店舗の開業費用の平均は975万円、そのうち自己資金の平均は279万円(22.9%)です。残りの約8割をどう埋めるかを、物件を契約する前に決めておく必要があります。
「自己資金はいくら要りますか」という質問に、明確な合格ラインはありません。日本政策金融公庫の創業融資にはかつて「自己資金は創業資金総額の10分の1以上」という要件がありましたが、この要件は現在の制度では撤廃されています。
ただし、要件が無くなったことと、審査で自己資金を見なくなったことは別の話です。自己資金として認められるお金には条件があり、認められない入れ方をすると審査でかえって不利になります。
物件契約から着工までの期間は限られています。自己資金をいつまでに、どこまで用意しておくか、決めることは6つあります。
この記事でわかること
- 開業費用と自己資金の実際の平均額(日本政策金融公庫の調査)
- 自己資金として認められるお金・認められないお金の条件
- 自己資金要件が撤廃されたあとも、審査で確認されること
- 自己資金の割合が低いときに起きること
- 自己資金をいつまでに、どう積み上げるか
- 貯めた自己資金を内装費にいくらまで回せるか
融資そのものの審査項目や借入先の違いは店舗開業の融資はどこから借りる?で扱っています。この記事は自己資金の額と中身に絞ります。
決め1|自己資金の平均は開業費用の22.9%、まずこの実態を確認する
日本政策金融公庫総合研究所が2025年8月時点で実施した調査によると、開業費用の平均は975万円(中央値600万円)でした(日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」)。
資金調達額の平均は1,219万円(開業費用より運転資金分だけ多い)で、その内訳は自己資金が279万円・22.9%、金融機関等からの借入が827万円・67.9%、配偶者や友人・知人からの借入等その他が113万円・9.2%でした。
つまり、自己資金だけで開業する人はほとんどおらず、7割前後を借入でまかなうのが実態です。この数字を自分の開業費用の見積もりに当てはめて、自己資金の目標額を逆算してください。
| 項目 | 金額(割合) | 確認すること |
|---|---|---|
| 自己資金 | 279万円(22.9%) | 自分の通帳の残高と、次章の「認められる自己資金」の条件を照らし合わせる |
| 金融機関等からの借入 | 827万円(67.9%) | 日本政策金融公庫や制度融資など、借入先ごとの審査条件を確認する |
| その他(配偶者・親戚、友人・知人等) | 113万円(9.2%) | 借入か贈与かで、自己資金への算入の扱いが変わる |
出典:日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」(調査時点2025年8月。国民生活事業が2024年4月〜9月に融資した開業後1年以内の企業8,517社(不動産賃貸業を除く)を対象に実施、有効回答2,165社・回収率25.4%)。平均値のため、業種や地域による差は反映されていません。
決め2|自己資金として認められるのは「出所を示せるお金」だけ
自己資金は、通帳の残高がそのまま認められるわけではありません。融資の審査では、そのお金がどこから来たのかを説明できるかが見られます。
代表的なのが「見せ金」です。審査の直前に他人から借りたお金を口座に入れて残高を厚く見せても、通帳の入出金履歴から不自然な動きは分かります。
一方で、コツコツ積み立てた給与や、退職金、配偶者からの贈与は、出所を通帳や書類で示せれば自己資金として扱われます。見せ金の明確な判定基準は公表されていないため、通帳の動きに不自然な点がないかを基準に考えてください。
| 区分 | 具体例 | 扱いの目安 |
|---|---|---|
| 積み立てた預金 | 毎月の給与から一定額を貯金 | 通帳の履歴で継続性を示せれば認められやすい |
| 退職金 | 前職の退職金 | 振込の履歴で出所を示せれば認められやすい |
| 配偶者・親からの贈与 | 開業資金として渡された現金 | 贈与であることを示す書類があれば認められることが多い |
| 直前に借りたお金(見せ金) | 審査直前に他人から一時的に借りて口座に入金 | 通帳の不自然な動きから見せ金と判断されると認められない |
| 消費者金融・カードローンの借入 | キャッシングした資金 | 自己資金ではなく借入として扱われる |
決め3|自己資金要件は「撤廃」されたが、審査で見なくなったわけではない
日本政策金融公庫の創業融資には、かつて「自己資金は創業資金総額の10分の1以上」という要件がありました(旧・新創業融資制度)。
この制度は「新規開業・スタートアップ支援資金」に統合され、自己資金要件そのものは無くなりました。制度上は、自己資金が0円でも申込みはできます。
ただし要件が無くなっただけで、審査そのものから自己資金の項目が消えたわけではありません。事業計画の実現性や返済能力を見るなかで、自己資金の有無と積み立ての経緯は引き続き確認されます。
| 制度 | 自己資金の要件 | 現在の考え方 |
|---|---|---|
| 旧・新創業融資制度 | 創業資金総額の10分の1以上 | 現在は新規開業・スタートアップ支援資金に統合され廃止 |
| 新規開業・スタートアップ支援資金(現行) | 明記された数値要件はない | 自己資金0円でも申込みは可能。ただし審査で経緯は確認される |
| 制度融資(信用保証協会付き) | 自治体・信用保証協会ごとに異なる | 申込み先の自治体・金融機関に個別に確認する |
出典:日本政策金融公庫の制度案内。制度の詳細は改定される可能性があるため、申込み前に日本政策金融公庫の最新の案内を確認してください。
決め4|自己資金の割合が低いと、融資額と返済計画にどう跳ね返るか
自己資金の割合が低いと、その分を借入で補うことになります。借入額が増えれば毎月の返済額も増え、開業直後の資金繰りを圧迫します。
「自己資金の何倍まで借りられるか」という明確な倍率は公表されていません。この記事では、根拠のない倍率の数字は書きません。実際に借りられる金額は、事業計画の内容や返済能力の見立てで決まります。
自己資金が少ない場合にできることは、借入額そのものを減らすことです。開業費用の総額を先に見直してください。
| 対策 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 開業費用の総額を見直す | 内装のグレード・什器を絞り込む | 借入額そのものが減る |
| 開業時期を後ろにずらす | 自己資金を積み立てる期間を延ばす | 自己資金の絶対額が増える |
| 運転資金を厚めに確保する | 開業直後の売上が読めない期間の家賃・生活費を見込む | 資金繰りが詰まりにくくなる |
決め5|自己資金は、物件を契約する何か月前までに用意するか
融資の審査には、申込みから実行まで数週間かかります。物件の契約や工事の着手は、融資が実行されたあとに動かすのが基本です。
自己資金の積み立ての経緯も見られるため、直前にまとめて用意するより、数か月かけて通帳に残高が積み上がっていく形のほうが説明しやすくなります。
物件を探し始める前から毎月いくら積み立てられるかを決め、開業予定日から逆算したスケジュールを組んでください。開業までの全体の工程は店舗開業までの内装スケジュールで扱っています。
決め6|貯めた自己資金を、内装費にいくらまで回せるか
自己資金は、内装費だけに使うわけではありません。物件の保証金・敷金、什器・備品、運転資金など、開業費用の他の項目にも配分が必要です。
内装費に自己資金をどこまで回すかを決める前に、開業費用全体の内訳を先に出してください。全体の費目は店舗開業にかかる費用の全体像で扱っています。
内装費を削れば自己資金の負担は減りますが、削ってよい部分と削ってはいけない部分があります。低予算で内装を進める際の判断軸は低予算で店舗内装を進める7つの判断にまとめています。
よくある質問
自己資金が0円でも開業融資は受けられますか?
制度上は申込みが可能です。ただし自己資金が無いと、その分すべてを借入でまかなうことになり、審査でも事業計画の実現性がより厳しく見られます。まずは開業費用の総額を見直し、少しでも自己資金を積み立てることをおすすめします。
自己資金には親からの援助や退職金を含めてよいですか?
出所を通帳や書類で示せれば、自己資金として扱われます。前職の退職金も同様です。審査直前に一時的に借りて口座に入れた「見せ金」とは区別されます。
自己資金の何倍まで借りられますか?
明確な倍率は公表されていません。借入額は、事業計画の内容や返済能力の見立てで個別に決まります。根拠のない目安の数字をうのみにせず、自分の事業計画で試算してください。
自己資金を通帳に入れて、すぐ融資を申し込んでよいですか?
直前にまとめて入金すると、出所の説明を求められることがあります。数か月かけて積み立てた履歴を残しておくほうが、審査での説明がしやすくなります。
自己資金が足りない場合、内装費から削るべきですか?
内装費だけでなく、開業費用全体の内訳を先に見直してください。削ってよい部分と削ってはいけない部分があるため、内装費を減らす判断は別記事の基準と合わせて検討してください。
まとめ|自己資金は「額」より「中身と経緯」を先に整える
| 決めること | 実態・基準 | 確認すること |
|---|---|---|
| 決め1 自己資金の平均額 | 279万円(開業費用975万円の22.9%) | 自分の開業費用の見積もりに当てはめて目標額を出す |
| 決め2 自己資金の中身 | 出所を通帳・書類で示せるお金だけが対象 | 見せ金にならない積み立て方をする |
| 決め3 自己資金要件 | 数値要件は撤廃。ただし審査では確認される | 積み立ての経緯を説明できるようにしておく |
| 決め4 割合が低い場合の影響 | 借入額と返済額が増える | 開業費用の総額を先に見直す |
| 決め5 用意する時期 | 物件契約より数か月前から積み立てる | 開業予定日から逆算してスケジュールを組む |
| 決め6 内装費への配分 | 開業費用全体の内訳の中で決める | 削ってよい部分・いけない部分を別記事で確認する |
自己資金は、多ければ多いほど審査で有利というだけの話ではありません。いくら貯めたかと同じくらい、どう貯めたかの経緯を説明できるかが見られます。
開業費用の総額と自己資金の目標額を先に出し、内装費にいくら回せるかを逆算してから、物件探しと内装会社への相談を始めてください。