「ご確認のうえ、ご署名ください」と渡される数枚の紙。この数分で、支払いの時期も、直してもらえる期間も確定します。
契約時に3割払うのか1割払うのかで、手元から先に出ていく金額が数百万円変わります。開店前は入金がないので、ここは資金繰りに直結します。
確認するのは8つの条項です。建設業法が、契約書に書くべき16項目を定めています。だから「書いていない」こと自体が、判断材料になります。
この記事でわかること
- 建設業法第19条第1項が求める16の記載事項を、自分の契約書と1項目ずつ突き合わせる方法
- 建設業許可が必要になる工事の金額と、分割契約や施主支給で金額の判定が変わる仕組み
- 着手金・中間金・完成払いの割合を、国土交通省の標準約款が示す記入例と比べて判断する手順
- 支払いのタイミングと融資実行日のずれを、月次の資金繰り表で見つけて調整する具体的な計算例
- 引き渡し後に不具合が出たとき、いつまでに何を請求できるか(契約不適合責任の期間と4つの権利)
- 追加変更工事を後から言った言わないにしないための合意の残し方と、設計と施工を分けたときの責任の所在
- 工事中の事故や第三者への損害を誰が負うか、もめたときにどこへ相談できるか
契約書を読まないまま着工すると、何が起きるか
起きる場面は5つ。追加費用、工期の延長、支払いの前倒し、引き渡し後の不具合、そしてもめたときの窓口。どれも今日、契約書を開けば確認できます。
| 場面 | 起きていること | 今日、自分の契約書で確認すること |
|---|---|---|
| 着手金の割合が高すぎる | 着工前に請負代金の半分近くを払い、工事が止まったときに手元にも現場にも何も残らない。工事会社の資金繰りを施主が肩代わりしている状態になる | 支払方法の欄を開き、契約時・中間・完成のそれぞれの金額と支払期日が「割合」だけでなく「日付」で書かれているかを見る |
| 工事範囲がどこまでか書いていない | 「別途」と書かれた項目が誰の負担かあいまいなまま着工し、電気の増設や消防設備が後から追加費用として請求される | 契約書に添付された図面の枚数と仕様書の冊数が、実際に受け取ったものと一致しているかを数える |
| 工期が延びたときの扱いがない | 資材の入荷遅れや近隣調整で工期が延びても、家賃や人件費の負担をどちらが持つかの根拠がなく、開店日の変更費用を施主が全部かぶる | 「工期の変更」「請負代金額の変更」という見出しの条文があるかを探し、なければその場で追記を求める |
| 引き渡し後の責任が書いていない | 不具合が出ても「引き渡し済み」を理由に有償対応になる。契約不適合責任の期間の定めがないと、いつまで直してもらえるかが交渉次第になる | 「契約不適合」または「瑕疵」の語を契約書全体から検索し、期間が年数で書かれているかを確認する |
| 追加工事が口頭で進む | 現場で「これも足しておきますね」と決めた内容が最後にまとめて請求される。金額の合意時期が分からず、削ることも払わないこともできない | 変更があったときに書面を取り交わす旨の条文があるかを確認し、なければ現場での変更依頼をメールに残す運用に切り替える |
請負契約書に書くことは、建設業法で決まっている
建設業法第19条第1項が16の記載事項を定めています。工事内容、請負代金、着手と完成の時期、支払いの時期と方法。自分の契約書と突き合わせれば、抜けが分かります。
建設業許可の要否も、金額で決まります。判定で見落とされやすい点を表にしました。
| 号 | 条文が求めている記載事項 | 自分の契約書で確認すること |
|---|---|---|
| 第1号 | 工事内容 | 契約書に添付された図面の枚数と仕様書の冊数を数え、打ち合わせで確定した最新版と一致しているかを確かめる |
| 第2号 | 請負代金の額 | 消費税額が内数か外数かを確認し、見積書の合計額と1円単位まで一致しているかを突き合わせる |
| 第3号 | 工事着手の時期及び工事完成の時期 | 「契約の日から◯日以内」ではなく、着手日と完成日が日付で入っているかを見る。開店日から逆算して余裕日数を数える |
| 第4号 | 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容 | 商業ビル内の物件なら、館の規則で作業できない曜日・時間帯があるかを管理会社に確認し、契約書に反映されているかを見る |
| 第5号 | 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法 | 着手金・中間金・完成払いの金額と支払期日を、日付と金額の両方で書いてもらう。振込か手形かも明記させる |
| 第6号 | 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め | 追加工事の単価をどう決めるか(減る部分は内訳書の単価、増える部分は時価など)が書かれているかを確認する |
| 第7号 | 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め | 台風や地震で工事中の造作が損傷したとき、誰が負担するかの選択肢がどれになっているかを見る |
| 第8号 | 価格等の変動又は変更に基づく工事内容の変更又は請負代金の額の変更及びその額の算定方法に関する定め | 資材価格が上がったときに増額を求められる条件が書かれているか、上限や協議の手順があるかを確認する |
| 第9号 | 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め | 階下の店舗を水濡れさせた場合など、第三者への賠償を誰が負うかを読み、あわせて保険の加入証書の写しを求める |
| 第10号 | 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め | 厨房機器や什器を施主支給する場合、搬入日・保管責任・据付範囲を契約書に書き込む |
| 第11号 | 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期 | 完成検査の日を工程表に入れ、指摘事項の手直し期間を引き渡し日の前に確保しているかを確認する |
| 第12号 | 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法 | 完成払いの期日が引き渡し日と何日離れているかを見る。融資実行日より前になっていないかを必ず確かめる |
| 第13号 | 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容 | 契約不適合責任の期間が年数で書かれているかを確認し、書かれていなければ何年にするかを協議する |
| 第14号 | 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金 | 工期が遅れたときと支払いが遅れたときの両方について、率が書かれているかを見る。片方だけの契約書は要注意 |
| 第15号 | 契約に関する紛争の解決方法 | 建設工事紛争審査会のあっせん・調停によるのか、特定の裁判所を管轄とするのかを読む。遠隔地の裁判所が指定されていないかを見る |
| 第16号 | その他国土交通省令で定める事項 | 省令で追加された項目があるため、契約書の書式が最新のものかを工事会社に確認する |
| 場面 | 条文が定めていること | 契約前に自分で確かめること |
|---|---|---|
| 通常の内装工事(建築一式工事以外) | 請負代金の額が500万円に満たない工事は軽微な建設工事とされ、許可がなくても請け負える(施行令第1条の2第1項) | 自分の工事の請負代金が500万円を超えるかを見積書で確認し、超えるなら相手に許可の業種と番号を尋ねる |
| 建築一式工事に当たる場合 | 請負代金の額が1,500万円に満たない工事、または延べ面積150平方メートル未満の木造住宅を建設する工事が軽微な建設工事となる | 自分の工事が一式工事に当たるかどうかを工事会社に確認し、判断に迷えば都道府県の建設業許可担当窓口に問い合わせる |
| 契約を2本に分けた場合 | 同一の建設業を営む者が二以上の契約に分割して請け負うときは各契約の合計額とする。ただし正当な理由に基づく分割は除く(同条第2項) | 「500万円未満に収めるため」という理由で契約を分ける提案があれば断り、合算した金額で許可の要否を判断する |
| 厨房機器・什器を施主支給する場合 | 注文者が材料を提供する場合は、その市場価格または市場価格および運送賃を請負代金の額に加えたものとする(同条第3項) | 支給する機器の購入金額と運送費を一覧にし、工事代金に足した金額を計算してから許可の要否を判断する |
| 許可の有無を確認したいとき | 許可は5年ごとに更新を受けなければ効力を失う(建設業法第3条第3項)。許可業種ごとに与えられる(同条第2項) | 国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システムで会社名を検索し、許可番号・許可年月日・許可業種を控える |
請負契約書で確認する8つの条項
工事内容の特定、請負代金と支払い、工期と遅延、追加変更、契約不適合責任、解除、保険、そして紛争の解決。8つとも、判を押す前に読めます。
| 番号 | 何を決める条項か | 今日やること |
|---|---|---|
| 条項1 | 工事内容と設計図書の特定(どこまでが請負範囲か) | 契約書に書かれた図面の枚数・仕様書の冊数と、手元の最新版を照合して数を合わせる |
| 条項2 | 請負代金の額と、支払いの時期・方法 | 着手金・中間金・完成払いを、割合ではなく金額と支払期日で書き出す |
| 条項3 | 着手・完成・引渡しの時期と、工事を施工しない日 | 開店日から逆算した工程表を作り、契約書の完成日との間に何日の余裕があるかを数える |
| 条項4 | 設計変更・追加工事があったときの工期と代金の変更方法 | 増える部分と減る部分の単価の決め方が書かれているかを読み、書式(変更契約書)の見本をもらう |
| 条項5 | 完成検査の時期・方法と、引渡しの時期 | 検査日と引渡日を工程表に書き込み、手直しの日数が確保されているかを確認する |
| 条項6 | 契約不適合責任の期間と範囲、その履行に関する措置 | 期間が年数で書かれているかを見て、設備機器と内装仕上げで期間が分かれているかも確認する |
| 条項7 | 遅延利息・違約金その他の損害金 | 工期遅延と支払遅延の両方に率が定められているかを見て、片方しかなければ追記を求める |
| 条項8 | 第三者への損害・不可抗力・保険と、紛争の解決方法 | 工事保険の証券の写しを求め、紛争解決の窓口がどこに指定されているかを読む |
着手金・中間金・完成払いの割合をどう決めるか
割合に決まりはありません。交渉できる項目です。出来高に応じた支払いにできれば、リスクは下がります。
開店前のどの時点で手元資金がいくら必要になるか。支払条件と融資の時期を調整するだけで、資金ショートは避けられます。
| 支払区分 | 何のためのお金か/根拠になる規定 | 交渉のしかた |
|---|---|---|
| 契約時(着手金・前金払) | 材料の先行手配や特注品の発注など、着工前に工事会社が立て替える費用に充てる。建設業法第19条第1項第5号は、前金払の定めをするときはその時期と方法の記載を求めている。標準約款(乙)の記入例は1割 | 3割以上を求められたら、先に出ていく費用の内訳(特注什器の前払い、材料の一括発注など)を書面で示してもらい、金額の根拠を確認してから受け入れるかを決める |
| 中間金(部分払・出来形払) | すでに完成した出来形部分に対する支払い。標準約款(乙)の記入例では第一回3割・第二回3割(又は4割)の2回に分かれている | 1回で大きく払うのではなく2回に分け、それぞれ「何がどこまで終わった時点か」を工程で定義してもらう。写真での出来形確認を条件にする |
| 完成払い(引渡し時) | 検査に合格し、目的物の引き渡しを受けると同時に支払う。民法第633条は報酬は目的物の引渡しと同時に支払うと定め、標準約款(乙)も引渡しと同時の支払完了を定めている | 完成払いの期日が融資実行日より前になっていないかを確認する。前になっているなら、期日を後ろにずらすか融資実行を前倒しする |
| 追加変更工事分 | 追加や変更で増減した金額。建設業法第19条第2項は、記載事項を変更するときは変更内容を書面に記載して相互に交付することを求めている | 追加分の支払いをいつにするかを最初に決めておく。完成払いにまとめるのか、その都度精算するのかで資金繰りが変わる |
| 支払いが遅れたとき | 標準約款(乙)は、発注者が請負代金の支払いを完了しないとき、受注者は延滞日数に応じて支払遅滞額に対し年14.6パーセント以内の違約金を請求できるとしている | 自分の資金繰り表で支払期日に間に合うかを先に検証する。間に合わない見込みなら、契約前に期日そのものを動かす交渉をする |
| 月 | 主な支出 | 主な収入 | その月の収支 | 月末の手元資金 |
|---|---|---|---|---|
| 4月 | 物件初期費用200/設計料40/家賃25=265 | —(期首の自己資金500) | −265 | 235 |
| 5月 | 工事契約・着手金240/家賃25=265 | — | −265 | −30 |
| 6月 | 中間金240/家賃25=265 | — | −265 | −295 |
| 7月 | 完成払320/厨房機器・什器150/家賃25=495 | 融資実行800(7月20日) | +305 | 10 |
| 8月(開店) | 家賃25 | — | −25 | −15 |
| 月 | 主な支出 | 主な収入 | その月の収支 | 月末の手元資金 |
|---|---|---|---|---|
| 4月 | 物件初期費用200/設計料40/家賃25=265 | —(期首の自己資金500) | −265 | 235 |
| 5月 | 工事契約・着手金80/家賃25=105 | 融資実行900(5月20日) | +795 | 1,030 |
| 6月 | 部分払1回目240/家賃25=265 | — | −265 | 765 |
| 7月 | 部分払2回目240/完成払240/厨房機器・什器150/家賃25=655 | — | −655 | 110 |
| 8月(開店) | 家賃25 | — | −25 | 85 |
| 調整 | 効果と、根拠にできるもの | 今日、内装会社と融資担当に伝えること |
|---|---|---|
| 着手金の割合を下げる | 着工前に出ていく現金が減る。標準約款(乙)の記入例は契約成立のとき1割。民法第633条の原則も引渡しと同時払い | 「国が示す標準約款の記入例は契約時1割です。1割に近づけられませんか」と、根拠を添えて依頼する |
| 中間金を2回に分ける | 1回あたりの金額が半分になり、月ごとの山が低くなる。標準約款(乙)も部分払を第一回・第二回の2回に分けている | 「部分払を2回に分けたいのですが、それぞれどの工程が終わった時点にしますか」と工程表を見ながら決める |
| 融資実行を工事の支払いより前にする | 融資が入ってから大きな支払いが来る順序になる。申込みから実行までの期間を逆算して申込時期を決める | 融資担当に「工事の中間金の支払期日は◯月◯日です」と伝え、実行がそれより前になるスケジュールを確認する |
| 運転資金を借入額に含める | 開店直後の仕入れ・人件費・広告費に充てる現金が残る。設備資金だけを借りると開店月に手元が空になる | 資金繰り表の8月以降を3か月分作り、不足額を運転資金として申込額に上乗せする |
引き渡し後の不具合は、誰がいつまで直すのか
契約不適合があったときに使える権利は4つ。追完、代金減額、損害賠償、解除。民法に条件が定められています。
期間は契約で変えられます。短く書かれていないかを確認してください。
| 権利 | 条文が定めていること | 実際に使うときにすること |
|---|---|---|
| 履行の追完請求 (直してもらう) |
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求できる(民法第562条第1項)。ただし売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、請求した方法と異なる方法で追完できる | 不具合の写真を撮り、発見した日付を記録し、「どこが設計図書のどの記載と違うか」を書いてメールで送る |
| 代金の減額請求 | 相当の期間を定めて履行の追完を催告し、その期間内に追完がないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求できる(民法第563条第1項)。追完が不能なとき、追完を拒絶する意思を明確に表示したときなどは、催告なしに直ちに請求できる(同条第2項) | まず期限を切って修補を求める。その催告と回答を記録に残さないと、減額請求の前提が立たない |
| 損害賠償請求 | 追完請求と減額請求の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求を妨げない(民法第564条) | 不具合によって実際に生じた損害(休業した日数、代替品の購入費など)を金額と根拠で整理する |
| 契約の解除 | 追完請求と減額請求の規定は、第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない(民法第564条) | 内装工事で解除まで至ることはまれ。検討する段階になったら弁護士に相談する |
| 注文者側に原因があるとき | 注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由としては、追完・減額・損害賠償・解除のいずれもできない。ただし請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときはこの限りでない(民法第636条) | 施主支給の機器や、施主が指定した納まりに起因する不具合は対象外になる。支給品の選定理由を記録に残しておく |
| 対象・場面 | 期間の定め(根拠) | 引き渡し前後にやること |
|---|---|---|
| 契約書に期間の定めがない場合 | 民法第637条第1項により、不適合を知った時から1年以内に請負人へ通知しなければ、追完・減額・損害賠償・解除ができなくなる | 不具合を見つけたら、その日のうちに写真と発見日を記録し、メールで通知して送信日を残す |
| 標準約款に沿った契約の原則 | 引渡しを受けた日から2年以内でなければ請求等ができない(標準約款(乙)の契約不適合責任期間の条文) | 引渡日をカレンダーに登録し、1年後と1年10か月後にリマインダーを設定して点検する |
| 建築設備の機器本体・室内の仕上げ・装飾・家具・植栽等 | 引渡しの時に検査して直ちに追完を請求しなければ責任を負わない。ただし一般的な注意の下で発見できなかったものは引渡しから1年が経過する日まで請求可能 | 引き渡し当日に、扉・引出し・水栓・コンセント・照明のスイッチをすべて動かして確認し、その場で指摘して記録に残す |
| 期間の終わり際に見つけたとき | 期間内に不適合を知り通知した場合、通知から1年が経過する日までに請求等をすれば期間内の請求とみなされる(同条の規定) | 修補の交渉が長引きそうでも、まず「通知」を先に済ませる。交渉と通知を切り離す |
| 受注者に故意・重過失があるとき | 契約不適合が受注者の故意又は重過失により生じたものであるときは、約款の期間の規定は適用せず、民法の定めによる | 施工記録・写真・打ち合わせ議事録を保管しておく。原因の立証にはこれらが必要になる |
| 住宅の10年責任との違い | 住宅の品質確保の促進等に関する法律が定める10年の責任は、新築住宅の請負契約についてのもの。標準約款(乙)でも住宅新築請負契約の場合に限って適用される条文が置かれている | 店舗の内装工事にこの10年は適用されないことを前提に、契約書で何年にするかを協議する |
追加変更・分離発注・保険・もめたときの窓口
追加変更が出る場面は4つ。そのつど書面で合意を残すのが唯一の防ぎ方です。
工事に関わる保険と、負担の定めも確認します。そして、もめたときに相談できる窓口があります。建設工事紛争審査会など、使い分けを表にしました。
| 場面 | なぜ金額が動くか | その場で実行すること |
|---|---|---|
| 解体して初めて分かった不具合 | 既存の配管の劣化、下地の腐食、想定と違う躯体の状態など。事前調査では見えないため、見積に含まれていない | 写真を撮ってもらい、対応案を2つ以上出してもらう。金額と工期への影響を書面で受け取ってから着手を指示する |
| 施主側の要望の具体化 | 現場が立ち上がってから「棚をもう1段」「コンセントを2口追加」といった要望が出る。1件は小さくても積み上がる | 要望をその場で口頭で伝えず、メールで送る。工事会社からの金額回答を受けてから正式に依頼する |
| 法令・検査対応で必要になった工事 | 消防や保健所の指導で追加の設備が必要になる。誰の責任範囲かがあいまいだと負担者が決まらない | 契約時に「許認可対応に必要な工事はどちらの負担か」を確認し、契約書か議事録に残しておく |
| 資材価格の高騰 | 建設業法第20条の2第2項は、資材の価格の高騰など工期又は請負代金の額に影響を及ぼす事象が発生するおそれがあると認めるとき、建設業者は契約締結までに注文者へ通知しなければならないとしている | 契約前に「価格変動で増額の可能性がある品目はどれか」を聞き、その回答を書面でもらう |
| 減額になる変更 | 仕様を落としたり工事を取りやめたりした場合。標準約款(乙)は、減少部分は請負代金内訳書の単価により、増加部分は時価によるとしている | 減額分が最終の請求から確実に引かれているかを、内訳書の単価で自分で計算して確認する |
| 論点 | 分離の場合/一貫の場合 | 施主が契約前に確認すること |
|---|---|---|
| 契約の本数 | 分離は設計業務委託契約と工事請負契約の2本。一貫は工事請負契約1本(設計料を含む場合と別建ての場合がある) | 設計料が請負代金に含まれているか別かを確認し、含まれていない場合は支払時期を資金繰り表に入れる |
| 請求書の審査 | 分離では、標準約款(乙)が監理者の業務として出来高払・完成払の請求書の技術的審査を挙げている。一貫では第三者の審査がない | 一貫で頼むなら、中間金の請求時に出来形の写真と工程の説明を求める運用を契約時に決めておく |
| 変更書類の審査 | 分離では監理者が工事内容・工期・請負代金額の変更に関する書類を技術的に審査する。一貫では施主が直接判断する | 追加変更の金額が妥当かを誰が見るのかを、契約前にはっきりさせる |
| 不具合の原因が設計にあるとき | 民法第636条は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由とする請求はできないとしている(請負人が不適当と知りながら告げなかったときを除く) | 設計者に何をどこまで委託しているかを設計業務委託契約書で確認し、監理業務が含まれているかを見る |
| 窓口の一本化 | 分離は連絡先が2つになり、判断が分かれたときに施主が調整役になる。一貫は窓口が1つで速いが、内部でのチェックが働きにくい | 誰に何を言えばよいかの連絡系統図を1枚作り、着工前に全員で共有する |
| 項目 | 何をカバーするか/根拠になる規定 | 契約前に求めること |
|---|---|---|
| 火災保険・建設工事保険 | 工事中の出来形部分や搬入した材料・機器の損害を対象とする。標準約款(乙)は、受注者がこれらに保険を付し、証券の写しを発注者に提出すると定めている | 「工事保険の証券の写しをいただけますか」と依頼する。提出できない理由があるなら内容を聞く |
| 第三者への賠償 | 施工のため第三者の生命・身体に危害を及ぼし財産などに損害を与えたとき、標準約款(乙)は受注者が処理解決に当たるとし、費用も原則として受注者の負担で工期は延長しないとしている(発注者の責めに帰すべき事由による場合を除く) | 自分の契約書の該当条文を読み、「発注者の責めに帰すべき事由」がどこまでを指すかを確認する |
| 不可抗力による損害 | 建設業法第19条第1項第7号は、天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定めを求めている。標準約款(乙)は危険負担について3つの選択肢を用意している | 自分の契約書がどの建て付けを採用しているかを読む。すべて施主負担になっていないかを確認する |
| ビルの規則で求められる保険 | 商業ビルでは、館の工事規則で工事業者に一定の保険加入を義務づけている場合がある | 管理会社から工事規則を取り寄せ、求められる保険と金額を内装会社に伝える |
| 引き渡し後の店舗側の保険 | 引き渡し後の水漏れや火災は、店舗側で加入する保険の領域になる。工事保険は工事期間中を対象とする | 引渡日から店舗総合保険の補償が始まるように、保険の開始日を引渡日に合わせて手配する |
| 窓口 | 何を扱うか | 相談する前に準備すること |
|---|---|---|
| まず内装会社の責任者 | 現場担当者との認識のずれは、責任者に上げるだけで解決することがある | 事実経過を時系列で1枚にまとめる。日付・誰が・何を言ったかを並べる |
| 建設工事紛争審査会 | 建設工事の請負契約に関する紛争について、あっせん・調停・仲裁を行う。国土交通省と各都道府県に設置 | 契約書・設計図書・見積書・変更の記録・写真をそろえる。仲裁合意書の有無を確認する |
| 許可行政庁(都道府県の建設業担当課) | 建設業法に基づく許可や法令遵守に関することを扱う。契約書の交付がないなど法令上の問題がある場合の相談先になる | 契約書が交付されているか、記載事項が欠けていないかを整理してから相談する |
| 弁護士 | 損害賠償や解除など、法的な請求の可否と手続の判断 | 請求したい金額とその根拠を数字で用意する。時系列の資料と契約書一式を持参する |
| 行政書士 | 契約書の作成・確認や、許認可に関する手続の相談 | 契約前の段階で相談する。署名後よりも署名前のほうが対応の幅が広い |
請負契約書で確認する8つの条項
- 条項1|工事内容と設計図書の特定。契約書に書かれた図面の枚数と仕様書の冊数を数え、最新版かどうか、「別途」の項目が誰の手配かを確認します。契約不適合責任の射程は、ここで決まります。
- 条項2|請負代金の額と、支払いの時期・方法。着手金・中間金・完成払いを割合ではなく金額と支払期日で書き出します。民法第633条の原則は引渡しと同時払いで、前払いはその例外だという前提を持ってください。
- 条項3|着手・完成・引渡しの時期と、工事を施工しない日。完成日と開店日の間に何日あるかを数え、館の工事規則で作業できない時間帯があれば契約書に反映させます。
- 条項4|設計変更・追加工事の工期と代金の変更方法。増える部分と減る部分の単価の決め方を読み、変更契約書の書式を契約時にもらいます。建設業法第19条第2項は変更内容の書面化を求めています。
- 条項5|完成検査の時期・方法と、引渡しの時期。検査日と引渡日の間に手直しの日数を確保し、引渡日を書面で残します。この日付が契約不適合責任の起算点になります。
- 条項6|契約不適合責任の期間と範囲。期間が年数で書かれているか、設備機器と内装仕上げで分かれているかを見ます。期間の終わり際に見つけても、まず通知することで猶予が生まれる建て付けを知っておいてください。
- 条項7|遅延利息・違約金その他の損害金。工期遅延と支払遅延の両方に率が定められているかを確認します。標準約款(乙)の年14.6パーセント以内という上限だけでは、開店遅れの損害はカバーしきれません。
- 条項8|第三者への損害・不可抗力・保険と、紛争の解決方法。工事保険の証券の写しを求め、紛争解決の窓口と管轄を読みます。仲裁合意書に署名する意味を理解してから判断してください。
あわせて読みたい
よくある質問
ここまでで、契約書のどこを読むか、支払いをどう組み立てるか、引き渡し後に何ができるかを見てきました。 最後に、実際にご相談の多い4つの質問に、条文と標準約款の記述をもとに答えます。 いずれも「一般的にはこうなっている」という説明であり、個別の契約の結論ではありません。
自分の契約書の文言がここで紹介した内容と違う場合は、契約書の文言が優先されます。 そのうえで、その文言が自分にとって不利なら、契約前であれば交渉できる余地があるということを思い出してください。
着手金として請負代金の5割を求められました。妥当な割合ですか?
法律は着手金の割合を定めていません。 建設業法第19条第1項第5号が求めているのは、前金払や出来形部分に対する支払いの定めをするときは、その支払いの時期と方法を書面に記載することだけです。 割合そのものは当事者の合意で決まります。
判断の物差しになるのは、国土交通省の中央建設業審議会が決定した民間建設工事標準請負契約約款(乙)です。 その契約書様式の支払方法欄には、記入例として「この契約成立のとき一割、部分払第一回三割、第二回三割(又は四割)、完成引渡しのとき三割(又は二割)」と示されています。
つまり国が示す標準の記入例では、契約時に払うのは1割です。 ただしこの約款(乙)は個人住宅建築等の民間小規模工事の請負契約についての標準約款であり、店舗の内装工事にそのまま適用されるものではありません。 あくまで比較の起点として使ってください。
着手金が5割という条件は、この記入例の5倍にあたります。 断ることが目的ではなく、なぜその割合が必要なのかを聞いてください。 特注什器の前払いや材料の一括発注など、実際に先に出ていくお金の裏づけがあるなら、その内訳を書面で示してもらい、金額の根拠が確認できたうえで受け入れるかを決めます。
根拠が示されないまま高い前払いを求められる場合は、割合を下げるか、支払回数を増やして一回あたりを小さくする交渉をしてください。
引き渡しから1年たって排水の不具合が見つかりました。直してもらえますか?
まず契約書の契約不適合責任の条項を読んでください。 民法第637条第1項は、注文者がその不適合を知った時から1年以内に請負人へ通知しないときは、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除ができないと定めています。 起算点は引き渡しからではなく、不適合を知った時からです。
一方、国土交通省の民間建設工事標準請負契約約款(乙)の契約不適合責任期間の条文は、引渡しを受けた日から2年以内でなければ請求等ができないと定め、 建築設備の機器本体、室内の仕上げ・装飾、家具、植栽等については引渡しの時に検査して直ちに追完を請求しなければ受注者は責任を負わない、 ただし一般的な注意の下で発見できなかった不適合は引渡しから1年が経過する日まで請求できる、としています。
同条は、その期間内に不適合を知って通知していれば、通知から1年が経過する日までに請求すれば期間内の請求とみなすとも定めています。 つまり、標準約款に沿った契約であれば、引き渡しから1年後に見つかった排水の不具合は、配管の施工に起因するものであれば2年の期間内に入る可能性があります。
実際に請求できるかは契約書の文言と原因によって変わるため、まず不具合の写真と発見日を記録し、修補を求める旨を書面かメールで送って日付の残る形にしてください。 なお、住宅の品質確保の促進等に関する法律が定める10年の責任は新築住宅の請負契約についてのものであり、店舗の内装工事には適用されません。
工事が遅れて開店日がずれました。損害を請求できますか?
建設業法第19条第1項第14号は、各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金を、契約書の記載事項として求めています。 まず自分の契約書にこの定めがあるかを確認してください。
国土交通省の民間建設工事標準請負契約約款(乙)は、受注者が契約期間内に目的物を引き渡すことができないときなどに発注者が損害賠償を請求できるとし、 その違約金は契約書の定めるところにより、延滞日数に応じて請負代金額に対し年14.6パーセント以内の割合で計算した額とすると定めています。
仮に請負代金800万円の工事が30日遅れた場合、年14.6パーセントで計算すると800万円×0.146×30日÷365日で約9万6千円です。 開店が1か月遅れることで失う粗利や、その間も発生する家賃と人件費を考えると、この違約金だけでは足りないことが多いというのが現実です。
だからこそ契約前に、違約金の定めとは別に実際の損害の賠償を請求できるのかを条文で確認し、あわせて工期が延びる可能性のある事由をどこまで具体的に書いてあるかを見てください。
建設業法第20条の2第2項は、建設業者が主要な資材の供給の著しい減少や資材価格の高騰など工期または請負代金の額に影響を及ぼす事象が発生するおそれがあると認めるときは、契約締結までに注文者へ通知しなければならないと定めています。 この事前通知があったかどうかも、遅れの責任を切り分ける材料になります。
なお、これは一般的な法令の説明であり、個別の契約で請求できるかどうかの判断は弁護士にご相談ください。
500万円未満の内装工事なら、建設業許可のない会社に頼んでも問題ないのですか?
法律上の違反にはなりません。 建設業法第3条第1項ただし書は、政令で定める軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とする者は許可を要しないとしています。
その軽微な建設工事の範囲は建設業法施行令第1条の2第1項が定めており、 工事一件の請負代金の額が500万円、当該建設工事が建築一式工事である場合は1,500万円に満たない工事、 または建築一式工事のうち延べ面積が150平方メートルに満たない木造住宅を建設する工事とされています。
ただし注意点が二つあります。 一つは分割です。 同条第2項は、同一の建設業を営む者が工事の完成を二以上の契約に分割して請け負うときは各契約の請負代金の額の合計額とすると定めており、正当な理由に基づく分割でない限り合算されます。
500万円を超えないように契約を2本に割る方法は通りません。 もう一つは施主支給です。 同条第3項は、注文者が材料を提供する場合においてはその市場価格または市場価格および運送賃を請負代金の額に加えたものを金額とすると定めています。
厨房機器や什器を自分で買って支給すると、工事代金だけでは500万円未満でも合算後は超えることがあります。 許可の有無は、国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システムで会社名や許可番号から確認できます。
許可があること自体は品質の保証ではありませんが、経営業務の管理体制や財産的基礎の要件を満たして5年ごとの更新を受けている事実は確認できます。
まとめ|工事請負契約書で確認する8つの条項
契約書は、その場で読むものではありません。持ち帰って、8か所だけ確認すれば足ります。
分からない条項は、そのまま担当者に聞いてください。建設業法にこう書いてありますが、と言えば話は早い。聞いたこと自体が記録になります。