「空調換気設備工事一式 180万円」。この行が判断できないと、支払いは二度発生します。過大なら余分に、過小なら開店後の増設工事で。
空調の能力は、床面積では決まりません。外から入る熱、中で発生する熱、人の数、そして換気で入れ替わる空気。この合計で決まります。
着工前に固めることは7つ。必要能力、機種と設置方式、既設の流用、換気の法令、給気と排気のバランス、室外機、そして保守。
この記事でわかること
- 必要な空調能力を床面積ではなく「部屋に入ってくる熱の量」から逆算する考え方と、業者に出させるべき計算根拠の中身
- 天井高・ガラス面・厨房機器・在店人数がそれぞれどの向きに能力を押し上げるかと、自店で確かめる方法
- 天井カセット型・天吊型・床置型・ビル用マルチの選び分けと、店舗ならではの注意点
- 居抜きの既設エアコンを流用してよいかを、能力・製造年・部品保有期間・設置環境の4点で判断する手順
- 建築基準法第28条と施行令第20条の2・第20条の3・第20条の8が店舗に求めている換気量の下限と、厚生労働省が示す一人あたり毎時30立方メートルとの差
- ドアが重い・すきま風・臭気という症状から給気不足を切り分ける、道具のいらない確認方法
- 室外機の設置で守るべき名古屋市の敷地境界における騒音の規制基準(用途地域別・時間帯別の数値)
- 空調工事費と更新費用を「客単価いくらの店で、1日何人分にあたるか」に翻訳する計算手順
物件を借りる前に、その建物の電気容量・ガス容量・空調の下地条件が足りているかを見る話は 店舗の電気容量が足りない物件を避けるには|契約前に確認する7つの設備条件で、 開店後の光熱費そのものを工事で下げる対策は 店舗の光熱費を工事で下げる7つの対策|電気代の内訳から逆算するで、 飲食店の物件内覧で厨房・換気・給排水をその場でどう見るかは 飲食店の物件内覧で確認する8つのこと|厨房・換気・給排水・電気とガスを現地で見るで扱っています。 この記事はそれらに重ならないよう、物件が決まったあとの「空調と換気そのものの設計と機種選定」だけに絞ります。 ランニングコストの下げ方は前者2本に、内覧時のチェックは後者に譲ります。
「空調換気工事一式」の中で、まだ何も決まっていない
7つの決定が、この1行に隠れています。決まっていないと何が起きるかを表にしました。どれも、着工後に決めると工事が増えます。
| 決定 | 決まっていないと起きること | 今日、見積書と図面で確認すること |
|---|---|---|
| 決定1|必要能力を熱の量から出す | 床面積だけで馬力が決められ、夏の夕方や満席時だけ効かない状態になる。逆に過大だと初期費用と電気代を余分に払う | 「何キロワットの熱を想定して、この能力になったのか」と質問し、計算の前提(人数・照明・機器・外気条件)を紙で出してもらう |
| 決定2|割増要因を明示させる | 天井が高い、ガラス面が大きい、厨房が近いといった条件が計算に入らず、同じ広さの一般的な店と同じ能力になる | 天井高、ガラス面の方位と面積、厨房機器の合計出力を自分で測って書き出し、設計担当に渡す |
| 決定3|機種と設置方式を決める | 天井の高さや梁の位置に合わない機種が選ばれ、吹き出しが席を直撃する、点検口が開けられないといった問題が残る | 天井伏図に室内機の位置を記入してもらい、席の真上に吹き出しが来ていないかを平面図で確認する |
| 決定4|既設機器の流用可否を決める | 居抜きの既設機器を「動くから」という理由で残し、開店後1〜2年で故障・部品なしという事態になる | 室内機の銘板を写真に撮り、製造年と形式名を控える。製造から何年たっているかを数える |
| 決定5|換気の法令上の下限を押さえる | 確認申請や保健所の相談段階で換気量の不足を指摘され、設計をやり直すことになる | 「どの条文に基づいて、必要換気量を何立方メートル毎時として計算したか」を書面で出してもらう |
| 決定6|給気と排気をつり合わせる | 排気だけが計画され、店内が負圧になる。ドアが重い、すきま風、他区画からの臭気が起きる | 換気系統図で、排気の合計風量と給気の合計風量を足し算し、給気が極端に小さくないかを見る |
| 決定7|室外機の位置と更新経路を決める | 敷地境界に近い場所や隣家の窓の正面に据え付けられ、近隣から申し入れを受ける。10年後の入れ替えで搬出できない | 配置図に室外機の位置を落とし、最も近い敷地境界までの距離をメジャーで実測する |
必要能力は、広さではなく熱の量で決まる
押し上げる要因は決まっています。ガラス面の大きさ、厨房の火気、照明、人の密度、そして最上階かどうか。
自店で確かめる方法も表にしました。「同じ坪数の店と同じ能力」で決めると、たいてい足りません。
| 要因 | どう効くか | 自店で確かめる方法 |
|---|---|---|
| 天井高 | 冷やす空気の体積が増える。加えて冷気は下に、暖気は上にたまるため、暖房時に足元が暖まりにくくなる。吹き抜けやスケルトン天井では、天井付近に暖気が滞留して無駄になる | 床から天井(またはデッキスラブ下端)までをレーザー距離計またはメジャーで実測し、2.4メートルを超える分を設計担当に伝える |
| ガラス面の面積と方位 | 日射がそのまま室内に入る。特に西向きの大きなガラスは、夏の16時から18時に熱が集中し、「夕方だけ効かない」という症状の主因になる | 方位磁石アプリで開口部の向きを確認し、幅×高さでガラスの面積を計算する。西・南向きの合計面積をメモする |
| 厨房機器の熱 | コンロ、フライヤー、オーブン、食洗機が出す熱が客席側へ流れ込む。厨房と客席の間に扉がない対面型では特に大きい | 導入予定の厨房機器のカタログから、ガス消費量(キロワット)と電気容量(キロワット)を書き出して合計する |
| 在店人数のピーク | 人は一人あたり百数十ワット程度の熱を出す。満席時と平常時で室温が変わる。予約が重なる時間帯だけ効かない店はこれが原因のことが多い | 席数に加えて、レジ待ちや順番待ちを含めた「最大で店内に何人いるか」を数え、スタッフ数を足して設計担当に伝える |
| 照明の総ワット数 | 白熱灯やハロゲンのスポットは、消費電力のほとんどが熱になる。演出照明を多用する物販店・美容室では無視できない量になる | 照明計画書の器具リストから消費電力の合計を出す。LED化されているかどうかも同時に確認する |
| 扉の開閉頻度 | 扉が開くたびに外気が入る。テイクアウト主体の店や、自動ドアで人通りの多い路面店では、外気の侵入が常時続く状態になる | 近隣の類似店で、ピーク1時間あたりの入店回数を数える。風除室やエアカーテンの有無を図面で確認する |
| 冷蔵・冷凍ショーケース | ショーケースは庫内から取り出した熱を店内に放出する。オープンケースは冷気が床にこぼれるため、暖房時に足元が冷える | 設置予定のケースの排熱方式(店内放熱か、別置きの室外機か)をメーカーの仕様書で確認する |
機種と設置方式、既設エアコンの流用判断
天井カセット、天吊り、壁掛け、床置き。設置方式で、天井裏に必要な高さが変わります。
既設の流用は4つの点で判断します。年式、能力、冷媒の種類、そして配管の状態。どれか一つ外れると入れ替えになります。
| 設置方式 | 向く場面と注意点 | 図面で確認すること |
|---|---|---|
| 天井カセット形(4方向) | 天井に埋め込み、四方向に吹き出す。見た目がすっきりし、風が均等に回る。天井裏に一定の懐が必要で、梁が近いと納まらない。フィルター清掃は脚立作業になる | 天井裏の懐寸法(スラブ下端から天井仕上げまで)が機器の高さより大きいか。点検口の位置が確保されているか |
| 天井カセット形(1方向・2方向) | 細長い区画や、梁で分割された区画に向く。4方向より風の到達範囲が狭いため、台数が増えることがある | 吹き出しの向きが、通路方向を向いているか(席の真正面を向いていないか) |
| 天井吊形(天吊) | 天井を張らないスケルトン天井の店や、懐が取れない物件で使う。機器が露出するため意匠との調整が必要。到達距離が長く、細長い店に向く | 露出した機器と配管が、デザイン上どう見えるか。塗装するのか、そのまま見せるのかが決まっているか |
| 床置形 | 天井に何も付けられない物件や、足元の暖房を重視する店で使う。床面積を占有し、什器配置に影響する。前面をふさぐと能力が落ちる | 什器や什器什品の配置図で、機器の前面に十分な空間が確保されているか |
| 壁掛形 | 小規模なバックヤードや個室に使う。設置は容易だが、業務用としては能力の上限が低く、主たる客席には力不足になりやすい | その区画の想定人数と機器の能力が見合っているか。主室に安易に採用されていないか |
| ビル用マルチ(1台の室外機に複数の室内機) | 室外機の置き場所が限られる物件で有効。区画ごとに個別運転できる。ただし室外機が停止するとすべての室内機が止まるため、故障時の影響範囲が広い | 室外機1台に対して室内機が何台つながる計画か。故障時に店全体が止まる構成になっていないか |
| 判断の点 | 流用を避けたほうがよい状態 | 今日、現地で確認する方法 |
|---|---|---|
| 能力が今度の使い方に合うか | 前の店から席数・厨房機器・営業時間・間仕切りが変わっている。特に間仕切りを撤去して1室にした場合、既設の台数配置では風が届かない | 前の店の業態・席数を仲介会社に確認し、自分の計画と並べて書き出す。変わった項目を数える |
| 製造年 | 製造から10年以上。同工業会の資料が示す耐用年数の目安(6〜15年)の後半に入っている | 室内機の側面か吸込口の内側にある銘板を写真に撮り、製造年と形式名を控える。室外機の銘板も同様に撮る |
| 補修部品が出るか | すでに生産が終了しており、製造打切りから9年前後が経過している。故障時に修理不能となる | 控えた形式名でメーカーのサポート窓口に問い合わせ、補修部品の保有期間が残っているかを確認する |
| 設置環境の厳しさ | 前の店が飲食店で、厨房の近くに室内機がある。海に近い、または屋外に露出した室外機が塩害・粉じんを受けている | 室内機のフィルターと吹出口を開けて、油汚れの付き方を見る。室外機の熱交換器(フィン)の目詰まりと腐食を目視で確認する |
換気の法令が決める最低ライン
換気には三系統の規定があります。建築基準法、火災予防条例、そして労働安全衛生法。系統ごとに、求める量の計算式が違います。
いちばん厳しいものに合わせます。厨房がある店では、たいてい火災予防条例が効きます。
| 系統 | 根拠と内容 | 設計担当に確認すること |
|---|---|---|
| 居室の換気 | 建築基準法第28条第2項。換気に有効な開口部の面積は床面積の20分の1以上。足りない場合は施行令第20条の2の技術的基準に従った換気設備で代替する(機械換気は V=20Af/N) | 「この区画の窓の有効面積は床面積の何分の1か。足りない場合、必要有効換気量は何立方メートル毎時で計算したか」を書面で出してもらう |
| 火気使用室の換気 | 建築基準法第28条第3項と施行令第20条の3。かまど・こんろその他火を使用する設備を設けた室に換気設備が必要。風量は昭和45年建設省告示第1826号の V=NKQ で計算する | 「フードの形状はどれで、Nの値はいくつか。燃料消費量Qは何キロワットで計算したか」を確認し、厨房機器の入れ替え予定があれば伝える |
| シックハウス対策の常時換気 | 建築基準法施行令第20条の8。必要有効換気量は Vr=nAh。nは住宅等の居室で0.5、その他の居室で0.3 | 「この居室は住宅等の居室とその他の居室のどちらで計算したか」「常時運転する前提の機器か、スイッチで切れる機器か」を確認する |
| 給気口と排気口の位置 | 施行令第20条の3第2項は、火気使用室の給気口を天井高さの2分の1以下の位置に、排気口を天井または天井から下方80センチメートル以内の位置に設けることを定めている | 換気系統図で、給気口が低い位置に、排気口が高い位置に描かれているかを目で確認する |
| 認定を受けた換気設備の性能 | 施行令第20条の2第1号ニは、大臣認定を受ける換気設備について、居室内の炭酸ガスの含有率をおおむね100万分の1000以下、一酸化炭素の含有率をおおむね100万分の6以下に保つ換気ができることを求めている | 二酸化炭素濃度計を1台用意し、開店後に混雑時の店内を測って1000ppmを超えていないかを見る |
給気と排気のバランス
排気だけ強くすると、店内が負圧になります。扉が重い、隙間風の音がする、においが逆流する。どれも負圧のサインです。
道具を使わずに切り分ける方法も表にしました。
| 症状 | 起きていること | 今日、店で試す方法 |
|---|---|---|
| 入口のドアが重い | 店内の気圧が外より低く、外開きのドアが外気に押さえつけられている。ドアクローザーの調整では直らない | すべての換気を止めた状態と、営業時と同じ状態でドアの重さを比べる。止めると軽くなるなら負圧が原因 |
| すきま風の音がする | わずかなすきまに空気が高速で流れ込んでいる。サッシの召し合わせ部やシャッターのすきまで起きやすい | 細く切ったティッシュを持って店内を歩き、吸い込まれる場所を探す。その場所が空気の入口になっている |
| 冬に足元だけ冷える | 低い位置のすきまから外気が直接入っている。暖房の能力ではなく、外気の侵入経路の問題 | 床から10センチの高さで、扉際・サッシ際に手をかざして風を感じるかを確かめる |
| 他区画の臭いが入る | 自店が負圧のため、天井裏や配管の貫通部を通じて隣接区画の空気を吸い込んでいる | 点検口を開け、天井裏で隣区画とつながる貫通部やすきまがないかを目視する。写真に撮って管理会社に相談する |
| エアコンの効きが日によって違う | 外気の侵入量が風向きや扉の開閉に左右されている。負圧が強いほど外気の影響を受けやすい | 同じ設定温度で、風の強い日と穏やかな日の室温を記録して比べる |
| 厨房のガス機器の炎が不安定 | 給気が足りず、燃焼に必要な空気を取り込めていない。不完全燃焼の危険がある | すぐに使用を止め、ガス会社と設備業者に連絡する。自分で判断せず専門業者に見てもらう |
室外機の置き場所と、近隣
室外機は音が出ます。名古屋市の騒音の規制基準は、敷地境界での数値です。住居が隣接する場所では、置き方で決まります。
熱の逃げ場がないと、能力も落ちます。着工前にできることを表にしました。
| 用途地域 | 昼間8〜19時/朝夕6〜8・19〜22時/夜間22〜6時 | 自店で確認すること |
|---|---|---|
| 第1種・第2種低層住居専用地域/第1種・第2種中高層住居専用地域 | 昼間45/朝夕40/夜間40 | 住宅地に出店する場合は、この最も厳しい区分に当たる可能性が高い。用途地域を都市計画情報で必ず確認する |
| 第1種住居地域/第2種住居地域/準住居地域 | 昼間50/朝夕45/夜間40 | 幹線道路沿いでもこの区分のことがある。夜間40デシベルは、静かな住宅地の昼と同程度の水準だと認識しておく |
| 近隣商業地域/商業地域/準工業地域 | 昼間65/朝夕60/夜間50 | 繁華街の物件はこの区分が多い。夜間50デシベルは昼間より15デシベル厳しい。深夜営業の店は夜間の値で検討する |
| 都市計画区域で用途地域の定められていない地域 | 昼間60/朝夕55/夜間50 | 市街化調整区域に出店する場合に該当する。近隣商業地域より昼間の基準が5デシベル厳しい点に注意する |
| 工業地域 | 昼間70/朝夕65/夜間60 | 基準は緩いが、住居系地域に接する境界線から50メートルの範囲は5デシベル減じた値になる。境界からの距離を実測する |
| 学校・保育所・病院などの周囲50メートル | 近隣商業地域・商業地域・準工業地域などでは、上の表の値から5デシベルを減じた値 | 候補物件の半径50メートル以内に学校・保育所・入院設備のある病院・図書館・特別養護老人ホーム・幼保連携型認定こども園がないか地図で確認する |
| 置き方 | 起きること | 着工前に確認・指示すること |
|---|---|---|
| 狭い路地に複数台を向かい合わせ | 互いが吹き出した熱を吸い込み、能力が落ちて電気代が上がる。真夏に保護停止することもある | 配置図で機器どうしの間隔と、壁からの離隔がメーカーの指定寸法を満たしているかを確認する |
| 隣家の窓の正面に吹き出し | 温風と運転音が直接届き、申し入れを受ける。基準値を守っていても、体感上の苦情は起きる | 配置図に隣家の窓の位置を書き込み、吹き出し方向がそこを向いていないかを図面上で見る |
| 建物の躯体に直接固定 | 振動が構造体を伝わり、上下階や隣室で低い音として感じられる。夜間の苦情になりやすい | 防振ゴムまたは防振架台を介して据え付ける仕様になっているかを見積もりの内訳で確認する |
| 屋上に単純に平置き | 更新時の搬出入経路がなく、クレーン費用が別途必要になる。防水層を傷めることもある | 「10年後に同じ機器を入れ替える経路はどこか」を質問し、答えが出ない場合は置き場所を再検討する |
| 通路・避難経路の上に張り出し | 通行の妨げになる。ドレン水が通路に落ち、冬に凍結して転倒の危険が生じる | ドレン配管の行き先が図面に描かれているかを確認する。「垂れ流し」になっていないかを見る |
| 敷地境界のすぐ内側 | 境界で測る規制基準に対して不利になる。距離が近いほど測定値は大きくなる | 室外機から最も近い敷地境界までの距離をメジャーで実測し、離せる余地がないか設計担当と検討する |
よくある質問
ここまでの内容について、実際の相談でよく出る質問を4つ取り上げます。 いずれも、判断の分かれ目がどこにあるかが分かりにくい論点です。 回答は、この記事で確認した条文と公的資料の記述に基づいて書いています。
ただし、個別の物件に具体的にどの規定がかかるかは、用途・規模・地域・構造によって変わります。 最終的な判断は、必ず設計者および所管の行政窓口にご確認ください。 以下の内容は、その相談に行くときに「何を聞けばよいか」を整理するための材料としてお読みください。
居抜き物件に付いている業務用エアコンは、そのまま使ってよいですか?
判断の材料は三つあります。 第一に、その機器が今度の使い方に対して能力が足りるかどうかです。 前の店と席数・厨房機器・営業時間・天井高が変わっていれば、部屋にたまる熱の量が変わります。
前の店で足りていたことは、次の店で足りる根拠になりません。 第二に、残りの寿命です。
日本冷凍空調工業会の業務用エアコン委員会がまとめた「定期的な保守・点検のおすすめ」は、 頻繁な発停のない通常の使用状態で運転時間を1日10時間・年間2,500時間と仮定したうえで、 耐用年数の目安をおおむね6年から15年としています。
同資料は、補修部品の保有期間について製造打切りから9年間が一般的になっていると記載しており、 製造年が古い機器は故障しても部品が出ない可能性があります。 室内機の銘板で製造年を確認してください。 第三に、飲食店では設置環境です。
同資料は、オイルミストなど厳しい環境で使用する場合に耐用年数が著しく低下する恐れがあると明記しています。 厨房に近い室内機は、年数の割に傷んでいることがあります。
以上を踏まえると、製造から10年を超えていて、席数や厨房機器が前の店と変わり、しかも飲食店である場合は、 流用ではなく更新を前提に見積もりを取ったほうが、開店後の追加費用は小さくなります。
店舗の換気設備は、法令ではどのくらいの量が必要になりますか?
建築基準法第28条第2項は、居室には換気のための窓その他の開口部を設け、 その換気に有効な部分の面積を居室の床面積の20分の1以上としなければならないと定め、 ただし政令で定める技術的基準に従って換気設備を設けた場合はこの限りでないとしています。
窓が足りない区画で機械換気にする場合の基準が建築基準法施行令第20条の2で、 機械換気設備の必要有効換気量は V=20Af/N という式で計算します。
Vは1時間あたりの立方メートル、Afは居室の床面積、Nは実況に応じた一人当たりの占有面積で、 特殊建築物の居室では3を超えるときは3、その他の居室では10を超えるときは10とされています。 Af÷Nは想定人数ですから、この式は実質的に「一人あたり毎時20立方メートル」を求めていることになります。
一方、厚生労働省が商業施設等の管理者向けに公表した資料は、必要換気量を一人あたり毎時30立方メートルとし、 満たしているかの確認方法として室内の二酸化炭素濃度が1000ppmを超えていないかを見ることも有効だとしています。 法令の下限と、実際に空気が悪くならない量は同じではありません。
設計時は法令の下限で止めず、想定人数と二酸化炭素濃度で検算してください。
開店してから、入口のドアが重くて開けにくい、すきま風が鳴る、という状態になりました。原因は何ですか?
ほとんどの場合、排気の量に対して給気の量が足りていません。 厨房のフードや便所の排気ファンが空気を外へ出し続けているのに、 その分を入れる給気口が小さいか、閉じているか、そもそも設けられていないと、 店内の気圧が外より低くなります。 この状態を負圧といいます。
負圧になると、外開きのドアは外気に押されて重くなり、内開きのドアは勝手に閉まろうとします。 わずかなすきまに空気が高速で流れ込むので、音が鳴り、冬は足元だけが冷えます。 さらに、共用部や隣の区画とつながるすきまがあると、そちら側の空気を吸い込むため、他店の臭いが入ってくることもあります。
確認は道具なしでできます。 営業と同じ状態ですべての排気を運転し、入口のドアを10センチだけ開けて、細く切ったティッシュを垂らしてください。 ティッシュが店内側へ強く吸い込まれるなら給気不足です。
対策は給気を増やすことで、給気口の増設、給気ファンの追加、外気を取り入れる全熱交換型の換気扇への変更などがあります。 ドアの建て付けを調整しても原因は消えません。
室外機を裏の路地に置く計画になっています。近隣とのトラブルを避けるために何を確認すればよいですか?
まず、敷地境界で守るべき数値が決まっていることを知ってください。
名古屋市環境局の「騒音・振動関係の届出及び規制の手引き(工場・事業場編)」によれば、 名古屋市の規制基準は敷地境界における騒音の大きさで定められており、 近隣商業地域・商業地域・準工業地域では昼間65デシベル、朝夕60デシベル、夜間50デシベルです。
第1種住居地域・第2種住居地域・準住居地域では昼間50、朝夕45、夜間40デシベル、 第1種低層住居専用地域などではさらに厳しく昼間45、朝夕40、夜間40デシベルとなります。 時間の区分は昼間が8時から19時、朝夕が6時から8時と19時から22時、夜間が22時から6時です。
同手引きは、原動機の定格出力が0.75キロワット以上3.75キロワット未満の圧縮機・冷凍機・送風機・排風機について、 届出は不要でもこの規制基準が適用されると明記しています。 つまり、届出のいらない小さな室外機や排気ファンでも、数値そのものは守る義務があります。
したがって確認すべきことは、物件の用途地域、室外機から最も近い敷地境界までの距離、夜間営業の有無の三つです。 夜間営業がある店で、境界の近くに置き、しかも吹き出しを隣家へ向けるという組み合わせが最も危険です。
まとめ|空調と換気で着工前に固める7つの決定
空調の費用は「1日何人分の売上か」に翻訳できます。保守・点検の周期も含めて、年額で見てください。
見積に「一式」とあったら、「必要能力はどう計算しましたか」と聞いてください。答えられる会社なら、その先の話は早く進みます。
| 項目 | 計算例 | 自店で置き換える数字 |
|---|---|---|
| 初期費用の1日あたり | 180万円÷10年÷12か月÷25日=1日600円 | 見積書の「空調換気設備工事」の合計額と、何年使う想定かを書き出して同じ式に入れる |
| 必要な売上に換算 | 1日600円÷粗利率60%=1日1,000円の売上 | 自店の粗利率を、直近の決算書か試算表の売上総利益率から確認する |
| お客様の人数に換算 | 1日1,000円÷客単価1,000円=1日1人 | 自店の客単価(売上÷客数)を1か月分の実績から計算する |
| 能力を1段階上げる追加分 | 30万円÷10年÷12か月÷25日=1日100円。客単価3,000円なら30日に1人 | 相見積もりの差額を同じ式に入れ、「何日に1人分か」で比べる |
| 更新費用の月次積立 | 150万円÷12年÷12か月=月10,417円(1日417円) | 更新見込み額と、想定する使用年数を決めて毎月の積立額を出す |
| 保守契約の1日あたり | 年12万円の保守契約なら、月1万円、1日400円 | 保守契約の見積もりを取り、点検回数と作業内容が金額に見合うかを判断する |
| 部位 | 同資料が示す点検の周期と内容 | 店側で自分でできること |
|---|---|---|
| エアフィルタ | 点検実施時期は基本的に1週間ごと。ろ材が透けて見えること、破れ・変形がないことを目視で確認し、汚れているときは清掃、破れているときは交換 | 閉店後の清掃業務にフィルタ清掃を組み込み、担当者と曜日を決めてチェック表に記録する |
| 空気熱交換器(室内側・室外側) | 1年ごと、冷房シーズン前。ゴミによる目詰まりと損傷、ガス漏れを点検し、目詰まり時は空気流入側を洗浄 | 室外機のフィンに落ち葉やほこりが詰まっていないかを月1回、目視で確認する(内部洗浄は業者に依頼する) |
| ドレンパン・ドレンポンプ | 1年ごと、冷房シーズン前。ゴミ詰まりとドレン水の流れ、排水詰まりの有無を点検し、清掃と傾斜の確認を行う | 冷房を入れ始める前に、ドレンホースの出口から水が出ているかを確認する。出ていなければ業者に連絡する |
| ファン・ファンモータ | 1年ごと。振れとバランス、ゴミの付着を目視で、異常音を聴感で点検。ベアリング音が大きいときはベアリング交換 | 運転音を毎月同じ時間に聞き、去年と違う音がしないかを確かめる。スマートフォンで録音して比較する |
| シーズンの切り替え時 | シーズンオフには送風運転で室内ユニット内部を乾燥させる。シーズンオンにはメーカー指定時間の通電、フィルター洗浄、吸込口・吹出口が塞がれていないかの確認を行う | 冷房・暖房の切り替え日をカレンダーに固定し、送風運転と通電の作業を業務手順に入れる |
| 保守契約の準備 | 同資料は、契約時に据付・試運転の年月日、機器一覧(形式名称と台数)、据付平面図・配管系統図、24時間運転などの特異な使用形態の情報を業者に示す必要があるとしている | 竣工時に受け取った機器一覧と図面をファイルにまとめ、店の事務所に保管する。写真でも控えを残す |