店内でたばこを吸えるようにするかどうかは、図面が固まる前に決めます。壁の位置も、ダクトの経路も動くからです。

まず前提として、これから開く店は「喫煙可能室」を作れません。2020年4月1日に営業していた店だけの経過措置だからです。

決めることは7つ。いちばん重いのは排気の経路で、これは物件で決まります。

この記事でわかること

  • 自分の店が敷地内禁煙になるのか、屋内禁煙で済むのかの見分け方
  • 4種類ある喫煙室のうち、これから開く店に作れるのはどの2つか
  • 図面に落とす技術的基準の3つ(気流0.2m/秒・区画・屋外への排気)
  • 20歳未満のスタッフを喫煙室に入れられないことが、シフトに効く理由
  • 標識を掲げなかったときの過料の額と、店に置いておく書類
  • 喫煙室に使える助成金の上限と助成率、名古屋市に上乗せ条例があるか
厚生労働省の国民健康・栄養調査による受動喫煙の機会を有する者の割合は、飲食店が平成20年62.3%から令和5年16.0%へ減少。令和5年の路上は25.5%、職場は17.0%。現在喫煙者を除く20歳以上が対象。
飲食店で煙に遭う方は、15年で4分の1になりました|全面禁煙が当たり前になった側の数字です。喫煙できる店を選ぶ意味は、以前より大きくなっています。どちらを取るかを先に決めてください。

これから開く店は「喫煙可能室」を作れない

作れるのは喫煙専用室などに限られます。飲食はできません。決める時点も表に入れました。

開業前に決める7つと、決める時点
決めることいつまでに決めるか解説
1. 施設の区分(第一種か第二種か)物件を探し始める前くわしく
2. 作れる喫煙室の種類基本設計に入る前くわしく
3. 技術的基準の3つ実施図面ができる前くわしく
4. 排気の経路物件を契約する前くわしく
5. 20歳未満の立入禁止採用とシフトを組む前くわしく
6. 標識と書類開店の前くわしく
7. 助成金の申請工事を契約する前くわしく

出典:厚生労働省「改正法のポイント」。改正健康増進法の全面施行は2020年(令和2年)4月1日です(平成30年法律第78号)。4だけが「物件を契約する前」に置かれているのは、排気の経路が建物の側で決まるからです。

「喫煙可能室」を置ける店の条件(既存特定飲食提供施設)
  • 2020年(令和2年)4月1日の時点で、現に営業していた飲食店であること
  • 資本金の額または出資の総額が5,000万円以下であること。大規模な会社が発行済株式の一定割合を持つ場合などは除かれます
  • 客席部分の床面積が100平方メートル以下であること
  • 3つを満たしたうえで、「喫煙可能室設置施設 設置届出書」を保健所へ出すこと
  • 資本金と客席面積を示す書類を、店に備えて保存すること。保存しないと過料の対象になります
  • 居抜きで前の店を引き継ぐ場合に、この扱いが引き継がれるかどうかは条文から読み取れませんでした。契約前に保健所へ確認してください

決めること1|自分の店が第一種か第二種かを確かめる

第一種は敷地内禁煙です。学校や病院、行政機関。自店がどちらかで、置けるものが変わります。

施設の区分と、置ける喫煙室
区分当てはまる施設屋内に喫煙室を置けるか
第一種施設病院・診療所、学校、児童福祉施設、国や地方公共団体の行政機関の庁舎など置けない。原則として敷地内が禁煙。屋外に場所を設けられるかは、保健所へ確認する
第二種施設飲食店、美容室、物販店、事務所、ホテル、劇場など、第一種と喫煙目的施設以外の多数の方が使う施設置ける。ただし技術的基準を満たすこと
喫煙目的施設公衆喫煙所、たばこの販売店、シガーバーなど、喫煙を目的とする施設喫煙目的室を設けられる。出せる食事に制限がある

出典:厚生労働省「改正法のポイント」、愛知県「受動喫煙防止対策について」(2024年6月21日更新)。区分の根拠は健康増進法第28条第5号・第6号、喫煙禁止場所は同法第29条です。

決めること2|作れる喫煙室は、4種類のうちどれか

4種類のうち、これから開く店に作れるものは限られます。食事ができるかどうかも、種類によって違います。

4種類の喫煙室と、これから開く店に作れるか
種類中で飲食を出せるかこれから開く店に作れるか
喫煙専用室出せない作れる。紙巻きも加熱式も吸えるが、飲食は出せない(健康増進法第33条)
加熱式たばこ専用喫煙室出せる作れる。加熱式たばこのみ。紙巻きたばこは吸えない
喫煙可能室出せる作れない。2020年4月1日の時点で営業していた飲食店に限られる(改正法附則第2条第2項)
喫煙目的室制限がある(主食と扱われる食事は出せない)喫煙目的施設に限る。たばこの販売店、公衆喫煙所など(同法第35条)

4つとも20歳未満の方は立ち入れず、標識の掲示が要ります。出典:厚生労働省「改正法のポイント」。

決めること3|技術的基準の3つを、図面に落とす

風速、区画、標識の3つです。どれも図面のどこで決まるかが決まっています。

技術的基準の3つと、図面のどこで決まるか
基準満たす条件図面のどこで決まるか
気流出入口において、室外から室内に流入する空気の気流が0.2m/秒以上給気と排気の風量差。排気ファンの能力と、給気口の大きさで決まる
区画たばこの煙が室内から室外へ流出しないよう、壁・天井等によって区画されていること間仕切りの位置と、天井裏まで塞ぐかどうか。固定した造作であること
排気たばこの煙が屋外または外部の場所に排気されていることダクトの経路と、屋上または外壁までの立ち上げ

出典:厚生労働省「改正法のポイント」、愛知県「受動喫煙防止対策について」。根拠は健康増進法施行規則第16条第1項・第18条第1項です。技術的に屋外へ排気できない場合の経過措置として、脱煙機能付き喫煙ブース(総揮発性有機化合物の除去率95%以上、室外に排出される空気の浮遊粉じん量0.015mg/立方メートル以下)が認められています。

決めること4|排気の経路を、契約する前に確かめる

屋外に出せなければ、喫煙室は作れません。取れないときの選択肢も表にしました。

排気の経路が取れないときの選択肢
選択肢できること注意
脱煙機能付き喫煙ブースを置く技術的に屋外へ排気できない場合の経過措置。除去率95%以上、粉じん0.015mg/立方メートル以下経過措置であり、要件の確認が要る。買う前に保健所へ相談する
加熱式たばこ専用喫煙室にする中で飲食を出せる。席として使える区画・気流・排気の基準は同じ。排気が要る点は変わらない
全面禁煙にする工事も届出も要らない。席を1つも失わない喫煙するお客様が来なくなる可能性を、事業計画に織り込む
屋外に喫煙場所を置く建物の外。屋根と壁で囲むと屋内と判断されることがある置けるかどうかは物件と条例による。名古屋市には路上禁煙地区があり、地区内の道路上での喫煙には過料が定められている
内覧のときに、排気について聞くこと
  • 屋上まで立ち上げられる縦のダクトのスペースがあるか。使える口はどこか
  • 外壁に開口を設けてよいか。管理規約に禁止の定めがないか
  • 既にある排気ダクトを他のテナントと共用する形になっていないか
  • ダクトの工事は誰が発注するのか(A工事・B工事・C工事のどれに当たるか)
  • 排気口の位置が、隣の建物の窓や住戸のベランダに向いていないか
  • 退去するとき、ダクトと開口をどこまで戻す約束になっているか
  • 厨房の排気とは別に、喫煙室用の系統を1本増やせるか

決めること5|20歳未満の方を、喫煙室に入れられない

お客様だけでなく、従業員も入れられません。掃除も配膳もできないので、運用に効いてきます。

20歳未満の立入禁止が効く場面
場面20歳未満の方ができないこと代わりに決めておくこと
開店前の清掃灰皿の交換、床とテーブルの清掃20歳以上のスタッフを、開店前のシフトに必ず1人入れる
注文と配膳喫煙室の中での接客(加熱式たばこ専用喫煙室の場合)喫煙室は注文を席で完結させる形にするか、配膳の担当を分ける
閉店後の確認喫煙室に入って忘れ物を探す閉店の作業を担当する人を、あらかじめ決めておく

出典:愛知県「受動喫煙防止対策について」(従業員を含む旨が明記されています)。

決めること6|標識を掲げ、書類を残す

違反には過料があります。標識は掲示の場所まで決まっています。

義務に違反したときの過料
何をしたとき過料条文
標識を掲げなかった、紛らわしい標識を掲げた、標識を汚した・壊した50万円以下健康増進法第76条第2号
喫煙器具や設備の撤去、喫煙室を基準に合わせる命令に従わなかった50万円以下同法第76条第1号
喫煙禁止場所での喫煙をやめる命令に従わなかった30万円以下同法第77条第1号
標識を除去する義務に従わなかった30万円以下同法第77条第2号
資本金や客席面積の書類を保存しなかった20万円以下同法第78条第1号
立入検査を拒んだ、妨げた20万円以下同法第78条第2号

出典:厚生労働省「改正法のポイント」の義務違反の一覧。過料は行政上の制裁で、刑罰ではありません。命令に従わなかった場合に科されるものが多く、いきなり課されるとは限りません。

決めること7|助成金と、名古屋市の条例を確かめる

受動喫煙防止対策助成金があります。交付決定の前に発注すると対象外になるので、順序に注意してください。

受動喫煙防止対策助成金(令和8年度)
項目内容確かめること
助成率3分の2(主たる業種が飲食店以外は2分の1)消費税の扱いを聞く
上限額100万円対象経費の上限が1平方メートルあたり60万円であることも合わせて計算する。3平方メートルを超えると、助成率より先に上限100万円で頭打ちになる
対象の工事喫煙専用室・加熱式たばこ専用喫煙室の設置や改修にかかる工費、設備費、備品費、機械装置費内装の意匠にかかる費用が対象に入るかを、見積の費目ごとに確認する
申請の期限令和8年度は2027年1月31日予算に達し次第、締め切られる。工事を契約する前に相談する
相談の窓口愛知労働局 労働基準部 健康課対象になる事業主の要件は年度で変わる。着手前に直接確認する
名古屋市の助成分煙施設設置費用等助成事業は、一般に開放する分煙施設が対象店の専用の喫煙室には使えない。重点整備区域の指定も確認する

出典:厚生労働省「受動喫煙防止対策助成金」、名古屋市「分煙施設設置費用等助成事業」(2026年6月30日更新)。名古屋市には「名古屋市子どもを受動喫煙から守る条例」がありますが、家庭内や車内での配慮を求めるもので、店の喫煙室に対する上乗せ規制ではありません。

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よくある質問

いま居抜きで借りる店に「喫煙可能」の標識が出ています。そのまま続けられますか?

経過措置が認められているのは、2020年4月1日の時点で現に営業していた飲食店です(改正法附則第2条第2項)。

事業者が入れ替わったときにこの扱いが引き継がれるかどうかは、条文からは読み取れませんでした。断定はしません。契約する前に、店の所在地を管轄する保健所へ確認してください。

空気清浄機を置けば、喫煙室として認められますか?

認められません。基準は屋外または外部の場所へ排気することで、室内で空気を回す機器はこれに当たりません(健康増進法施行規則第16条第1項)。

技術的に屋外へ排気できない場合の経過措置として、脱煙機能付きの喫煙ブースが認められています。総揮発性有機化合物の除去率95%以上、室外に排出される空気の浮遊粉じん量0.015mg/立方メートル以下という条件がつきます。買う前に保健所へ相談してください。

加熱式たばこなら、席で吸っていただいて大丈夫ですか?

席では吸えません。加熱式たばこも、区画した喫煙室の中でだけ認められます。

違いは飲食の可否です。「加熱式たばこ専用喫煙室」なら中で飲食を出せますが、紙巻きたばこ用の「喫煙専用室」では出せません(健康増進法第33条)。この違いが、席をいくつ喫煙側に振るかを分けます。

テラス席なら、たばこを吸っていただけますか?

屋外は健康増進法の喫煙禁止場所には当たりません。ただし屋根と壁で囲まれた形なら、屋内と判断されることがあります。

判断するのは保健所です。設計の段階で図面を持って相談してください。名古屋市には路上禁煙地区もあり、地区内の道路上での喫煙には過料が定められています。

まとめ|7つは、図面が固まる前に決める

自己負担が出ても、「1日何人分の売上か」に置き換えれば判断できます。

いちばん重いのは排気です。内覧のときに、屋外へ出せるかを必ず聞いてください。

開業前に決める7つ(再掲)
決めることいつまでに決めるか効いてくるもの
1. 施設の区分物件を探し始める前クリニックは敷地内禁煙。喫煙室そのものを作れない
2. 喫煙室の種類基本設計に入る前飲食を出せるかどうか。席数の想定が変わる
3. 技術的基準の3つ実施図面ができる前気流0.2m/秒、壁と天井での区画、屋外への排気
4. 排気の経路物件を契約する前建物の側で決まる。契約後は動かせない
5. 20歳未満の立入禁止採用とシフトを組む前喫煙室に入れる人を必ず1人置く。人件費に効く
6. 標識と書類開店の前掲げないと50万円以下の過料
7. 助成金の申請工事を契約する前助成率3分の2、上限100万円。契約後の申請は通らない
自己負担80万円を、1日何人分の売上に置き換える(編集部の試算例・すべて仮の数値)
段階計算出る数字
対象経費の上限3平方メートル × 60万円180万円
助成額180万円 × 3分の2 = 120万円 → 上限100万円で頭打ち100万円
自己負担180万円 − 100万円80万円
回収の期間36か月で回収する2.2万円/月
必要な売上粗利率60%として 2.2万円 ÷ 0.63.7万円/月
1日あたり月25日営業として 3.7万円 ÷ 25日1,480円/日
お客様の人数客単価1,200円として 1,480円 ÷ 1,200円1日1.2人

数値はすべて例です。粗利率・営業日数・客単価は業態で変わります。出したいのは金額ではなく、「喫煙できることで1日1.2人多く来ていただけるか」という、判断できる形にすることです。あわせて、喫煙室に振る面積の分だけ席が減ることも計算に入れてください。

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