物販店の内装は、飲食店とは考え方が違います。売上を決めるのは席数ではなく、陳列量と回遊。内装は、商品の背景として設計します。

15坪の路面店で造作と什器と照明と看板をそろえれば、数百万円になることは珍しくありません。そこに仕入れと保証金と開業までの家賃が乗ります。

押さえるのは8つ。入口、動線、什器の高さ、照明、試着室、カウンター、収納、そして看板。

この記事でわかること

  • 物販と飲食で売上の決まり方がどう違うかと、そこから導かれる内装の優先順位
  • ファサード・主通路・什器の高さなど、物販店で決めるべき8つのポイントと、設計時に決めること
  • 入店数・通過人数・手に取られた回数を自分で数える方法と、その数え方の手順
  • 什器を造作・既製品・レンタルのどれにするかを、初期費用と変更のしやすさと退去時の扱いで比べる基準
  • 投資額を「1日あたり何点売れば回収できるか」まで落とし込む計算の道筋
  • 物販店で確認しておくべき通路幅・出入口・条例の届出の根拠と、確認先
2024年のEC化率は、書籍・映像音楽ソフトが56.45%、生活家電・AV機器・PC等が43.03%、生活雑貨・家具・インテリアが32.58%、物販系分野の全体では9.8%。
EC化率が高いほど、売場の役割が変わります|書籍のように半分以上がネットに移った分野では、売場は探す場所ではなく探していなかったものと出会う場所になります。自分のカテゴリーの数字を確かめてから、什器の高さと陳列量を決めてください。

物販の内装は「商品が主役」である点で飲食と違う

店に来る理由が違います。同じ商品はネットでも買える。だから売場は、実物を見て触れることに寄せて設計します。

カテゴリー別のEC化率を見れば、自分の扱う商品がどれだけネットに流れているかが分かります。高いカテゴリーほど、売場の役割を考え直す必要があります。

物販系分野のカテゴリー別EC化率(2024年)と、売場の設計への読み替え
カテゴリー EC化率(2024年) 売場を設計するときの読み替え
書籍、映像・音楽ソフト 56.45% 探して買う行為はネットに移っている。売場は「探していない本と出会う」ための陳列に振る
生活家電、AV機器、PC・周辺機器等 43.03% 比較検討はネットで済む。売場は実物のサイズ感と操作感を確かめる場として設計する
生活雑貨、家具、インテリア 32.58% 質感と大きさが購入の決め手になる。触れる高さ、持ち上げられる置き方を優先する
物販系分野の全体 9.8% 全体では実店舗が大半。自店のカテゴリーの数字を確認してから売場の役割を決める

物販店の内装で押さえる8つのポイント

什器の高さは、割り当てで決まります。低いものを手前に、高いものを壁側に。入口から奥まで視線が通れば、人は奥まで入ってきます。

試着室と鏡とカウンターは、まとめて考えます。試着室から鏡までの距離と、カウンターから試着室が見えるかどうか。ここが購入率に効きます。

物販店の内装で押さえる8つのポイント
ポイント 設計時に決めること 開店後に自分で確かめる方法
1. ファサードと入口 外から売場のどこまで見えるか、間口の幅、段差の有無、扉の形式 店前を通った人数と入店した人数を数え、入店率を出す
2. 主通路と回遊動線 主通路の位置と幅、回る向き、行き止まりを作らない構成 通路ごとの通過人数を数え、通られていない通路を特定する
3. 什器の高さと視線 壁面什器と中央什器の高さ、見せる高さと届く高さの割り当て 高さ別に売れた点数を集計し、売れない高さを見つける
4. 陳列量とストック 売場に出す量、バックヤードの面積と位置、補充の経路 補充にかかった時間と回数を記録し、売場と在庫の比率を見直す
5. 照明 色温度、演色性、什器へ当てる灯具の位置と数、回路の分け方 商品を店外に持ち出して色を比べ、見え方の差を確認する
6. 試着室・鏡・カウンター 試着室の数と広さ、鏡の位置と大きさ、カウンターの高さ 試着に進んだ数と、試着から購入に至った数を数える
7. レジ位置と会計の動線 レジの位置、並ぶ場所、売場全体が見渡せるか、防犯上の死角 会計に要した時間と、待っている方の人数を時間帯ごとに記録する
8. 変えられる売場 固定造作の範囲、可動什器の比率、コンセントとダクトレールの位置 売場変更にかかった時間と費用を記録し、次の変更に備える
什器の高さをどう割り当てるか
高さの帯 この帯に置くもの 開店後に確かめること
目線より上 店の世界観を示す見せ札、シーズンのビジュアル、在庫のストック この帯にしかない商品が売れているかを月次で集計する。売れていなければ下げる
目線から腰まで いちばん売りたい商品、粗利の高い商品、新商品 この帯の商品の販売点数が全体の何割かを出す。低ければ商品構成を疑う
腰から床まで まとめ買いされる定番、重量のある商品、色柄で選ぶ商品 しゃがまないと取れない位置の商品を、実際に自分でしゃがんで取ってみる
試着室・鏡・カウンターで決めること
要素 設計時に決めること 開店後に確かめる方法
試着室 数、広さ、扉かカーテンか、フックと荷物置きの有無、照明の色 1日の試着回数と、試着から購入に至った数を記録し、比率を出す
鏡 試着室内の鏡の大きさ、売場側の姿見の位置、後ろが映るかどうか 売場の鏡の前に立ち止まった人数を数え、鏡の位置を見直す
カウンター 高さ、奥行き、商品を広げられる長さ、袋詰めのスペース 会計1件あたりの所要時間を計り、詰まっている工程を特定する

什器は造作か、既製品か、レンタルか

3つの選択肢があります。造作は寸法が合うかわりに動かせず、既製品は安いかわりに余りが出ます。比較する観点を表にしました。

什器の3つの選択肢と、比較する観点
選択肢 初期費用と変更のしやすさ 退去時の扱いと、選ぶ前に確認すること
造作(現場で作る) 初期費用は最も高い。寸法を建物に合わせられるため無駄が出ない。位置の変更には工事が必要で、変更のしやすさは最も低い 床や壁に固定した部分は撤去の対象になる。契約書の原状回復条項でどこまで撤去するかを、図面上で貸主に確認する
既製品(買う) 初期費用は造作より抑えやすい。規格寸法のため半端な部分が残るが、位置は自分たちで動かせる 持ち出せるため撤去費が発生しない。次の店舗でも使える。搬入経路(エレベーターの寸法、階段の幅)を発注前に測る
リース・レンタル 初期費用は最も小さく、月額の費用に変わる。契約期間中の入れ替え可否は契約内容による 返却が前提のため、傷や汚れの扱いが契約で決まっている。中途解約の条件と、総支払額が購入額を超えないかを試算する

物販店の内装費を、どこに配分するか

優先するのは照明と什器です。商品の見え方に直結し、あとから変えるのが難しい。

削るなら、壁と天井の仕上げから。商品が主役なら、背景は静かなほうがよい。

配分の優先順位と、削るときの考え方
優先順位 なぜこの順番か 削るときにできること
1. ファサード・入口 入店が起きなければ、売場の中の工夫はすべて働かない 造作を減らしてガラス面を大きく取る。装飾より見通しに費用を使う
2. 照明 同じ商品でも見え方が変わる。後から灯具を増やすには配線工事が必要になる 灯具の数は減らさず、機種の等級を下げる。ダクトレールだけ先に引いておく
3. 什器 陳列量と手に取りやすさを直接決める。ただし後からの追加が比較的容易 壁面のみ造作にし、中央は既製品で開店する。売れ方が見えてから買い足す
4. バックヤード 売上に直接は効かないが、無いと売場が在庫置き場に変わる 造作の棚をやめて既製のスチール棚にする。扉を暖簾に替える

物販店の内装でやりがちな失敗

什器を入れすぎて通路が消えるのが最も多い失敗です。陳列量は増えますが、人が回遊しなくなります。

物販店の内装でやりがちな失敗
失敗 何が起きるか 設計の段階で防ぐ方法
内装が主張しすぎる 壁や天井の意匠に視線が向き、商品が背景に沈む。写真映えはするが売れない 図面に商品を描き入れてもらい、商品を入れた状態のパースで判断する
造作什器で埋めてしまう 売れ方が分かっても売場を組み替えられず、変更のたびに工事費がかかる 図面上で「動かす什器」と「動かさない什器」を色分けし、動かす側を過半にする
バックヤードを後回しにする 在庫が売場にあふれ、通路が狭くなり、開店半年で売場が雑然とする 1回の入荷量から必要な棚の長さを計算し、売場の面積を決める前に確保する
照明を全体照明だけで済ませる 店内は明るいのに商品が平坦に見え、什器の中と低い位置が暗くなる 全体照明と商品照明の回路を分け、ダクトレールを引いて灯具を動かせるようにする
レジ周りの寸法を詰めすぎる 商品を広げて畳む場所がなく、会計に時間がかかり、混雑時に離脱が起きる 扱う商品で最も大きいものを実際に広げ、必要な長さを測ってから設計に渡す
物販店の内装で押さえること
  • 売上を決めるのは席数ではなく陳列量と回遊。内装は商品の背景として設計します
  • 入店が起きなければ、売場の中の工夫は働かない。費用はファサードから配分します
  • 壁面は造作、中央は可動。この配分が、変えられる売場をつくる最短の方法です
  • バックヤードは面積ではなく入荷量から決める。置き場がなければ売場が在庫置き場になります
  • 行動の数字で検証する。入店率、通過人数、手に取られた回数を、変更の前後で同じ方法で数えます

あわせて読みたい

よくある質問

物販店の内装の相談で、繰り返し聞かれる4つの質問をまとめました。 いずれも金額そのものより、判断の前提にかかわる内容です。 どこに費用を配分するか、什器をどう選ぶか、通路の幅に根拠はあるのか、 そして開店後に効果を測れるのか。

いずれも、答えを持たないまま打ち合わせに臨むと、提案された案の良し悪しを自分で判断できなくなる論点です。 この4つに自分なりの答えを持っていれば、 設計者や施工会社との打ち合わせで、提案をそのまま受け入れるのではなく、 自店の商品に合っているかどうかで判断できるようになります。

物販店の内装費は、何にいちばん配分すべきですか?

順番としては、ファサード(外から中が見えること)、照明、什器、バックヤードの順に考えるのが基本です。 理由は、入ってもらえなければ売場の中の工夫が働かないためです。 ただし、これは配分の考え方であって、金額の比率に決まった正解があるわけではありません。

自店の商品が細部を見せて売るものなのか、量で見せて売るものなのかによって、 照明と什器のどちらを厚くするかは変わります。 判断に迷ったら、削ったときにお客様の行動が変わるかどうかで並べ替えてください。 壁を塗り替えても行動は変わりませんが、外から商品が見えなくなれば入店数はその日から変わります。

什器は造作と既製品のどちらを選べばよいですか?

壁面に沿った背の高い什器は造作、売場の中央に置く什器は既製品または可動式、と分けるのが扱いやすい考え方です。 壁面什器は容量を最大化したい部分で、寸法をぴったり合わせる利点が大きく、退去時も撤去範囲が読みやすくなります。

一方で中央の什器は、季節や商品の入れ替えに合わせて位置を変えることに価値があります。 ここを造作で固定してしまうと、売場の組み替えができなくなり、数年後に再工事が必要になります。 なお、造作にした部分は退去時に撤去費が発生するため、契約書の原状回復条項も合わせて確認してください。

通路の幅はどのくらい確保すればよいですか?

国土交通省の「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」では、 店舗内部の通路について、車椅子使用者や白杖を使う方、補助犬を連れた方が円滑に移動できる 有効幅員として90cm以上を確保するとされています。 これは店舗の規模にかかわらず示されている設計上の考え方です。

加えてバリアフリー法では、床面積2,000平方メートル以上の物品販売業を営む店舗に 建築物移動等円滑化基準への適合義務があり、この基準では廊下等の幅は120cm以上とされています。

なお愛知県の条例では物品販売業を営む店舗が特定施設に含まれるため、 名古屋市内では規模にかかわらず整備基準と届出の確認が必要です。 これら以外の「主通路は何cmが売れる」といった目安は、 扱う商品と什器の奥行きによって変わるため、設計者と実物で確認してください。

開店後に売場を作り替えても効果は測れますか?

測れます。物販店は飲食店より検証がしやすい業態です。 入店数、通路ごとの通過人数、商品が手に取られた回数、試着に進んだ数、購入に至った数と、 購買までの段階を分けて数えられるためです。

売場を変えるときは、変える前の2週間と変えた後の2週間で同じ指標を数え、同じ曜日どうしで比べてください。 売上だけを見ると、天候や販促の影響と区別がつきません。 段階ごとに数えておけば、入店は増えたが手に取られていない、 手には取られているが試着に進んでいない、というように、次にどこを直すかが決まります。

まとめ|物販店の内装で押さえる8つのポイント

物販の売場は、陳列量と回遊のつり合いで決まります。どちらかに寄せすぎると、売上は落ちます。

図面ができたら、入口に立って奥まで視線が通るかを見てください。通っていなければ、什器の高さを見直す合図です。

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