は、予告期間に代えて予告期間分の賃料相当額を支払えば即時解約できる旨の定めがあるかどうか。 3点目は、違約金が解約予告期間分の賃料と別に発生するのか、それとも重複しないのかです。 仮に賃料20万円で解約予告6か月、違約金が別に賃料6か月分と定められていれば、合計で240万円の負担になり得ます。

この金額に加えて、フリーレント期間の賃料の遡及請求や、着工済みの内装工事の出来高精算、原状回復の費用が重なります。 契約前に必ず条文を読み、必要なら弁護士に確認してください。

まとめ|判を押す前に読む9つの条項

契約書は、読めば分かるように書かれてはいません。けれどもどこを見るかさえ決まっていれば、専門知識は要りません。9つの条項を順に開いて、書きぶりを確かめるだけです。

分からない条項は、そのまま不動産会社に聞いてください。聞いたこと自体が記録になり、あとで効いてきます。

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