物件は決まりそうなのに、次に何を決めるのか分からない。診療所の開業では、決める順番を間違えると、図面を描き直すことになります。
エックス線室を作るなら、壁の厚さと位置は間取りを決める前に確定していなければなりません。あとから動かすと、隣の部屋まで連鎖して変わります。
決めることは9つ。開設の形式、法令上の必須項目、エックス線室、部屋ごとの面積、感染対策、待合、医療機器、資金、そして日程。この順に決めれば、描き直しは起きません。
この記事でわかること
- 医師本人が開設する場合の「開設届」と、法人などが開設する場合の「開設許可」の違いと、保健所へ相談を始める正しい時期
- 医療法施行規則第16条第1項のうち、無床診療所に適用される号と適用されない号を条文で切り分ける方法
- エックス線診療室の遮蔽の基準値と、遮蔽計算書がいつ必要になるか。装置の機種選定を内装より先に進めなければならない理由
- 診察室・処置室・待合・受付・スタッフ区画の面積配分を、坪数からではなくピーク時の同時滞在人数から決める手順
- 発熱の患者様の別動線と手洗い・換気を、医療法施行規則第1条の11第2項が求める院内感染対策と結び付けて設計に落とす考え方
- 医療機器と什器を電気容量・給排水と一緒に、工事のどの段階までに確定させるかの一覧
- 内装費を「1日あたりの外来患者様何人分」に翻訳する計算手順と、開業から保険診療開始までの逆算スケジュール
物件は決まりそうなのに、次に何を決めるのか分からない
出てくる問いごとに、答えを持っている相手が違います。保健所、設計者、医療機器の商社、金融機関。先に自分でやっておくことも決まっています。
| 問い | 答えを持っている相手 | 相談の前に自分で用意すること |
|---|---|---|
| この図面で開設届は受理されるか | 所轄の保健所(名古屋市は区ごとに担当の保健センターが分かれる)。名古屋市の案内は「建築検討図面を作成の段階で事前にご相談下さい」としている | 施設付近の見取り図、敷地の平面図、建物の平面図の下書きを用意する。標榜する診療科目と、診察室・処置室・待合の位置を書き込んでおく |
| 保険診療はいつから始められるか | 地方厚生局(愛知県は東海北陸厚生局の指導監査課)。指定は原則として協議会の答申を受けた翌月1日 | 希望する開業日を月初に置いた場合と月中に置いた場合で、指定日がどう変わるかを自分で仮置きして質問を用意する |
| レントゲン室はこの位置に作れるか | 装置メーカーまたは販売会社(遮蔽計算)と保健所(届出)。壁の仕様は計算結果で決まる | 導入したい装置の機種名と定格管電圧を先に決める。レントゲン室の隣室と上下階が何に使われているかを図面上で確認する |
| この容量で電気は足りるか | 電力会社と電気工事会社。ビル内テナントなら建物の管理会社にも確認が必要 | 導入する医療機器の消費電力を一覧にする。同時に立ち上げる可能性のある機器に印を付ける |
| 工事はいつ終わるか | 内装工事会社。ただし着工日は物件の引き渡し日と、貸主の工事承諾で決まる | 賃貸借契約書の引き渡し日、フリーレントの期間、原状回復の範囲を先に読む |
| いくら借りられるか | 金融機関、日本政策金融公庫、独立行政法人福祉医療機構など。制度ごとに対象と限度額が違う | 設備資金と運転資金を分けて金額を積み上げる。見積書の日付と有効期限をそろえておく |
| スタッフは何人必要か | 最終的には自分の診療の進め方で決まる。求人の相場は地域の職業安定所やハローワークインターネットサービスで確認できる | 1日の外来患者様の想定人数と、1人あたりの診察時間を紙に書く。受付と処置に何人が同時に必要かを時間帯ごとに並べる |
診療所の収支の実態を、統計で確かめる
厚生労働省の医療経済実態調査に、1施設あたりの損益が出ています。この数字があると、内装にいくらまでかけられるかを逆算できます。感覚で決める部分が減ります。
| 区分 | 調査で示された金額(1施設あたり・年額) | 自分の計画に当てはめるときの使い方 |
|---|---|---|
| 一般診療所(個人・入院診療収益なし) | 医業収益8,840万8千円、医業・介護費用6,292万円、損益差額2,583万9千円(構成比率29.1%)。集計施設数830 | 個人立は開設者の報酬が費用に含まれないため、損益差額は院長の収入と再投資の原資を合わせた額として読む。ここから生活費と納税額を引いた残りが返済の原資になる |
| 一般診療所(医療法人・入院診療収益なし) | 医業収益1億6,970万6千円、介護収益335万3千円、損益差額930万4千円(構成比率5.4%)。集計施設数1,238 | 法人は院長の報酬が費用に入るため、損益差額率が個人より低く出る。個人と法人の数字を並べて比較しない |
| 歯科診療所(個人) | 医業収益5,087万6千円、医業・介護費用3,695万1千円、損益差額1,408万7千円(構成比率27.6%)。集計施設数396 | 一般診療所より収益の規模が小さい一方、診療台と設備の初期投資が重い。返済期間の置き方を一般診療所と同じにしない |
| 歯科診療所(医療法人) | 医業収益1億1,735万1千円、介護収益390万4千円、損益差額666万5千円(構成比率5.5%)。集計施設数134 | 集計施設数が134と少ない。参考値として扱い、個別の事業計画の根拠には使わない |
| 一般診療所(全体)の資産・負債 | 資産合計1億9,874万円、うち固定資産8,572万円。負債合計5,997万1千円、うち長期借入金3,208万6千円。集計施設数1,808 | すでに開業している診療所の平均的な借入残高の目盛りとして使う。開業時点の借入額そのものではない点に注意する |
| 歯科診療所(全体)の資産・負債 | 資産合計8,078万1千円、うち固定資産3,830万3千円。負債合計4,136万5千円、うち長期借入金2,629万6千円。集計施設数343 | 固定資産の額が一般診療所の半分以下である一方、長期借入金は8割程度ある。設備投資に対する借入の比率が高い業態だと読む |
決めること1〜3|開設の形式と、法令が決めている図面
個人立か医療法人かで、手続きも工事の日程も変わります。医療法人は認可に時間がかかるため、逆算の起点が変わります。
医療法施行規則第16条には、無床診療所が満たすべき条件が並んでいます。これは図面に直接落ちる条文です。
エックス線室は特に重い項目です。遮蔽の計算があるので、装置の機種が決まらないと壁の仕様が決まりません。
| 開設の形式 | 根拠条文と手続きの種類 | 図面を描く前に自分で確認すること |
|---|---|---|
| 臨床研修等修了医師本人が開設 | 医療法第8条第1項による届出。開設後10日以内。名古屋市は正本1部・副本2部の計3部、郵送受付不可 | 所轄の保健センターに電話し、事前相談の予約と、図面のどの段階で持ち込めばよいかを聞く。免許証の原本または原本証明の準備状況を確認する |
| 臨床研修等修了歯科医師本人が開設 | 同上。医師免許は平成16年度以降、歯科医師免許は平成18年度以降の取得者は臨床研修修了登録証も必要 | 臨床研修修了登録証の有無を確認する。歯科技工室を設けるなら、医療法施行規則第16条第1項第13号の防塵設備を図面に書き込む |
| 医療法人が開設 | 医療法第7条第1項による許可。開設しようとするときに受ける。名古屋市は第3号様式(法人、または医師以外による開設) | 法人の設立認可の日程と、開設許可の日程と、内装工事の日程を1枚の表に並べる。どれが先に必要かを保健所に確認する |
| 医師でない方が開設 | 同じく医療法第7条第1項による許可。医療法第7条第7項は、営利を目的として開設しようとする者に対しては許可を与えないことができると定めている | 開設者と管理者の関係を整理する。営利性の判断は行政庁が行うため、早い段階で相談する |
| 病床を設ける場合 | 医療法第7条第3項により、診療所に病床を設けようとするときは都道府県知事の許可が必要。名古屋市は別途「施設使用許可」も必要としている | そもそも有床にするかを最初に決める。無床と有床では医療法施行規則第16条第1項の適用範囲が変わる |
| 号 | 条文が求めていること | 図面のどこに書き込むか |
|---|---|---|
| 第一号 | 診療の用に供する電気、光線、熱、蒸気またはガスに関する構造設備については危害防止上必要な方法を講ずること。放射線に関する構造設備については同規則第四章に定めるところによること | 電気設備図に、医療機器ごとの回路とアース、非常時の電源を明示する。レントゲンがあるなら第四章(第30条以下)に基づく図面を別に用意する |
| 第五号 | 機械換気設備については、感染症病室、結核病室または病理細菌検査室の空気が風道を通じて他の部分へ流入しないようにすること | 無床診療所に検査室を設ける場合、その室の排気が待合や診察室へ回らない経路になっているかを空調図で確認する |
| 第十二号 | 感染症病室および結核病室を有する病院または診療所には、必要な消毒設備を設けること | 無床診療所には直接かからないが、器材の消毒をどこで行うかは別途決める必要がある。処置室か、専用の器材室かを図面で決める |
| 第十三号 | 歯科技工室には、防塵設備その他の必要な設備を設けること | 歯科で技工室を設けるなら、集塵機の位置と排気経路、電源、給排水を平面図と設備図の両方に書く |
| 第十四号イ | 調剤所の構造設備について、採光および換気を十分にし、かつ、清潔を保つこと | 院内処方を行うなら、調剤所に窓または換気設備があるかを確認する。ビル内の内側区画に置く場合は機械換気の計画が必要 |
| 第十四号ロ | 調剤所に冷暗所を設けること | 冷暗所として使う棚または保冷庫の設置場所を図面に確保する。あとから置くと通路を塞ぐことが多い |
| 第十四号ハ | 感量10ミリグラムのてんびんおよび500ミリグラムの上皿てんびんその他調剤に必要な器具を備えること | てんびんを置く水平で振動の少ない台の位置を決める。什器の発注リストに入れておく |
| 第十五号 | 火気を使用する場所には、防火上必要な設備を設けること | 滅菌器やオートクレーブ、給湯器の位置を図面に書き、内装制限がかかるかを内装会社に確認する |
| 第十六号 | 消火用の機械または器具を備えること | 消火器の設置位置と本数を図面に書く。消防法上の要否とは別に、この号は医療法として求めている |
| 第2項 | 前項に定めるもののほか、病院または診療所の構造設備の基準については、建築基準法の規定に基づく政令の定めるところによる | 建築基準法側の要件(居室の換気、内装制限、避難など)を建築士に確認する。医療法だけを見ていると漏れる |
| 条文・基準 | 内容 | 設計と発注で自分が決めること |
|---|---|---|
| 施行規則第30条の4第1項第1号 | 画壁等の外側における実効線量が1週間につき1ミリシーベルト以下になるように遮蔽できること。外側が人の通行も停在もない場所であれば適用しない | レントゲン室の上下階と左右の隣室が何に使われているかを、賃貸借契約の前に建物の管理会社へ確認する |
| 施行規則第30条の4第1項第2号 | エックス線診療室の室内に装置を操作する場所を設けないこと(箱状の遮蔽物を設けた場合などの例外あり) | 操作室を別に取れる面積があるかを平面図で確かめる。取れないなら装置の選定から見直す |
| 施行規則第30条の4第1項第3号 | エックス線診療室である旨を示す標識を付すること | 標識の位置とサイズをサイン計画に含める。開業直前に慌てて貼らない |
| 施行規則第30条の26第3項第1号 | 管理区域に係る外部放射線の線量は、実効線量が3月間につき1.3ミリシーベルト | 管理区域の境界線を平面図に描いてもらい、その線が扉や通路とどう交わるかを自分の目で確認する |
| 施行規則第30条の26第4項 | 病院または診療所内の人が居住する区域および敷地の境界における線量限度は、実効線量が3月間につき250マイクロシーベルト | 建物内に住居がある場合(併用住宅や上階が賃貸住宅の場合)、その位置を図面に落として販売会社に伝える |
| 施行規則第30条の16 | 管理区域に標識を付し、人がみだりに立ち入らないような措置を講ずること | 扉の施錠方式と、患者様の待機位置を決める。管理区域の中を通らないと処置室に行けない配置になっていないか確認する |
| 施行規則第24条の2 | エックス線装置を備えたときは10日以内に届出。記載事項に構造設備および予防措置の概要が含まれる | 装置の型式と定格出力を、内装の実施設計が固まる前に確定させる |
| 名古屋市の添付書類 | 遮へい計算書(計算と図面のセット、管理区域の明示)と漏洩線量測定結果表 | 遮蔽計算を誰が作るのか(装置の販売会社か、設計事務所か)を見積の段階で決め、費用の負担も決めておく |
| 施行規則第1条の11第2項第3号の2 | エックス線装置等を備えている病院・診療所は、診療用放射線の安全利用のための責任者を配置し、指針の策定、研修の実施、被ばく線量の管理および記録を行うこと | 開業後の運用として誰が責任者になるかを決める。装置の導入前に、記録の様式と保管場所を決めておく |
決めること4〜7|面積・感染対策・待合・機器
部屋の面積は、削る順番を間違えると診療が回らなくなります。決める順序と、削ったときに何が起きるかを表にしました。
感染対策は、手洗いの位置と数、動線の分離、そして換気の経路で成立します。設備の話です。
医療機器は、工事のどの段階までに確定させるかが決まっています。電源と重量と寸法が、床と壁を決めるからです。
| 部屋 | 面積を決める要因と、削ったときに起きること | 図面を頼む前に自分で書き出すこと |
|---|---|---|
| 診察室 | 机、診察台、手洗い、患者様と付き添いの方の椅子、医師の背後の通路で決まる。狭くすると付き添いの方が入れず、廊下で待つことになる | 診察のときに同席する人数の最大値を書く。診察台に患者様を寝かせる頻度と、そのときに介助者が入る側を書く |
| 処置室 | ベッドの台数、器材のワゴン、手洗い、清潔と不潔の作業台で決まる。狭くするとワゴンの置き場がなくなり、通路に出る | 同時に処置する最大人数と、1回の処置に使う器材の数を書く。点滴を行うなら滞在時間も書く |
| 待合 | ピーク時の同時滞在人数と、車椅子・ベビーカーの通過幅で決まる。狭くすると立って待つ方が出て、苦情の原因になる | 受付開始から30分間に来る人数を、勤務先での経験から見積もる。付き添いの方の人数を足す |
| 受付・事務 | カウンターの長さ、レセプトコンピュータ、カルテの保管、会計の待ち位置で決まる。狭くすると個人情報が見える位置に書類が積まれる | 受付に同時に立つスタッフの人数を書く。紙のカルテを使うなら、その保管量を年数で見積もる |
| 検査室 | 導入する検査機器の寸法と、検体の受け渡し経路で決まる。狭くすると機器の増設ができなくなる | 開業時に入れる機器と、3年以内に入れる可能性がある機器を分けて書く |
| レントゲン室・操作室 | 装置の可動範囲と遮蔽の壁厚、操作室の位置で決まる。狭くすると撮影の姿勢が限られる | 装置の据付図を販売会社から取り寄せる。撮影の種類(立位、臥位、四肢)を書き出す |
| 調剤所 | 院内処方をするかどうかで有無が決まる。設ける場合は採光・換気・冷暗所・てんびんが条文上の要件 | 院内処方か院外処方かを先に決める。院外なら近隣の保険薬局の位置を地図で確認する |
| スタッフルーム・更衣室 | スタッフの人数と、休憩を取る時間帯の重なりで決まる。削ると採用と定着に効いてくる | 開業時のスタッフ人数と、2年後の想定人数を書く。ロッカーの数は多いほうに合わせる |
| お手洗い | 患者様用とスタッフ用を分けるかで面積が変わる。車椅子で入れる広さを取るかどうかも面積に効く | 既存の給排水の位置を内覧時に写真で記録する。移設できるかを内装会社に確認する |
| 倉庫・備品置き場 | 診療材料の在庫量と、納品の頻度で決まる。削ると廊下に段ボールが積まれる | 週に何回納品を受けるかを決める。納品の受け取り位置から倉庫までの経路を図面に線で引く |
| 措置 | 根拠と、内装がないと成立しない理由 | 物件の内覧時に自分で確かめること |
|---|---|---|
| 発熱の患者様の別動線 | 法令が直接に求めているものではないが、院内感染対策の指針(施行規則第1条の11第2項第1号イ)に書くなら実行できる設備が要る。出入口が1つの区画では作れない | 区画に出入口が2つあるか、または屋外に待機できるスペースがあるかを見る。ビルの共用部を待機に使えるかを管理会社に聞く |
| 待機場所の分離 | 待合を2つに分けるか、時間帯で分けるかの二択。面積が足りなければ時間帯で分けることになり、診療時間の設計が変わる | 待合として使える面積を実測する。壁で仕切ったときに、残りの面積で通常の待合が成立するかを図面で試す |
| 手洗い設備の数と位置 | 診察室・処置室・お手洗いのそれぞれに必要。給排水の位置で設置できる場所が限られる | 既存の給排水の立ち上がり位置を内覧時に写真で記録する。床下に配管を通せる高さがあるかを確認する |
| 機械換気の能力 | 建築基準法第28条第2項により、窓が取れない居室には政令で定める技術的基準に従った換気設備が必要 | 既存の換気設備の型式と風量を管理会社に確認する。外部への排気経路が確保されているかを見る |
| 器材の洗浄・滅菌の区画 | 清潔と不潔の作業を同じ台の上で行わないための面積が要る。医療法施行規則第16条第1項第15号は火気を使用する場所に防火上必要な設備を求めている | 滅菌器を置く位置に電源容量と給排水があるか、排熱の逃げ場があるかを確認する |
| 院内感染対策の指針の策定 | 施行規則第1条の11第2項第1号イ。無床診療所にも適用される | 開業前に指針の骨子を書き、そこに書いた運用が図面で実行できるかを1項目ずつ照合する |
| 従業者への研修の実施 | 同項第1号ハ。無床診療所にも適用される | 研修を行う場所を決める。スタッフルームで足りるか、待合を診療時間外に使うかを決める |
| 感染症の発生状況の報告と改善 | 同項第1号ニ。無床診療所にも適用される | 記録を保管する場所と、その施錠方法を図面で決める |
| 項目 | 診療所に固有の事情 | 図面ができたら自分で確かめる方法 |
|---|---|---|
| 入口の段差 | 杖・車椅子・ベビーカーのいずれもが1日に何度も通る。段差が1段あるだけで、スタッフが毎回介助に出ることになる | 入口から受付までの経路を、図面の上で車椅子の幅を紙で切り抜いてなぞる。曲がり角で引っかかる箇所を探す |
| 自動扉か手動扉か | 片手が塞がっている方が多い。手動の引き戸でも、開き方向と取っ手の高さで使いやすさが変わる | 荷物を両手に持った状態で、その扉が開けられるかを実際に試す。既存の扉なら内覧時に試せる |
| 受付カウンターの高さ | 立って書く方と、車椅子で書く方の両方がいる。1つの高さで両方に対応するのは難しい | カウンターの一部を低くした部分を図面に描いてもらい、その前に車椅子の膝が入る空間があるかを確認する |
| 待合の椅子の配置 | 椅子と椅子の間に車椅子とベビーカーを止める場所が要る。椅子を詰めて並べると止める場所がなくなる | ピーク時の同時滞在人数のうち、車椅子とベビーカーの割合を想定し、その台数分の空きを図面で確保する |
| お手洗いの広さ | 車椅子で入る場合、便器の横に移乗の空間が要る。介助者が同行する場合はさらに広さが要る | 既存のお手洗いの内法寸法を実測し、拡張できる方向があるかを図面で確認する |
| 床の仕上げ | 濡れた靴や雨の日の傘で滑る。一方で、車椅子が転がりにくい仕上げは押す側の負担になる | 候補の床材の見本を取り寄せ、水を垂らして手のひらで押してみる。内装材の選び方は別記事を参照する |
| 駐車場からの経路 | 郊外型の診療所では、車から降りて入口までの距離と屋根の有無が、雨の日の負担を決める | 駐車場の1台分の寸法と、入口までの動線を図面に引く。屋根を掛けられるかを建築士に確認する |
| 案内表示 | 初めて来られる方が、受付・お手洗い・診察室の位置を迷わず分かるか。高齢の方には文字の大きさが効く | 図面の入口の位置に立ったつもりで、そこから何が見えるかを描き出す。見えないものはサインが必要 |
| 確定させる時期 | その時期までに決めておく項目 | 遅れたときに発生する手戻り |
|---|---|---|
| 物件の契約前 | レントゲンを入れるか。給排水を必要とする機器が何台あるか。搬入経路(エレベーターの寸法、階段の幅、廊下の曲がり角)で入らない機器がないか | 物件そのものを変えることになる。契約後では取り返しがつかない |
| 基本設計(平面図の確定)まで | 機器の設置位置と寸法。診察室・処置室・検査室に置く機器の一覧。什器の造作か既製品かの方針 | 壁の位置が変わるため、図面をほぼ一から描き直すことになる |
| 実施設計(電気・給排水図の確定)まで | 機種名と型番、消費電力、単相か三相か、給排水の口径と位置、排熱の量 | 電気工事と設備工事の見積が組み直しになる。着工日が後ろにずれる |
| 着工前 | コンセントの位置と口数、LAN配線の位置、什器の寸法と色、レントゲンの遮蔽計算の結果 | 壁を作った後の追加配線になり、露出配線か壁の開口が必要になる |
| 工事の中間(下地が組まれる前) | 壁に固定する機器の位置(モニターアーム、手すり、収納棚)。下地の補強が必要な箇所 | 後から補強するには壁を開ける。仕上げ材の張り替えが発生する |
| 仕上げ工事の前 | 床材の切り替え位置、巾木の仕様、扉の開き勝手の最終確認 | 張り替えになるが、他の工程よりは影響が小さい。ここまで来たら変更を止める |
| 引き渡し前 | 機器の納品日と据付日。レントゲンの漏洩線量測定の日程 | 測定が済まないと届出書が完成せず、保健所への提出が遅れる |
決めること8〜9|資金と、開業日からの逆算
福祉医療機構(WAM)の医療貸付には、無床・歯科診療所向けの条件があります。民間の融資と条件が違うので、先に比べてください。
日程は開業日から逆算します。保健所の相談、エックス線の届出、開設届。愛知県・名古屋市の場合の順序を表にしました。
| 資金の種類 | 融資額・償還期間(据置期間)と対象の条件 | 申し込む前に自分で確認すること |
|---|---|---|
| 新築資金(建築・購入) | 無床診療所・歯科診療所は3億円以内。土地取得資金は3億円以内。耐火建物は20年以内(据置2年以内)、その他構造の建物は15年以内(据置2年以内)。無床・歯科は診療所不足地域での新設、または在宅療養支援(歯科)診療所・かかりつけ医機能を有する診療所の新設に限られる | WAMの「診療所過不足検索」で、開設予定地が診療所不足地域かどうかを確認する。物件を絞る前に調べる |
| 新築資金(賃借・敷金保証金等) | 償還期間15年以内(据置1年以内) | 賃貸借契約の保証金の額と、返還の条件を契約書で確認する。償却される部分がいくらかを把握する |
| 新築資金(賃借・権利金) | 償還期間5年以内(据置6か月以内) | 権利金と保証金が契約書のどこで区別されているかを読む。名目によって償還期間が3倍違う |
| 甲種増改築資金 | 無床・歯科診療所は、診療所不足地域において全面建て替え・一部建て替え・改修等に必要な資金。建築資金3億円以内、耐火建物20年以内(据置1年以内) | 新設ではなく既存施設の承継や改修であれば、こちらが対象になる。どちらに当たるかをWAMに確認する |
| 乙種増改築資金 | 無床・歯科診療所は、診療所充足地域において全面建て替え・一部建て替え・改修等に必要な資金。建築資金3億円以内。土地取得資金は利用できない | 充足地域であっても増改築なら対象になる点を押さえる。ただし土地の取得には使えない |
| 機械購入資金 | 新設(新築資金)に伴い必要な資金として2千5百万円以内。ただし購入価格の80%以内、1品の価格が10万円以上のものが対象。償還期間5年以内(据置6か月以内) | 医療機器の見積を1品ごとに並べ、10万円以上のものだけを合計する。80%を掛けた額が上限の目安になる |
| 長期運転資金(新設に伴うもの) | 300万円、ただし所要資金の80%以内。償還期間1年以上3年以内(据置6か月以内) | この制度で賄える運転資金は300万円が上限。不足分をどこから調達するかを別に決める |
| 長期運転資金(経営安定化資金) | 経済情勢の悪化による経営環境の変化により一時的に資金不足を生じている診療所が対象。4千万円以内、償還期間7年以内(据置1年以内)。機構で行う経営診断を受けることが条件 | これは開業時の資金ではない。開業後に使う可能性がある制度として、存在だけ覚えておく |
| 段階 | この段階で完了させること | 遅れたときに次に何が止まるか |
|---|---|---|
| 物件を絞る段階 | 所轄の保健センターを特定して電話相談。レントゲンの有無を決める。搬入経路と電気容量を確認。WAMの診療所過不足検索で地域の区分を確認 | 物件を契約してからでは選択肢が消える。とくにレントゲン室の位置と別動線は取り返しがつかない |
| 賃貸借契約 | 開設者の名義で契約する。引き渡し日、フリーレント、原状回復の範囲、工事の承諾を書面で確認 | 名義が違うと開設届の添付書類として使えない。工事の承諾がないと着工できない |
| 基本設計 | 建築検討図面の段階で保健センターに事前相談。平面図を確定させる。医療機器の一覧を確定させる | ここで相談していないと、後の届出で図面の修正を求められる可能性がある |
| 実施設計・見積 | 電気・給排水・空調の図面を確定。レントゲンの遮蔽計算を依頼。工事請負契約を締結 | 遮蔽計算が出ないと壁の仕様が決まらず、着工できない |
| 着工 | 工程表を受け取り、機器の納品日を工程に組み込む。指定を受けたい月の2か月前までに厚生局へ受付番号の情報提供を依頼 | 受付番号の依頼が遅れると、指定申請の日程が組みにくくなる |
| 工事の中間 | 下地が組まれる前に、壁付けの機器と手すりの位置を確定。中間の検査に立ち会う | 下地の補強が漏れると、後から壁を開けることになる |
| 引き渡し | 医療機器の据付と動作確認。レントゲンの漏洩線量測定。遮蔽計算書と測定結果表を受け取る | 測定結果表がないとエックス線装置設置届が出せない |
| 開設 | 診療所開設届を保健センターへ提出(開設後10日以内、正本1部・副本2部、持参)。エックス線装置設置届も提出(設置後10日以内、正本1部・副本1部) | 保健所の受理がないと厚生局へ指定申請ができない |
| 指定申請 | 東海北陸厚生局の指導監査課へ指定申請書を持参。開設者と管理者が来庁。社会保険・労働保険の加入状況の確認票を添付 | 提出期限を過ぎると、その月の協議会に諮られず、指定が1か月後ろにずれる |
| 保険診療の開始 | 協議会の答申を受けた翌月1日に指定。この日から保険診療を開始できる | ここまでの遅れがすべて集約される。1か月ずれれば1か月分の医業収益が消える |
歯科は、診療台の台数で内装が決まる
台数が決まると、給排水の位置、コンプレッサーの置き場、電源、そして待合の広さまで連動して決まります。だから台数は、いちばん先に決める項目です。
| 項目 | 台数とどう連動するか | いつまでに、自分で何を決めるか |
|---|---|---|
| 床下の給排水配管 | 1台ごとに給水と排水の経路が要る。床のかさ上げが必要になることが多く、天井高と段差に影響する | 物件の契約前に、床をかさ上げできる天井高があるかを実測する。既存の排水の位置と勾配を確認する |
| 吸引(バキューム)の配管 | 台数が増えるほど必要な吸引能力が上がる。配管が長いと効きが落ちる | 基本設計までに機械室の位置を決める。診療台から機械室までの距離を図面上で測る |
| 圧縮空気(コンプレッサー) | 台数に応じた吐出量の機種を選ぶ。動作音と振動が出るため設置場所が問題になる | 基本設計までに機種を決め、騒音値の仕様書を取り寄せる。上下階の用途を管理会社に確認する |
| 電源容量 | 診療台、滅菌器、レントゲン、CTを同時に使う場面を想定して容量を出す | 実施設計までに機器一覧の消費電力を確定させ、電気工事会社に容量計算を依頼する |
| 診療台どうしの間隔と仕切り | 台数を増やすほど1台あたりの間隔が狭くなる。仕切りの高さで、視線と会話の聞こえ方が変わる | 基本設計までに、個室にするか半個室にするかオープンにするかを決める。診療の内容と患者様の層から逆算する |
| 歯科技工室 | 院内に持つなら防塵設備が条文上の要件(施行規則第16条第1項第13号)。石膏用の流しと沈殿槽も要る | 物件の契約前に、技工を院内で行うか外注するかを決める。院内なら排気経路の有無を確認する |
| 滅菌・器材の洗浄区画 | 台数が増えるほど回転する器材が増え、洗浄と滅菌の作業量が増える。面積と作業台の長さに効く | 基本設計までに、1日の器材の回転数を見積もる。滅菌器の台数と設置位置を決める |
| スタッフの動線 | 診療台の間を歯科衛生士が移動する。台数が増えるほど通路の重要度が上がる | 基本設計までに、診療台の配置案を2案以上作り、それぞれで歩行距離を図面上で測って比べる |
| 将来の増設 | あとから1台増やすには、その位置まで配管が来ている必要がある | 実施設計までに、将来の増設位置を図面に明示し、そこまで配管を伸ばす費用の見積を取る |
図面を描いてもらう前にやること
標榜する診療科目と、実際に行う診療の内容を書き出す。検査、処置、リハビリまで書くと、必要な部屋が決まります。
相手ごとに、聞くべきことと聞いても答えが出ないことも分けました。
| 相手 | 聞くべきこと/聞いても答えが出ないこと | 相談の前に自分で用意するもの |
|---|---|---|
| 保健所(保健センター) | 聞くべきは、この図面で開設届が受理されるか、必要書類は何か、事前相談の時期はいつか。聞いても答えが出ないのは、経営の可否や機器の選定 | 建築検討図面の下書き、標榜する診療科目、開設者の形式(個人か法人か) |
| 地方厚生局(指導監査課) | 聞くべきは、指定申請書の提出期限、指定日の考え方、必要な添付書類。聞いても答えが出ないのは、施設の構造や図面の可否 | 希望する開業月、開設者と管理者の氏名、保健所への届出の予定日 |
| 内装工事会社・設計事務所 | 聞くべきは、工期、概算費用、この物件で実現できる範囲。聞いても答えが出ないのは、医療法上の可否や届出の受理の見込み | 医療機器の一覧、想定する患者様の人数、部屋の構成の希望 |
| 医療機器の販売会社 | 聞くべきは、据付図、消費電力、給排水の要否、搬入寸法、遮蔽計算の実施可否と費用。聞いても答えが出ないのは、内装の工期や届出の手続き | 候補の機種、設置予定の部屋の寸法、建物の階数とエレベーターの内法寸法 |
| 金融機関・公庫・WAM | 聞くべきは、対象となる資金の種類、限度額、償還期間、必要書類、審査の期間。聞いても答えが出ないのは、開業計画の妥当性の保証 | 設備資金と運転資金を分けた資金計画、見積書、事業計画書 |
| 税理士・社会保険労務士 | 聞くべきは、開業時の届出、減価償却の扱い、社会保険と労働保険の手続き。聞いても答えが出ないのは、医療法上の構造設備の判断 | 開設の形式、スタッフの人数と雇用形態、内装工事と医療機器の見積の内訳 |
| 建物の管理会社・貸主 | 聞くべきは、工事の承諾、上下階と隣室の用途、電気容量、給排水と換気の既存設備、看板の設置可否。聞いても答えが出ないのは、医療法や消防法の判断 | 導入予定の機器の重量と電力、レントゲン室を作る場合はその位置、営業時間 |
| 所轄の消防本部 | 聞くべきは、この用途と規模で消防用設備等に何が必要か、防火対象物使用開始届の要否と期限。聞いても答えが出ないのは、医療法上の構造設備の判断 | 平面図、延べ面積、階数、収容人員の想定。詳細は消防手続きの記事を参照する |
図面を描いてもらう前にやる手順
- 標榜する診療科目と、行う診療の内容を書き出す。検査、処置、リハビリ、予防接種、健診のうち何をどのくらいの比率で行うかを、割合で書く。これが部屋の構成を決める。
- 1日の外来患者様の想定人数と、時間帯ごとの分布を書く。受付開始から30分ごとに、何人が来て何人が待っているかを表にする。ピークの人数が待合の広さを決める。
- 付き添いの方の人数を足す。小児科なら保護者の方、整形外科なら送迎の方。滞在人数は受診人数より多いことを前提に数える。
- レントゲンを入れるかを決める。入れるなら、機種の候補を2つまで絞り、販売会社から据付図と定格管電圧の資料を取り寄せる。
- 院内処方か院外処方かを決める。院内なら調剤所が1室増える。院外なら近隣の保険薬局の位置を地図で確認する。
- 医療機器の一覧を作る。機種名・寸法・重量・消費電力・給排水の要否・搬入経路の6項目を1行ずつ埋める。開業時と3年以内を分けて書く。
- 所轄の保健センターに電話し、事前相談の予約を取る。名古屋市の案内は建築検討図面を作成の段階での相談を求めている。図面が固まる前に行く。
- 東海北陸厚生局の指導監査課に、希望する開業月の指定申請書の提出期限を確認する。そこから逆算して、工事の完了日を決める。
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よくある質問
クリニックの開業について、繰り返し出てくる質問を4つ挙げます。 いずれも条文や行政の公表資料を確認すれば答えの方向は出るものの、 最終的な判断には所轄の保健所と厚生局への確認が必要になるものばかりです。
ここでは、確認できた条文と公表資料の記述を示したうえで、 どこから先が自己判断できない領域なのかを明示します。 確認できなかった事項については、その旨をそのまま書いています。 推測で数字を置くことはしていません。
医師が自分で診療所を開くとき、保健所の許可は必要ですか。届出だけでよいのですか?
臨床研修等修了医師または臨床研修等修了歯科医師が自分の名前で診療所を開設する場合は、許可ではなく届出です。
医療法第8条第1項が 「臨床研修等修了医師、臨床研修等修了歯科医師又は助産師が診療所又は助産所を開設したときは、 開設後十日以内に、診療所又は助産所の所在地の都道府県知事に届け出なければならない」と定めています。
逆に、医療法人が開設する場合や、医師でない方が開設者になる場合は、 医療法第7条第1項により開設地の都道府県知事 (保健所を設置する市の区域にある場合はその市長)の許可が必要です。 名古屋市は保健所を設置する市なので、窓口は市の保健センターになります。
ここで注意したいのは、届出であっても「後から出せばよい」という意味ではないという点です。 名古屋市の「第6号様式 診療所開設届(個人医師による開設)」のページは、 提出期限を「開設後10日以内」としたうえで、あわせて 「建築検討図面を作成の段階で事前にご相談下さい」と明記しています。
つまり、法律上の提出期限は開設後でも、行政が想定している相談の開始時期は図面を描いている最中です。 届出は正本1部・副本2部の計3部が必要で、郵送受付はできないとされています。
必要書類には施設付近の見取り図、敷地の平面図、診療所の配置図の入った建物の平面図、 賃貸で開設する場合は開設者本人が借りていることが分かる賃貸借契約書が含まれます。 図面が確定してから相談に行くのではなく、図面を描く前に相談してください。
エックス線装置を入れる部屋は、どのくらい遮蔽すればよいのですか。届出はいつ出しますか?
医療法施行規則第30条の4第1項第1号が、エックス線診療室の天井、床及び周囲の画壁について 「その外側における実効線量が一週間につき一ミリシーベルト以下になるように遮蔽することができるものとすること」と定めています。
ただし書きで、その外側が人の通行も停在もない場所である画壁等はこの限りでないとされています。 同項第2号はエックス線診療室の室内に装置を操作する場所を設けないこと、 第3号はエックス線診療室である旨を示す標識を付すことを求めています。
あわせて第30条の26第4項が、病院または診療所内の人が居住する区域および敷地の境界における線量限度を 実効線量で3月間につき250マイクロシーベルトと定め、 同条第3項第1号が管理区域に係る外部放射線の線量を実効線量で3月間につき1.3ミリシーベルトと定めています。
届出については、医療法施行規則第24条の2が、 エックス線装置を備えたときの法第15条第3項の規定による届出を「十日以内に」行うものとし、 届出書に記載する事項として病院または診療所の名称及び所在地、製作者名・型式・台数、 エックス線高電圧発生装置の定格出力、 エックス線装置及びエックス線診療室のエックス線障害の防止に関する構造設備及び予防措置の概要、 エックス線診療に従事する医師等の氏名及び経歴の5項目を挙げています。
名古屋市の「第16号様式 診療用エックス線装置設置届」のページは、提出期限を設置後10日以内とし、 添付書類として遮蔽計算書(計算と図面がセットで、図面には管理区域が明示されていること)と 漏洩線量測定結果表を挙げています。 遮蔽計算書は工事の後に作るものではなく、壁の仕様を決める前に必要になります。
装置の機種が決まらないと計算ができないため、 レントゲン室を作るなら機種の選定を内装の設計と同時に進めてください。
無床診療所に、廊下の幅や部屋の広さの法令基準はありますか?
医療法施行規則第16条第1項が、法第23条第1項の規定による病院または診療所の構造設備の基準を定めています。
ただし、同項の柱書のただし書きが 「第九号及び第十一号の規定は、患者を入院させるための施設を有しない診療所 又は九人以下の患者を入院させるための施設を有する診療所(療養病床を有する診療所を除く。)には適用しない」 としています。
第十一号は患者が使用する廊下の幅を定めた号で、 診療所については内法1.2メートル以上、両側に居室がある廊下は内法1.6メートル以上とされていますが、 この号は無床診療所には適用されません。 第九号の直通階段の構造も同様です。 つまり、無床診療所の廊下幅を直接に縛る医療法上の数値基準は存在しません。
とはいえ、車椅子とすれ違える幅、ストレッチャーが曲がれる幅、 松葉杖の方が壁に手を掛けられる幅は、法令とは別に必要です。
無床診療所にも適用される号としては、 第一号(電気・光線・熱・蒸気・ガスに関する構造設備は危害防止上必要な方法を講じ、 放射線に関する構造設備は第四章によること)、 第十二号(感染症病室または結核病室を有する場合の消毒設備)、 第十三号(歯科技工室の防塵設備その他必要な設備)、 第十四号(調剤所の構造設備。採光及び換気を十分にし清潔を保つこと、冷暗所を設けること、 感量10ミリグラムのてんびん及び500ミリグラムの上皿てんびんその他調剤に必要な器具を備えること)、 第十五号(火気を使用する場所の防火設備)、第十六号(消火用の機械又は器具)などがあります。
数値が書かれていないからこそ、保健所との事前相談で「この図面で足りるか」を確認する必要があります。
保険診療を始められるのはいつからですか。内装工事の完了とどう関係しますか?
保険医療機関の指定は、東海北陸厚生局の「記載要領(手続きの流れについて)」によると、 原則として地方社会保険医療協議会(部会)の答申を受けた翌月1日となります。 同ページには 「東海北陸厚生局に指定申請書を提出していただく前に、開設等に係る保健所等への届出が必要となります」 と明記されています。
つまり順序は、内装工事の完了、保健所への開設届、厚生局への指定申請、協議会の答申、翌月1日の指定という流れになります。
提出期限は県ごとに異なり、富山・石川・静岡・三重の各事務所は毎月15日、 岐阜事務所は毎月20日(令和8年8月から毎月15日に変更)とされ、 愛知県を管轄する指導監査課については書類件数を勘案して毎月の提出期限を別途定めるとされています。
また、指定を受ける2か月前までに受付番号の情報提供を受ける手続きが用意されており、 申請書の提出の際には開設者と管理者の来庁が求められます。 開設者が変更になった場合など限られた場合には遡及指定の例外がありますが、新規開業はこれに当たりません。
したがって、内装工事の完了日が1か月ずれると、保険診療の開始が1か月まるごと後ろにずれる可能性があります。 工期の遅れが直接に無収入期間の長さになる構造なので、 工事請負契約の工期と、その後の届出に必要な日数を、契約前に見積書と一緒に確認してください。
契約書の読み方は 内装工事の請負契約書で確認する8つの条項|支払条件と契約不適合責任にも整理があります。 最終的な日程は必ず所轄の保健センターと東海北陸厚生局の指導監査課に確認してください。
まとめ|診療所の開業で決める9つのこと
内装費を「1日あたりの外来患者様、何人分か」に翻訳すると、その投資が回るかどうかが判断できます。
まずは保健所へ、図面ができる前に一度行ってください。相談は早いほど、直す量が少なくて済みます。
| 段階 | 計算の内容と結果 | 自分の数字に置き換えるときに入れ替える値 |
|---|---|---|
| 1|1日あたりの医業収益 | 8,840万8千円 ÷ 240日 = 約36万8千円。これが1日に立てる医業収益の目盛りになる(統計値を診療日数の仮定で割ったもの) | 自分の想定する年間医業収益と、実際に診療する日数(週の診療日数×52週−休診日)を入れる |
| 2|患者様1人あたりの医業収益 | 36万8千円 ÷ 40人 = 約9,200円。窓口負担と保険者からの支払いを合わせた1人あたりの金額の想定(例) | 自分の診療科目の実感に置き換える。処置や検査の比率が高いほど、この値は上がる |
| 3|内装費の年あたり負担 | 2,000万円 ÷ 10年 = 年200万円。実際の税務上の耐用年数は構造と用途で変わるため、これは単純な期間按分 | 自分の見積金額と、税務上の耐用年数(別記事参照)を入れる |
| 4|内装費の1日あたり負担 | 200万円 ÷ 240日 = 約8,333円 | 診療日数を自分の数字にする。週4日診療なら日数が減り、1日あたりの負担は上がる |
| 5|患者様の人数に翻訳 | 8,333円 ÷ 9,200円 = 約0.91人。つまり1日1人弱の患者様の医業収益が内装費に充てられている計算になる | 2と4の値を入れ替えるだけで自分の数字が出る |
| 6|見積が500万円増えたら | 2,500万円 ÷ 10年 ÷ 240日 = 約1万417円。9,200円で割ると約1.13人。増分は1日あたり約0.22人 | 追加工事の見積が出たときに、この計算をその場で行う |
| 7|医業収益ではなく利益で見る | 同じ調査の損益差額率29.1%を掛けると、患者様1人あたりの損益差額は約2,677円。内装費の1日負担8,333円を賄うには1日あたり約3.1人分の損益差額が必要 | 損益差額率は施設によって大きく違う。自分の費用構造で計算し直す |