「一級建築士事務所」「内装仕上工事業」「店舗デザイン」「店舗プロデュース」。肩書きはばらばらですが、依頼先は3種類しかありません。

判断を保留したまま数週間が過ぎると、費用は静かに増えます。家賃30万円の物件なら、依頼先が決まらないまま1か月で30万円。何も進んでいないのに出ていくお金です。

3種類とは、設計と施工を分ける型、一括で受ける型、そして間に入って取りまとめる型。どれが正しいかではなく、自分の案件にどれが合うかです。

この記事でわかること

  • 内装の依頼先が3つの型(分離発注・直接発注・一貫)に整理できる理由と、型ごとに誰が何の責任を負うのかの違い
  • 設計監理料という費目が何に対する対価なのか、そして国が定める算定の考え方(実費加算方法と略算方法)が店舗の改修工事にどこまで使えるのか
  • 会社名を検索するだけで、建設業の許可と建築士事務所の登録を自分で確認する方法と、確認できたことから何が言えるのか
  • 工事金額・責任・設計の独自性・工期・相見積もり・手間・開店後の対応という7つの判断軸で、自分の案件がどの型に向いているかを決める手順
  • 問い合わせフォームを開く前に、全社へ同じ条件を渡すための紙に何を書けばよいかと、その1枚が比較の精度をどう変えるか
  • 型ごとに起きやすい行き違い(丸投げ、設計と工事の責任の押し付け合い、追加費用の説明不足)を、契約前の質問で潰す方法
型1の分離発注は施主が設計事務所と施工会社の2社と契約する。型2の直接発注は工務店と1本の工事請負契約を結ぶ。型3のデザイン施工一貫は施主から見た契約相手は1社だが、工事は下請けに出る場合がある。
3種類の違いは「契約が何本か」に集約される|契約の本数が、責任の所在・見積書の見え方・支払いの時期のすべてを決めます。型の名前ではなく、自分が誰と契約するのかで見分けてください。

依頼先は3種類しかない

違いは誰が設計し、誰が工事を請け負い、誰が責任を負うかです。肩書きではなく、この3点で分けると迷いません。

依頼先3種類の基本構造と、相談時に確認すること
型 契約と責任の構造 問い合わせのときに聞くこと
型1|分離発注
(設計事務所+施工会社)
契約は設計監理と工事の2本。図面の責任は設計事務所、造り方の責任は施工会社と、分かれて所在する 「工事監理はどこまで見てもらえますか」「施工会社の選定は何社に声をかける前提ですか」の2点を最初に聞く
型2|直接発注
(工務店・内装工事会社)
契約は工事の1本。図面も工事も同じ会社が担うため、責任の所在は1か所にまとまる 「図面は誰が描きますか」「その費用は見積書のどの行に入っていますか」を、見積もり依頼の前に確認する
型3|デザイン施工一貫 契約は1本または2本。設計から工事まで同じ会社が引き受けるが、工事の一部または全部を下請けに出す場合がある 「工事はどこまで自社で施工しますか」「下請けに出す範囲はどこですか」を、書面で答えてもらう
型のあいだにある会社 店舗プロデュース、空間デザインなどの名称で、設計と工事の手配だけを担い、施工は別会社という形もある 「御社は建設業の許可を持っていますか」「工事の契約相手は御社ですか、別の会社ですか」を必ず聞く

3種類で、費用の内訳がどう変わるか

設計監理料は、型によって見える場所が変わるだけで、どの型でも誰かが払っています。「無料」と書かれていても、工事費に入っています。

だから比率ではなく実額で比べます。3社に共通して聞く項目と、お金が出ていく時期の違いを表にしました。

3つの型で、設計と工事監理の費用がどこに現れるか
型 見積書の上での見え方 見積もりを受け取ったら自分で確認すること
型1|分離発注 設計監理料が独立した契約と請求書になる。工事費の見積書とは別の紙で届くため、金額そのものは把握しやすい 設計監理料の見積書に、基本設計・実施設計・工事監理のどこまでが含まれるかを箇条書きで書いてもらう。含まれない業務も列挙してもらう
型2|直接発注 独立した費目は立たず、工事費または現場管理費・諸経費の中に含まれるのが通常。金額としては見えない 「図面は誰が描きますか」「その手間はこの見積書のどの行に入っていますか」を口頭ではなく書面で回答してもらう
型3|デザイン施工一貫 会社によって分かれる。設計料として別建てにする会社と、工事費に含めて「設計料は無料」と表示する会社の両方がある 別建てなら業務範囲を、含まれるなら「何の業務が工事費のどこに入っているか」を確認する。表示の違いは値引きの有無ではない
型のあいだにある会社 デザイン費・企画料・プロデュース料などの名称で計上され、工事は別会社の見積書として届く場合がある 2枚の見積書がある場合、どちらの会社と契約するのかを先に確定させる。契約相手が2社なら、支払いも責任も2つに分かれる
実費加算方法と略算方法|店舗の改修工事にどこまで使えるか
算定の方法 告示の定めと、店舗の改修に使えるかどうか 読者がこの考え方を使ってできること
実費加算方法
(告示第一〜第三)
業務経費(直接人件費・特別経費・直接経費・間接経費)、技術料等経費、消費税を合算する。直接人件費は「一日当たりの人件費×従事する延べ日数」で算定する 「設計と工事監理に、どなたが何日関わりますか」と3社すべてに同じ質問をする。答えの粒度の差が、そのまま説明力の差になる
略算方法
(告示第四)
建築物の類型ごとの標準業務人・時間数を使って直接人件費を算定する。直接経費と間接経費の合計は直接人件費に1.1を標準とする倍数を乗じる 「1.1倍」という数字だけを覚えておく。設計の実務に直接かかる費用のほかに、事務所を維持する費用が同程度かかると理解できる
略算方法の限界①
(面積の下限)
告示第四のただし書により、別添三の最小値を下回る建築物には使えない。商業施設(第1類)の別表第5の1の最小値は100平方メートル 自分の区画が30坪に満たないなら、略算表の数値を持ち出す議論は成立しないと分かる。人と日数の話に切り替える
略算方法の限界②
(新築が前提)
技術的助言が、標準業務人・時間数は新築する場合の業務量であり、増改築・修繕・模様替にそのまま適用することは不適切だと明記している 「この金額は告示に基づいています」という説明を受けたら、新築の数値をそのまま使っていないかを確認する
略算方法の限界③
(商業施設の表)
技術的助言が、商業施設(第1類・第2類)の略算表は実態調査で有意な結果が得られなかったため改定していないと述べている 店舗という用途は、国の基準の中でも数値の裏づけが弱い分野だと知っておく。だから相見積もりで自分で比べる必要がある
比率ではなく実額で比べるための、3社共通の確認項目
確認項目 型によって何が変わるか 3社に同じ言い方で聞く質問
図面の種類と枚数 型1は実施設計図書一式が成果物として明示される。型2・型3は平面図と展開図のみという場合がある 「引き渡しまでに、どの図面を何枚いただけますか。種類を列挙してください」と書面で依頼する
工事監理に相当する仕事 型1は設計者が発注者の側で照合する。型2・型3は自社の現場管理と同じ人が兼ねることが多い 「現場と図面の照合は誰が行い、その結果を私にどう報告していただけますか」と聞く
打ち合わせの回数 回数の上限を決めている会社と、決めずに含めている会社がある。上限を超えた分が追加費用になる場合がある 「見積金額に含まれる打ち合わせは何回までですか。超えた場合の扱いはどうなりますか」と確認する
修正の回数 プラン変更に応じる回数の考え方が型と会社で違う。3案まで、2回まで、といった条件が付くことがある 「プランの作り直しは何回まで含まれますか。超えた場合はいくらかかりますか」と数字で聞く
届出・申請の代行 消防や保健所の手続きを含む会社と、別料金にする会社がある。型による違いよりも会社による違いが大きい 「どの届出を代行していただけますか。含まれないものは何ですか」を一覧で出してもらう
図面をもらえる形式 紙のみ、PDFのみ、編集できるデータまで、と会社によって差がある。将来の改装で効いてくる 「引き渡し後、図面のデータをいただけますか」を契約前に聞く。後から頼むと有償になることがある
3つの型で、お金が出ていく時期がどう変わるか
時期 型ごとの支払いの発生の仕方 資金繰り表に書き込むこと
設計に入る時点 型1は設計業務委託契約の着手金が発生する。型2は発生しない。型3は別建ての会社なら発生し、含む会社なら発生しない 「設計に入るときにお支払いが必要ですか。金額と時期を教えてください」を3社に同じ言葉で聞き、日付と金額を書き込む
図面が固まった時点 型1は実施設計の完了時に中間金が発生することがある。型3で別建ての会社も同様の区切りを置くことがある 中間金の有無と割合を確認する。ここで支払いがあると、工事着手金までの間隔が短くなる
工事契約を結ぶ時点 3つの型のいずれも着手金が発生する。金額の割合は会社によって異なり、型では決まらない 着手金の割合を確認し、物件の賃料発生日と同じ月に重なっていないかを見る。重なるなら支払時期の相談をする
引き渡しの時点 残金の支払い。型1では工事監理の残金がこれとは別に発生する場合がある 残金の支払期日と、開店日・初回の売上入金日の関係を確認する。入金より先に支払いが来る場合は運転資金を確保する
開店後 型を問わず、不具合の手直しが発生する。無償の範囲と期間は契約書の定めによる 「引き渡し後、どこまでが無償ですか」を契約書の条項として確認する。口頭の約束は残らない
編集部の試算例|設計監理料を毎日の売上に翻訳する手順
計算の段階 試算例の数字(例であり実額ではありません) 自分の店で入れ替える数字
1|回収期間で割る 100万円 ÷ 60か月 = 月およそ16,700円 回収期間を何年とみるかを先に決める。融資の返済期間に合わせると計算が揃う
2|粗利率で戻す 16,700円 ÷ 0.6 = 月およそ27,800円の売上 自店の粗利率を直近12か月の実績か、事業計画の想定値から入れる
3|営業日数で割る 27,800円 ÷ 25日 = 1日およそ1,110円 定休日と年末年始を引いた実営業日数を使う。週休2日なら月21日から22日
4|客単価で割る 1,110円 ÷ 客単価1,100円 = 1日1人 自店の客単価を入れる。ランチとディナーで違うなら加重平均を出す
5|判断に変換する 「この設計で1日1人分の売上が増えるか」という問いに置き換わる 提案されたプランのどこが1人分を生むのかを、設計者本人に説明してもらう

建設業許可と建築士事務所登録は、声をかける前に確認できる

どちらも公開されていて、自分で調べられます。愛知県なら県の窓口とウェブで確認できます。

ただし許可があることは、腕がよいことを意味しません。何が言えて、何が言えないかを表に分けました。

建設業の許可の有無で、何が変わり、何は変わらないか
論点 許可がある場合とない場合の違い 契約前に自分で確かめる方法
請け負える金額の上限 許可がなければ、建築一式工事以外は1件の請負代金500万円未満(消費税込み)の工事に限られる。許可があれば上限はない 見積総額が400万円台なら「追加が出て500万円を超えたらどうなりますか」と契約前に必ず聞く
主任技術者の配置 許可業者は、500万円未満の軽微な工事でも主任技術者を配置する義務がある。許可のない業者にはこの義務がない 「この現場の主任技術者はどなたですか」と聞く。答えられるかどうかで体制の整い方が分かる
標識の掲示 建設業法第40条により、許可業者はその店舗および発注者から直接請け負った建設工事の現場ごとに、公衆の見やすい場所に標識を掲げる義務がある 会社の事務所を訪ねたときに、入口付近の標識を見る。許可番号と許可年月日がそこに書かれている
許可の有効期間 許可の有効期間は5年間で、5年ごとに更新しなければ失効する。更新は有効期間満了の30日前までに申請する必要がある 検索システムで許可年月日を見て、5年を大きく超えていないかを確認する。更新されていれば新しい日付になっている
工事の品質 許可は経営能力・財産的基礎・技術力・誠実性などの要件を満たすことを示すが、個々の工事の仕上がりを保証するものではない 許可の有無を「安心材料」で終わらせず、施工事例と、引き渡し後の対応の記録を別に確認する
大臣許可と知事許可 2以上の都道府県に営業所を設ける場合は国土交通大臣、1つの都道府県のみなら都道府県知事。施工できる区域に制限はない 「愛知県知事許可だから県外の工事はできない」というのは誤解。区分は営業所の所在地によるものだと理解しておく
建設業許可を自分で確認する手順と、見るべき項目
手順 画面で入力すること・表示されること 見た結果からできること
1|システムを開く 国土交通省のページから企業情報検索システム(etsuran2.mlit.go.jp)へ進み、閲覧メニューで「建設業者」を選ぶ ブックマークしておく。相見積もりを取る3社を続けて調べるので、往復が減る
2|会社名を入力する 検索窓に会社名の中心部分だけを入れる。「株式会社」の位置で表記が変わるため、法人格を除いた語で探す 1回で出なければ、ひらがな・カタカナ・漢字を変えて再検索する。それでも出なければ許可がない可能性を疑う
3|都道府県で絞る 愛知県を指定して候補を絞る。ただし営業所が県外にある大臣許可の会社は、本店所在地で表示される 同名の会社が複数出た場合は、公式サイトに記載された所在地と突き合わせて特定する
4|許可業種を見る 内装仕上工事業、建築工事業、電気工事業など、許可を受けている業種が一覧で表示される 自分が頼む工事の種類と照らす。内装だけでなく電気や管の許可があれば、自社で扱える範囲が広いと推測できる
5|許可年月日を見る 許可(更新)年月日が表示される。許可の有効期間は5年間なので、直近の更新日が分かる 会社の公式サイトに書かれた「創業◯年」と、許可を取得してからの年数の差を見る。工事を自社で始めた時期の目安になる
6|処分の有無を別に見る このシステムでは処分等情報は閲覧できない。国土交通省ネガティブ情報等検索サイトが別に用意されている 気になる点があれば、ネガティブ情報等検索サイトでも会社名を調べる。何も出ないことのほうが通常だと理解しておく
建築士事務所の登録から言えることと、言えないこと
確認できた事実 そこから言えること/言えないこと 次に自分がやること
登録がある 言えること|管理建築士が置かれ、建築士法の枠組みで設計・工事監理を業として行う体制がある。重要事項説明の対象になる 「契約前に重要事項説明の書面をいただけますか」と依頼する。そこに設計図書の種類が列挙されている
登録がある 言えないこと|店舗の設計が得意かどうか、自分の業種の実績があるかどうかは、登録からは一切分からない 同じ業種・同じ規模の施工事例を3件出してもらい、そのうち1件は引き渡しから2年以上経ったものを指定する
登録がない 言えること|建築士法上の設計等を業として行う立場ではない。工事を請け負う会社として、図面を工事の一部として作っている可能性が高い 「図面は誰が描きますか」「建築確認や用途変更が必要になった場合はどうなりますか」を先に聞く
登録がない 言えないこと|違法である、とは言えない。内装工事の多くは建築士でなければできない設計・工事監理の対象外だからである 登録の有無だけで候補から外さない。かわりに、確認申請が必要になったときの体制を聞いて判断する
建設業許可も登録もある 言えること|設計側と工事側の両方の枠組みに属している。型3(デザイン施工一貫)に該当する可能性が高い 「設計と工事のどちらの契約が主になりますか」「工事監理は誰が行いますか」を書面で確認する
どちらもない 言えること|500万円未満の工事だけを請け負う会社か、工事も設計も他社に出して手配だけを担う会社のどちらかである可能性がある 「工事の契約相手は御社ですか、別の会社ですか」を最初に聞く。契約相手が別なら、その会社の許可を自分で調べる
愛知県で許可・登録を調べるときの、確認先の使い分け
調べたいこと どこで調べるか 検索窓に入れるもの・聞くこと
建設業の許可 国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システム(etsuran2.mlit.go.jp)。閲覧メニューから「建設業者」を選ぶ 法人格を除いた会社名。出なければ、ひらがな・カタカナ・漢字を入れ替えて再検索する
建設業の処分歴 国土交通省ネガティブ情報等検索サイト。企業情報検索システムでは処分等情報は見られない 会社名。何も出ないことのほうが通常であり、出なかったことを積極的な評価にしない
建築士事務所の登録 公益社団法人愛知県建築士事務所協会。登録簿の閲覧の事務は、愛知県が同協会を指定事務所登録機関として指定している 会社名(事務所名)。電話(052-201-0500)で問い合わせることもできる
建築士個人の資格 一級建築士については日本建築士会連合会が案内するインターネット閲覧。二級・木造は各都道府県の建築士会 担当者の氏名を聞いてから調べる。名刺に「一級建築士」とあれば、登録番号もあわせて確認する
県の制度そのもの 愛知県建築指導課「建築士事務所の登録等について」のページ。手数料や申請方法の改正情報が載る 登録手数料や受付システムの変更を確認する。制度の運用が変わっている時期かどうかが分かる
建築物リフォーム・リニューアル調査(令和7年度計)から読めることと、その限界
項目 調査結果と、その数字の性格 読者が自分の判断に使えること
受注高の合計 令和7年度計で16兆4,104億円、対前年度比18.7パーセント増。うち非住宅建築物が11兆5,071億円 改修工事の需要が伸びている時期だと理解する。会社が繁忙で見積もりに時間がかかる前提でスケジュールを組む
用途別(飲食店) 1,824億円、対前年度比23.6パーセント減。四半期ごとに増減の振れが大きい 飲食店の改修は年度によって波がある。相見積もりの返答が遅い時期に当たっていないかを想定に入れる
用途別(物販店舗) 9,262億円、対前年度比10.8パーセント増 物販の改修は堅調。実績のある会社が見つけやすい分野だと考え、施工事例の提示を強めに求める
限界①|対象は許可業者 調査対象は建設業許可業者5,000者。軽微な建設工事のみを請け負う許可のない業者は含まれない 500万円未満の小規模工事の実勢は統計に出ないと理解する。相場探しではなく相見積もりで実額を集める
限界②|元請工事のみ 調査対象工事は元請工事。下請として施工した工事は含まれない 「デザイン施工一貫」を名乗る会社が下請に出している部分は、この統計には現れないと理解する
限界③|推計値である 復元集計による全数推定。有効回答は住宅1,683者・非住宅1,336者。少ない区分では誤差が大きくなる場合があると注記 用途別の数字を1年分だけで判断しない。複数年度の推移を見て、傾向として読む

自分の案件に合う型を選ぶ7つの判断軸

工事金額、責任の所在、設計の独自性、工期、相見積が取れるか、自分がかける手間、開店後の対応。

軸によって、向く型が逆になります。だから「どこがいいか」ではなく「自分は何を優先するか」を先に決めます。

7つの判断軸の一覧と、軸ごとに答えが割れる理由
判断軸 この軸で型の向き不向きが分かれる理由 この軸の重さを自分で決める方法
1|工事金額 設計監理料は工事費の規模に比例して増えるわけではないため、工事費が小さいほど設計監理料の比重が重くなる 想定している工事費の上限を先に紙に書く。500万円を挟むかどうかで、選択肢の数が変わる
2|責任の所在 契約が2本か1本かで、不具合が出たときの交渉相手の数が変わる。分離すると原因を追いやすいが、境界の争いが起きうる 自分が交渉に使える時間を数字で見積もる。週に何時間を工事に割けるかを書き出す
3|設計の独自性 空間そのものが集客の理由になる業態と、機能が満たせれば十分な業態とで、設計に払う価値が違う 「お客様が来店を決める理由の中で、内装は何番目か」を自分で順位づけする
4|工期 分離発注は施工会社の選定と見積期間が別に必要になるため、契約までの日数が長くなりやすい 賃料の発生日と開店希望日をカレンダーに書き、逆算して残り日数を数える
5|相見積もりが取れるか 同じ図面で複数社の工事費を比べられるかどうかは、型によって構造的に決まる 「工事費の根拠を自分で検証したいか、時間を節約したいか」のどちらを取るかを決める
6|自分がかける手間 窓口が1つか2つかで、打ち合わせの回数と判断を求められる回数が変わる 開店準備の他のタスク(採用・仕入れ・許認可)と重なる時期を書き出し、余力を見る
7|開店後の対応 不具合の連絡先が1つか2つかで、対応が始まるまでの時間が変わる。設計者が残るかどうかも型による 2年後・5年後に改装する可能性を考える。図面を誰が持っているかが効いてくる
【判断軸1】工事金額|金額帯ごとに向く型と、自分で確かめること
想定する工事費 向きやすい型と、その理由 この金額帯で自分がやること
300万円未満 型2が向きやすい。設計監理料を別建てにすると総額に占める比重が重くなり、投資の効率が落ちやすい 見積期間は1日以上でよい規模だが、あえて1週間は取る。急かされた比較は必ず精度が落ちる
300万円〜500万円未満 型2と型3のどちらも成立する。許可のない会社もこの範囲なら請け負えるため、候補が最も広い金額帯 追加工事で500万円を超える可能性を先に聞く。超えたときに契約を続けられるかを書面で確認する
500万円〜1,000万円 型3が向きやすい。設計と工事の窓口が1つで、予算の上限を守りやすい。型1も選択肢に入り始める 見積期間として10日以上を確保する。条件を渡した日をカレンダーに記録し、契約日から逆算する
1,000万円〜3,000万円 型1と型3が拮抗する。設計監理料を払っても、同じ図面で工事費を競わせれば吸収できる可能性が出てくる 型1と型3の両方から提案を取り、設計監理料の実額と、工事費の差額を並べて比べる
3,000万円以上 型1が向きやすい。工事費の規模が大きいほど、競争にさらすことで得られる差額が設計監理料を上回りやすい 施工会社を何社に声をかけるかを設計事務所と決める。2社では競争になりにくい
金額が読めない 型を決める前に概算を取る段階。この状態で1社に絞ると、比較の基準そのものを相手に委ねることになる 坪単価の考え方で当たりをつけてから、型の選択に戻る。上限額を自分で決めてから声をかける
【判断軸2】責任の所在|型ごとに誰が何の責任を負うか
起きうること 型ごとの責任の分かれ方 契約前に取り付けておくこと
図面と現場が違う 型1は設計者が照合して施工者に是正を求める立場にある。型2・型3は同じ会社の中で処理される 「図面と現場の照合結果を、写真つきの書面でいただけますか」を契約条件として明記してもらう
造ったが使いにくい 設計の問題であり、型1では設計者の責任。型2・型3では設計と施工が同じ会社なので、責任の所在が外から見えにくい 着工前に、実寸のテープを床に貼って通路幅と作業動線を歩いてみる。図面上の確認だけで済ませない
追加費用が出た 型1では設計変更なのか施工上の都合なのかを設計者が判定できる。型2・型3では判定する第三者がいない 追加が出たら着工前に書面で契約変更することを、当初契約書に条項として入れてもらう
引き渡し後に不具合 型を問わず工事会社の契約不適合責任の問題になるが、設計に起因する場合は型1では設計者にも問える 契約不適合責任の期間と範囲を契約書で確認する。口頭の「何かあれば言ってください」は残らない
工事会社が別だった デザインの窓口と工事の契約相手が違う場合、追加費用の交渉相手が窓口ではなく工事会社になることがある 「工事請負契約の相手方はどの会社ですか」を最初の面談で聞き、その会社の建設業許可を自分で調べる
工事が下請に出る 建設業法第22条は一括下請負を禁じており、民間工事でも発注者の書面による事前承諾がある場合を除き禁止されている 「工事はどこまで自社で施工しますか。下請に出す範囲はどこですか」を書面で回答してもらう
【判断軸3】設計の独自性|どこまで必要かを自分で判定する
自店の状況 独自性の必要度と、向きやすい型 判定するために自分でやること
空間が来店の理由になる 必要度は高い。型1または、設計に強い型3。空間の構成そのものを設計者と一緒に決める価値がある お客様が写真を撮る場所が店内にあるかを思い出す。ないなら、どこに作るのかを設計の条件に入れる
滞在時間が長い業態 必要度は中から高。座る位置ごとの見え方、音、視線の抜けが評価に直結するため、設計の検討量が効く 現店舗で、どの席から埋まるかを2週間記録する。埋まらない席の理由を設計の条件として渡す
回転が速い業態 必要度は中。動線と作業効率の設計が重要だが、意匠の独自性より寸法の詰めが効く。型2・型3も十分成立する ピーク時のスタッフの動きを1時間分だけ動画で撮る。すれ違いが発生する場所を図面に落とす
商品が来店の理由 必要度は中から低。什器の寸法と照明が決まれば、空間の独自性は必須ではない。型2が成立しやすい 主力商品の実寸を測り、1段に何個並ぶかを計算する。棚のピッチを自分で決めて渡す
2店舗目以降 必要度は案件による。1店舗目の図面を持っていれば、型2で再現できる場合がある 1店舗目の図面データを手元に持っているかを確認する。ないなら、まずその入手から始める
居抜きを活かす 必要度は低め。既存の造作を残す前提だと設計の自由度が下がるため、判断は現地調査の精度で決まる 残す設備と撤去する設備を自分で色分けした平面図を作り、3社に同じものを渡す
【判断軸4】工期|契約までの日数がどこで増えるか
段階 型ごとに日数がどう変わるか 自分でカレンダーに書き込むこと
条件を渡してから提案まで 型を問わず1週間から3週間程度かかる。同じ条件を渡していないと、返答の速さを比べても意味がない 条件を渡した日を記録し、提案を受け取った日との差を3社分並べる。速さも判断材料になる
設計契約から実施設計まで 型1でのみ発生する独立した期間。図面の完成を待ってから施工会社に声をかけることになる 設計事務所に「実施設計図書が揃うのは何月何日ですか」と日付で聞き、カレンダーに書く
施工会社の見積期間 型1でのみ独立して必要。予定価格500万円以上5,000万円未満なら10日以上、5,000万円以上なら15日以上 図面が揃う日から10日以上を確保できるかを逆算する。足りないなら型1は現実的でない
契約から着工まで 型による差は小さい。ビルの管理会社への届出、資材の発注リードタイムで決まる ビルの工事可能な曜日・時間帯を管理会社に確認する。夜間のみなら日数が伸びる
工事期間そのもの 型による差はほとんどない。面積、スケルトンか居抜きか、設備工事の量で決まる 3社に「着工から引き渡しまでの日数」を数字で出してもらい、差の理由を説明してもらう
引き渡しから開店まで 型による差はない。保健所・消防の検査、什器搬入、スタッフ研修で決まる 検査の予約日を先に押さえる。検査が遅れると開店日が動くので、工事の完了日より先に決める
【判断軸5】相見積もりが取れるか|型ごとの比較のしかた
比較の方法 どの型で成立するか 実行するときにやること
同じ図面で工事費を比べる 型1でのみ成立する。実施設計図書という共通の基準があるため、差額が施工条件の差として読める 設計事務所に「何社に声をかけますか」を聞く。3社以上でなければ競争として機能しにくい
総額だけを比べる 型2・型3で行われがちだが、含まれる業務範囲が違うため比較として成立していないことが多い 総額の下に「含まれるもの」「含まれないもの」を各社に列挙させ、範囲を揃えてから比べる
内訳を開いてもらう 3つの型すべてで成立する。建設業法第20条第1項と法令遵守ガイドラインが内訳明示の努力義務を定めている 材料費・労務費・法定福利費・安全衛生経費・作業日数の5項目が書かれているかを見る
数量と単価を見る 3つの型すべてで成立する。「一式」だけが並ぶ見積書は、後から追加費用が出やすい 「一式」の行を数える。数が多ければ、上位3行について数量と単価に割ってもらうよう依頼する
過去の実績と比べる 3つの型すべてで成立するが、同じ面積・同じ業種の事例が必要。会社が事例を持っているかによる 「同じくらいの面積の直近の事例で、工事費の内訳の割合を教えてください」と聞く
第三者に見てもらう 型2・型3で検証手段が足りないときの補完策。設計事務所に見積書のチェックだけを依頼する方法がある 「見積内容の確認だけをお願いできますか」と設計事務所に相談する。費用と期間を先に確認する
【判断軸6】自分がかける手間|型ごとに発生する作業量
発生する作業 型ごとの負荷の違い 負荷を下げるために自分でやること
窓口とのやり取り 型1は設計事務所と施工会社の2つ。型2・型3は1つ。連絡が2系統になると、伝え漏れの確認作業が増える 型1を選ぶ場合、設計事務所に「施工会社との連絡は御社を通しますか」を最初に確認する
仕様を決める作業 型1は選択肢を絞って提示されることが多い。型2は自分で指定しないと標準仕様に収まる 好みの店の写真を10枚集め、共通する要素を自分で書き出してから渡す。写真だけでは伝わらない
見積書を読む作業 型1は設計監理料と工事費の2つの見積書を読む。型3は1つだが、内訳の粒度は会社による 見積書を受け取ったら、その日のうちに分からない行に印を付け、まとめて質問する
現場に足を運ぶ 型を問わず必要。型1では設計者が定期的に見るため、自分が行く回数を減らせる場合がある 週1回、同じ曜日の同じ時間に現場に行くと決める。写真を撮って日付とともに保存する
追加の判断 型を問わず発生する。型1では設計者が技術的な判断を代行し、型2・型3では自分が判断する場面が増える 「その変更で工事費と工期がいくら動くか」を必ず数字で聞いてから返事をする。即答しない
届出と検査の対応 型による差より会社による差が大きい。代行する会社と、施主が行う前提の会社がある 必要な届出を一覧にして、どれを代行してもらえるかを3社に同じ表で回答してもらう
【判断軸7】開店後の対応|引き渡し後に効いてくる差
開店後の場面 型ごとの対応の違い 引き渡しまでに手当てしておくこと
小さな不具合 型2・型3は窓口が1つで連絡しやすい。型1は設計と施工のどちらに言うかを自分で判断する必要がある 連絡先を1枚の紙にまとめ、レジ横に貼る。担当者名と携帯番号、営業時間外の連絡方法まで書く
無償か有償かの判断 型を問わず契約不適合責任の条項で決まる。ただし設計に起因する場合、型1では設計者にも問える 契約書の契約不適合責任の条項を、期間と範囲に分けて自分で書き写しておく
1年後の手直し 型による差より、会社の体制による差が大きい。定期点検の有無を制度として持つ会社もある 「引き渡し後、点検に来ていただけますか。時期と回数を教えてください」を契約前に聞く
2年後の部分改装 図面が手元にあれば、型を問わず別の会社にも相談できる。図面がなければ、実測からやり直しになる 引き渡し時に、完成した状態の図面を紙とデータの両方で受け取る。契約時に条件として入れる
会社が対応できないとき 型2・型3は窓口が1つのため、その会社に頼れないと選択肢が一度に減る。型1は片方が残る可能性がある 設備機器の型番一覧を自分で保管する。機器の不具合はメーカーに直接連絡できる場合がある
退去するとき 型による差はないが、着工前の状態を記録しているかどうかで原状回復の範囲の交渉が変わる 入居前・着工前の写真を日付入りで残す。撤去した造作の記録も残しておく
7つの軸を重みづけして型を決めるための整理表
こういう案件 重い軸と、選びやすい型 弱点を埋めるためにやること
10坪・工事費400万円・初出店 重いのは判断軸1(工事金額)と判断軸6(手間)。型2が選びやすい 判断軸3が弱くなるので、什器の寸法と照明の位置を自分で指定した図を渡して補う
30坪・工事費1,500万円・2店舗目 重いのは判断軸5(相見積もり)と判断軸2(責任)。型1が選びやすい 判断軸4が弱くなるので、実施設計の完了日を先に確定させ、見積期間10日以上を確保する
20坪・工事費800万円・開店日が固定 重いのは判断軸4(工期)と判断軸6(手間)。型3が選びやすい 判断軸5が弱くなるので、見積書の内訳を6項目まで開いてもらい、数量と単価を確認する
15坪・空間が集客の中心 重いのは判断軸3(設計の独自性)と判断軸7(開店後)。型1または設計に強い型3 判断軸1が弱くなるので、設計監理料を1日何人分に翻訳し、投資として成立するかを検算する
居抜きで最小限の改修 重いのは判断軸1(工事金額)と判断軸4(工期)。型2が選びやすい 判断軸2が弱くなるので、既存設備の不具合の責任範囲を契約書で明確にしておく
商業施設のテナント区画 重いのは判断軸4(工期)と判断軸6(手間)。施設の指定業者がいる場合は型が制約される A工事・B工事・C工事の区分を先に確認する。選べる範囲が最初から限られている可能性がある

声をかける前にやる5つの手順

物件の情報を1枚にまとめ、全社に同じ条件を渡す。これだけで比較になります。

最初の面談で聞く6つの質問も、全社に同じ言い方で聞いてください。答えの違いが、そのまま型の違いです。

全社へ同じ条件を渡すための紙|書く項目と、書かないと起きること
書く項目 書かないと起きること 自分で調べて埋める方法
区画の面積と天井高 坪数だけを伝えると、天井高が低い物件で想定していた造作が入らず、提案のやり直しになる 内覧時にレーザー距離計かメジャーで天井高を測る。梁の下の高さも別に測って両方書く
スケルトンか居抜きか 残置物の有無が伝わらないと、撤去費用が見積もりに入ったり抜けたりして、総額が比較できない 内覧時に残っている設備を写真に撮り、残す・撤去する・未定の3色で分けた一覧を作る
電気容量と設備の状況 容量が足りないことが着工後に判明すると、増設工事が追加費用として発生し、工期も伸びる 分電盤の写真を撮り、契約アンペアを管理会社に確認する。ガスと給排水の位置も撮る
予算の上限 各社が違う金額帯の提案を出してくるため、仕様の差なのか価格の差なのかが判別できなくなる 自己資金と融資見込みを足し、運転資金として残す額を引いて、内装に使える上限を確定する
開店希望日 逆算のない提案が返ってくる。着工可能日と工期の関係が検証されないまま話が進む 賃料発生日をカレンダーに書き、そこから開店希望日までの日数を数える
譲れない条件3つ 提案が意匠の話に寄り、営業に必要な条件が満たされているかを判定できなくなる 現店舗または想定する営業を頭の中で1日分たどり、詰まる場所を3つ書き出す
ビルの工事条件 夜間のみ作業可などの条件が後から判明すると、工期と工事費の両方が動く 管理会社に、作業可能な曜日・時間帯、搬入経路、養生の範囲を書面で確認する
まだ決めていないこと 未定の項目を書かないと、各社が勝手に前提を置き、その前提が会社ごとに違ってしまう 「未定」と明記した欄を作る。決まっていないことを隠さないほうが、提案の精度は上がる
最初の面談で、全社に同じ言い方で聞く6つの質問
質問 この質問で分かること 答えを受けて自分がやること
「工事の契約相手は御社ですか」 その会社が3つの型のどれなのか、あるいは型のあいだにある会社なのかが、この1問でほぼ確定する 別会社だと答えたら、その会社名を聞き、建設業許可を自分で調べる
「建設業の許可はお持ちですか」 500万円以上の工事を請け負えるかどうかが分かる。許可業種も聞けば、自社対応の範囲が推測できる 企業情報検索システムで裏を取る。会社の回答と一致するかを確認する
「図面は誰が描きますか」 設計の担当者が社内か社外か、資格を持つ人か否かが分かる。設計監理料の見え方とも直結する 社外だと答えたら、その方との打ち合わせに同席できるかを聞く
「工事はどこまで自社で施工しますか」 下請に出す範囲が分かる。建設業法第22条は一括下請負を禁じており、範囲の説明は当然に受けられるべきもの 回答を書面かメールで残してもらう。着工後に体制が変わった場合の連絡方法も決める
「見積書は内訳まで出ますか」 材料費・労務費・法定福利費・安全衛生経費・作業日数まで開けるかどうかが分かる 「一式」が並ぶ見積書しか出ないなら、上位3行だけでも数量と単価に割ってもらう
「引き渡し後の窓口はどなたですか」 担当者が営業なのか、工事担当なのか、専任の窓口があるのかが分かる。判断軸7に直結する 担当者名と連絡先を紙でもらう。担当が変わったときの引き継ぎ方法も聞いておく
声をかける前にやる5つの手順
  1. 手順1|物件の情報を1枚にまとめる。 所在地(町名まで)、階数、区画の面積(坪と平方メートルの両方)、天井高、 スケルトンか居抜きか、前テナントの業種、賃料と共益費、引き渡し予定日、 ビルの工事可能な曜日と時間帯を書き出します。 図面が手に入るなら、賃貸借契約に添付された平面図のコピーを添えます。 この1枚があるだけで、各社が概算を出すまでの日数が短くなります。
  2. 手順2|予算の上限を自分で決めて、紙に書く。 「相場を教えてほしい」から入ると、提示された金額が基準になってしまいます。 自己資金と融資の見込みから、内装に充てられる上限額を先に確定させてください。 このとき、内装工事費だけでなく、什器・厨房機器・看板・保証金・運転資金を分けて書きます。 上限額を伝えることをためらう必要はありません。 上限が分かっているほうが、各社は現実的な提案を作れます。
  3. 手順3|開店希望日と、動かせない日付を書く。 開店希望日、賃料の発生日、融資の実行予定日、 保健所や消防の検査を受けたい時期を、日付で書き出します。 「◯月ごろ」ではなく「◯月◯日」と書いてください。 日付で書くと、そこから逆算して各段階の締め切りが自動的に決まります。 判断軸4で見たとおり、契約までの日数は型によって変わりますから、 この日付が型の選択そのものを決めることもあります。
  4. 手順4|譲れない条件を3つだけ書く。 席数、厨房の広さ、待合の有無、収納量、看板の大きさ、バックヤードの確保など、 自分の営業にとって外せない条件を3つに絞って書きます。 3つに絞るのは、10個書くと優先順位が伝わらないからです。 残りは「できれば」として別の欄にまとめます。 各社の提案が返ってきたとき、この3つが満たされているかどうかが最初の判定基準になります。
  5. 手順5|同じ紙を、種類の違う2社から3社に渡す。 型1・型2・型3のうち、少なくとも2つの型から声をかけてください。 同じ紙を渡しても、分離発注を前提とする設計事務所と、 設計から工事まで引き受ける会社とでは、返ってくる提案の形が違います。 その違いを見ること自体が、自分の案件がどちらに向いているかの判断材料になります。 渡した日を記録し、返答が来た日と合わせて表にしておきます。
3つの型に共通して起きる|追加費用の説明不足
  • 工事請負契約の相手方はどの会社か(デザインの窓口と同じ会社か)
  • 建設業の許可の有無と許可業種(企業情報検索システムで裏を取ったか)
  • 建築士事務所の登録の有無(登録がある場合、重要事項説明の書面をもらえるか)
  • 図面を描く担当者は社内か社外か、引き渡し時に図面のデータをもらえるか
  • 下請に出す範囲と、自社が行う施工計画・工程管理・品質管理・安全管理の内容
  • 見積書に材料費・労務費・法定福利費・安全衛生経費・作業日数の内訳があるか
  • 「一式」の行が何行あり、そのうち金額の大きい行を数量と単価に割ってもらえるか
  • 追加が出たときに、着工前に書面で契約変更する手順が契約書に書かれているか
  • 工期が変わるときの手順と、遅延したときの取り扱いが契約書に書かれているか
  • 契約不適合責任の期間と範囲、引き渡し後の点検の有無と回数
  • 引き渡し後の窓口の担当者名・連絡先と、営業時間外の連絡方法
  • 設備機器の型番一覧を引き渡し時にもらえるか

3種類それぞれで起きやすい行き違い

型ごとに、つまずく場所が決まっています。契約前に潰す質問を型別に用意しました。

追加費用が出たときの手順は、型を問わず同じです。書面で出してもらい、根拠を聞き、その場で即答しない。

型1で起きやすい行き違いと、契約前に潰す質問
起きやすいこと なぜ起きるのか 契約前にする質問と、書面に残すこと
原因をめぐる押し付け合い 設計と施工が別会社のため、境界が曖昧な不具合では双方が相手を指す構造になっている 「不具合が出たとき、原因の判定はどなたがされますか」を設計事務所に聞き、回答を書面で残す
図面に書ききれていない部分 実施設計で細部まで詰めきれない箇所が残り、現場判断で進んだ結果、想定と違う仕上がりになる 「現場で決めることになる項目を、着工前に一覧で出していただけますか」と依頼する
工事監理の実態が薄い 監理の頻度や方法が契約書に書かれておらず、実際に何回現場を見たのかが検証できない 「現場に何回来ていただけますか。その記録はどういう形でいただけますか」を数字で確認する
施工会社の選定が形だけ 声をかける施工会社が1社か2社では競争にならず、分離発注の利点が出ない 「何社に声をかけますか」「その3社はどういう基準で選びますか」を契約前に聞く
設計料の追加 プラン変更のたびに設計業務が増えるが、含まれる範囲が決まっていないと請求の是非で揉める 「プランの変更は何回まで含まれますか。超えた場合の単価はいくらですか」を契約書に入れる
窓口が2つで伝わらない 自分が言ったことが片方にしか伝わっておらず、現場で食い違いとして表面化する 打ち合わせは3者が同席する形にできるかを確認する。議事録を誰が作るかも決めておく
型2で起きやすい行き違いと、契約前に潰す質問
起きやすいこと なぜ起きるのか 契約前にする質問と、書面に残すこと
着工後の追加費用 着工前の図面に書かれていない項目が現場で決まり、そのたびに見積外の作業として計上される 「着工前に決まっていない項目を一覧にしてください」と依頼し、その一覧を契約書に添付する
仕上がりが標準的になる 発注する側が具体的に指定しないと、会社が過去に使い慣れた仕様に収まる 好みの店の写真と、その理由を言葉にした紙を渡す。「明るい感じ」ではなく具体的な要素で書く
図面をもらえない 工事のために描いた図面という位置づけのため、引き渡し後に施主へ渡す前提になっていないことがある 「引き渡し時に、完成した状態の図面をいただけますか」を契約条件として入れる
「一式」だけの見積書 数量と単価が示されないため、後から増減が出たときに増減額の妥当性を検証できない 「一式」の行を数え、金額の大きい上位3行について数量と単価に割ってもらう
口頭のやり取りが残らない 現場での会話で決まったことが記録されず、後になって双方の記憶が食い違う 現場で決めたことをその日のうちにメールで送り、相手に確認の返信をもらう習慣にする
法令の確認が抜ける 内装制限や消防設備の要否が確認されないまま進み、検査で指摘を受けて手直しになる 「消防と保健所への事前相談はどなたが行いますか」を着工前に確認し、日程を共有する
型3で起きやすい行き違いと、契約前に潰す質問
起きやすいこと なぜ起きるのか 契約前にする質問と、書面に残すこと
工事が丸ごと別会社 デザインと窓口だけを担い、施工は外部という体制が、契約の時点で説明されていない 「どの範囲を下請に出し、御社は現場で何をされますか」と聞く。工程管理と品質管理の担当者名まで確認する
工事費を検証できない 同じ図面で他社の見積もりを取れないため、金額の妥当性を外から確かめる手段がない 材料費・労務費・法定福利費・安全衛生経費・作業日数の内訳を明示した見積書を依頼する
設計の対価が見えない 「設計料無料」と表示されていても、業務は行われている。工事費のどこに入っているかが不明のまま進む 「設計の対価は見積書のどの行に入っていますか」を書面で回答してもらう。無料の理由も聞く
自社で照合する構造 自社が描いた図面を自社が造り、自社が確認するため、発注者から見て照合の実施が検証できない 「図面と現場の照合結果を、写真つきの記録でいただけますか」を契約条件にする
担当者に依存する 窓口が1人のため、その方の力量と在籍がそのまま品質と対応の質を左右する 「担当の方が異動された場合、引き継ぎはどうなりますか」を聞く。組織として答えられるかを見る
提案が先行して条件が後回し 魅力的なパースが先に出てくるため、予算・工期・法令の確認が後ろにずれる パースを見る前に、概算工事費と工期の見通しを紙で出してもらう。順番を自分でコントロールする
追加費用が出たときに、型を問わず踏む手順
段階 やるべきこと 自分の言葉で相手に伝えること
1|着工前に手順を決める 追加が出たときは着工前に書面で契約変更する、という進め方を当初契約書に条項として入れておく 「追加が出た場合は、作業に入る前に金額と工期の変更を書面でいただきたいです」と契約前に伝える
2|理由の説明を受ける なぜ追加が必要になったのか、当初の見積もりに入れられなかった理由は何かを聞く 「これは当初の見積もりのどの行に対する追加ですか」と、既存の行と結びつけて聞く
3|金額と工期を数字で受け取る 追加費用の金額だけでなく、工期が何日動くのかを同時に確認する。工期の変更も書面が必要 「この追加で引き渡し日は何日ずれますか」を必ずセットで聞く。金額だけの合意はしない
4|1日何人分に翻訳する 追加費用を回収期間・粗利率・営業日数・客単価で割り、毎日の売上に置き換えて判断する その場で即答せず、「今日中にお返事します」と伝えて計算する時間を確保する
5|確定できないなら3項目を残す 内容が確定できない場合は、作業内容・契約変更の対象であること・変更する時期・単価を書面で取り交わす 「まず作業内容と単価だけ書面でください。金額は確定した時点で契約変更でお願いします」と伝える
6|記録を1か所にためる 追加のやり取りをメールまたは書面で一元管理し、引き渡し時に総額を検算できるようにしておく 追加が出るたびに、日付・内容・金額・工期の4項目を自分の表に書き足す

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よくある質問

依頼先の3種類について、相談の場でよく出る質問を4つまとめました。 いずれも、型そのものの善し悪しではなく、 自分の案件でどう判断すればよいかに答える形で書いています。 共通しているのは、一般論では結論が出ず、 自分の案件の条件を入れて初めて答えが決まる、という点です。

数値の断定を避けている箇所がありますが、それは一次情報で確認できなかったからです。 確認できなかった数値を書くより、自分で確かめる手順を渡すほうが役に立つと考えています。 以下の4問は、この記事のどの章の内容にあたるかも合わせて示しています。

設計事務所に頼むと、工務店へ直接頼むより高くなりますか?

設計監理料という費目が上乗せされるため、支払いの総額は増えるように見えます。 ただし設計事務所に頼む場合は、同じ図面で複数の施工会社に見積もりを取る進め方が可能になるため、 工事費そのものは競争にさらされます。

設計監理料の分を工事費の側で吸収できるかどうかは、 工事の規模と、比較できる施工会社が地域に何社あるかで変わります。 工事費が小さいほど設計監理料の比率は相対的に重くなるので、小規模な物件では総額が上がりやすいと考えてください。

判断するときは、設計監理料の見積書と、施工会社から出てきた見積書の差額を並べて、実額で比べるのが確実です。

デザイン施工一貫の会社は、工事費が適正かどうかをどう確かめればよいですか?

同じ会社が設計と工事の両方を担当するため、他社の見積もりと1円単位で突き合わせることはできません。 確かめる方法は二つあります。 一つは、見積書を工事種別ごとの内訳まで開いてもらい、 材料費と労務費が分かれているか、数量と単価が入っているかを見ることです。

国土交通省のガイドラインも、材料費、労務費、法定福利費、安全衛生経費などの内訳を明示した見積書の作成に努めるよう求めています。 もう一つは、設計の対価が工事費のどこに入っているのかを口頭ではなく書面で確認することです。

この二つが開示される会社であれば、他社と総額で比べたときに差が出た理由を説明してもらえます。

建設業の許可を持っていない会社に内装工事を頼んでも問題ないのですか?

国土交通省は、建築一式工事以外の建設工事について、 工事1件の請負代金の額が500万円未満であれば軽微な建設工事にあたり、 必ずしも許可を受けなくてよいとしています。 この金額には消費税と地方消費税が含まれます。 したがって、小規模な内装工事を許可のない会社が請け負うこと自体は違法ではありません。

問題になるのは、工事内容が膨らんで500万円を超えたときに、その会社が請け負えなくなる場合です。 契約前に許可の有無を確認し、追加工事で金額が上がる可能性があるなら、 その時点でどう対応するのかを聞いておいてください。

3種類のうち、どれか1社に絞ってから相談すべきですか?

絞らずに、種類の違う2社から3社に同じ条件で声をかけるのが実務的です。 同じ条件を渡しても、分離発注を前提とする設計事務所と、 設計から工事まで引き受ける会社とでは、返ってくる提案の形が違います。 その違いを見ること自体が、自分の案件がどちらに向いているかの判断材料になります。

ただし条件がばらばらだと比較になりませんから、 想定している面積、予算の上限、開店希望日、譲れない条件を1枚の紙にまとめ、全社に同じものを渡してください。 相談の時点では、まだどこにも発注していない状態であることをはっきり伝えておけば問題ありません。

まとめ|依頼先を選ぶ7つの判断軸

3種類に優劣はありません。小さな工事に分離発注は重く、独自性の高い店に一括は物足りない。案件との相性の問題です。

迷ったら、工事金額と責任の所在の2軸から決めてください。この2つで、選択肢はたいてい1つに絞れます。

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