音の問題が厄介なのは、後から直すと金額が跳ね上がるという一点です。壁の内側にもう一枚立てる工事は、仕上げを全部剥がすことから始まります。

しかも苦情が出てからだと、営業を止めて工事することになります。工事費に加えて、休業した分の粗利も失われます。

決めることは7つ。自店の音を数える、守る数値を確定する、抜け道を塞ぐ、開口部、届出、店内の響き、そして運用ルール。

この記事でわかること

  • 店の音に関する苦情が実際にどれくらい起きているかを、公害等調整委員会と環境省の全国統計で確かめる方法と、その数値の限界
  • 自店が守るべき数値を、用途地域・時間帯・業態の3つから確定させる手順(環境基準、名古屋市の規制基準、愛知県の深夜営業騒音、風営法施行条例)
  • 壁・床・天井・出入口・窓・ダクト・室外機という7つの音の抜け道を、内覧時と着工前に確認する具体的な方法
  • 遮音材ごとにおおよそ何デシベル下がるのかという公的資料の目安と、そこから逆算する仕様の決め方
  • 遮音等級(Dr値・L値・Rr値)が何を意味するかと、等級と実際の聞こえ方の対応
  • 「うるさくて会話ができない」と言われる店で起きていることと、吸音・BGM音量・スピーカー配置の直し方
  • 同じ防音工事を着工前にやる場合と苦情が出てからやる場合で、金額と休業がどう変わるかの試算手順
壁の鉄筋コンクリートは45デシベル、コンクリートブロックは40デシベル、換気扇の防音カバーは30デシベル、防音サッシと二重窓は25〜30デシベル、鉄製ドアは20〜25デシベル、アルミサッシ引き違い窓は20デシベル、木製ドアは15〜20デシベル。
全体の性能は、いちばん弱い部位で決まります|壁が45デシベルでも、窓が20デシベルならそこから抜けます。壁の仕様を上げる前に、窓と扉と換気扇の3か所を確かめてください。

内装材そのものの選び方(内装制限・防炎・清掃性・運用コスト)は店舗の内装材の選び方|法規と運用コストで決まる7つの基準、 内覧時に見るべき点の全体像は店舗物件の選び方|内装工事の視点で内覧時に確認する10のポイント、 居抜きで引き継げる設備・引き継げない設備は居抜き物件の設備は流用できるか|判定する7つの視点と設備別の一覧、 内装全般の失敗パターンは店舗内装で失敗しやすいポイント10選|開業前に確認したい注意点で扱っています。 この記事はそれらに重ならないよう、「音」だけに絞ります。 外に漏らさない遮音と、店内で会話が成立する音響の両方を、同じ記事で扱います。

音のトラブルは、店で最も件数の多い公害になっている

表面化する場面は4つ。上階、隣、貸主経由、そして行政から。どこから来るかで、対応の順番が変わります。

店の音が問題として表面化する4つの場面と、今日確かめる方法
場面 起きていること 今日確かめる方法
上下階・隣戸から直接言われる 建物の躯体を伝わる音(固体伝搬音)が原因のことが多い。低音、機器の振動、足音、扉の開閉音など。壁を厚くしても止まらない種類の音。 営業時間帯に上階・隣室の廊下に立ち、何の音が聞こえるかを書き出す。音の種類が特定できれば対策が絞れる。
貸主・管理会社から連絡が来る 入居者からの苦情が管理側に集まっている状態。契約上の用法遵守義務や、使用細則の違反を指摘される可能性がある。 賃貸借契約書と使用細則を開き、音・営業時間・設備の設置に関する条項を抜き書きする。
行政に苦情が入る 区の公害対策課などから連絡が入り、立入検査や騒音の測定に至ることがある。規制基準を超えていれば改善の指導や勧告の対象になる。 自店の用途地域を都市計画の窓口またはウェブの用途地域図で確認し、適用される規制基準の数値を控える。
お客様から「うるさくて話せない」と言われる 外に漏れる音ではなく、店内の響きの問題。滞在時間と再来店率に効く。売上に直結するが、苦情としては可視化されにくい。 満席に近い時間帯に店内で会話を録音し、相手の言葉が聞き取れるかを後から自分で聞き直す。

何デシベルまで出してよいかは、法律ではなく条例で決まる

規制は4つの層に分かれます。騒音規制法、名古屋市の条例、風営法施行条例、そして契約。自店にどれがかかるかを、まず確かめてください。

名古屋市の基準は用途地域と時間帯で決まります。敷地境界での数値です。デシベルの目安を、店の音に置き換えた表も載せました。

店舗に関係する4つの規制の層と、確かめる窓口
層 内容と性格 自店で確かめる方法
騒音に係る環境基準 環境基本法に基づく告示。維持されることが望ましい水準を示す行政上の目標で、個別の店に直接の罰則があるものではない。地域類型ごとに昼間・夜間の値が示される。 自店の所在地がどの地域類型に当てはめられているかを、県または市の環境部門のページで確認する。
騒音規制法・市条例による工場等の規制基準 特定施設・発生施設を設置する工場等の敷地境界で守る義務がある数値。飲食店でも大型の送風機や冷凍機を置けば該当しうる。届出義務を伴う。 導入予定の送風機・排風機・冷凍機・空気圧縮機の定格出力(kW)を機器表から書き出す。
県条例による深夜営業騒音の規制 飲食店・喫茶店・カラオケボックスなど11業種に対し、午後10時から午前6時までの営業騒音を敷地境界で規制する。音響機器の使用制限も伴う。 自店の業種が11業種に含まれるかを確認し、閉店時刻が午後10時を超えるかどうかを整理する。
風営法施行条例による数値 風俗営業、特定遊興飲食店営業、深夜(午前0時以降)の飲食店営業に対し、営業所周辺で守るべき騒音と振動の数値を定める。地域によっては営業自体が禁止される。 深夜0時以降も営業する計画があるかを確定させ、警察署の生活安全課に用途地域とあわせて相談する。
名古屋市における用途地域別・時間帯別の騒音の規制基準(敷地境界・単位はデシベル)
用途地域 昼間8〜19時/朝夕6〜8時・19〜22時/夜間22〜6時 自店で確かめること
第1種・第2種低層住居専用/第1種・第2種中高層住居専用 45/40/40 この地域で音の出る業態を計画しているなら、物件契約前に設計者と防音の仕様を決めきる。
第1種住居・第2種住居・準住居 50/45/40 夜間40デシベルは「静かな住宅地の昼」より低い水準。22時以降の音源を洗い出す。
近隣商業・商業・準工業 65/60/50 数値には余裕があるが、隣接する住居系地域や病院の位置を地図で確認する。
都市計画区域で用途地域の定めのない地域 60/55/50 用途地域が定められているかどうかを、都市計画情報の窓口で確認する。
工業地域 70/65/60 住居系地域に接する部分は境界から50m以内で5デシベル減じられるため、敷地の位置関係を確認する。
工業専用地域 75/75/70 騒音規制法の規制対象地域からは除かれる点を含め、区の公害対策課に適用関係を確認する。
愛知県の風営法施行条例が定める騒音の数値(単位はデシベル)と、店側の意味
地域 昼間6〜18時/夜間18〜24時/深夜0〜6時 計画段階でやること
第一種地域・第二種地域(住居系+準住居) 55/50(ただし午後10時以降は40)/40 そもそも深夜の酒類提供飲食店営業が禁止される地域が含まれる。契約前に用途地域を確定させる。
第三種地域(近隣商業・準工業・工業など) 60/55/50 深夜50デシベルを目標に、音源の出力と壁・開口部の仕様を逆算する。
第四種地域・第五種地域(商業地域など) 65/60/50 昼夜の数値には余裕があるが、深夜は他地域と同じ50デシベル。閉店時刻の設計が要になる。
振動(全地域共通) 55(時間帯を問わない) 低音のスピーカー、大型冷凍機、コンプレッサーを床に直置きしない計画にする。
騒音の大きさの目安と、店の音に置き換えた場合の意味
大きさ 身近な音の例 店の計画に置き換えると
90デシベル 大声による独唱/騒々しい工場の中 ライブ演奏やカラオケの音量帯。住居系地域の夜間40デシベルまで下げるには50デシベルの遮音が必要になる。
70デシベル 騒々しい街頭/騒々しい事務所の中 混雑時の飲食店の店内。この状態では通常の声量で会話が成立しにくい。
60デシベル 静かな乗用車/普通の会話 会話が成立する上限の目安。BGMと暗騒音の合計をこの前後に収めたい。
50デシベル 静かな事務所 近隣商業・商業地域の夜間の規制基準と同じ水準。敷地境界でこの静けさが求められる。
40デシベル 図書館/静かな住宅地の昼 住居系地域の深夜の基準と同じ水準。窓を開けての営業はほぼ不可能になる。
30デシベル 郊外の深夜/ささやき声 近隣住戸の寝室の暗騒音がこの程度。だから小さな音でも目立つ。

音の抜け道は7か所ある

壁、床、天井、扉、窓、換気口、そして設備の配管。どれか1か所でも空いていると、他をどれだけ厚くしても効きません。内覧時と着工前に確かめる方法を表にしました。

音の抜け道7か所と、内覧時・着工前に確かめる方法
抜け道 起きていること 今日確かめる方法
1. 間仕切り壁の上部 隣室との壁が天井裏で止まっていて、上階のスラブまで達していない。天井裏で空間がつながり、音が回り込む。最も多い失敗。 天井点検口を開け、懐中電灯で隣との間仕切りが上まで伸びているかを見る。写真を撮って設計者に見せる。
2. 床(下階への衝撃音) 椅子を引く音、ヒールの足音、トレーニング器具の落下音が下階に伝わる。仕上げ材を替えても躯体を伝わる分は残る。 営業時間帯に下階の天井付近で、上で人が歩いたときの音を実際に聞く。ジムなら重量物を落として試す。
3. 天井(上階への音) スピーカーの低音や厨房の排気音が上階の床を鳴らす。吊り天井のボードだけでは低音は抜ける。 スピーカーを天井直付けにしていないか、機器が天井のふところに直接固定されていないかを確認する。
4. 出入口の扉 扉の下端と床の隙間、枠と扉の隙間から音が漏れる。お客様の出入りのたびに一気に外へ出る。 扉を閉めた状態で、内側から扉の周囲を手でなぞり、風の流れを感じる箇所がないか確かめる。
5. 窓・ガラス面 ガラスは面積の割に軽く、音を通しやすい。引き違いのサッシは構造上必ず隙間が残る。 営業時間帯に外へ出て、窓の前と壁の前で聞こえ方を比べる。差が大きければ窓が弱点。
6. 換気・ダクト・給排気口 換気のための穴は、そのまま音の通り道になる。厨房の排気ファンや第一種換気の給気口が典型。 外壁側の給排気フードの位置を確認し、その真下や真上に住戸の窓がないかを見る。
7. 室外機・冷凍機・配管 機器そのものの運転音と、躯体を伝わる振動の両方が出る。深夜も動き続けるため苦情になりやすい。 室外機の向きと設置場所を確認し、隣戸の窓やベランダに正対していないかを地図と現地で確かめる。

店舗の防音で決める7つのこと

まず自分の店が出す音を、時間帯ごとに数えます。常時鳴る音と、瞬間的に出る音は性格が違います。

守るべき数値は、4つの情報がそろえば確定します。用途地域、時間帯、建物の条件、そして契約の定め。

対策は、愛知県が防音材ごとの減音量の目安を示しています。開口部は、着工前なら安く、開店後だと難しい。そして工事では下げられない音があります。そこは運用で決めます。

業態別の主な音源と、性格ごとの数え方
業態 見落とされやすい音源と性格 今日から数える方法
飲食店・カフェ BGMより、厨房の排気ファン、製氷機、冷凍機、食器の音、閉店後の清掃音。深夜の低音と作業音が主。 閉店から施錠までの30分間、店の外に立って何の音が聞こえたかを列挙し、翌日も同じ時刻に繰り返す。
バー・ダイニングバー 店内の音楽より、お客様の送り迎えの声、扉の開閉のたびに漏れる音、屋外での会話。 金曜の23時台に、店から10メートル離れた場所に5分間立ち、聞こえた音を記録する。
音楽教室・スタジオ 楽器の直接音に加え、ピアノやドラムの振動が床を通じて下階へ伝わる固体伝搬音。 下階または隣室に人に立ってもらい、実際に演奏して聞こえ方を確認し、時刻と曲目を記録する。
ジム・フィットネス ダンベルやプレートの落下音、ランニングマシンの振動、大音量のプログラム音楽。 もっとも重い器具を通常の使い方で置く動作を10回行い、下階での聞こえ方を確認する。
美容室・サロン ドライヤーの連続音、シャンプー台の給排水音、BGMと会話の混在。夜間の給排水音は苦情になりやすい。 最終のお客様の施術時間帯に、隣室側の壁に耳を当てて何が聞こえるかを確かめる。
物販・学習塾など 音源は小さいが、空調室外機とシャッターの開閉音が朝夕に集中する。 開店前と閉店後のシャッター操作時に、隣戸の位置から音を聞いてもらう。
守るべき数値を確定させるための4つの情報と、取得先
必要な情報 なぜ必要か どこで取るか
用途地域 規制基準の数値が用途地域ごとに定められている。住居系では深夜の酒類提供営業自体が禁止される場合がある。 市の都市計画情報(用途地域図)で住所を検索する。不明なら都市計画の窓口に電話する。
営業時間 22時と0時が規制の境目。22時以降は深夜営業騒音、0時以降は風営法系の条例が重なる。 事業計画書の営業時間欄を確認し、閉店後の清掃・仕込み時間まで含めて記入し直す。
業種の該当性 県条例の深夜営業騒音は11業種が対象。酒類提供の有無で風営法系の適用も変わる。 保健所に出す営業許可の種別と、警察署の生活安全課への届出の要否を突き合わせる。
半径50m以内の施設 病院・診療所・特別養護老人ホーム等の周囲50mでは基準が5デシベル厳しくなる。 地図アプリで半径50mの円を描き、該当する施設を書き出して写真を撮っておく。
愛知県が示す防音材ごとの減音量の目安と、店での使いどころ
部位・材料 減音量の目安 店での使いどころと確認すること
壁:鉄筋コンクリート(モルタル仕上げ) 45デシベル 既存躯体がこれなら壁面は有利。ただし開口部と天井裏が弱いと効果は出ない。図面で壁厚を確認する。
壁:コンクリートブロック(モルタル仕上げ) 40デシベル 目地の充填不足があると数値どおりにはならない。内覧時に壁を叩いて中空音がしないか確かめる。
窓:防音サッシ 25〜30デシベル 壁が45デシベルでも窓が25デシベルなら全体は窓に引きずられる。窓の面積を減らす案も同時に検討する。
窓:アルミサッシ二重窓 25〜30デシベル 既存サッシの内側にもう一枚を足す方式。原状回復の扱いを契約書で確認してから決める。
窓:アルミサッシ引き違い窓(単体) 20デシベル もっとも弱い部位になりやすい。この状態で深夜営業を計画しないこと。
出入口:鉄製ドア 20〜25デシベル 気密材の有無で実際の性能は変わる。扉の下端に隙間がないかを閉めた状態で確認する。
出入口:木製ドア 15〜20デシベル 意匠上どうしても木製にするなら、二重扉(風除室)と組み合わせる前提で計画する。
換気扇:防音カバー 30デシベル 厨房排気は穴が大きく効果が出やすい部位。消音型への変更とあわせて見積もりを取る。
開口部の3つの対策と、着工前・開店後の難易度
対策 効果と、開店後にやる場合の障害 今日やること
開口部の数を減らす 最も確実。開店後は外観の作り直しと外壁の補修が必要になり、貸主の承諾も要る。 平面図の窓と扉に印をつけ、営業上どうしても必要なものだけを残す案を作る。
出入口を二重扉(風除室)にする 開閉時の漏れを大幅に抑えられ、冷暖房費も下がる。開店後は客席を1〜2席削ることになる。 入口から1.2〜1.5メートルの奥行きが確保できるかを、実寸で測って確認する。
気密材と二重サッシを足す 比較的安価で、開店後でも施工できる数少ない対策。ただし壁の性能までは超えられない。 扉を閉めた状態で線香の煙を近づけ、流れが乱れる箇所を写真に撮って業者に渡す。
店舗で該当しうる騒音関係の施設区分(名古屋市の場合)
区分 該当する機器と規模 今日やること
騒音規制法の特定施設 送風機・排風機が7.5kW以上、空気圧縮機が7.5kW以上など。設置工事開始の30日前までに届出が必要。 設備業者から機器の型番と定格出力の一覧をもらい、7.5kWを超えるものに印をつける。
市条例の発生施設 送風機・排風機が3.75kW以上、圧縮機・冷凍機が3.75kW以上など。同じく届出が必要。 厨房の排気ファンと業務用冷凍機の出力を確認する。法の特定施設がある工場等では条例の届出は不要。
小規模騒音等発生施設 圧縮機・冷凍機・送風機・排風機が0.75kW以上3.75kW未満。届出は不要だが規制基準は適用される。 「届出が要らない=規制されない」ではない点を、設計者と設備業者に確認して共有する。
対象外とされるもの 屋内に設置する空調用のパッケージ型・ウインド型・セパレート型およびチーリングユニットの冷凍機は対象外。それ以外の冷凍機は条例の対象。 導入する冷凍機がどの型式かを、カタログの記載で確認して控えておく。
「うるさくて話せない店」の症状・原因・対策
症状 原因として疑うこと 今日から試せる対策
隣の席の会話が自分の席の会話より大きく聞こえる 天井と壁が反射面ばかりで、音が席をまたいで届いている。席の間に何もない。 背の高い植栽や布張りの仕切りを席の間に置き、1週間の反応を記録する。
満席になると急に会話が成立しなくなる 残響時間が長く、人数の増加が音量の増加を加速させている。 混雑時と閑散時の店内で同じ会話を録音し、聞き取りやすさの差を確認する。
BGMを下げても、うるさいと言われる 音量ではなく響きの問題。スピーカーが少なく、遠い席に届かせるため出力を上げている。 スピーカーの台数を増やし、1台あたりの音量を下げる案を音響業者に見積もりさせる。
店員の声が通らず、注文の聞き違いが増える 中高音域が反射で濁っている。厨房の機器音が客席まで届いている。 厨房と客席の境に暖簾や吸音パネルを設け、聞き違いの発生件数を前後で数える。
滞在時間が想定より短い 落ち着かない音環境が退店を早めている。客単価にも影響する。 入店から退店までの時間を1週間分記録し、混雑時と閑散時で比較する。
工事では下げられない音と、運用ルールの決め方
運用で決めること 放置した場合に起きること 今日やること
扉を開けたままにしない 遮音性能をいくら上げても、開いている間はゼロになる。夏場の換気目的で開けがち。 「扉は常に閉める」を朝礼の確認項目に入れ、貼り紙をスタッフ側の面に貼る。
店外での会話と見送り 屋外の声は建物の防音と無関係に伝わる。深夜帯の苦情原因として最も多い部類。 見送りは店内で行うルールに変え、退店時に静かにお願いする掲示を出入口の内側に出す。
閉店後の清掃・ごみ出しの時刻 びんの音、シャッターの音、台車の音が深夜に響く。営業音より目立つ。 ごみ出しの時刻を22時前に前倒しできるか、収集の条件とあわせて確認する。
BGMの上限音量を固定する スタッフごとに音量が変わり、時間帯によっては基準を超える。 アンプのつまみに上限位置の印をつけ、時間帯別の設定を紙で掲示する。
近隣への事前のあいさつ 関係ができていないと、最初の連絡が行政への苦情になる。 開店前に上下階と両隣を訪問し、連絡先を渡して、何かあれば直接連絡してほしい旨を伝える。
苦情が出たときの手順
  1. その場で反論せず、いつ・どの部屋で・どんな音が・どれくらいの時間気になったのかを聞き取り、日付を入れて記録する。
  2. 指摘された時間帯に、自店の敷地境界と、可能であれば相手の居室の付近で、実際にどんな音が聞こえるかを自分の耳で確認する。
  3. 自店に適用される規制基準の数値を、用途地域と時間帯から確定させる(決めごと2の手順)。
  4. 運用で今日から下げられるもの(扉、屋外の会話、清掃時刻、BGM音量)を先に実行し、実行した内容と日付を相手に伝える。
  5. それでも残る音について、音源と経路を特定し、内装会社または防音の専門業者に現地を見てもらう。
  6. 必要であれば計量証明事業者に測定を依頼し、数値を根拠として対策の範囲と時期を相手と共有する。
  7. 貸主・管理会社にも経緯を書面で共有し、建物側に原因がある場合の負担区分を早い段階で確認する。

遮音等級(Dr値・L値)の読み方

D等級は空気を伝わる音、L等級は床の衝撃音です。L等級は、数値が小さいほど良い。見積書に等級が書かれていれば、聞こえ方の目安が分かります。

D等級(Dr等級)と、話し声・テレビなどの空気伝搬音の聞こえ方の目安
等級 聞こえ方の目安 店の計画に置き換えると
D-40 小さく聞こえる 建築基準法が共同住宅の界壁に求める水準に近い。隣が静かな用途なら苦情になり得る。
D-45 かすかに聞こえる 一般的な店舗の間仕切りで目指す水準。会話が漏れる程度は抑えられる。
D-50 ほとんど聞こえない 音楽を流す業態と静かな業態が隣り合う場合の目標。二重壁が前提になる。
D-55 通常では聞こえない 音楽教室やスタジオが目指す水準。壁だけでなく開口部と天井裏の処理が必須。
L等級と床衝撃音の聞こえ方の目安(数値が小さいほど良い)
等級 聞こえ方の目安(重量/軽量) 店の計画に置き換えると
Li,r,H-70/Li,r,L-65 うるさい 下階に居室がある物件でジムを開くなら、この水準の床は論外。契約前に構造を確認する。
Li,r,H-65/Li,r,L-60 発生音がかなり気になる 椅子の移動音が下階に届く水準。飲食店でも椅子脚のキャップは必須になる。
Li,r,H-60/Li,r,L-55 よく聞こえる 一般的な集合住宅の水準。この上に音の出る店を入れるなら追加対策が要る。
Li,r,H-55/Li,r,L-50 聞こえる ここまで来て初めて、下階に居室がある物件でも検討の土俵に乗る。
Li,r,H-50/Li,r,L-45 小さく聞こえる スタジオ・ジムが浮き床を採用して目指す水準。天井高を数センチ以上失う覚悟が要る。

居抜きで、前の店の防音を信用してはいけない理由

理由は5つ。業態が違う、時間帯が違う、そもそも苦情が出ていた。前の店が営業できていたことは、何の保証にもなりません。

居抜きで前の店の防音を信用してはいけない5つの理由と、確かめる方法
理由 なぜ危険か 内覧・契約前に確かめる方法
1. 受け手側の条件が変わる 上階や隣の入居者が入れ替われば、同じ音でも苦情になる。空室だった区画に人が入るだけで状況が変わる。 上下階・両隣の現在の用途と入居状況を、貸主または管理会社に書面で確認する。
2. 音源の位置が変わる 前の店の防音は、その店のスピーカーや厨房の位置に合わせたもの。レイアウトを変えれば効いていた面がずれる。 自分の計画図に音源の位置を書き込み、前の店の設備位置と重ね合わせて比較する。
3. 改装工事が遮音層を壊す 壁の解体、天井の開口、床の張り替えは、いずれも遮音の連続性を切る。工事後に性能は戻らない。 解体範囲を図面上で確定させ、遮音に関わる部位を触る箇所に印をつけて業者と共有する。
4. 見た目では判断できない 壁の内側が二重かどうか、天井裏で隣とつながっていないかは、表面からは分からない。 天井点検口を開けて撮影し、間仕切りが上階のスラブまで達しているかを設計者に確認してもらう。
5. 苦情の履歴が引き継がれない 前の借主が受けていた苦情は、契約書には書かれない。入居した瞬間に、その続きから始まることがある。 過去の苦情・行政指導の有無を貸主に質問し、回答をメールなど記録の残る形で受け取る。

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よくある質問

防音について実際によく出る質問を4つ挙げます。 いずれも「どこまでやれば足りるのか」という線引きの問題で、 感覚で判断すると、過剰に費用をかけるか、何もしないまま開店するかのどちらかに振れます。

線引きの根拠になるのは、用途地域と時間帯で決まる条例の数値、 物件そのものの構造、そして自店が出す音の大きさという3つです。 この3つが揃えば、自分の店の答えは出せます。 なお、条例は改正されることがあり、以下はいずれも2026年8月22日に各機関のページで確認した時点の内容です。

適用関係の最終的な判断は、区の公害対策課および所轄警察署の生活安全課にご確認ください。

近隣から「うるさい」と言われました。まず何をすればよいですか?

最初にやることは工事の手配ではなく、記録と数値の確認です。 順序は三つあります。 第一に、いつ・どこで・どんな音が問題になっているのかを、言われた言葉のまま日付つきで書き留めます。

第二に、自店の敷地境界で、指摘されている時間帯に実際どれくらいの音が出ているかを確かめます。 騒音計がなくても、スマートフォンの計測アプリで相対的な変化は追えますし、正式な数値が必要になった段階で計量証明事業者に依頼できます。 第三に、自店に適用される規制基準を確定させます。

愛知県は県民の生活環境の保全等に関する条例で、飲食店・喫茶店・カラオケボックスなど11業種の午後10時から午前6時までの営業騒音について、 営業所の敷地境界での基準を住居系地域40デシベル、近隣商業・商業・準工業地域50デシベル、工業地域60デシベル、工業専用地域70デシベル、その他の地域50デシベルと定めています。

深夜0時以降も酒類を提供する場合は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例の数値も重なります。 この三つが揃うと、対策すべき音源と、下げるべき量が数字で見えます。 そのうえで工事の見積もりを取ってください。

順序を逆にすると、効かない場所に費用をかけることになります。 なお、自店にどの基準が適用されるかは、出店先を管轄する区の公害対策課に必ず確認してください。

居抜きで「前も飲食店だったから防音は大丈夫」と言われました。信用してよいですか?

そのまま信用してはいけません。 理由は四つあります。 第一に、前のお店で苦情が出ていなかったことと、遮音性能があることは別です。

前の営業が音の小さい業態だった、営業時間が短かった、隣や上の入居者が変わったといった条件の違いだけで、同じ建物でも結果は変わります。 第二に、前のお店が施した防音は、そのお店の音源の位置に合わせたものです。 スピーカーや厨房機器、施術ベッドの位置を変えれば、効いていた面と効かない面が入れ替わります。

第三に、造作を撤去する工事そのものが遮音を壊します。 壁を一部解体して配線を通した、天井を開けてダクトを引き直した、床を張り替えたという工事は、遮音層に穴を開ける作業です。 第四に、見た目では判断できません。

壁の内側が二重になっているのか、床が浮いているのか、天井裏で隣と空間がつながっていないのかは、表面からは見えません。 確認方法は、内覧時に天井点検口を開けて隣との間仕切りが上階のスラブまで達しているかを見ること、 営業時間帯に現地で音を聞くこと、前の借主が受けた苦情の有無を貸主に書面で確認することです。

居抜きで引き継げる設備と引き継げない設備の全体像は居抜き物件の設備は流用できるか|判定する7つの視点と設備別の一覧の記事で扱っています。

深夜0時を過ぎて営業する場合、音について何が変わりますか?

適用される規制が一段増えます。 愛知県の風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例は、深夜における飲食店営業について、営業所の周辺で守るべき騒音の数値を定めています。

同条例が定める深夜とは午前0時から午前6時までで、 その時間帯の数値は、第一種低層住居専用地域から準住居地域までを含む住居系の地域で40デシベル、 商業地域を含むそれ以外の地域で50デシベル、振動は55デシベルです。

さらに同条例は、第一種地域すなわち住居系の用途地域では、深夜に酒類提供飲食店営業を営んではならないと定めています。 つまり住居系地域では、防音を強化すれば深夜営業ができるという話ではありません。

加えて、愛知県の県民の生活環境の保全等に関する条例は、飲食店・喫茶店・カラオケボックスについて、 住居系の用途地域では午後11時から午前6時までカラオケ装置・音響再生装置・楽器・拡声装置・有線ラジオ放送受信装置の使用を禁じています。

ただし飲食店と喫茶店については、その音響機器から発生する音が営業所の外部に漏れない場合は、この制限を受けないとされています。 深夜まで音を出す計画があるなら、物件を契約する前に用途地域を調べ、警察署の生活安全課と区の公害対策課の両方に確認してください。

「うるさくて会話ができない」と言われる店は、内装で直せますか?

多くの場合は直せます。 外に漏らさない遮音は重い材料と隙間をなくす工事が必要ですが、店内の響きを抑える吸音は、後からでも比較的手を入れやすい部分だからです。 会話ができない店に共通しているのは、天井・壁・床のすべてが硬い材料で仕上がっていて、音を吸う面がどこにもない状態です。

コンクリート現しの天井、塗装した石膏ボードの壁、タイルやモルタルの床という組み合わせは、写真映えはしますが音は反射し続けます。 すると、話し声が響き、響いた音に負けないよう全員が声を大きくし、さらにうるさくなるという循環が起きます。

有効な順序は、まず面積の大きい天井に吸音材を入れること、次に向かい合った平行な壁の片側を吸音面にすること、 最後に椅子の脚のキャップやテーブルクロス、カーテンなど布の面積を増やすことです。

あわせてBGMの音量を、店内の暗騒音より少し高い程度まで下げ、スピーカーの数を増やして一台あたりの出力を落とすと、同じ音量でも会話が通ります。 開店後でも、天井の吸音と布の追加、スピーカー配置の見直しだけで体感は変わります。

ただし響きの量は仕上げ材の選定で決まる部分が大きいため、設計段階で決めておくほうが安く済みます。

まとめ|店舗の防音で決める7つのこと

同じ工事でも、着工前と苦情後では費目そのものが変わります。解体、養生、休業。あとからだと全部が乗ります。

内覧のときに、隣と上階に何が入っているかを確かめてください。住居が入っている建物では、防音は選択肢ではなく前提です。

同じ防音工事でも、着工前と苦情後で変わる費目
費目 着工前と苦情後で何が変わるか 今日、見積書で確認すること
解体・撤去 着工前はゼロ。苦情後は、仕上げ材・造作・什器を一度外す費用と廃材の処分費が発生する。 見積書に「解体」「撤去」「処分」の行があるかを確認し、なければ後から出る可能性を聞く。
仮設・養生 着工前は全体工事に含まれる。苦情後は、営業中の店を守るための養生が単独で必要になる。 養生費が工事費の何パーセントで計上されているかを確認する。
什器・設備の脱着 着工前は不要。苦情後は、カウンター・空調・厨房機器の一時撤去と再設置が発生する。 厨房機器の脱着に別業者が必要か、その費用が含まれるかを確認する。
工期と作業時間の制約 着工前は通常の工程で組める。苦情後は、近隣に配慮して夜間・休日に作業できず工期が延びやすい。 工程表に作業可能な時間帯の記載があるかを確認し、なければ書き込んでもらう。
休業による粗利の損失 着工前はゼロ。苦情後は工事日数分の売上が丸ごと消える。工事費より大きくなることもある。 直近3か月の1日平均売上と粗利率を出し、想定工事日数を掛けて損失額を先に計算する。
営業時間の制約 着工前はゼロ。苦情後は、対策が終わるまで深夜の営業を自粛せざるを得ない場面が生じる。 深夜帯の売上が全体の何パーセントかを、レジのデータから時間帯別に集計する。

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