パン屋の開業で許可の数を決めるのは、坪数でも売上規模でもなくイートインスペースを設けるかどうかです。

焼いたパンを売るだけの店は「菓子製造業許可」1つで営業できます。ここに客席を置いて、その場でコーヒーや軽食も提供する形にすると、「飲食店営業許可」も必要になります(食品衛生法施行令第35条)。

製造室の区画、オーブンの電気・ガス容量、仕込みから陳列までの動線は、あとから直そうとすると壁や配管をやり直すことになる部分です。着工前に決めることは8つあります。

この記事でわかること

  • イートインの有無で許可がどう変わるか
  • 製造室を売場と区画する理由
  • オーブン・発酵室に必要な電気・ガス容量の考え方
  • 仕込みから陳列までの動線を一方向にする理由
  • 原材料保管室・冷蔵冷凍設備の考え方
  • イートインを作る場合に追加で必要な設備

内装費を抑える判断や開業費用全体の内訳は低予算で店舗内装を進める7つの判断、店舗開業にかかる費用の全体像で扱っています。この記事は許可と製造室の設計に絞ります。

イートインの有無で許可が変わる判定の図。客席・イートインスペースを設けない場合は菓子製造業許可のみで営業でき、イートインで飲食も提供する場合は飲食店営業許可も必要になる。
許可が1つで済むかどうかは、「座って飲食させるか」で分かれます|境界線上の業態は、図面の段階で保健所に確認してください。

決め1|イートインスペースを設けるかどうかで、必要な許可が変わる

食品衛生法上、パンを製造して販売する営業は「菓子製造業」に区分されます(食品衛生法施行令第35条)。2021年6月の法改正で、それまで別区分だった「あん類製造業」も菓子製造業に統合され、パン・洋菓子・和菓子の製造を幅広く含む区分になりました。

テイクアウト専門であれば、菓子製造業許可の1つで営業できます。一方、店内に客席・イートインスペースを設け、コーヒーなどの飲料や軽食もその場で提供する場合は、飲食店営業許可も別途必要になります。

「購入したパンを座って食べさせるだけ」という運用については、飲食店営業許可の要否を自治体ごとに判断しているのが実情です。境界線上の業態は、内装図面ができた段階で必ず所轄の保健所に確認してください。

営業形態別に必要な許可
営業形態必要な許可確認すること
テイクアウト専門(客席なし)菓子製造業許可のみ客席を将来増やす可能性があるなら、その時点で保健所に相談する
イートインスペースがあり、飲料・軽食も提供菓子製造業許可+飲食店営業許可製造室と客席用の設備の両方が施設基準の対象になる
客席はあるが飲食を伴わない運用(休憩用ベンチ等)自治体により判断が分かれる着工前に図面を持って保健所に相談する

出典:食品衛生法施行令第35条(営業許可業種の区分)。旧法のあん類製造業は菓子製造業に統合され、旧・喫茶店営業は飲食店営業に統合された(令和3年6月1日施行)。イートインの扱いは自治体の運用によって異なるため、最終判断は所轄の保健所に確認してください。

決め2|製造室は「区画」が要る、売場と同じ土間にしない

菓子製造業の施設基準では、原材料の保管・前処理から製品の製造・包装・保管までを行う室または場所を持ち、作業区分に応じて区画することが求められます(食品衛生法施行規則別表第20)。

売場とレジ回りを同じ土間でつなげてしまうと、この区画の要件を満たせないことがあります。厨房と客席を仕切る壁やスイングドアの位置は、内装レイアウトの初期段階で決めてください。

区画の具体的な仕様(扉の要否、パスの寸法など)は自治体の条例で細かく定められているため、図面段階で保健所に確認するのが確実です。

製造室の区画で確認すること
求められる室・場所作業内容区画の考え方
原材料の保管・前処理室小麦粉等の保管、下処理製造室内で作業区分に応じて区画する
製造室(調整・調合・整形・発酵・加熱等)仕込みから焼成までの一連の作業作業に応じた設備を備え、売場と区画する
包装・保管室焼き上がった製品の包装、一時保管製造室と区画し、二次汚染を防ぐ

出典:食品衛生法施行規則別表第20(菓子製造業の施設基準)。「室を場所とする場合にあつては、作業区分に応じて区画すること」と定められている。具体的な区画の仕様は自治体の条例・運用で異なるため、着工前に保健所に確認してください。

決め3|オーブン・発酵室の電気容量とガス容量

パン屋の設備の中で、電気・ガス容量への要求が最も大きいのがオーブンと発酵室(ホイロ)です。デッキオーブンやコンベクションオーブンは、機種によって三相200Vの専用回路や、都市ガス・LPガスの大きな供給量を必要とします。

物件の既存の電気容量・ガス容量では足りないことが多く、増設工事が必要になる場合は、着工前に電力会社・ガス会社への申請と工事期間を見込んでおく必要があります。

発酵室は温度・湿度を保つための設備が別途必要になるため、オーブンと合わせて電気容量を計算してください。電気容量が足りない物件を避ける考え方は店舗の電気容量が足りない物件を避けるにはで扱っています。

オーブン・発酵室の電気・ガス確認事項
設備確認すること決めるタイミング
デッキオーブン・コンベクションオーブン電圧・相数(単相/三相)、ガスの供給方式と必要量機種選定と同時に、電力会社・ガス会社に供給可否を確認する
発酵室(ホイロ)温度・湿度を保つための電気容量オーブンと合わせて全体の電気容量を計算する
ミキサー・成形機等の厨房機器消費電力、設置スペースと耐荷重厨房レイアウトを決める段階

機種ごとの正確な仕様は機種・メーカーによって異なるため、購入前にメーカー・ガス会社に確認してください。

決め4|仕込みから陳列までの動線を一方向にする

パン作りは、仕込み→成形→発酵→焼成→冷却→陳列という工程が順番に進みます。動線が途中で交差すると、焼きたてのパンと仕込み中の生地がすれ違い、作業効率も衛生面も落ちます。

製造室のレイアウトは、入口から出口まで一方向に工程が流れる形にするのが基本です。冷却スペースを確保しないまま陳列棚に直結させると、蒸気がこもって商品の状態が悪くなります。

動線を一方向にできない狭い物件では、時間帯で工程を分けるなど運用でカバーする方法もあります。着工前に、1日の生産量と工程ごとの所要時間を内装会社に共有してください。

製造工程と次工程との関係
工程必要なスペース次工程との関係
仕込み・計量原材料保管室に近い場所前処理室から製造室への動線を短くする
成形・発酵発酵室(ホイロ)に隣接温度・湿度管理のため区画する
焼成オーブンの周囲に作業スペース高温になるため客席・売場から離す
冷却・陳列冷却用の棚とショーケースへの動線蒸気がこもらないよう十分な時間とスペースを取る

決め5|原材料保管室と冷蔵・冷凍設備の容量

小麦粉・バター・イーストなどの原材料は、温度・湿度の管理が品質に直結します。特にバターや生クリームを使う店舗では、冷蔵・冷凍設備の容量が製造量の上限を左右します。

仕入れの頻度を週に何回にするかで、必要な保管スペースが変わります。毎日仕入れる前提で設計すると、繁忙期にスペースが足りなくなることがあります。

原材料保管室は、必要に応じて冷蔵・冷凍設備を備えることが施設基準でも求められています(食品衛生法施行規則別表第20)。

原材料の保管方法
保管対象管理方法確認すること
小麦粉・砂糖等の乾物常温保管、防虫・防湿保管室の広さと棚の配置
バター・生クリーム・卵等冷蔵保管冷蔵庫の容量と、仕入れ頻度の想定
冷凍生地・冷凍フルーツ等冷凍保管冷凍庫の容量と、繁忙期の在庫量

決め6|陳列什器・ショーケースの配置と衛生

陳列什器は、お客様が手に取りやすい高さと、製造室からの動線の短さの両方を満たす位置に置きます。トングとトレーの動線が、レジの行列と交差しないようにレイアウトしてください。

オープン陳列にする場合は、ほこりや飛沫からパンを守る対策(クリアカバー、レジ位置の距離など)も内装計画に含めます。

季節や時間帯で品揃えが変わる店舗は、什器の一部を可動式にしておくと陳列の変更がしやすくなります。

陳列什器の種類と決めること
什器の種類特徴決めること
オープン陳列棚お客様が直接手に取れる衛生対策(カバー・トング設置)とレジからの距離
ショーケース(クローズ型)スタッフが商品を取り分ける対面接客のスペースと動線
可動式什器季節・時間帯で品揃えを変えられる固定什器との組み合わせ方

決め7|イートインスペースを作るなら、飲食店営業許可の設備も満たす

イートインスペースを設けて飲食店営業許可も取得する場合、製造室とは別に、客席用の設備基準も満たす必要があります。手洗い設備や換気設備など、飲食店営業に求められる設備は自治体の条例で定められています(食品衛生法第54条)。

菓子製造業の製造室と、飲食店営業の調理提供スペース(コーヒーを淹れるカウンターなど)を兼用できるかどうかも、自治体によって扱いが異なります。

イートインを後から追加する改装は、区画のやり直しが発生しやすいため、開業時点でイートインの可能性がある場合は、最初の図面段階で保健所に伝えておくことをおすすめします。

イートイン追加で確認すること
確認事項内容確認先
客席用の設備基準手洗い設備、換気設備など所轄の保健所
製造室との兼用可否コーヒーカウンター等を製造室と兼ねられるか所轄の保健所
将来のイートイン追加増設時に区画をやり直す可能性開業時点の図面で保健所に相談しておく

決め8|立地と視認性は、内装が仕上がったあとの集客に直結する

パン屋は焼き上がりの香りと、外から商品が見える視認性が来店のきっかけになりやすい業種です。内装が仕上がったあとの集客対策は、内装にかけたお金を来店に変える7つの対策やGoogleビジネスプロフィールで来店を増やす7つの対策で扱っています。

ここでは、内装計画の段階でできることとして、ショーケースを外から見える位置に置くこと、焼成の匂いが外に流れる換気計画にすることの2点を押さえてください。

よくある質問

テイクアウトだけなら飲食店営業許可は不要ですか?

客席・イートインスペースを設けないテイクアウト専門であれば、菓子製造業許可のみで営業できます。飲食店営業許可は、その場で飲食させる運用にする場合に必要になります。

菓子製造業許可だけで、コーヒーを提供してもよいですか?

コーヒーをその場で淹れて客席で飲んでもらう場合は、飲食店営業許可も必要になるのが一般的な扱いです。テイクアウトのコーヒーのみを扱う場合の扱いは自治体により異なるため、保健所に確認してください。

自宅の台所を製造室として使えますか?

一般的な住居の台所は、菓子製造業の施設基準(区画・専用設備など)を満たさないことがほとんどです。自宅を店舗にする場合も、製造室として区画し直す改装が必要になります。

冷凍生地を仕入れて焼くだけの店でも許可は要りますか?

焼成という製造工程を行う以上、菓子製造業許可が必要です。仕入れる生地の状態にかかわらず、店内で加熱・製造する営業は許可の対象になります。

イートインスペースは何席から届出が変わりますか?

席数による切り替え基準は確認できていません。席数ではなく「その場で飲食させる運用にするかどうか」で許可の要否が変わります。席数にかかわらず、イートインを設けるなら保健所に確認してください。

移動販売(キッチンカー)のパン屋も同じ許可ですか?

車両で調理・製造する場合は、菓子製造業や飲食店営業の「自動車営業」として別の施設基準が適用されます。給排水設備などの基準が固定店舗と異なるため、車両の仕様を決める前に保健所に確認してください。

まとめ|許可の分かれ目は「座って飲食させるか」

パン屋・ベーカリーの内装|8つの決めごとのまとめ
決めること要点確認すること
決め1 許可テイクアウト専門は菓子製造業許可のみ、イートインありは飲食店営業許可も必要境界線上の業態は保健所に確認する
決め2 製造室売場と区画し、作業区分に応じて区画する図面段階で保健所に確認する
決め3 電気・ガス容量オーブン・発酵室が容量を左右する電力会社・ガス会社に供給可否を確認する
決め4 動線仕込みから陳列までを一方向にする生産量と工程ごとの所要時間を共有する
決め5 保管設備原材料の性質に応じて常温・冷蔵・冷凍を分ける仕入れ頻度から容量を決める
決め6 陳列什器動線とレジの行列が交差しない配置にする衛生対策も合わせて計画する
決め7 イートインの設備客席用の設備基準も別途満たす将来の増設可能性も図面段階で伝えておく
決め8 立地・視認性ショーケースの視認性と香りの換気計画開業後の集客対策は別記事で扱う

パン屋の内装で最初に決めるべきは坪数でも什器でもなく、イートインスペースを設けるかどうかです。ここが決まれば、必要な許可、製造室の区画、設備の基準がすべて連動して決まります。

境界線上の業態や判断に迷う点は、内装図面ができた段階で必ず所轄の保健所に確認してから着工してください。

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