トイレは面積を取ります。1平方メートル広げれば、その分だけ客席が減る。だから小さく描かれ、そのまま承認されます。

けれどトイレは面積と排水の位置で決まり、あとから動かせません。再来店の判断に、いちばん効く場所でもあります。

決めることは8つ。先に数、次に面積、最後に仕上げ。この順です。

この記事でわかること

  • 働く人の数に対して、便房をいくつ設けるかの基準(労働安全衛生規則・事務所衛生基準規則)
  • 男女共用ひとつで足りるのはどんなときか。その条件(独立個室型の便所)
  • お客様用の数を何から決めるか。法令で決まっていない部分の考え方
  • 窓が取れない区画で、換気をどう扱うか(建築基準法施行令)
  • 飲食店で求められる専用の手洗いと、その位置(食品衛生法施行規則)
  • 車椅子使用者用便房が義務になる規模と、条例で変わる部分(バリアフリー法)
トイレで決めることと、その根拠、後から変えられるかを並べた表。従業員用の便房の数は労働安全衛生規則第628条が根拠で、面積と排水で決まるため後から変えられない。男女共用にできるかは同規則第628条の2が根拠で、間仕切りの工事になる。お客様用の数は全国一律の基準がなく、後から変えられない。窓か換気設備かは建築基準法施行令第28条が根拠で、換気扇は交換できる。便房の広さは扉の開き方で決まり、後から変えられない。専用の流水式手洗いは食品衛生法施行規則の別表第19が根拠で、給排水を開ける工事になる。車椅子使用者用便房はバリアフリー法施行令第14条が根拠で、面積が要るため後から変えられない。
後から変えられるのは、器具と仕上げだけです|数・広さ・排水の位置は図面を承認した時点で確定します。根拠の条文がある項目は、先に条文を確かめてから面積を割り当ててください。

トイレは、面積と排水の位置で決まる

排水の位置は床を作る前、数は間取りを決める前。

決まる順番と、変えられなくなる時点
決めるもの何に縛られるか変えられなくなる時点
便房の数働く人の数(法令)と、ピーク時の来店人数平面図の承認
面積と位置客席との取り合い、通路の幅平面図の承認
排水の経路建物の立て管の位置、勾配床を組む前
給水・給湯既存の配管の位置壁を閉じる前
換気の設備窓が取れるかどうか天井を閉じる前
便器・水栓の機種予算発注の直前(比較的あとまで動かせる)
床・壁の仕上げ予算、清掃のしやすさ発注の直前(張り替えも可能)

トイレで決める8つのこと

そのまま使える聞き方を表に入れました。

8つの決めごとと、そのまま使える聞き方
決めること根拠・判断のもとそのまま使える聞き方
1. 従業員用の数労働安全衛生規則第628条/事務所衛生基準規則第17条「同時に働く人数から見て、この数で足りますか」
2. 男女の区別同規則第628条の2「独立個室型で足りる人数に収まっていますか」
3. お客様用の数ピーク時に同時に使う人数「満席のとき、待つ人が出ない数ですか」
4. 窓と換気建築基準法施行令第28条「窓は取れますか。取れない場合は何で代えますか」
5. 広さと扉扉の開き方、荷物を置く場所「扉を閉めた状態の内寸は何ミリですか」
6. 手洗い食品衛生法施行規則 別表第19(飲食店等)「便所専用の手洗いは、どこに付きますか」
7. 車椅子使用者用便房バリアフリー法第14条/同法施行令第9条・第14条「この建物は基準適合義務の規模に入りますか」
8. 排水の位置建物の立て管の位置と勾配「立て管まで何メートルで、床は何ミリ上がりますか」

決めごと1|従業員用の数は、法令で決まっている

同時に就業する人数から必要な数が決まります(労働安全衛生規則)。

同時に就業する労働者の数と、必要な便房・小便所の数
区分条文の定め実務での読み方
男女の区別「男性用と女性用に区別すること。」原則は分ける。例外は決めごと2
男性用の大便所六十人以内→一。六十人を超える場合は、超える六十人またはその端数を増すごとに一を加えた数男性60人ごとに1室
男性用の小便所三十人以内→一。三十人を超える場合は、超える三十人またはその端数を増すごとに一を加えた数男性30人ごとに1か所
女性用の便所二十人以内→一。二十人を超える場合は、超える二十人またはその端数を増すごとに一を加えた数女性20人ごとに1室
便池の構造「便池は、汚物が土中に浸透しない構造とすること。」水洗であれば通常は問題にならない
手洗い「流出する清浄な水を十分に供給する手洗い設備を設けること。」手洗いは必須。ため水式は不可

出典:労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)第628条第1項、および事務所衛生基準規則第17条第1項の条文を確認して作成。両規則の第一号から第六号は同じ内容です。数の表は条文では「六十人以内→一」「六十人を超える六十人又はその端数を増すごとに一を加えた数」という書き方をしており、「60人ごとに1」は実務上の読み替えです。清潔に保ち、汚物を適当に処理する義務も同条第2項に定められています。

決めごと2|10人以内なら、男女共用ひとつでよい

独立個室型の便所なら、小規模な店でも要件を満たせることがあります。

独立個室型の便所を使えるかどうか
同時に就業する人数条文上の扱い面積の目安になる考え方
常時10人以内独立個室型ひとつで足りる(第628条の2第1項)1室ぶんの面積で済む。小規模店舗の多くはここ
11人以上独立個室型を設ける場合、その数に10を乗じた数を差し引いて男女別の数を計算(同条第2項)独立個室型1つ+男女別で組み立てる
独立個室型を設けない原則どおり男女別(第628条第1項)最低でも2室ぶんの面積が要る

条文の文言は労働安全衛生規則第628条の2および事務所衛生基準規則第17条の2で同一です。この特例は働く人に対する基準であって、お客様用の便所の数を定めたものではありません。お客様と共用にする場合の考え方は、次の決めごと3をご覧ください。

決めごと3|お客様用の数に、全国一律の基準はない

だから自分で数えます。席数、回転数、ピーク時の同時在店数。数えるものを表にしました。

お客様用の数を決めるときに数えるもの
数えるものなぜ効くか自店での確かめ方
満席時の客席数同時に店内にいる人数の上限になる図面の席数を数える
平均の滞在時間長いほど、利用される回数が増えるラーメン店30分とカフェ90分では前提が違う
主なお客様の層お子様連れ・ご高齢の方が多いと利用が増える近隣の施設と時間帯から見当をつける
お酒を出すか提供するほど利用の回数が増える夜の業態かどうかで分ける
従業員が同じものを使うか共用なら、決めごと1の基準も同時に満たす必要がある同時に働く人数を数える(前章の手順)
待つ場所があるか1室しかない場合、扉の前で待つ人が客席から見える図面で、扉の前に立つ人の位置を確かめる

この表の数値基準は法令ではなく、面積を割り当てるための材料です。数字を置いていないのは、根拠になる一次情報を確認できなかったためです。「客席◯席につき1室」といった目安は流通していますが、出典をたどれるものが見つかりませんでした。

決めごと4|窓がなければ、換気の設備が要る

窓が取れるかどうかで、設備も費用も変わります。内装の位置を決める前に確かめてください。

窓が取れるかどうかで変わること
条件条文上の扱い工事で必要になること
外壁に面していて窓が取れる原則どおり(建築基準法施行令第28条本文)建物の外壁を触る工事になるため、貸主の承諾が要る
窓が取れない・水洗便所ただし書きにより、代わる設備で可排気ダクトの経路と、給気の取り方を天井伏図で確認する
扉の下に隙間がない条文の対象外排気しても空気が入らず、風量が出ない。給気の隙間を確保する

出典:建築基準法施行令(e-Gov法令検索)第28条の条文を確認して作成。同令には第29条(くみ取便所の構造)以下、便所に関する規定が第35条まで置かれています。設備の仕様が基準を満たすかどうかの判断は、設計を担当する建築士または所在地の建築主事にご確認ください。換気の考え方全般は店舗の空調と換気で決める7つのことで扱っています。

決めごと5|便房の広さと、扉の開き方

外開きか、内開きか、引き戸か。面積と使い勝手の取り合いです。扉を閉めた状態の内寸で考えます。

扉の形式ごとの、面積と使い勝手の取り合い
扉の形式面積への影響図面で確かめること
内開き便房の中に扉の振れる範囲が要る。内寸が最も大きく必要扉を開いた線と便器が重なっていないか
外開き便房の内寸は小さくできる開いた扉が通路の有効幅を塞がないか。人が立つ位置と重ならないか
引き戸扉の振れる範囲が要らない。戸を引き込む壁が要る引き込む側の壁に、スイッチや配管が来ていないか
折れ戸中間。狭い区画で使われる金物の耐久性。開閉の回数が多いと消耗が早い

決めごと6|飲食店には、専用の流水式手洗いが要る

食品衛生法施行規則別表第19の定めです。トイレの手洗いとは別に、厨房側にも要ります。

食品衛生法施行規則 別表第19 の、手洗いに関する定め
場所条文の文言工事で決まること
便所(第三号ヲ)「次に掲げる要件を満たす便所を従業者の数に応じて有すること。(1)作業場に汚染の影響を及ぼさない構造であること。(2)専用の流水式手洗い設備を有すること。」便所専用の給排水を1系統確保する
作業場(第三号チ)「従業者の手指を洗浄消毒する装置を備えた流水式手洗い設備を必要な個数有すること。なお、水栓は洗浄後の手指の再汚染が防止できる構造であること。」厨房内の手洗いは別に設ける。水栓は手を触れずに止まる形式を選ぶ
適用の除外自動車において調理をする場合などは、第三号ヲの基準を適用しない(第五号ハ)移動販売車は別扱い。店舗にはそのまま適用される

出典:食品衛生法施行規則(e-Gov法令検索)の別表第19(第66条の7関係)の条文を確認して作成。この別表は営業の種類ごとに適用される範囲が異なります。自店の営業がどの基準に該当するかは、所在地の保健所にご確認ください。厨房そのものの設計は飲食店の厨房設計で決める9つのことで扱っています。

決めごと7|車椅子使用者用便房が義務になる規模

バリアフリー法施行令第14条で、義務がかかる規模が決まっています。自店が当たるかを確かめてください。

バリアフリー法施行令 第14条が求めるもの(義務がかかる場合)
項求められること面積への影響
第1項不特定かつ多数の者が利用する便所を、国土交通大臣が定める配置の基準に従い、これらの者が利用する階の階数に相当する数以上設ける階ごとに便所が要る
第2項その便所のうち一以上に、車椅子使用者用便房を一以上設ける通常の便房より広い面積が要る
第3項一以上の便所に、高齢者・障害者等が円滑に利用できる構造の水洗器具を設けた便房を一以上設ける器具の選定に条件がつく
第4項男子用小便器を設ける便所の一以上に、床置式または受け口の高さ35cm以下の壁掛式などの小便器を一以上設ける器具の高さの指定。面積への影響は小さい

出典:高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律施行令(e-Gov法令検索)第9条・第14条、および同法第14条の条文を確認して作成。同法第14条第3項により、地方公共団体は条例で特別特定建築物を追加し、または規模を政令で定める規模未満で別に定めることができます。自店が該当するかは、所在地の建築主事または指定確認検査機関にご確認ください。義務の有無と、実際に使えるかどうかが別の話であることは店舗のバリアフリーで決める8つのことで扱っています。

決めごと8|排水の位置は、動かせるか

ここがすべての起点です。縦管から遠いほど床を上げることになり、天井が下がります。

排水の位置と、そこから決まる工事
状況起きること契約前に確かめること
既存の便器と同じ位置に置く配管の工事は最小限で済む既存の位置が、決めたレイアウトと合うか
同じ室内で少し動かす床を開けて配管を延ばす。勾配の分だけ床が上がる「何ミリ上がりますか」を数字で聞く
別の場所に新設する立て管までの経路を確保する工事になる。天井裏や床下を通す立て管の位置を図面で示してもらう
立て管が区画内にない共用部を通る工事になり、貸主・管理会社の承諾が要る契約前に承諾が取れるかを確認する
スケルトン区画位置は自由に決められるが、立て管からの距離で勾配が決まる立て管の位置を先に確認してから、レイアウトを描いてもらう

居抜き物件で設備を流用できるかどうかの判断は居抜き物件の設備は流用できるか、内覧時に見る項目は店舗物件の選び方で扱っています。排水の経路は、給排水衛生設備図で確認できます。図面の見方は店舗の図面で施主が確認する8つのことをご覧ください。

図面の段階で確かめる、トイレの中の項目
  1. 扉を閉めた状態の内寸。幅と奥行きをミリで確認する
  2. 手荷物を置く棚か、フックが図面に描かれているか
  3. 上着を掛ける場所。冬場に上着を持ったまま入ることになる
  4. ペーパーホルダーの位置と高さ。座った状態で手が届くか
  5. 手洗いの水はねが、扉や床にかかる位置にないか
  6. 鏡の位置。便房の中か、外の手洗いの上か
  7. ごみ入れを置く場所。図面にないと、あとから床に置くことになる
  8. 掃除道具をどこに置くか。客席から見える場所に置かない
  9. 床と壁の取り合い。立ち上がりがあると、汚れがたまりにくい
  10. 目地の数。少ないほど清掃の時間が短くなる
  11. 照明の位置。手元が暗いと汚れが見えず、清掃が甘くなる
  12. 非常時に外から開けられるか。中で人が倒れたときの手段

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よくある質問

従業員用とお客様用は、兼ねてもよいですか?

労働安全衛生規則も事務所衛生基準規則も、従業員用を分けて設けることまでは求めていません。求めているのは、同時に就業する労働者の数に応じた便房の数と、男性用と女性用の区別です(労働安全衛生規則第628条第1項)。

同時に就業する労働者が常時10人以内なら、男女で区別しない独立個室型の便所ひとつで足ります(同規則第628条の2第1項)。飲食店の場合は、これとは別に専用の流水式手洗い設備が求められます。

お客様用のトイレは、何個設ければよいですか?

来店されるお客様の数に応じた個数を全国一律で定めた法令は、確認できませんでした。数を定めているのは労働者に対する基準です。

個数は、ピーク時に同時に使う人数から自分で決めることになります。ただし自治体の条例で上乗せの基準が置かれていることがあるため、所在地の建築主事または指定確認検査機関にご確認ください。

窓のない区画です。トイレを作れますか?

便所には採光及び換気のため直接外気に接する窓を設けなければならないとされています。ただし水洗便所で、これに代わる設備をした場合はこの限りでないとされています(建築基準法施行令第28条)。

窓が取れない区画では、換気設備でこれに代えることになります。設備の仕様が基準を満たすかは、設計を担当する建築士または所在地の建築主事にご確認ください。

多機能トイレは必ず作らなければいけませんか?

建築物移動等円滑化基準への適合が義務づけられるのは、特別特定建築物を政令で定める規模以上に建築する場合です(バリアフリー法第14条第1項)。その規模は床面積の合計2,000㎡(公衆便所は50㎡)です(同法施行令第9条)。

多くのテナント区画はこの規模に届きません。ただし地方公共団体が条例で対象を追加したり、規模を別に定めたりできるとされています(同法第14条第3項)。該当するかは所在地の建築主事または指定確認検査機関にご確認ください。

まとめ|先に数、次に面積、最後に仕上げ

トイレにかける費用も「1日何人分か」に翻訳できます。再来店に効く場所なので、削る前に計算してください。

図面で「ここでいいですね」と言われたら、「便房の内寸は何ミリですか」と聞いてください。

120万円を「1日何人」に翻訳する(すべて仮の例)
段階計算結果
工事の金額便房を1室増やす(仮)120万円
回収の期間36か月で置く月あたり3.3万円の粗利
売上に換算粗利率60%で割り戻す月5.5万円の売上
1日あたり月25日営業で割る1日2,200円
人数に換算客単価1,100円で割る1日2人

この120万円・36か月・粗利率60%・客単価1,100円は、計算の手順を示すための仮の数値です。実際の金額は物件の状態と工事の範囲で変わります。自店の数字を入れて計算し直してください。同じ手順は店舗リニューアルで売上改善を狙うなら何を変えるべきかでも使っています。

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