図面はきれいに描かれています。けれどどこを見ればよいか分からないまま承認すると、それが工事の基準になります。
「思っていたのと違う」は、たいてい引き渡しの日に出ます。そのとき直すには、変更工事の費用と、開店の遅れが付いてきます。
見るのは8か所だけです。図面を読めるようになる必要はありません。寸法と品番が入っているかを確かめるだけです。
この記事でわかること
- 「設計図書」とは何を指すのか。図面だけでは足りない理由(建築士法の定義)
- その図面を誰が描いてよいか。規模によって資格の要件が変わります
- 平面図・展開図・天井伏図・設備図・仕上表で、それぞれどこを見るか(8項目)
- 図面と見積書を突き合わせる手順と、「一式」の扱い方
- 承認したあとに変更するとき、書面が要る根拠(建設業法)
- 工事監理を誰がするのかと、終わったときに受け取るもの
図面は絵ではなく、契約の中身そのもの
請負契約の対象は、図面に描かれたものです。描かれていないものは、含まれていません。
| 図面の種類 | 何が描かれているか | これがないと分からないこと |
|---|---|---|
| 平面図 | 上から見た間取り。壁・建具・什器の位置 | 通路の幅、席の配置、面積の配分 |
| 展開図 | 壁を正面から見た図。壁ごとに1枚ずつ | 壁の高さ、仕上げ、コンセントとスイッチの高さ |
| 天井伏図 | 天井を下から見上げた図 | 照明・空調吹出口・感知器・点検口の位置 |
| 床伏図 | 床の仕上げと段差 | 材料の切り替え位置、排水の勾配 |
| 電気設備図 | コンセント・スイッチ・分電盤・弱電 | 電源の数と位置、回路の分け方 |
| 給排水衛生設備図 | 給水・給湯・排水・ガスの経路 | 排水の勾配が取れるか。給湯が届くか |
| 空調換気設備図 | 空調機・ダクト・給気口・排気口 | 風量、吹出口の位置、給気の取り方 |
| 什器図・詳細図 | カウンター・棚の断面と寸法 | 造作の作り方、金物、天板の材料 |
| 仕上表 | 部屋ごとの床・壁・天井の材料一覧 | メーカー名と品番。これがないと材料は決まっていません |
その図面を、誰が描いてよいか
規模によっては、建築士でなければ設計も工事監理もできません(建築士法)。自分の工事がどこに当たるかを確かめてください。
| 建築物 | 規模 | できる人 |
|---|---|---|
| RC造・S造・石造・れんが造など | 延べ面積300㎡超、高さ16m超、または階数4以上 | 一級建築士のみ(第3条第1項第三号) |
| 学校・病院・劇場・百貨店など | 延べ面積500㎡超 | 一級建築士のみ(同項第一号) |
| RC造・S造など | 延べ面積30㎡超 | 一級または二級建築士(第3条の2第1項第一号) |
| 木造以外 | 延べ面積100㎡超、または階数3以上 | 一級または二級建築士(同項第二号) |
| 木造 | 延べ面積300㎡超、または階数3以上 | 一級または二級建築士(同項第二号) |
| 木造(上記以外) | 延べ面積100㎡超 | 一級・二級または木造建築士(第3条の3第1項) |
出典:建築士法(e-Gov法令検索)の条文を確認して作成。増築・改築・大規模の修繕または大規模の模様替をする場合は、その部分を新築とみなして適用されます(第3条第2項、第3条の2第2項、第3条の3第2項)。都道府県は条例で延べ面積を別に定めることができます(第3条の2第3項。木造に係るものを除く)。自店に適用される規模は、必ず所在地の建築主事または指定確認検査機関にご確認ください。
図面で確認する8つのこと
承認する前に見るのはこの8か所です。そのまま使える聞き方も入れました。
| 確認すること | 見る図面 | そのまま使える聞き方 |
|---|---|---|
| 1. 寸法が入っているか | 平面図 | 「通路の有効幅と、席と席の間の寸法を教えてください」 |
| 2. 工事の範囲はどこまでか | 平面図・什器図 | 「この図面のうち、御社の工事に含まれないものはどれですか」 |
| 3. 壁の高さと仕上げ | 展開図 | 「展開図は全部の壁について作成されますか」 |
| 4. 天井の中に入るもの | 天井伏図 | 「点検口はどこに付きますか。空調のフィルター交換はできますか」 |
| 5. コンセントの数と回路 | 電気設備図 | 「分電盤の回路は何回路で、予備は何回路空きますか」 |
| 6. 排水の経路と勾配 | 給排水衛生設備図 | 「排水の勾配は取れていますか。既存の位置から動かしますか」 |
| 7. 材料が品番まで決まっているか | 仕上表・仕様書 | 「仕上表に品番の入っていない箇所はどこですか」 |
| 8. 見積書の項目と図面が対応するか | 見積書+全図面 | 「見積書の『一式』は、どの図面のどの部分ですか」 |
確認1|平面図に、寸法が入っているか
寸法のない平面図は承認できません。通路幅、什器の間隔、扉の有効幅。数字がなければ、現場で「だいたい」で決まります。
| 場所 | なぜここを見るか | 聞くこと |
|---|---|---|
| 主通路の幅 | スタッフとお客様がすれ違う。狭いと配膳が止まる | 「有効寸法で何mmですか」 |
| 席と席の間 | 座ったときに背中が当たるかどうかが決まる | 「椅子を引いた状態での寸法ですか」 |
| レジ前 | 会計を待つ方が入口を塞ぐかどうか | 「何人並べる想定ですか」 |
| 厨房の作業スペース | 2人ですれ違えるか。1人用の幅だと動きが止まる | 「作業しながら後ろを人が通れますか」 |
| 扉の開く向きと範囲 | 開いた扉が什器や人に当たらないか | 「開き勝手はこの向きで確定ですか」 |
| 柱と梁の位置 | 図面上は小さく見えるが、実際は席を1つ潰すことがある | 「柱型の仕上がり寸法は何mmですか」 |
| バックヤードの面積 | 削られやすい。店舗のバックヤードで扱っています | 「更衣とロッカーの場所はどこですか」 |
確認2|どこまでが工事に含まれるか
椅子、テーブル、看板、厨房機器。1つずつ発注先を決めておかないと、あとで誰の担当でもなくなります。
発注先を1つずつ確定させる項目
- 椅子・テーブル。工事に含むか、施主が買うか。買うなら搬入と設置は誰がするか
- 厨房機器。機器屋の直納が多い。給排水とガスの接続は誰がするかを必ず決める
- レジ・POS・決済端末。本体は施主。電源と通信の配線は工事
- 看板・サイン。看板屋が別になることが多い。電源の引き込みは工事側
- 防犯カメラ・インターホン。配線は天井を閉じる前でないと通せません
- 音響機器。スピーカーの位置と配線は工事。本体は施主が多い
- カーテン・ブラインド。下地の補強が要るなら工事のとき
- 観葉植物・装飾。照明の当て方だけ工事で決めておく
- 清掃・引き渡し前の養生撤去。どこまでの状態で渡されるか
- 各種の届出と申請。消防・保健所。店舗開業に必要な届出と許認可で扱っています
確認3|展開図で、壁の高さと仕上げを見る
展開図でしか分からないことがあります。壁の高さ、棚の位置、コンセントの高さ。平面図には出てきません。
| 項目 | 平面図では分からない理由 | 確かめること |
|---|---|---|
| 腰壁の高さ | 平面図には高さの情報がない | 椅子の背もたれが当たる高さをカバーしているか |
| コンセントの高さ | 位置は平面、高さは展開図 | カウンター天板の上か下か。什器で隠れないか |
| スイッチの高さと並び | 並び順は展開図でしか描かれない | どのスイッチがどの照明か。図に記号があるか |
| 棚の段数と高さ | 商品や器材が入るかは高さで決まる | 実際に置くものの寸法を伝えてあるか |
| 鏡・サインの位置 | 目線の高さに合っているか | 美容室なら座ったときの目線。美容室の内装で扱っています |
| 仕上材の切り替え位置 | どこで材料が変わるか | 見切り材が入るか。入るなら色と形状 |
| 造作家具の見え方 | 正面から見た形は展開図で決まる | 扉の割付、取っ手の形、高さの寸法 |
確認4|天井伏図で、天井の中に入るものを見る
照明、空調の吹き出し、点検口、スプリンクラー。ここが混み合うと、天井が下がります。見る順番を表にしました。
| 見るもの | なぜ天井を閉じる前なのか | 確かめること |
|---|---|---|
| 火災感知器・スプリンクラー | 位置と数が法令で決まる。間仕切りを変えると数も変わる | 間仕切りの位置が最終決定と一致しているか |
| 空調の吹出口 | ダクトの引き回しが要る。後から移せない | 客席の真上に来ていないか。冷風が直接当たる席ができないか |
| 給気口 | これがないと排気ファンの風量が出ない | 厨房の排気量に見合う給気があるか |
| 点検口 | 後から開けると仕上げに跡が残る | 空調機・分電盤・排水経路の上にあるか |
| 照明の位置と数 | 配線は天井裏。後から増やすと露出配線になる | 什器の位置と合っているか。将来の変更に余裕があるか |
| スピーカー | 配線が天井裏を通る | 音が偏らない配置か。厨房にも要るか |
| 天井の高さ | ダクトと配管の分だけ下がる | 「仕上がりで何mmですか」。梁の下がどこまで下がるか |
| 下地の位置 | 重いものを吊るには補強が要る | 照明・サイン・プロジェクターを吊る予定があるか |
確認5|電気設備図で、コンセントの数と回路を見る
什器の配置図と重ねて見ます。数だけ合っていても、届かなければ延長コードが出ます。
電気設備図で確かめること
- コンセントの数と位置。什器の配置図と重ねて、届くかを見る
- 回路の分け方。厨房機器・空調・照明・コンセントが分かれているか
- 分電盤の空き回路。何回路空くか。ゼロなら将来の追加ができません
- 単相と三相の別。三相を使う機器があるか。契約種別が変わります
- 床のコンセント。フロア中央のテーブルに必要なら、床を仕上げる前に決める
- 弱電の配管。LAN・電話・カメラ。空配管を1本入れておくと後から効きます
- 非常照明と誘導灯。法令で必要な場合、位置は勝手に決められません
- 外部の電源。看板、屋外の照明、給湯器。防水の処理を伴います
- スイッチの回路名。どのスイッチがどの照明かが図面に書かれているか
確認6|給排水衛生設備図で、経路と勾配を見る
勾配が取れないと床が上がり、天井が下がります。縦管からの距離を確かめてください。
| 見るもの | 動かせるか | 確かめること |
|---|---|---|
| 排水の立て管の位置 | 動かせない。建物の共用部 | そこから何m離れているか。勾配が取れる距離か |
| 床の仕上がり高さ | 上げれば勾配は取れるが、段差ができる | 入口に段差ができないか。バリアフリーの条例に触れないか |
| グリストラップの位置 | 屋内か屋外か。掃除の動線に関わる | 清掃のとき、客席を通らずに行けるか |
| 給湯器の能力と位置 | 設置場所は排気の条件で決まる | 同時に使う蛇口の数に足りるか |
| 給水の口径 | 建物の引き込みで決まる | 同時使用で水圧が落ちないか |
| ガスの種類と容量 | 都市ガスかLPか。引き込みの容量で決まる | 厨房機器の合計と合っているか |
| 止水栓の位置 | 点検と修理のときに使う | 営業中に手が届く場所にあるか |
確認7|仕上表に、品番まで入っているか
「塩ビタイル」だけでは、どのグレードか決まりません。品番まで入って初めて、金額と見た目が確定します。
| 項目 | ✕ 決まっていない書き方 | ○ 決まっている書き方 |
|---|---|---|
| 壁 | クロス貼り | ビニルクロス(メーカー名・品番・色番)/防炎表示のあるもの |
| 床 | フローリング | 複合フローリング(メーカー名・品番)/張り方向を図に明記 |
| 天井 | 塗装 | EP塗装(塗料の種類・色番)/下地はプラスターボード9.5mm |
| カウンター天板 | 木製 | メラミン化粧板(メーカー名・品番)/小口の処理方法 |
| 照明器具 | ダウンライト | メーカー名・品番・色温度・配光・調光の可否 |
| 建具 | ガラス扉 | 強化ガラス厚・金物のメーカーと品番・開き勝手 |
| 代替品の扱い | 同等品可 | 同等品とする場合は事前に施主の承諾を得ると明記 |
確認8|見積書と図面を突き合わせる
図面にあって見積にない項目が、あとで追加になります。逆に、見積にあって図面にないものは、何を指しているのかを聞いてください。
承認したあとに変えるなら、書面が要る
承認は基準の確定です。内容と金額と工期を、そのつど書面で取り交わします。
工事監理は、誰がするのか
工事監理と施工管理は別のものです。図面どおりに作られているかを確かめるのが工事監理。誰がやるのかを、契約前に確認してください。
| 項目 | 工事監理 | 施工管理 |
|---|---|---|
| 誰のために行うか | 建築主(施主)のため | 工事を請け負った会社の業務として |
| 何をするか | 工事を設計図書と照合し、そのとおりか確認する | 工程・品質・安全・原価を管理して工事を完成させる |
| 根拠 | 建築士法第2条第8項・第18条第3項 | 建設業法(主任技術者・監理技術者の設置など) |
| 図面と違ったとき | 施工者に指摘し、従わなければ建築主に報告する | 社内で是正する。施主への報告は契約次第 |
| 終わったとき | 結果を文書で建築主に報告する(第20条第3項) | 竣工図書・引き渡し書類を渡す |
| 施主が確かめること | 誰が行うか。報告書を受け取れるか | 現場に常駐するか。連絡窓口は誰か |
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よくある質問
小さな店舗でも、建築士の設計が必要ですか?
規模と構造によります。鉄筋コンクリート造や鉄骨造では延べ面積30㎡を超えるものから、一級または二級建築士の業務とされています(建築士法第3条の2第1項第一号)。
ただしこれは建築物の延べ面積であって、借りている区画の面積ではありません。また増築・改築・大規模の修繕/模様替に当たるかどうかでも変わります。自店の工事が該当するかは、所在地の建築主事または指定確認検査機関にご確認ください。
図面は何枚くらい出てくるのが普通ですか?
枚数に決まりはありません。ただし「作成する設計図書の種類」は、契約前の重要事項説明の対象とされています(建築士法第24条の7第1項第一号)。
つまりどの図面が出てくるかは、契約の時点で確かめられます。展開図・設備図・仕上表が含まれているかを、その場で聞いてください。
図面を見ても専門的で判断できません。どうすればよいですか?
判断ではなく質問にしてください。この記事の表の3列目は、そのまま読み上げれば使える形にしてあります。
答えが返ってこない、または「現場で決めます」と言われた項目が、あとで問題になる場所です。判断できなくても、印はつけられます。
承認した図面と違うものができていたら、どうなりますか?
工事監理を行う建築士がいる場合、設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、施工者に指摘して是正を求め、従わないときは建築主に報告することになっています(建築士法第18条第3項)。
契約上の扱いは請負契約の内容によります。契約書で確認すべき条項は内装工事の請負契約書で確認する8つの条項で扱っています。当ガイドは法律の専門家ではありません。紛争になりそうな場合は、弁護士など専門家にご相談ください。
まとめ|承認する前に、8か所だけ見る
図面が読めるようになる必要はありません。寸法と品番が入っているかを確かめるだけです。
入っていなければ「ここの寸法を入れてください」と言う。それだけで、引き渡しの日の「違う」はほとんど消えます。