平面図は整って見える。けれどその動線が良いのか悪いのかを判断する物差しが、手元にない。承認を求められて止まるのは、たいていここです。

30坪を坪50万円で仕上げれば1,500万円。10年償却・月22日診療なら、1日あたり約5,700円を空間に払い続けます。動線が悪ければ、その分だけ回転が落ちます。

動線は3系統に分かれます。患者様・スタッフ・物品。この3つを別の線として図面に引くと、良し悪しが目で見えます。

この記事でわかること

  • 患者様・スタッフ・物品の3系統のうちどれを優先して通すかを、診療科目から逆算して決める手順
  • 受付の位置が、待合・診察室・処置室・会計のすべてを規定してしまう理由と、位置を決める前に確かめる4条件
  • 感染の可能性がある患者様を分けるとき、厚生労働省のガイドラインの記述を図面の指示に翻訳する方法
  • 診察室と処置室の関係について、呼び入れの動線・プライバシー・音の3つを分けて検討する考え方
  • スタッフの裏動線が取れない図面でも、優先して解消すべき交差3つを特定して指示を出す方法
  • 国土交通省の建築設計標準が示す80・90・120・140・150・180センチメートルの意味の違いと、それが義務ではなく指針であること
  • 平面図を前にして、ピーク時の人の動きを紙の上で再現し、交差の回数を数える検証手順
80センチメートルで車椅子が通過でき、90センチメートルで通過しやすくなる。120センチメートルで人が横向きにすれ違え、140センチメートルで転回でき、150センチメートルで回転でき、180センチメートルで回転しやすい。
「通れる」と「回れる」は別の寸法|扉の有効幅80センチメートルを満たしていても、扉の手前で車椅子が回れなければ通れません。転回には140センチメートル角が要ります。図面では扉の前の空きを測ってください。

動線が整理されていない図面に共通する兆候

6つあります。受付から待合が見えない、診察室の扉が待合に正対している、スタッフが患者様の前を横切る、など。どれも平面図の上で見つけられます。

動線が整理されていない図面に共通して現れる6つの兆候と、平面図の上での見つけ方
兆候 図面の上で何が起きているか 読者が図面の上で自分で確認できること
受付の前が交差点になっている 受診受付・会計・案内・電話対応が1点に集まり、そこが待合と入口をつなぐ通路も兼ねている 受付カウンターの前1メートルの範囲に、色の違うペンで「受付に来る人」「会計に来る人」「通り過ぎる人」の線を3本引いてみる。3本が重なる面積を見る
診察室の扉が待合に向いている 呼び入れのたびに扉が開き、中の会話と患者様の姿が待合から見える 診察室の扉を開いた状態を図面に描き足し、待合のどの席から室内が見えるかを線で結ぶ
スタッフルームへ行くのに診療エリアを横断する 休憩・更衣・記録のたびに、スタッフが患者様の前を通る スタッフルームの扉から入口までの経路を1本の線で引き、その線が待合の中を通るかどうかを見る
洗浄・滅菌の場所が図面にない 器材の洗浄と滅菌を、手洗いや処置室の作業台と兼用する前提になっている 図面の中から「使用済みの器材を最初に置く場所」を指さす。指させなければ決まっていない
廃棄物の一時保管場所が描かれていない 搬出の経路が検討されておらず、実際には入口から出すことになる 建物の裏口または搬出口の位置を確認し、そこまでの経路が待合を通らずに引けるかを試す
待合の席が壁沿いにぐるりと並ぶだけ 席数だけを確保していて、車椅子とベビーカーを止める場所が想定されていない 幅70センチメートル・奥行120センチメートルの長方形を紙で切り、待合の中に置ける場所が何か所あるかを数える

動線をやり直せる回数を、統計で確かめる

医療施設動態調査から、診療所の開設と廃止の数が分かります。内装をやり直す機会は、ほとんどの院で一度きりです。だから図面の段階に時間をかける価値があります。

令和6(2024)年医療施設(動態)調査から読み取れる数字と、動線設計への意味(厚生労働省、令和6年10月1日現在)
項目 公表されている数値 読者が自分の計画に当てはめて確認できること
一般診療所の総数 105,207施設(前年比313施設増) 開業予定地の周辺で、同じ診療科目を掲げる診療所が何軒あるかを地図上で数える。競合の数は待合の必要席数の前提になる
無床の一般診療所 99,792施設(一般診療所総数の94.9%) 自分の計画が無床か有床かを確定させる。無床なら、動線は「外来が短時間に集中する建物」として設計する
有床の一般診療所 5,415施設(同5.1%、前年比226施設減) 有床にする場合は、医療法施行規則第16条第1項第9号・第11号の適用が変わるため、保健所への相談を図面の前に入れる
1年間の開設件数 7,035施設(令和5年10月〜令和6年9月) 内装会社に、直近で診療所の施工実績が何件あるかを尋ねる。年間7,000件規模の市場なので、実績のある会社は探せば見つかる
1年間の廃止件数 6,501施設(同期間) 居抜きで診療所を引き継ぐ選択肢があるかを確認する。既存の動線をそのまま使えるかは別問題なので、必ず現地で歩いて確かめる
開設者の内訳(一般診療所) 医療法人47,711施設(45.3%)、個人38,719施設(36.8%) 自分が個人で開設するのか法人で開設するのかを確定させる。開設の形式によって保健所の手続きが変わる

動線に関係する法令と、その「かかり方」

無床の診療所には、義務としてかかるものと、指針にとどまるものが混ざっています。その区別を知らないと、過剰にも過少にもなります。

クリニックの動線に関係する法令・指針と、無床の診療所への「かかり方」
根拠 内容と、無床の診療所へのかかり方 図面を前にして自分で確認できること
医療法施行規則第16条第1項第11号ハ 診療所の廊下は内法1.2メートル以上、両側に居室がある廊下は1.6メートル以上。ただし同項本文のただし書きにより、無床の診療所には適用されない 自分の計画が無床か有床かを確定させ、設計者にどちらの前提で図面を引いたかを口頭ではなく書面で確認する
医療法施行規則第16条第1項第5号 機械換気設備について、感染症病室・結核病室・病理細菌検査室の空気が風道を通じて他の部分へ流入しないようにすること。無床の診療所に感染症病室はないが、考え方は参照できる 区画内の換気系統が、どの部屋とどの部屋でつながっているかを設備図で確認する。待合と診察室が同じ系統かを見る
医療法施行規則第1条の11第2項第1号 院内感染対策として、指針の策定(イ)、従業者への研修(ハ)、感染症の発生状況の報告その他の改善のための方策の実施(ニ)を求める。委員会の開催(ロ)だけが有床に限定されている 開業前に院内感染対策の指針の骨子を書き、そこに書いた運用が図面で実行できるかを1項目ずつ照合する
医療法施行規則第1条の11第1項 医療安全管理の体制として、指針の整備(第1号)、職員研修の実施(第3号)、事故報告等の改善方策(第4号)、記録の整備(第6号)を求める。委員会(第2号)と医療安全管理者の配置(第5号)だけが有床に限定 記録を保管する場所と、その施錠の方法を図面の上で決める。施錠できる収納がどこにあるかを指させるか確かめる
建築基準法施行令第119条 その階の居室の床面積の合計が200平方メートル(地階は100平方メートル)を超える場合、両側に居室がある廊下は1.6メートル、その他の廊下は1.2メートル。診療所でもこの条件に当たれば義務になる 同じ階の居室の床面積の合計を、自分の区画だけでなく階全体で確認する。判断が分かれるなら特定行政庁に相談する
建築基準法施行令第120条第1項 避難階以外の階で、居室から直通階段の1つに至る歩行距離の上限。無床の診療所は表の(三)の項に当たり、主要構造部が準耐火構造である場合などで50メートル、その他の場合で40メートル 図面上でいちばん奥の診察室から階段までの距離を、実際に線を引いて測る。曲がり角も含めた歩行距離で測る
バリアフリー法施行令第19条第2項 移動等円滑化経路の寸法。出入口の幅80センチメートル以上(第2号イ)、廊下等の幅120センチメートル以上(第3号イ)、50メートル以内ごとに車椅子の転回に支障がない場所(第3号ロ) 義務の有無にかかわらず、この数値を「発注側の要求水準」として設計者に文書で渡す。守れない箇所があれば理由を聞く
建築設計標準(国土交通省) 義務ではなく指針。80・90・120・140・150・180センチメートルのそれぞれが何をできる寸法かを言語化している 自分の診療科目で想定される患者様の状態から、必要な寸法を選ぶ。選んだ数値を図面に書き込んでもらう

決めること1〜2|3系統の優先順位と、受付の位置

3系統を全部理想どおりには通せません。どれを優先するかを先に決めます。診療科目によって、優先されやすい系統が違います。

受付の位置は、待合・診察室・処置室のすべてを規定します。満たすべき条件は4つ。満たしていないときに何が起きるかも表にしました。

クリニックの動線で決める8項目と、決める時期の目安
番号と項目 何を決めるのか いつまでに決めるか/自分で確認できること
1|3系統の優先順位 患者様・スタッフ・物品の3つの線のうち、どれを最短で通すか。すべてを独立させられる面積は、テナント区画にはまずない 物件を探す前。診療科目と、1日の診療で最も多く発生する動きを紙に書き出す
2|受付とカウンターの位置 入口から見える・待合を見渡せる・診察室への起点になる・会計で戻ってくる、の4つを満たす位置 物件の内覧時。区画の形を見て、4条件を同時に満たせる場所が何か所あるかを数える
3|待合の配置と分離 席数と配置、そして感染の可能性がある患者様を分ける方法。完全分離か、区画か、時間帯か 物件の内覧時。区画の出入口が1つか2つかを確認する。ここで対策の選択肢の幅が決まる
4|診察室と処置室の関係 呼び入れの動線、扉の向き、会話が漏れない配置、処置後に戻る経路 基本設計の段階。診察室の扉を開いた図を描き足し、待合のどの席から中が見えるかを線で結ぶ
5|スタッフの裏動線 バックヤードから各室へ直接入れる経路が取れるか。取れないなら、どの交差を優先して消すか 物件の内覧時。区画の奥行と柱の位置を見て、二重の通路を取れる幅があるかを確認する
6|物品動線と清潔・不潔の区分 清潔な器材と使用済みの器材の経路、薬剤の保管、リネン、廃棄物の一時保管と搬出 基本設計の段階。図面上で「使用済みの器材を最初に置く場所」を指させるか確かめる
7|車椅子・ベビーカーの寸法 通路幅、扉の有効幅、回転できる場所、待合で車椅子を止める場所、カウンターの高さ 実施設計の段階。設計標準の数値のうち、自分がどれを要求するかを選んで文書で渡す
8|図面の検証方法 できあがった図面の上で、ピーク時の人の動きを再現し、交差の回数を数える手順 図面を承認する前。通常時とピーク時の2通りで、スタッフが患者様の正面を横切る回数を数える
3系統の性格の違いと、優先順位を決めるための判断材料
系統 動くものと、その線に求められる性質 図面の上で自分で確認できること
患者様動線 受診される方と付き添いの方。求められるのは短さではなく、迷わないことと、他の患者様と顔を合わせずに済むこと。逆流と交差がない一方通行が理想 入口・受付・待合・診察室・処置室・会計・出口を1本の線で結び、その線が同じ場所を2回通らないかを見る
スタッフ動線 医師、看護師、受付、事務。求められるのは最短で動けることと、患者様の正面を横切らないこと。この2つはしばしば矛盾する 1回の診療で発生する移動を紙に書き出し、それぞれの距離を図面上で測る。合計距離と、待合を通る回数の両方を出す
物品動線 器材、薬剤、リネン、廃棄物。求められるのは清潔なものと使用済みのものが交わらないこと。距離よりも交差の有無が重要 清潔な器材の保管場所から各室への線と、使用済みの器材を回収して洗浄する場所への線を色を変えて引き、交わる点に印を付ける
3系統が重なる場所 受付の前、待合と診察室をつなぐ通路、入口の内側。ここが詰まると、ピーク時にすべてが同時に発生して現場が止まる 3本の線を重ねて描き、3本すべてが通る場所を塗りつぶす。塗りつぶした面積がいちばん広い場所を特定する
診療科目ごとに優先されやすい系統と、その理由(自院の診療のやり方によって変わるため、目安として使う)
診療科目 優先されやすい系統と、その理由 自分の計画で確かめること
内科・小児科 スタッフ動線。処置・検査・与薬の往復が多く、感染の可能性がある患者様の誘導も加わる。移動の総回数が最も多い 1日の診療で、看護師が診察室と処置室の間を何往復するかを、想定の患者様数から計算する
歯科 物品動線。診療台ごとに器材が動き、使用済みの器材を洗浄・滅菌して戻す往復が診療のたびに発生する 診療台の台数と、1日の想定患者様数から、1日に洗浄・滅菌する器材のセット数を数える
整形外科 患者様動線。歩行に制約のある方が多く、リハビリ室・レントゲン室・診察室を移動する距離そのものが負担になる 入口からリハビリ室までの距離を図面上で測る。杖や車椅子でその距離を移動できるかを想像する
皮膚科・美容皮膚科 患者様動線。他の患者様と顔を合わせないことの優先度が高く、施術室への導線を待合から見えなくする必要がある 待合のどの席から施術室の扉が見えるかを線で結ぶ。見える席が何席あるかを数える
眼科 患者様動線。検査機器を順に巡る順路が診療そのものであり、順路が乱れると待ち時間が積み上がる 検査の順序を紙に書き、その順に機器を並べたときの動線が一方通行になるかを図面で試す
耳鼻いんこう科 スタッフ動線と患者様動線の両方。処置の回転が速く、待合から診察室へ呼び入れる頻度が高い 1時間あたりの想定患者様数から、呼び入れの回数を計算する。回数が多いほど、呼び入れの経路を短くする
心療内科・精神科 患者様動線。他の患者様と顔を合わせない配慮の優先度が最も高く、待合の分割や個室待合の検討が必要になる 入口から診察室までの間で、他の患者様と正面ですれ違う地点が何か所あるかを数える
受付の位置が満たすべき4条件と、満たしていないときに起きること
条件 満たしていないときに起きること 図面の上で自分で確認できること
入口から見えること 初めて来られた方が、どこに行けばよいか分からずに立ち止まる。その方が入口を塞ぐため、後続の方も入れない 図面の入口の位置に立ったつもりで、そこから見えるものを描き出す。受付のカウンターの面が見えるかを確かめる
待合の全体を見渡せること 呼び入れのたびにスタッフが待合まで出ていくことになる。急に具合が悪くなった方に気づくのが遅れる 受付に座った目線の高さから、待合の各席が見えるかを線で結ぶ。見えない席が何席あるかを数える
診察室への案内の起点になること 受付から診察室まで案内するのに、待合を横切ることになる。案内のたびに待合の通路が塞がる 受付から各診察室の扉までの経路を線で引き、その線が待合の座席の前を通るかを見る
会計で戻ってくる場所になること 会計を待つ方の列が、受診受付の列や入口の通路と重なる。ピーク時に受付の前が滞る 会計を待つ方が3人並んだ状態を図面に描き、その列が入口と通路にかかるかを見る
受付カウンターの形式と、動線への影響
形式 動線への影響 図面の上で自分で確認できること
一直線の対面カウンター もっとも一般的。分かりやすいが、受付と会計の列が同じ向きに並ぶため、時間帯によって列が交錯する カウンターの長さを測り、1人あたり60センチメートルで割って、同時に何人が並べるかを計算する
L字型のカウンター 受診受付と会計を別の面に振り分けられる。ただし角の部分がスタッフの死角になりやすい 角に立ったスタッフから、両方の面が見えるかを図面上で確認する。見えないなら人員が2人必要になる
独立したブース型 プライバシーの確保に優れる。心療内科や美容皮膚科で選ばれやすいが、待合の見渡しが利かなくなる ブースの中から待合が見えるかを確認する。見えないなら、待合の状況を把握する別の方法を決める
受付と会計を分離 列が完全に分かれるため、ピーク時の詰まりが解消しやすい。ただしスタッフが2人必要になる時間帯が生まれる 会計の窓口を無人にできる時間帯があるかを、想定の来院パターンから確認する
自動精算機を併設 会計の列を機械の前に移せる。設置には電源と通信の配線が必要で、後付けは床または壁の工事を伴う 機械の設置予定位置に電源と通信の配線が図面に描かれているかを確認する。描かれていなければ指摘する

決めること3〜4|待合の分離と、診察室

感染の可能性がある患者様を分ける方法は4つあり、それぞれ物件側に必要な条件が違います。別室か、別入口か、時間帯か、屋外か。

診察室は、扉の向きひとつで見え方が変わります。視線と音は別の問題なので、分けて確認してください。

感染の可能性がある患者様を分ける4つの方法と、それぞれが必要とする物件の条件
方法 必要な物件の条件と、成立しない場合 物件の内覧時に自分で確認できること
専用の入口を設ける 区画に出入口が2つ必要。1つしかない区画では物理的に不可能で、設計の工夫では解決しない 区画の出入口の数を数える。1つなら、ビルの共用部や屋外を待機に使えるかを管理会社に聞く
待合の一角を可動間仕切りで区切る 区切った後も、残りの待合で通常の席数が確保できる面積が必要。区切ると通路が塞がる形状では成立しない 待合の面積を実測し、3分の1を区切った状態を図面に描いて、残りで必要席数が並ぶかを確かめる
動線を分けた診察室を1室確保する その診察室が、区切った待合から直接入れる位置にあること。通常時は一般の診察に使える配置にする 区切る予定の待合の隣に診察室があるかを図面で確認する。なければ診察室の並びを組み替えられるか聞く
時間帯で区分する 面積の制約が最も強い場合の選択肢。設計側では、換気と清掃をしやすくしておくことで対応する 換気設備の型式と風量を管理会社に確認する。清掃しやすい床材と、壁の立ち上がりの納まりを図面で確認する
診察室の扉の向きと配置のパターンと、それぞれの得失
パターン 得失 図面の上で自分で確認できること
扉が待合に直接面する 呼び入れの距離は最短。ただし扉が開くたびに室内が待合から見え、会話も漏れやすい 扉を開いた状態を図面に描き足し、待合の各席から室内のどこまでが見えるかを線で結ぶ
待合と診察室の間に通路を挟む 視線と音が1段階遮られる。通路の分だけ面積を使うが、後から作ることはできない 通路の幅を測る。車椅子で通る想定なら、後述の寸法を満たしているかを確認する
診察室に入口と出口を別に設ける 診察を終えた方と、次に入る方が顔を合わせない。扉が2枚必要で、壁の長さも要る 診察室の壁の長さを測り、扉を2か所設けたときに家具が置ける残りの壁面があるかを確認する
診察室と処置室を直接つなぐ 処置に移る際に廊下へ出なくて済む。ただし処置室が複数の診察室から使われる場合は使用の競合が起きる 診察室の数と処置室の数を書き出し、同時に処置が発生する可能性がある時間帯を想定する
診察室を並べて背面に共通の通路 医師とスタッフが背面の通路から各室に入れる。裏動線と組み合わせると効果が大きい 区画の奥行を測る。診察室の奥行と背面通路の幅を足した寸法が取れるかを確認する
診察室のプライバシーと音について、視線と音を分けて確認する項目
項目 視線の問題か、音の問題か 図面の上で自分で確認できること
扉を開いたときに見える範囲 視線。扉の吊り元と開く向きで、見える範囲が大きく変わる 扉の吊り元を確認し、開いた状態の図を描き足す。診察台と患者様の椅子が見えるかを線で結ぶ
診察台の向き 視線。扉に対して足元が向いているか、頭が向いているかで印象が変わる 診察台の向きを図面で確認する。扉から見て足元が正面に来ていないかを見る
間仕切り壁の立ち上がり 音。天井で止まる壁は天井裏で音が回る。スラブまで立ち上げると止まりやすくなる 断面詳細図を出してもらい、間仕切りが天井の上まで伸びているかを確認する
扉の仕様 音。すき間から漏れる音は壁の強化では止まらない。気密の取れる扉かどうかで決まる 建具表で扉の仕様を確認する。下端にすき間が空く仕様になっていないかを見る
隣室の用途 音と視線の両方。隣が診察室か、処置室か、待合かで必要な対策が変わる 各診察室の隣が何の部屋かを図面で確認し、静かな部屋どうしが隣接している箇所に印を付ける
空調の吹き出し口の位置 音。同じ系統のダクトでつながった部屋どうしは、ダクトを通じて音が伝わることがある 設備図で、診察室の空調が隣室と同じ系統かを確認する。同じなら消音の措置を聞く
待合の席数を、面積から逆算する
  1. 診療時間を時間帯に区切り、1時間あたりに来院される患者様の想定人数を書き出す
  2. それぞれの時間帯について、受付から会計までの平均の滞在時間を分単位で書き出す
  3. 1時間あたりの人数に、滞在時間を60分で割った値を掛けて、同時滞在の人数を出す
  4. 付き添いの方の比率を掛ける。小児科なら1.5倍から2倍、整形外科なら1.2倍から1.5倍を目安に、自院の想定で決める
  5. いちばん数が大きい時間帯を、必要席数とする
  6. そこに、車椅子とベビーカーを止める場所を台数分だけ加える
  7. できた席数と場所が並ぶ面積を確保してから、診察室と処置室の面積を決める

決めること5〜7|スタッフ動線、物品、通れる寸法

スタッフの裏動線が取れない物件もあります。そのときは解消すべき交差に優先順位を付けます。

物品は清潔と不潔を分けます。置き場だけでなく、経路も分ける必要があります。

寸法は、国土交通省の建築設計標準とバリアフリー法施行令に数値があります。車椅子とベビーカーが通れるかは、図面で確かめられます。

スタッフ動線で優先して解消すべき交差と、裏動線が取れない場合の代替策
交差の種類 なぜ優先して解消するのか/代替策 図面の上で自分で確認できること
使用済みの器材を持って待合を通る 見た目の印象が最も悪く、清潔と不潔の区分の観点でも避けたい。代替策は、洗浄と滅菌の場所を処置室の隣に置いて移動距離そのものをなくすこと 処置室から洗浄・滅菌の場所までの経路を線で引き、その線が待合を通るかを見る
廃棄物を搬出する経路が入口を通る 診療時間中に搬出できなくなり、運用が縛られる。代替策は、一時保管の場所を裏口の近くに寄せること 建物の搬出口の位置を確認し、そこまでの経路が待合と入口を通らずに引けるかを試す
休憩・更衣で診療エリアを横断する 1日に何度も発生し、しかも患者様から見て「何をしているか分からない」動きになる。代替策は、スタッフルームを診療エリアの奥ではなく端に置くこと スタッフルームの扉から入口までの経路を線で引き、その線が待合の中を通るかを見る
受付スタッフが電話のたびに席を立つ 頻度が高く、そのたびに受付が無人になる。代替策は、電話とネットワークの配線を受付の座る位置に集約すること 設備図で、電話とLANの配線が受付のどの位置に来ているかを確認する
医師が診察室から検査室へ移動する 診療の中断が発生する。代替策は、検査室を診察室の隣に置くか、機器を診察室内に収めること 診察室から検査室までの距離を測り、1日の想定回数を掛けて総距離を出す
スタッフが備品を取りに倉庫へ行く 頻度は低いが、まとまった時間を使う。代替策は、日常的に使う備品だけを各室の近くに分散して置くこと 各室から最も近い収納までの距離を測る。10メートルを超える室があれば、そこに小さな収納を足せるか聞く
物品の種類別に、確保すべき場所と経路の条件
物品 確保すべき場所と、経路の条件 図面の上で自分で確認できること
器材(清潔) 滅菌済みの器材を保管する場所。各診察室と処置室から取りに行ける距離にあること。使用済みの器材の経路と交わらないこと 保管場所から各室までの経路を線で引き、使用済みの器材の線と交わる点に印を付ける
器材(使用済み) 回収して一時的に置く場所と、洗浄する流し、そして滅菌器を置く場所。この3つが直線に並ぶのが理想 図面上で「使用済みの器材を最初に置く場所」を指させるかを確かめる。指させなければ決まっていない
滅菌器 電源容量、給排水、そして排熱の逃げ場。機種によって必要な電源が異なるため、機種の選定が先 設置予定位置に電源と給排水が図面に描かれているかを確認する。機種が未定なら先に決める
薬剤 施錠できる保管場所と、温度管理が必要なものの冷蔵設備。診察室からアクセスできる距離にあること 施錠できる収納が図面のどこにあるかを指させるかを確かめる。冷蔵庫の電源が来ているかを見る
リネン(清潔) 清潔なリネンの保管場所。使用済みのリネンの保管場所とは別にすること 清潔と使用済みのリネンを、別々の場所に置けるかを図面で確認する。同じ棚を想定していないか見る
リネン(使用済み) 回収して一時的に置く場所。回収業者が引き取る場合は、搬出の経路も併せて決める 一時保管の場所から搬出口までの経路を線で引き、待合を通らないかを見る
廃棄物(一般) 一時保管の場所と、搬出の経路。ビルのゴミ置き場が使えるかは、賃貸借契約の前に確認する ビルのゴミ置き場の位置と、そこまでの経路を確認する。共用部を通る場合は管理規約を確認する
廃棄物(感染性) 専用の容器を置く場所と、回収業者が引き取るまでの保管場所。保管の方法は法令と自治体の指導に従う 専用容器の置き場所が図面にあるかを確認する。ない場合は、どこに置く想定かを設計者に聞く
国土交通省「建築設計標準」第2部第3章が示す主要寸法の意味(義務ではなく指針)
寸法 設計標準が示す意味 クリニックの図面のどこで使うか
80センチメートル 車椅子で通過できる寸法 扉の有効幅の最低ライン。バリアフリー法施行令第19条第2項第2号イも出入口の幅を80センチメートル以上としている
90センチメートル 車椅子で通過しやすい寸法。通路を車椅子で通行できる寸法 スタッフだけが使う裏の通路の最低ライン。ここを削ると器材を運ぶ台車が通らなくなる
120センチメートル 通路を車椅子で通行しやすい寸法。人が横向きになれば車椅子使用者とすれ違える寸法。杖使用者が円滑に通過できる寸法 患者様が通る通路の最低ライン。ただし「横を向けばすれ違える」であって、正面のまますれ違える幅ではない
140センチメートル 車椅子使用者が転回(180度方向転換)できる寸法。杖使用者が円滑に上下できる階段幅の寸法 通路の突き当たりや、診察室の中で車椅子の向きを変える必要がある場所
150センチメートル 車椅子使用者が回転できる寸法。人と車椅子使用者がすれ違える寸法 待合から診察室へ向かう主要な通路。付き添いの方と並んで歩く場面を想定するならここを目標にする
180センチメートル 車椅子使用者が回転しやすい寸法。車椅子使用者同士がすれ違える寸法 整形外科やリハビリを行う診療所の主要通路。車椅子の方が複数いらっしゃる前提の場所
バリアフリー法施行令が定める寸法と、クリニックの図面での使いどころ
条文 定めている内容 図面の上で自分で確認できること
第19条第2項第2号イ 移動等円滑化経路を構成する出入口の幅は80センチメートル以上 建具表で各扉の有効幅を確認する。枠の内側の寸法であって、扉板の幅ではないことに注意する
第19条第2項第2号ロ 戸を設ける場合は、自動的に開閉する構造その他の車椅子使用者が容易に開閉して通過できる構造とし、その前後に高低差がないこと 入口の扉が引き戸か開き戸かを確認する。開き戸の場合、車椅子で開けられる引き手の位置かを見る
第19条第2項第3号イ 移動等円滑化経路を構成する廊下等の幅は120センチメートル以上 図面の通路幅を実測する。壁の仕上げの厚みを引いた内法で測られているかを確認する
第19条第2項第3号ロ 50メートル以内ごとに車椅子の転回に支障がない場所を設けること 通路の長さを測る。50メートルに満たない規模でも、突き当たりに転回できる場所があるかを見る
第19条第2項第4号ロ 傾斜路の勾配は12分の1を超えないこと。ただし高さが16センチメートル以下のものは8分の1を超えないこと 入口に段差がある場合、その高さを測り、必要なスロープの長さを計算する。高さ15センチメートルなら1.8メートル必要
第19条第2項第5号ハ・ニ エレベーターの籠の奥行きは135センチメートル以上、乗降ロビーの幅と奥行きは150センチメートル以上 2階以上の区画なら、既存のエレベーターの籠の内寸を実測する。車椅子で乗って向きを変えられるかを試す
第18条第2項第1号 車椅子使用者用駐車施設の幅は350センチメートル以上 駐車場がある場合、350センチメートルの区画を1台分取れるかを図面で確認する
第11条第1項第1号 不特定かつ多数の者が利用する廊下等の表面は、粗面とし、または滑りにくい材料で仕上げること 床材の見本を取り寄せ、水を垂らして手のひらで押してみる。雨の日の入口付近は特に確認する

決めること8|図面ができたら、自分で検証する

平面図をA3で3枚コピーし、患者様・スタッフ・物品の線をそれぞれ1枚ずつに引きます。重ねて見ると、交差する場所がそのまま問題箇所です。

見つかったときの伝え方も表にしました。「使いにくい」ではなく「ここで交差します」と言う。

図面の検証で見つかりやすい問題と、見つかったときの伝え方
見つかりやすい問題 なぜ図面の段階で見落とされるか 設計者への伝え方(事実として伝える)
扉の前で車椅子が回れない 扉の有効幅は満たしているが、扉の手前に回転するスペースが描かれていない 「この扉の前に直径150センチメートルの円が入りません」と、円を描いた図面を添えて伝える
会計待ちの列が入口にかかる 図面には人が描かれていないため、列の長さが想定されていない 「会計に3人並ぶと列の先頭が入口にかかります」と、列を描いた図面を添えて伝える
受付の前で3本の線が重なる 受付は「入口の正面」という慣習で決められ、通過する動線が計算に入っていない 「受付の前で患者様・スタッフ・物品の3本が重なります」と、3枚を重ねた図面を添えて伝える
使用済みの器材が待合を通る 洗浄・滅菌の場所が後から決まったため、経路が検討されていない 「処置室から洗浄の場所まで、待合を7メートル通ります」と、距離を測って伝える
待合の席が想定人数に足りない 診察室を優先して面積を配分したため、待合が後回しになっている 「ピーク時12人に対し、席が9つです」と、数えた結果を伝える
ベビーカーを止める場所がない 什器の図面に椅子は描かれているが、ベビーカーは描かれていない 「幅60センチメートル・奥行100センチメートルを3台分、どこに置けますか」と場所を尋ねる
廃棄物の搬出が入口を通る 搬出は設計の対象外と考えられ、図面に描かれていない 「感染性廃棄物の容器をどこに置き、どの経路で搬出しますか」と、運用の手順として尋ねる
診療科目ごとの動線設計の重点と、図面で確認すること
診療科目 動線設計の重点 図面の上で自分で確認できること
内科 感染の可能性がある患者様の分離。処置室と検査室への経路。採血と点滴の場所が待合から見えないこと 待合を3分の1に区切った状態を図面に描き、残りで必要席数が並ぶかを確かめる
小児科 ベビーカーの置き場、キッズスペースと待合の関係、付き添いの方の人数。感染の可能性がある患者様の分離 付き添いの方を含めた同時滞在人数を計算し、ベビーカーの台数分の面積を足して待合の必要面積を出す
整形外科 リハビリ室への経路、車椅子と松葉杖での移動、待合の滞在人数。通路の幅の優先度が最も高い 入口からリハビリ室までの経路の最も狭い箇所を測る。松葉杖の方2人がすれ違えるかを確認する
歯科 診療台の配置とプライバシー、器材の洗浄・滅菌の動線。診療台1台ごとに器材が動く 診療台の台数分の器材が1日に何セット動くかを計算し、洗浄・滅菌の場所のカウンター長さと突き合わせる
皮膚科・美容皮膚科 他の患者様と顔を合わせない配慮、施術室への導線。入口と出口を分ける検討 待合の各席から施術室の扉が見えるかを線で結ぶ。見える席が何席あるかを数える
眼科 検査機器を巡る順路、暗室の位置。検査から診察へ戻る動線が一方通行になるか 検査の順序を紙に書き、その順に機器を並べたときの動線が交差しないかを図面で試す
耳鼻いんこう科 呼び入れの頻度が高いため、待合と診察室の距離。ネブライザーなど処置の場所と待合の関係 1時間あたりの呼び入れ回数を計算し、受付から診察室までの距離を掛けて総移動距離を出す
心療内科・精神科 他の患者様と顔を合わせない配慮が最優先。待合の分割、個室待合、入口と出口の分離、そして音 入口から診察室までの間で、他の患者様と正面ですれ違う地点が何か所あるかを数える
産婦人科 診察室と内診室の関係、更衣の場所、他の患者様の視線を遮ること。妊婦の方の通路幅と手すり 内診室の入口と出口の位置を確認し、更衣した状態で移動する距離と、その経路が見えるかを確かめる
図面の動線を自分で検証する手順
  1. 平面図をA3で3枚コピーする。1枚目を患者様動線用、2枚目をスタッフ動線用、3枚目を物品動線用にする
  2. 1枚目に、患者様1人が入口から出口まで移動する経路を1本の線で引く。初診の方と再診の方で経路が違うなら、2本引く
  3. 2枚目に、その患者様1人を担当するスタッフが移動する経路を引く。受付・看護師・医師で色を分ける
  4. 3枚目に、その診療で使う器材が移動する経路を引く。清潔なものと使用済みのものを、実線と点線で分ける
  5. 3枚を重ねて光にかざし、3本以上の線が通っている場所に印を付ける。ここがボトルネックになる
  6. ピーク時の同時滞在人数の分だけ、待合に人を表す印を置く。座れない人数が出るかを確認する
  7. 会計を待つ方が3人並んだ列を描き足す。その列が入口または通路にかかるかを確認する
  8. 幅70センチメートル・奥行120センチメートルの長方形を紙で切り、車椅子として図面の上で動かす。通れない場所と、回れない場所に印を付ける
  9. 直径150センチメートルの円を紙で切り、通路の突き当たりと診察室の中に置けるかを確かめる
  10. スタッフが患者様の正面を横切る回数を数える。通常時とピーク時の2通りで数え、それぞれ紙に書く
  11. 使用済みの器材と廃棄物の経路が、待合と入口を通るかを確認する。通るなら、その旨を設計者に伝える
  12. 印を付けたすべての箇所を一覧にして、設計者に渡す。「ここが問題です」ではなく「ここで線が3本重なります」と事実で伝える

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よくある質問

クリニックの動線について、開業を準備されている方からよく出る質問を4つ選びました。 いずれも、条文や公的な指針で答えの一部が確認できるものです。 確認できなかった部分は、確認できなかったと書きます。

答えの中で条文を引くときは、条・項・号まで特定しています。 引用元のリンクも本文中に置いてありますので、原文で確かめてください。 条文は改正されるため、着工前に最新の本文を見ることをお勧めします。

また、ここでの回答は内装の設計に関するものです。 医療行為や診療の方針について助言するものではありません。 診療科目ごとの判断は、必ず保健所と専門家に確認してください。

とくに、感染対策としてどこまで分離するかは、診療所の方針と地域の状況によって変わります。 一律の正解はありません。 図面で「できる形」を用意しておき、運用は方針に合わせて選べるようにしておくのが現実的です。

クリニックの動線設計で、いちばん最初に決めるべきものは何ですか?

受付とカウンターの位置です。 受付は、入口から見えること、待合の全体を見渡せること、診察室へ案内する起点になること、 そして会計で戻ってくる場所になることの4つを同時に引き受けます。

この4つを1か所で満たせる位置は、区画の形によっては1つか2つしかありません。 受付が決まると、待合の形、診察室と処置室の並び、スタッフが動く範囲、 会計待ちの方が立つ場所までが連動して決まります。

逆に、受付を後から動かすと、給排水と電気とネットワークの配線がすべて動くため、部分的な手直しでは済みません。 ただし、受付を決める前にもう一段だけ上の判断があります。 それが、患者様・スタッフ・物品の3系統のうち、どれを最短で通すかという優先順位です。

テナントの一区画のように面積に余裕がない場合、3系統すべてを独立させることはできません。 3つのうちどれを優先するかを先に決めてから受付の位置を決めると、後の項目がぶつかりにくくなります。 診療科目によって答えは変わります。

処置と検査が多い内科であればスタッフ動線、器材の洗浄と滅菌が多い歯科であれば物品動線、 初診の方の比率が高い皮膚科や美容皮膚科であれば患者様動線が優先になりやすい、という考え方です。

通路の幅は何センチあれば、車椅子の患者様とすれ違えますか?

国土交通省の「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」第2部第3章は、主要寸法の意味を数値ごとに整理しています。 80センチメートルは車椅子で通過できる寸法、 90センチメートルは車椅子で通過しやすい寸法および通路を車椅子で通行できる寸法です。

120センチメートルは通路を車椅子で通行しやすい寸法であり、かつ人が横向きになれば車椅子使用者とすれ違える寸法、 杖使用者が円滑に通過できる寸法とされています。 140センチメートルは車椅子使用者が転回(180度方向転換)できる寸法です。

150センチメートルは車椅子使用者が回転できる寸法であり、人と車椅子使用者がすれ違える寸法、 180センチメートルは車椅子使用者が回転しやすい寸法であり、車椅子使用者同士がすれ違える寸法です。

つまり、120センチメートルは「人が横を向けばすれ違える」であって、正面を向いたまますれ違える幅ではありません。

付き添いの方と並んで歩く車椅子の患者様と、器材を持ったスタッフがすれ違う場面を想定するなら、 150センチメートルが実務上の目安になります。 ただしこの設計標準は義務ではなく指針です。

バリアフリー法の建築物移動等円滑化基準として義務がかかるのは、 同法施行令第19条第2項第3号イが定める移動等円滑化経路の廊下等の幅120センチメートル以上、 同項第2号イが定める出入口の幅80センチメートル以上などです。

しかも同令第9条第1項により、床面積の合計2,000平方メートル以上の建築等が対象です。 テナントの一区画に入る無床の診療所では、この義務そのものはかからないことがほとんどです。 義務がかからないからこそ、設計標準の数値を自分の要求水準として発注側から示す必要があります。

発熱の患者様を分ける動線は、テナントの一区画でも作れますか?

出入口が1つしかない区画では、完全に分けた別動線を作ることは物理的にできません。 ここは設計の工夫では解決せず、物件を選ぶ段階で決まってしまいます。 ただし、別動線が取れないことと、何も対策ができないことは同じではありません。

厚生労働省の「医療施設等における感染対策ガイドライン」は、外来トリアージとして、 来院時点での問診を強化し、他の患者様から可能な限り早期に分離して個室等に誘導する体制を挙げています。

また同ガイドラインは、飛沫は空気中を漂わず短距離(1から2メートル)しか到達しないとしたうえで、 飛沫予防策として患者様同士の間隔を2メートル以上離すこと、 間にカーテン等の障壁を設置することを挙げています。

この2つを図面に翻訳すると、待合の一角を可動間仕切りで区切れるようにしておくこと、 区切った側から直接入れる診察室を1室確保しておくこと、 その区画に手洗いを1か所置けるよう給排水を先に用意しておくこと、という具体策になります。

なお、このガイドラインは新型インフルエンザ(H5N1)を想定して作られた文書であり、 すべての感染症にそのまま当てはまるものではありません。 診療科目ごとにどこまで分離するかは、保健所と、院内感染対策の指針を作る立場の医師の判断によります。

医療法施行規則第1条の11第2項第1号は、院内感染対策のための指針の策定、従業者への研修の実施、 感染症の発生状況の報告その他の改善のための方策の実施を、無床の診療所にも求めています。 指針に書く運用が図面で実行できるかを、着工前に1項目ずつ照合してください。

スタッフの裏動線が取れない図面は、やり直したほうがよいですか?

面積に余裕のないテナント区画では、バックヤードから各診察室へ直接入れる裏動線が取れないことは珍しくありません。 取れないこと自体を理由に図面をやり直す必要はありませんが、 そのときは交差の回数と場所を数えたうえで承認してください。

数え方は簡単です。 平面図の上で、患者様1人の受診が始まってから終わるまでの間に、 スタッフが患者様の正面を横切る回数を指でなぞって数えます。

これを、通常時とピーク時の2通りでやります。 そのうえで、優先して解消すべき交差が3つあります。 第一に、使用済みの器材やリネンを持ったスタッフが待合を通る動線です。

第二に、廃棄物を搬出する経路が入口や待合を通る動線です。 第三に、スタッフが休憩や更衣のために診療エリアを横断する動線です。 この3つは、いずれも患者様から見えることの心理的な影響が大きく、かつ後から直すのが難しい部分です。

裏動線が1本も取れないなら、せめてこの3つだけは別経路にできないかを設計者に聞いてください。 それでも無理なら、器材を運ぶ距離そのものを短くする方向に切り替えます。 洗浄と滅菌の場所を処置室の隣に置く、廃棄物の一時保管を裏口の近くに寄せる、といった配置の変更で、通る回数を減らせることがあります。

まとめ|クリニックの動線で決める8つのこと

通路を広げれば、その分だけ診察室か待合が狭くなります。面積の配分を変えたときの影響を、試算例で置きました。

図面が届いたら、まず3枚コピーしてください。線を引くだけで、専門知識がなくても動線は検証できます。

編集部の試算例|面積の配分を変えたときの影響(30坪、坪50万円、10年償却、月22日診療、1人あたり想定粗利2,000円で計算した例)
判断 試算の内容 自分の数字に置き換えて確認できること
内装費の総額 30坪 × 坪50万円 = 1,500万円。10年で償却すると月12万5,000円、月22日診療で1日あたり約5,700円 自分の区画の坪数と、見積もりの坪単価を入れて計算し直す。坪単価は見積書の総額を坪数で割って出す
1日あたりの患者様の人数への換算 1日あたり5,700円 ÷ 1人あたり想定粗利2,000円 = 約3人。内装費は「1日3人分の粗利」に相当する 自院の想定する1人あたりの粗利を置いて計算する。診療報酬の点数ではなく、あくまで想定の単価として扱う
通路を120から150センチメートルに広げる 通路の長さ10メートルなら、増える面積は3平方メートル(約0.91坪)。待合の椅子でおよそ2席から3席分 図面上で主要な通路の長さを測り、広げたい幅の差を掛けて、減る面積を平方メートルで出す
待合の席を2席減らす ピーク時に座れない方が出るかどうかが判断の基準。座れない方が出ないなら、通路を優先してよい ピーク時の同時滞在人数を計算し、2席減らしても足りるかを確認する
診察室を1室減らして待合を広げる 診察室1室で1日に診られる人数と、待合が狭いことで生じる影響を比べる。この比較は数値化しにくい 診察室1室あたりの1日の想定患者様数を出す。減らしたときに、その人数を残りの室で吸収できるかを見る
裏動線を1本通す 幅90センチメートル、長さ8メートルなら7.2平方メートル(約2.2坪)。内装費に換算すると約110万円分の面積 裏動線を通す場合と通さない場合の2案を設計者に出してもらい、それぞれの面積配分を比べる

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