内装は、開店したあとでも直せます。壁の色も照明も、お金と時間をかければ変えられます。立地だけは直せません。
その場所にお客様が何人いるのかは、契約前に、無料の公的な道具で数字にできます。半日で集まります。
確かめるのは7つ。6つは机の上で、1つは自分の足で取ります。
この記事でわかること
- 国が無料で公開している3つの調査ツールと、それぞれで何が分かるか
- 物件を決める前に確かめる7つのデータと、取りに行く順番
- 名古屋市と中区で3.5倍違う昼夜間人口比率の読み方
- 半径500mの円ではなく、道路をたどった到達圏で商圏を切る方法
- 公的な統計では分からないことと、現地で数えるしかない項目
- 立地の差を「1日何人」に翻訳して、賃料の差と比べる手順
物件を内覧するときに現地で見る設備の項目は店舗物件の選び方、賃料をいくらまで出せるかの計算は店舗の賃料はいくらまで出せるかで扱っています。この記事はその場所にお客様がいるかどうかを調べることに絞ります。
内装は直せる。立地は直せない
契約したあとに人通りは変えられません。物件選びに使う半日が、内装の数百万円より効くことがあります。
無料で使える公的な道具は3つある
e-Stat、jSTATMAP、そして自治体の統計ページ。登録だけで、商圏の人口も事業所数も取れます。
| ツール | 何が分かるか | 使うときの注意 |
|---|---|---|
| jSTAT MAP (政府統計の総合窓口) | 地図上に円や到達圏を描き、その範囲の人口・世帯数・年齢構成・事業所数を集計できる。国勢調査と経済センサスを地図に重ねられる | データの保存・エクスポートとリッチレポートの作成はログインが必要。集計値は小地域統計を面積で按分した値。円は半径10kmまで |
| RESAS (地域経済分析システム) | マーケティングマップで滞留人口・通過人口・事業所立地・将来人口をメッシュ単位で見られる。人口マップで通勤通学の流動が見られる | ID登録不要・無料。2025年3月7日に新システムへ移行し、APIの提供は2025年3月24日で終了。単位はメッシュか行政区域で、徒歩圏は切れない |
| e-Stat (経済センサス) | 産業の小分類まで、市区町村別の事業所数・従業者数・売上高が取れる。同業が何軒あるかを数えられる | 最新の活動調査は令和3年(2021年6月1日)。令和6年の基礎調査は雇用者のいない個人経営を含まないため、単純に比べられない |
出典:総務省統計局「地図で見る統計(jSTAT MAP)について」、内閣府地方創生推進室・経済産業省中小企業庁「RESAS 地域経済分析システム」、総務省・経済産業省「令和3年経済センサス-活動調査」(産業横断的集計は2023年6月27日公表)。いずれも2026年8月時点で公開を確認しました。
物件を決める前に確かめる7つのデータ
どこに取りに行くかまで表に入れました。上から順に埋めれば足ります。
| データ | どこで取るか | 解説 |
|---|---|---|
| 1. 人口と世帯数(町丁目) | jSTAT MAP/名古屋市の統計ページ | くわしく |
| 2. 昼間人口と夜間人口 | 国勢調査 従業地・通学地集計/名古屋市 | くわしく |
| 3. 到達圏(徒歩・車) | jSTAT MAP 到達圏エリア作成 | くわしく |
| 4. 同業の事業所数 | e-Stat 経済センサス/RESAS 事業所立地分析 | くわしく |
| 5. 通過人口・滞留人口 | RESAS マーケティングマップ | くわしく |
| 6. 現地の通行量と競合 | 自分の足(データは存在しない) | くわしく |
| 7. 将来人口 | RESAS 将来人口メッシュ分析 | くわしく |
データ1|人口と世帯数を、区ではなく町丁目で見る
区の人口では商圏を測れません。同じ区でも、町丁目が変われば人口も世帯構成も変わります。
| 区 | 人口 | この数字の使い方 |
|---|---|---|
| 緑区 | 247,390人 | 市内で最多。住宅地中心のため、昼間に人が減る前提で見る |
| 中川区 | 216,734人 | 面積が広く、区内での差が大きい。町丁目まで落として見る |
| 千種区 | 173,734人 | 学生と住民が混じる。時間帯で客層が変わる想定が要る |
| 守山区 | 175,769人 | 車での来店を前提にした駐車台数の検討が要る |
| 名東区 | 161,768人 | 同上。到達圏は徒歩ではなく車で切る |
| 中区 | 110,032人 | 住民は市内で少ない部類。判断は昼間人口(データ2)で行う |
| 熱田区 | 68,255人 | 市内で最少。商圏を広げるか、通勤・通学の流れを取るかを決める |
出典:名古屋市「毎月1日現在の世帯数と人口」(令和8年8月1日現在、2026年8月20日更新)。これは推計人口です。令和7年国勢調査の速報値を基礎に、住民基本台帳の異動を加減したもので、確定値の公表後に置き換えられます。全16区のうち7区を抜き出して掲載しています。
データ2|昼間人口と夜間人口の差を見る
昼と夜で、来る人がまったく違う場所があります。ランチ中心の業態なら昼間人口、夜の業態なら夜間人口を見ます。
データ3|到達圏を、円ではなく道路で切る
半径500メートルの円は、実際の商圏ではありません。線路や川で分断されていれば、そこから先の人は来ません。jSTATMAPなら道路に沿った到達圏を作れます。
jSTATMAPで到達圏を作る手順
- e-Statのアカウントを作り、jSTAT MAPにログインする(保存とレポート出力に必要)
- 地図で物件の住所を検索し、その地点にプロットを打つ
- 「エリア作成」から「到達圏エリア作成」を選ぶ
- 移動手段(徒歩/車)、速度、時間を入れる。徒歩なら時速4km・10分などから始める
- 同じ地点に半径500mの円も描き、両方を重ねて形の違いを見る
- 作ったエリアを指定して「リッチレポート」を出す(年齢別人口・世帯数・経済センサスなどのシートが出る)
- 徒歩5分・10分・15分、車5分・10分と条件を変えて、同じ手順を繰り返す
データ4|同じ業種の事業所数を数える
競合が多いことは、悪いことばかりではありません。その業態を求める人が集まっている証拠でもあります。
| 産業 | 名古屋市/中区(事業所) | 従業者数(名古屋市) |
|---|---|---|
| 飲食店(中分類76) | 12,791/3,289 | 103,375人 |
| 宿泊業,飲食サービス業 | 14,171/3,485 | 122,382人 |
| 小売業 | 16,069/2,539 | 164,480人 |
| 卸売業,小売業 | 28,936/5,434 | 330,961人 |
出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス-活動調査」表6-1「産業(中分類)別民営事業所数-全国、都道府県、市区町村」(2021年6月1日現在)。令和6年の経済センサスは基礎調査であり、活動調査ではありません。基礎調査は雇用者のいない個人経営の事業所を対象外としているため、事業所数が少なく出ます(名古屋市の飲食店7,868事業所)。年次をまたいで比べないでください。
データ5|通過人口と滞留人口を、時間帯で見る
通り過ぎる人と、留まる人は別です。通過人口が多くても、留まらない場所では飲食は成り立ちません。
データ6|現地で、自分の足で数える
ここだけは統計で代えられません。平日と休日、朝と昼と夕方。数えた数字が、いちばん強い根拠になります。
現地で数えること・見ること
- 平日の朝(通勤時間帯)・昼(11時〜13時)・夕方(17時〜19時)・夜(20時以降)の通行量
- 土曜と日曜の同じ時間帯の通行量
- 通行の向き(駅方向/住宅地方向)と、その比率
- 歩道の幅、ガードレールの有無、横断歩道と信号の位置
- 物件の前で人が止まれるか(立ち止まると通行の妨げになる幅かどうか)
- 周囲の店の営業時間と定休日(自分が開けているときに、街が開いているか)
- 空き店舗の数と、そこに前は何が入っていたか
- 看板が見える距離(歩いてきて何メートル手前から読めるか)
- 夜の明るさ(街灯の間隔、閉まっている店の割合)
- 雨の日の人の動き(アーケードや地下街へ流れていないか)
- 自転車の駐輪状況(停められる場所があるか、放置が多いか)
- 近くの駐車場の台数と料金(駐車場の計画に直結します)
データ7|将来人口で、10年後を見る
契約は10年続きます。いまの人口ではなく、契約が終わるころの人口を見てください。
「徒歩5分」は、何メートルのことか
不動産の表示では、1分=80メートルです。信号も坂も含みません。実際に歩いて確かめてください。
| 表示 | 道路距離 | 現地で確かめること |
|---|---|---|
| 徒歩1分 | 80m以下 | 駅の出口が複数ある場合、どの出口からの距離か |
| 徒歩3分 | 161m〜240m | 横断歩道と信号の数。待ち時間は分数に入っていない |
| 徒歩5分 | 321m〜400m | 坂と階段の有無。地下鉄なら改札からの上下移動 |
| 徒歩10分 | 721m〜800m | 雨の日に歩く距離として現実的か。屋根のある区間はあるか |
出典:不動産の表示に関する公正競争規約 施行規則 第9条第9号(令和4年9月1日施行)(不動産の表示に関する公正競争規約施行規則第9条第9号)。これは景品表示法にもとづいて事業者団体が定めた自主的なルールであり、官公庁が定めた法令ではありません。古い版のPDFでは同じ規定が第10条第10号になっているので、条番号を引用するときは施行日を確かめてください。
データで分からないこと
人の質、通りの雰囲気、隣に何が入るか。数字は候補を絞る道具であって、決める道具ではありません。
よくある質問
調査会社に頼まず、自分で調べても大丈夫ですか?
この記事で挙げた7つは、無料で公開されている公的なデータと、現地で数えることの組み合わせです。特別な技能は要りません。
有料の調査サービスとの違いは、独自に集めた購買データや通行量の実測を持っているかどうかです。まず無料の範囲で調べて、判断がつかない部分だけ相談する順番をおすすめします。
商圏人口が何人あれば、開業して大丈夫ですか?
業種別の必要商圏人口を定めた公的な基準は、確認できませんでした。数字を作って書くことはしません。
代わりにできるのは、逆算です。必要な月商を客単価で割ってお客様の人数を出し、その人数が到達圏の人口の何%に当たるかを見ます。10%を超えるようなら、想定を組み直してください。
大きな店を出すときに、届出が要る面積はありますか?
大規模小売店舗立地法の対象は、店舗面積の合計が1,000平方メートルを超える店舗です(大規模小売店舗立地法第2条第2項、同法施行令第2条)。「1,000平方メートル以上」ではなく「超える」ですので、ちょうど1,000平方メートルは対象外です。
ただし、この店舗面積の定義から飲食店業は除かれています。届出から8か月は新設できず、名古屋市内では市が窓口になります(同法第5条第4項、第15条)。個人で開く規模の店では、まず該当しません。
RESASのデータは、どのくらい信用できますか?
出所と作り方が公開されている点は信用できます。一方で、滞留人口と通過人口は携帯電話の位置情報を統計的に加工した推計値で、実測ではありません。
事業所立地分析は電話帳が元データで、掲載していない店は入りません。絶対数ではなく、場所どうしの比較に使うのが安全な使い方です。
まとめ|7つのデータは、半日で集まる
立地の差は「1日何人分か」に翻訳できます。賃料の高い物件が本当に高いのかは、そこで決まります。
内装の打ち合わせを始める前に、半日だけ使ってください。直せないものから確かめるのが順番です。
| 段階 | 計算 | 出る数字 |
|---|---|---|
| 賃料の差(月) | 28万円 − 22万円 | 6万円/月 |
| 必要な粗利の増加 | 6万円をそのまま粗利で埋める | 6万円/月 |
| 必要な売上の増加 | 粗利率60%として 6万円 ÷ 0.6 | 10万円/月 |
| 1日あたり | 月25日営業として 10万円 ÷ 25日 | 4,000円/日 |
| お客様の人数 | 客単価3,000円として 4,000円 ÷ 3,000円 | 1日1.3人 |
| 10年間の総額 | 6万円 × 12か月 × 10年 | 720万円 |
数値はすべて例です。粗利率・営業日数・客単価は業種と業態で変わります。この計算で出したいのは金額ではなく、「1日1.3人多く来ていただければ差額は埋まる」という判断できる形にすることです。到達圏の人口が1万人あるなら現実的で、1,000人しかないなら別の根拠が要ります。